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相模・奥州メモリアル 2


傍へと盆を運んで座り直した名前へ、早々に政宗が手を伸ばす。
湯のみを掴みかける直前だった手は、眉を上げた名前が盆を遠ざけて片手で軽く叩いた事で失敗に終わった。
痛そうに短く声を上げて、「What!?」と睨んできたため、呆れ顔になってしまった。

「他国で出されたものに先に手つけようとする奴があるかよ」
「他ならやらねぇ」
「ココでもやるな!こじゅさん、確認お願いします…」
「悪いな。政宗様、俺も同意見です。ご自重下さい」
「Shit!分かった、分かった。揃って非難するな」
「まったく…」

名前と小十郎双方からの非難には耐えるらしい。
降参だといった仕草を見せたので、咎める姿勢を緩めて小十郎に政宗の分を渡した。
お茶の注がれた湯のみと美味しそうな添え菓子を、慣れた所作で確認していく事に何も言わない。

国主は、用意される飲食物をすぐに口にしたりはしない。
使用人か信頼のおける家臣を通してから、初めてその口に入る。
国内でも当然の事なのだから、他国など更にだ。

小十郎が確認し終えた湯呑へと口をつける政宗は、「で」と短く切り出した。

「随分と長い旅だったらしいな」
「時々寄り道してたから。九州まで足を運べたから、実りある旅だったよ」
「へぇ?」
「西国一の国力は中国の毛利だと思うけど、四国の長曾我部もカラクリ兵器と航海術に関しては群を抜いてる。けど、瀬戸内の両雄の仲の悪さも評判通りだった」
「その口ぶりだと海戦にまで首突っ込んだのか?」

口端を上げて笑う政宗に、言葉を濁しつつ苦笑で返した。
そのまま九州で起こっていた南蛮宗教の新興勢力の根城を叩いた事、長曾我部と交流を持った出来事を軽く話した。

「元親公…チカのまとめる軍の気性がお前のトコとノリが凄い似てて驚いたよ」
「Ha、そりゃ面白そうだ!西海の鬼か。竜とどちらが強いか、是非とも手合わせ願いたいもんだぜ」
「俺が結ぶのは縁だ、戦の仲立ちをする気はないぞ」
「Never mind!獅子に首根っこ噛まれる真似はしねぇよ」
「You sure?」
「Trust me.」

「どうだか」と、茶菓子を撮んで答えた。
天下取りの野望を除いたとしても、政宗は基本的に戦う事が好きだ。
魂をぶつけ合う生死を越える局面にしか生まれない独特の高揚と熱気に焦がれている気がある。
この闘争心溢れる若い竜によって統べられた奥州には、その熱に応じられる器はいない。
無論、獅子と称される名前でも相手をする気は無い。
同様に、政宗も名前には昔から相手を求めていなかった。
二人を繋ぐものは、もっと別の形だ。

「四国とも同盟を結んだのか?」
「いいえ、交流だけ。いずれはと思ってますけど」

小十郎からの問いに首を振って否定を入れた。
元親に船で相模まで送って貰って日も浅い上に、同盟となると一朝一夕にはいかない。
だが今後の新たな交易を考えるにあたっても、四国との同盟締結は濃厚だろう。
西国との繋がりは東国に位置するにあたって多様な可能性を広げる。
また一口お茶を喉に通し、名前が広げた巻物は日ノ本を描いた図だった。

「相模湾の交易には北条水軍も動かしてるから、津料も安定してる。陸の天馬役は国内は問題無いですが、国境は国によりますね」
「佐竹を通す奥州は」
「むしろ西国の方なんですよ、そこも気になって近江から京と堺も寄ってみたんです」
「Han?」
「近江がね…中々キナ臭かったよ」

自身が旅した道筋を示して一点で止めて指で数度叩く。
政宗と小十郎も表情を険しくした事で、事前に影に確かめさせていたから間違いないと思うと付け足した。

「どこの村も男出が他国に比べて少なかったから、徴兵されてるだろう。それでも目立った合戦の後は見かけなかったし、噂を聞かなかったのも臭い」
「近江でねぇ…」
「この乱世、小競り合いなんてどこもやってるけどさ…これは今までとは違う得体の知れなさがある」
「…OK,小十郎」
「御意に」

目配せをした政宗の意に小十郎が短い返事をする。
奥州へ戻り名前第、黒脛巾組へ再度確認を命ずるためだ。

地図から手を離した名前は、二人のやり取りから外の庭へ顔を向けていた。


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