(21(文章))
マルコサイドですが超長くなってしまったんで読まなくても可、です… あ、いえ、読んだ方が分かりやすいんでしょうが今回は本当に文章力のなさに全俺が泣いた。
―――――― どうしたらこの子供の興味を自分から外せるのだろうと、そればかり考えていた。 大概都合のいい話だ、自分はあれだけ好き勝手言葉を紡いでおいて、エースがこちらに好意を向けたらそれを拒むだなんて。 だが、おれは怖い。年甲斐もなく怖い。 エースがおれに好意を向けることにではない。おれが奴に本気になってしまうのが、どうしようもなく怖かったのだ。 エースはまだ若い。あの性格であのルックスならば、彼女の一人や二人簡単に作ることができるだろう。 そうなったとき、どう考えたっておれの存在は重荷でしかないだろう。おれが本気になって、エースを手放すことができなくなったら、――あいつの将来を、おれが壊すことになるんじゃないか。 それだけではない。 エースがもしおれを選んだとして、それは一時の気の迷いでしかないように思う。 あんな風に毎日気持ちを伝えれば、奴の気持ちが徐々におれに傾いてくるであろうことはわかっていた。 それで、物珍しさに駆られて求められたとして、じゃあエースが飽きたとき、自分はいったいどうしているだろうか。 考えるだけで恐ろしい、こんなにも誰かを好きになったことは初めてだからどうしていいか分からない。 本気になってはいけない、自身に警告するのが遅すぎて、いつの間にかエース以外を見ることができなくなって、何度、何度あの店に行くのをやめようと思ったか。 会わなければ気持ちも落ち着くだろうなどと根拠もない結論に至って、出張だと嘯いた時もあった。 だけどダメだ。一日会わなければそれだけでエースが足りない。エースに会いたくて仕方がない。 いい年して、駄々をこねる子供のようにただ、エースが欲しかった。 おれ以外の奴に渡す気なんか微塵もない、例えおれのものにならないとしても、エースが誰かのものになってしまうのが怖かった。 あの笑顔を俺だけのものにしてしまいたい、高い体温を、赤く染まる頬を、誰が他人に教えてやるものか。 自分がこれほどまでに欲の強い人間だとは思わなかった。 もはやここまでくれば、自分の独占欲の方に恐怖を感じずにはいられない。 こんな汚いものを果たしてエースに向けてよいものか、そんな悩みに反比例するかのように欲は日ごとに強くなり、もはや自分でも制御不能になりつつあった。 あの唇を、揺れる瞳を、火照る体を、ムリヤリ奪ってしまえばあいつはどんな反応をするだろう。 おれを嫌いになるだろうか、それならばその方がずっといいのかもしれない。このまま、脈があるかもなどというかすかな希望にすがりついてなんになる。 嫌いになろうが、そのまま溺れてしまおうが、何か変わるのならばそれでもいいのではないだろうか。 ――だがそんなことを思ったところで行動に移せるはずもなく、いつの間にかおれはめったなことは口に出せないようになっていた。 好きだと一言でも言ってしまえばそこから気持ちは止め処なく溢れ、きっと決壊してしまう。汚い欲望さえも溢れだせば、俺は取り返しのつかないことをしてしまうかもしれない。エースを自分のものにしてしまいたい欲望と、エースを傷つけたくない、エースに嫌われたくないという自己防衛にも似た感情が頭の中をぐるぐると渦巻いていた。 そう、けっきょくおれは、自分が可愛いだけなのだ。 エースを傷つけたくないのは本心だとしても、本当に傷つきたくないのはおれの方だ。 逃げ道を用意して、エースと向き合うことを避けていたのも全部、おれ自身を守るためだった。 そこへ来て、この告白だ。 おれがどれだけ自分の気持ちを押し殺してきたかも知らずに、おれを好きだなんだとほざきやがって。 エースに飽きただとか、おれの気持ちが冗談だったとか、好き勝手言ってくれる。 ――もう「冗談」では済まされない。 