- ナノ -




5 平和を壊すもの


「大変だ!!セカンドシリーズの四機が強奪された!!」
「何だと!?」
「戦闘配備だ!!戦闘・・ぐわあぁー!!」

あちこちから爆発と炎が巻き起こり、ザフトの基地は混乱を極めていた。
慌てて今から戦闘配備に入ろうとするザフト兵はシャドーガンダムのビームで骨さえ残らず消えた。
逃げ惑う残りの兵士を次々と殺し、しまいには踏み潰す。

コックピットの中で、自分の手で死んでいくその姿を黙って名前は見つめていた。

「いい気味だな、ザフトがっ」

名前の顔にあるのは狂気に満ちた瞳と歪んだ笑み。

「アウルは右、ステラは左、スティングはオレとザフトの残りの始末だ!」

名前の通信に、カオス、アビス、ガイアガンダムが八方に散って次々とザフトのMSを破壊していく。
名前は三機が指示通りにこなしていくのを少し離れた上空で確認し、異常が無いかチェックする。
三機を脅かすものはないか、自分たちの計画に支障をきたすものはないか。

上空からビームライフルを放ち、基地を次々と爆破させながら、鋭く視線を光らせた。

そして、見つけた。

「何だ…!?」

瓦礫に埋もれ、壊れかけたザクに慌てて乗り込もうとする金髪の少女と濃紺髪の少年。
それが誰だか、一体何故軍服を着ていない人間がそこにいるのか。
そこまでは名前には分からなかったが、少なくとも敵に成り得るとは瞬時に判断した。

シャドーを素早く駆り、起動したザクへ向かってビームサーベルを抜いて切りかかる。

「!な、受け止めただと!?」

ザクの斧によって弾かれた体勢を立て直しながら、名前は驚く。
通常のナチュラルより強化された自分たちエクステンデッドは今までコーディネイターに引けを取らなかった。
無論、だから、今まで問題無くザフト兵を葬ってきたのだ。
なのに、このザクは手負いにも関わらず自分の操る機体と互角に渡り合ってくる。

名前の額に無意識に汗が流れた。

やられるのか?オレは、ここで。
こんなやつに…言い渡された任務も遂行出来ずに、守れずに?

「っだ…オレは生きる、生きるんだぁ!!」

生き残る。

その言葉が何故か強く頭の中で反駁された後、名前は瞳を鋭くしてザクへ斬りかかった。
戦闘ではよほどのことがない限り動揺しない名前の叫びが、通信に大きく響いた。



「名前?」

アビスガンダムのコックピットでアウルは怪訝そうに繭を寄せた。
ゲーム感覚で抵抗してくるザフトのMSを倒していた楽しさは一変して消えうせる。
有るのは、先ほど通信で聞こえた名前の叫び。

名前があんなに感情的になるなんて、ただごとではない。
ひょっとして名前の身に何か?いや、僕たちの中で一番強い名前が負けるはずなんてない。

「そうさ、僕の名前が負けるわけないじゃんか」

そう頭の中で結論を出して、シャドーを確認もせずにまた敵の一掃に集中する。
アウルの至極楽しそうな笑い声がコックピット内に響いた。



「くっ…何だこの新型MSは…何て強さだ…!」
「アスラン!」

手負いのザクのコックピット内で濃紺の髪の少年アスラン・ザラは操縦に非常に苦戦していた。
その横で心配そうな顔で見つめる金髪の少女…オーブの現代表カガリ・ユラ・アスハ。

プラントの議長ギルバート・デュランダルと、オーブの避難民の件で話し合いにこのアーモリー・ワンへ
やって来たはずだった。それが謎の襲撃で、どうやらザフトが密かに開発していた新型が奪われたらしい。
まるで自分が2年前ヘリオポリスを襲撃してガンダムを奪ったこと似ていて震えた。

また繰り返すのか。
攻撃からカガリを守るために乗り込んだザクで攻撃を受け止めながら顔を歪めた。

しかし目の前のダークブルーの新型MS…シャドーガンダムは攻撃の手を止めない。

「ぐっ!さっきより速くなってる!?」

あれに乗っているはずの謎の襲撃者はよっぽど腕の立つコーディネイターなのか?

