白い光がみたかったのだけれど、どうしてか黒い闇に包まれていた。
辺りは真っ黒で何も見えない。
どうしてこうなっているのかもわからなかった。
正しく、"理解不能"とでも言うべきか。
見回したって誰もいるはずがないのだが、それでも見回してみる。案の定、誰もいなかった。
孤独という、生まれて初めて感じる恐怖に拐われそうになりながらも、私は歩き始めた。
前も後ろもわからなくて、困惑する。

ふと、脳内に思い浮かんだ。
あぁ、今は何時だろう。
ちょうど、焼きたてのパンをくわえて学校まで走っている時間だろうか。それとも、友達とキャッキャッ騒ぎながら食べる昼食の時間だろうか。もしかすると、私がずっと楽しみにしていた、大好きな俳優が主演のドラマの時間だろうか、そもそもそれは一体何曜日のことだったろうか?

すると、パアッと急激に周りが明るくなった。
久しぶりの光に目が眩んで何も見えなくなったけれど、少しずつ目を開いていくと、そこは駅だった。
私は駅のホームに立っているようで、後ろを振り返ると反対のホームへ移動するための階段がある。
ホームには、誰もいない。

「どちらさんだい?」

ちりん、と鈴の音が聞こえてびっくりして前を向くと、そこには黒い燕尾服を着た黒い山羊と、白い燕尾服を着た白い山羊が立っていた。

「どこに行きたいんだい?」

もう一度聞かれて、あぁ、さっきのは黒い山羊が喋ったのかと納得した。山羊が喋ったことに対して私はなんの驚きも持たない。

「ここは、どこ?」
「駅のホームですよ」
「どこへ行く電車があるの?」
「白い世界へ行く電車と、黒い世界へ行く電車がある」

私は少し迷った。
でも、白い光がみたかったから白い世界なら見れるかもしれないと思って「なら、白い電車に乗る」と答えた。

「メェェェ。白い山羊についていけ」
「うん、わかった。ありがとう」

白い山羊が踵を返して歩き出したので、私は黒い山羊に「バイバイ」と手を振って少し慌てて追いかけた。
「メェェェ」という鳴き声が微かに聞こえて、少しうれしい。

「これに乗ってください」
「あなたもありがとう」
「いえいえ。次にお会いするときは―」

プルルルルルル、と電車の発車する合図が鳴った。
白い山羊が言いかけた言葉が聞こえない。
プシューとドアが閉まった。そのまま電車はスピードを上げていく。
山羊の言いたかったことがわからないままだ。
電車のなかには私しか乗っていなかった。
取り敢えず座ろうかと思い、自由席の真ん中に座った。
外の景色を眺めようと窓をみると、外にはたくさんの曲線でできた線路があった。

「…すごい」

一人しかいないので、小さな呟きでさえ大きく聞こえた。
電車は迷うことなく線路を突き進む。
まるで、都会にある環状線だなんて思いながらしばらく眺めていると、電車が停まった。
プシューとドアが開く。

"ご乗車ありがとうございました"

アナウンスが聞こえて急いで電車から降りる。
降りると地面はなくて、先程から眺めていた線路の上だった。
その線路自体も宙に浮かんでいるようで、下は何も見えない。
すると、「メェェェ」という声が電車の運転席辺りから聞こえてきて、私はそっちを向いた。

「こっから先は歩いていきな」
「どこへ進んだらいいの?」
「この線路をゆっくり歩いていけ。そうするとトンネルの前に出る。途中で曲がる線路があるだろうが、ゆっくり曲がれ。自分のペースで歩きたまえ」
「わかった。…あなたは?」
「わしは駅の社員だ」
「ここから先は私一人なのね?」
「あぁ。気を付けろ」
「ありがとう」
「メェェェ」

山羊は窓から顔を引っ込めるとププーと音をならした。
そして、来た方へ電車は戻っていく。
私は線路に残された。
山羊に言われた通り、私はゆっくりと一歩を踏み出した。
すると、どこかで見たことがある顔が映像のように流れ出した。
それは、両親と生まれたての自分。
一歩踏み出すたびに現れるのは忘れていた自分の中にある思い出たち。
思い出たちはだんだん成長して今の自分のすがたを映し出した。
最後の一歩。
母の泣き顔が見えた気がしたけど、すぐに消えてしまった。
トンネルの前に辿り着いた。

トンネルは暗くて、最初と同じ感覚に襲われる。
だが、不思議と最初のような恐怖は感じなかった。
そして、どこが前なのかわかる気がした。
トンネルの出口は真っ白で明るすぎる。
私は目を開けることができなくて目を閉じて歩いた。

「蘇芳!」

そこは真っ白な世界だった。
目を動かすと泣き崩れた母が見える。
白い光が私の目いっぱいに入ってきて、私は泣いた。


















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(光が届いたことがうれしくて)
(まばたきなんて覚えていなかったのだ)


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