『怪獣』とは世間一般的に「行動が荒い人」「足運びに騒音が伴う人」といった類と、「怖い人」といった類で解釈される

今、目の前にそれがいる

僕の場合、世間一般的にいう後者のほうだ

少女はただただ僕を見ていた

「暖かな眼差し」というには遠くかけ離れているが「冷たい視線」とも言いがたい

対する僕は、いつものように笑顔を浮かべていた

傍から見ても、少女と僕との表情の温度差は一目両全だ

だが、僕は表情を崩さなかった

「どうしたの? こっわ〜い」

僕はヘラヘラと笑いながら、少女をからかいにかかる

だが、少女も表情を崩さなかった

「何? 僕何かした? 身に覚えないんだけど」

僕は首を傾げて様子を伺う

少女の口が、何か発しようと小さく開かれた

・・・だが僕は、その隙を与えなかった

「も・・・」

「何? いつもみたいに言語道断でエルボー食らわせる気? ひっどいな〜 あれ、けっこう体に響くんだけど」

お願いだ 何も言わないで

少女はわらわない

「・・・・・・・・・」

「君は僕の体をもうちょっと労わったほうがいいよ 病院送りになってないのが不思議なくらいなんだからさ」

少女が口を閉ざしたのをいい事に、そのまま僕はツラツラと喋り続ける


「もういいよ」


何も言わせないつもりだったのに

何か言われても、知らんふりで話を被せるつもりだったのに

少女のその小さな一言を聞いた途端、僕の口は停止ボタンを押されたかのように固まった

「もういい」

「もういいって何が?」

「全部知ってる 隠さないで」

「隠す? 僕が何を隠すっていうんだい? 全然おもしろくないジョークだな〜」

僕がまたヘラッと笑うと、少女は先ほどより少し顔を上げた

「私の目を見て話して」

そう言うと、少女は一歩僕に詰め寄った

「今の言葉、私の目を見て言える?」

また一歩と僕に近付く少女

これ以上近付いてはダメだ

僕の体は緊急回避の警告を鳴らすが、僕の足は警告を無視し続けている

そしてとうとう、少女は僕の目の前で止まった

深く綺麗に澄んだ瞳に、有無を言わさず引き付けられる

「目を見て話して」と少女は同じ言葉を繰り返した

僕の口が開く だが、言葉は喉から出てこない

少女の瞳の前では、僕のつまらない見栄張りなんて、ただのガラクタだった

「私が気付かないとでも思ったの?」

少女の溜め息交じりの質問に、僕は答えることができない

「1人で抱え込まなくてもいいんじゃない?」

『かいじゅう』は『怪獣』らしくない言葉を発する

「泣きたいときは泣けばいいじゃん」

僕の中で何かが崩れていく

鼻の奥がツンとして、曲線を描いていた口はいつの間にか逆曲線に

しまいには視界が霞んでくるという、なんとも情けないオプション付きだ

『かいじゅう』は笑った

「気が済むまで傍にいてあげるよ」

その言葉が僕の鼓膜を振るわせた瞬間、僕の目からは涙が零れてきた

いつも笑顔の裏に隠していた僕

本当は寂しかった 苦しかった

――――誰かに気付いてほしかった

それがよりによってこの『かいじゅう』と称される少女だなんて、世界はなんて皮肉なものなのだろう

でも、笑い飛ばしてくれるほうが、僕としても気楽かな

ぼやけた視界が君を捕らえる


やっぱり、『かいじゅう』は『わらわなかった』




かいじゅうはわらわない
(僕を救ってくれたのは ヒーローじゃなくて)
(倒されるはずの 怖くて優しい『かいじゅう』でした)




□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■

ここでの『怪獣』なのに優しいということであえて、ひらがなで『かいじゅう』と書いています
ちなみに『わらう』は優しく微笑む、
『笑う』は不敵に、カッコイイイケメン風に(笑)笑うという意味を込めて使い分けてるつもりです
分かりにくくてすいません(汗)
お粗末様でした。




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