自分の気持ちを隠すのもそろそろ限界だ。 エースは自分から歩み寄ってきてくれたのだ、ここでまたおれが逃げだしては、それこそエースを傷つけるだけではないのか。 先の事を考えて足踏みするのはもうやめよう、だってもう、こんなにも苦しい。 好きなのに好きと言えないのが辛い、こんなに近いのに縮まらない距離がもどかしい、手を取っているのに引き寄せられない自分がふがいない。 それでも、そんなおれでも、エースは選んでくれたのだ。 初恋じゃあるまいし、こんな若者に全てを持っていかれるのは恰好がつかないとも思うけれど。 ちらりと助手席のエースを見やれば、両手を膝の上でぎゅっと握ったまま俯いている。 何もしゃべらない、おれもなにも言えなかった。 心臓の音が嫌に大きく聞こえる。気を抜けば、ハンドルを握る手がカタカタと震えてしまう。 不安と期待と興奮が入り混じって、今すぐにでもエースを、抱きしめて、しまいたかった。 ここから自分の家まで何分かかるのかすらもうわからない、信号で車が止まる時間すらもったいないことのように思えた。 だが、このまま時が止まってしまえ、とも思う。いや、今日という日が来なければよかったと、エースへの気持ちに気づかなかったふりをすればよかったと、そんなことまで思う。 家に帰って、二人きりの密室、おれはこれからこの子供になにをしようとしているのだろう。 否、そんな答えはもう出ているのだが、エースに拒絶されてしまったらどうしよう、だとか、そもそも、コイツいくつだった、とか。…犯罪を犯そうとしているのか、おれは。 どうでもいいことばかり頭の中を巡る。 好きだと、早くエースに伝えなければ。そうだ、今から家に帰っておれは、エースにそれを伝えるのだ、なんて、自分の行動を正当化させる理由をようやく見つけて少しでも自分を落ち着かせる。 なにも、しない。するなよ、おれ。 ――だが、なにもしないで終るだろうか。おれも男だ、この高ぶる感情を、この男の前でなかったことにできるだろうか。 いくら考えても堂々巡り、何度もため息が出て、ハンドルに掛ける人差し指はカツカツと鳴る。 イライラしているのは誰が見ても分かるだろう、息を吐く度、音が鳴る度に横目に映るエースの体がびくりと跳ねるのがわかる。 ああ、不安にさせてしまっているのだろう。だけどエースにかまっていられないほどおれも限界だった。 もうすぐ、愛してやまないこの男が自分だけのものになるのかもしれないのだ。 冷静でなどいられるものか。 ようやく自分のマンションへと近づく。 駐車場に入ろうとしたときにエースがふっと顔を上げ、きょろきょろと不安げにあたりを見回した。 そういえば、エースを連れてきたのは初めてだったか。 「ここ、おれんち」 「…あ、そ、っか。」 お互い、喉が掠れて情けないほど小さな声しか出なかった。かっこ悪いと思いつつ、取り繕っている暇などはない。 車を停車させて、鍵を抜いてカバンを取って。ちら、とエースを見て、すぐに運転席から降りた。 エースは硬直していて動こうとはしない。いや多分、ここで降りていいのかと葛藤しているんだろう。 おれはさっさと助手席に回るとドアを開けた。 「シートベルト」 「え?」 「外しな」 「…あ、ああ。」 その間にエースのカバンを取ると、もたもたとシートベルトを外したその腕をガシ、と掴む。 エースは眉をひそめておれを見たけれど、不安よりも期待の方が大きいようなその顔に、おれの目は自然と細まる。 腕を引けばエースはすんなりと助手席から降りた。ドアを閉め、鍵をロックしエレベーターへと急ぐ。 「自分で歩ける、」と後ろから小さく聞こえたけれど、それを無視して手を掴んだまま、おれは大股で歩みを進めた。 体ばかりが焦る、早くエースと二人きりになりたいと、そればかり思った。
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