- ナノ -




こちらSS商社勤務


「ちょっと名前さん。手が止まってるわよ!」

ランチでの出会いから数日、その後は銀時と接点もなく変わらず業務をこなすもので。
それでも何となく出会いを思い返して上の空であった名前に対し、既にランチの話を聞いていたさっちゃんが話し掛けた。
時間帯は夕方に差し掛かっており、作業の止まっている手に怒りが飛ぶのは仕方がない。

「へ、さっちゃん。あぁ、ごめん…すぐ片付けるからって…あ、そう言えば銀さんて坂田さんの事だったのか」
「そうよ!!私の彼氏よ!まぁ元ですけど、私の愛は変わらないんだからッ永遠にねちっこいいんだから」

「あぁ銀さん!」と悦になるさっちゃんに名前は呆れ顔で返し、もう1つの問題も思い出して溜息をついた。
そう言えばよく考えたらあの人も遊び人ではないか、しかも同僚が元カノだなんてエライ関係である。

「さっちゃんは何で坂田さんと別れたの?ってか、この前に『新しい彼女がァァ!』とか叫んでなかったっけ」
「あらよく覚えてるじゃないの、私が別れたんじゃないのよ。銀さんは私に放置プレイをする為に今は敢えて離れてるだけ。もう興奮するわよね!その上、ツッキーを彼女にして煽るなんてさすがドSだわ!ほら、役員がよく利用するバーの看板娘よ」
「あぁ、バー『ひのや』の月詠さんが最近の彼女だったんだ…」

松平役員も含めて他の役員たちも接待や遊びに利用する事が多い、二次会なら御用達のバーだ。
名前もよく付き合いで行くから、真面目で気立ての良い月詠の微笑みを思い出せる。
さっちゃんは何かと月詠とも親しいらしく、ペラペラと酔っ払いはての殴り合いから破局を事細かに話してくれる。
ふと視線を落とした名前は、何かを決意した表情で顔を上げてさっちゃんに力強く返した。

「ありがとう、さっちゃん。私が何をすべきか分かった!」
「それでツッキーったらもう…へ、ええ?」
「色々繋がった気がする!本当にありがとうねッ!さ、仕事さっさと片付けちゃおう」

先ほどとは打って変わってキビキビと書類をまとめて、仕事を片付けていく様子に瞬く名前を見送るさっちゃん。
「アレは何か予想外の事を考えてるわね」と、メガネを上げて小さく溜息をついた。


(あー、口説くの失敗しちまったなァ…狂暴なトコあんのは予想外だったが高杉限定みてェだし問題ねェか)

一方、ほぼ同時刻に業務を終えて鞄を手に持ち、軽く欠伸をしながら銀時はそんな事を考える。
首元に手をやり、今はきちんと結んだネクタイにふと手を止めて思わず笑みを浮かべてしまう。
キリリとした顔をしたと思ったら、パッと笑う表情に予想外の行動を思い出してしまってハッと気がつく銀時。

「何で俺笑っちゃってんの?イタイキャラだよな、明らかに今イタイよね…」
「思い出し笑いはイタくないと思います」
「って!?苗字チャンン!?」

突然話しかけられた声に、「!?」とびっくりして飛び退いてしまい、バランスを崩して壁にぶつかる。
頭を摩れば、「大丈夫ですか?」と名前が心配し、「あぁ」と返せば「良かった!」と先ほど思い出していた明るい笑みを向けられた。
銀時が瞳を細めた時、名前は今度は強い瞳で両手を腰にあてていたビシリッ!と片手で指差す。

「坂田さん、私とお近づきになりたいって言ってましたよね!」
「え、言いましたケド…何、苗字チャン付き合ってくれん」
「付き合いましょう!受けて立ちますッ!」
「えェェェ!?マジで!?何か違う気もすっけど、付き合ってくれんのか!?」

マジか、と返す銀時に力強く頷く名前の顔はキリリと真剣味を帯びていたが今は気にならなかった。
そのままフロアの死角へ引き込んで、腕の中に抱き込んで温もりを堪能される。

「やべ、俺今すっげー嬉しいわ…何でだろうな。苗字チャンだからか」

ビクリと緊張してしまった体の硬直を感じていたが、予想外に湧き上がる喜びに銀時はいっぱいで。
抱き込まれる腕の中で一瞬、眉を落とした名前だったがすぐに顔を上げて銀時を見ながら提案した。

「ッ!てワケで!今度の連休にデート行きましょう!」
「デート?分かった、可愛い彼女のお願いだもんな」
「!」

返されたのは予想通りの軽い了承であったけれども、向けられた瞳の優しさを想像していなかった。
目を丸くして驚く中、クッと喉を鳴らせて笑う銀時は機嫌良かった。
「ありがとうございます」と、呟くように返す名前は視線を落として瞳を逸らした。

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