「!!」

意識が衝撃で一瞬それた瞬間、シャドーのビームサーベルが真っ直ぐにコックピットへ向けられていた。

「死ね!!!」

名前が、そうシャドーのコックピットで叫んだ。
しまった、とアスランが目を見開いた瞬間、振り下ろされるはずだったビームサーベルが弾かれた。

「「!?」」

名前は危険を感じ、後ろへ飛ぶ。
その瞬間、ザクとシャドーの間に降り立ったのはソードを装備した見たことも無いガンダムだった。

「な…ストライク…?いや、似てるけど違う…」
「あれも新型なのか!?何でこうザフトは…プラントは戦争ばかりしたがるんだ!」

驚くアスランと顔を歪めるカガリ。
一方、名前は先ほどと打って変わって冷静戻っていた。

もう一機の新型ガンダム…情報にあったのは四機だけだったはずなのに。
名前の頭の中で情報が瞬時に錯綜する。

「また戦争がしたいのかアンタたちはぁ!!」

五機目の新型ガンダム…インパルスガンダム(今はソードシルエット換装)から全周波数で通信が響いた。
若い、少年の声だった。パイロットのシン・アスカの。

「っ…!こいつも手ごわいか…、アウル、スティング、ステラ!時間だ引き上げるぞ!」

インパルスの巨大ソードを何とか受け流しながら、後退気味に通信で名前は叫んだ。
その声に八方に散らばっていた三機がシャドーの元に一斉に終結する。

「おい、何だよ新型は4機じゃなかったのかよ!?」
「名前、さっさとそんなやつヤっちゃいなよ!」

スティングとアウルの声を聞き、名前は完全に後退しながら尚通信で答えた。

「ネオの情報ミスだ。とにかく今はもう時間がない。ここは一端引く」

作戦の遂行時間にタイムリミットが迫っている。
ここで撤退しなければ、地球連合軍の母艦へ帰れなくなる。
名前がシャドーガンダムのサブユニットを展開させた。

「っ!?何だ、煙幕!?」

漆黒の霧が噴射され、インパルスの視界を奪う。
これがシャドーガンダムの装備の一つ。
その名が示す通り、隠密作戦や奇襲用のガンダムであるシャドーは
目晦ましや騙し討ちを最も得意とする戦術用に設計されている。

インパルスのコックピットでシンが動揺している中を素早くシャドーが上空へ退避した。
しかしそこで計算外のことが起こる、シャドーとすれ違うようにインパルスに向かう影。

「ガイア!?ステラ、戻れステラ!」
「すぐに沈める!」

名前の声を無視して、インパルスに突撃するガイアガンダム。
そのまま四足獣型に変形し、ブレードでインパルスのソードと相打ちになった。

「名前にひどいことした敵!殺す!」

ステラにとって名前を苦戦させた相手…即ち、名前を奪おうとする敵。
強い排除と敵愾心でインパルスを見つめた。
しかしステラの懇親の攻撃もヒラリヒラリとかわし、弾いていく。
そのインパルスにステラのイライラは頂点に達していた。

「なぜ、落ちない!!消えろーー!!」

「ステラ…」
「ちぇっ…ステラ!じゃあお前はここで死ねよ!名前はちょうどここにいるしね、バイバイできるよ!ネオにも伝えといてやるよ、サヨナラってなぁっ!!」

心配そうにする名前にとうとう怒ったアウルの大声が響いた。
嘲るように、特に「死ね」を強調して。

途端にステラの操るガイアの動きがピタリと止まった。
そう、発動したのだ…ステラの「ブロック・ワード」が。

「ああ…死、ぬ…?わたし…死ぬ…?…いやあああぁぁぁーーー!!!」

「ステラ!アウル、お前!!」
「良いじゃん結果オーライってことでさ。怒らないでよ名前」
「くっ…!…ステラ、大丈夫だ、ステラ!」

「死ぬのこわい!いやぁー!!」

ガイアを駆ってものすごいスピードで飛んでいくステラのパニックの泣き叫びが響いた。
その姿を苦しそうに名前は追いかける。
それを追いかけようとするインパルスをカオスとアビスが阻みながら、四機はコロニーの壁の方へ飛んでいった。

「俺も名前に同意見だぞ、アウル!いくらなんでもブロック・ワードは無いだろ!」
「ステラが悪いだけだろ?名前の指示を聞かなかったし、一人で暴走した。当然の報いじゃん!」
「お前…」

インパルスを撃退しながら、壁に穴を開けて宇宙圏への脱出を試みるガイアとシャドーを見る。

名前に固執するのはステラもアウルも同じだ。もちろん、俺もとスティングは考える。
しかしこうもイザコザがあると対処に回る自分の苦労を少しは知れと切実に感じていた。
仕方なしにカオスガンダムを操って、アビスのフォローをする。

「あ、穴!?」

シンがインパルスのソードを振り上げようとした瞬間、コロニーの壁に空いた巨大な穴。
身構える間も無く、五機と…他に加勢に来ていた赤いザク、白いザクも宇宙空間に吸引され、投げ出された。

開戦の予兆がここに現れた。

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