- ナノ -




3 激動の予兆


とある地球軍艦内で、軍人とは思えぬ金髪を靡かせた美少女が無重力で漂いつつも嬉しそうに、ある人物を探していた。
角を曲がり、自分達の部屋に入ると、そこには、トランプをしている三人の少年の姿。

「げっ!また僕の負け?」
「…アウル、お前弱い」
「名前が強すぎんだよ…」
「そうだ!スティングの言う通りだよ」

ボロ負けして不貞腐れる水色髪の少年・アウルに、呆れた一言を放つ名前に、すかさずつっこむ緑髪の少年・スティング。

「…あっ!名前っ!」
「「「!ステラ」」」

名前に名を呼んでもらい、嬉しそうに反応したステラは勢いよく名前の胸に飛び込んだ。
名前は仕方無さそうに微笑んでステラを抱きとめ、その頭を撫でてやる。
それを横でアウルが面白くなさそうに見つめていた。

「おいステラ。いきなり来て何だよ。僕たちが名前と遊んでたんだぜ?」
「……名前、アウルの…じゃない」

ステラを睨みつけるアウルと対抗するようにむっとした顔でアウルを見るステラ。

「おいおい、そんな事する為に来たんじゃないだろステラ」

アウルの横で律儀にトランプを片付けていたスティングは溜息をつきつつ言い放った。

「…うん…。…名前、ネオがいってた。MS(モビルスーツ)くれるって」
「MS?」
「どう言う意味だよ?」

訝しげな顔する名前とアウルにステラは続ける。

「ザフトのMS…ステラたちにくれるって」

その言葉にアウルとスティングが同時に嬉しそうに声を立てた。
「それってもしかして僕たち戦えんの?」
「MS…!いよいよ思う存分暴れられるぜ」

「?…名前…うれしくない?」
「……いや。嬉しいさ。ただ、ちょっとネオの所に行ってくる」

不安そうなステラの頭をもう一度撫でてやると、ステラは素直に名前から離れた。

(ザフトのMSをくれる?つまり強奪作戦ってことだろ)

と、名前は考えながら、他の三人を残し、一人上司の下へ向かっていた。
無重力で、名前の青い地球軍服が揺れる。



「ネオ」

名前の呼び声に、仮面を被った黒の軍服の男は笑いながら振り返った。

「ん?やっと来たか」

地球軍大佐ネオ・ロアノークは不敵に笑む。
そのネオとは対照的に名前は真剣そのものの顔つきで眉間に皺を寄せ、ネオの元へやって来た。

「ステラから聞いていると思うが、今回の作戦は…」
「…分かってる。ザフトの新型MSの強奪。そしてその作戦をオレに指揮しろ…だろ」
「よく分かっているな。その為にお前を呼んだんだ。これが今回侵入する軍工場の大まかな見取り図だ。名前、お前ならできるな?」

ネオから小さなフロッピーを受け取った名前は少し沈黙した。
そして、小さく頷く。

ネオが名前に頼むのは、他の三人では的確に情報を把握し、且つ合理的に行動をするのはあまり得意ではないからだ。
四人の中で、名前が一番冷静で物事に瞬時に対応できる機知に富んでいる。
そして、精神的な面で一番安定しているという点もあった。

「今回の新型は全部で4機。つまり一人一つずつ貰えるわけだ。どうだ嬉しいだろう?」
「…まあな。じゃあ、オレは行く」

一瞬哀しそうに微笑むと、名前はすぐに無表情になって踵を返した。
そんな名前にネオは軽く溜息を吐いた。

名前はネオを信用している。しかし、ステラたちにほど気を許してはいないのだ。
ファントムペインに配属されてから、名前は誰にも心を開いていなかった。
気を許していると言えば、ステラやスティング、アウルにだけだろう。

(戦い、…か)

戦うために生まれた自分たち。
相手を滅ぼさなければ、自分やステラたちが撃たれる、殺される。
それだけはあってはならない。

目の前の敵を全て殲滅し、破壊し、消し去り、倒す。
撃って…切り裂いて…ひたすら進むのみ。
それが、生きている証。

生きる、生き残る。
それが、名前の中に刻まれた深い心念。



名前がメンテナンスルームに着いたとき、既に他の三人はゆりかごの中で眠っていた。
名前は数人の研究員の視線を感じながら、淡く緑の光を発する三つのゆりかごのガラスを見つめる。
中には、アウル、スティング、ステラが気持ち良さそうに眠っていた。
名前はそれを見て、小さく笑い、自分のゆりかごへ向かう。

ステラとアウルに挟まれる形で存在する、空っぽのゆりかごのガラスが開いた。
名前は研究員に催促され、不快を顔に表しながら、赤いシルクの柔らかい布に身体を預けた。
目の前でカプセルが閉まり、急速な安心感と眠気が襲ってくる。

(明日から戦いが始まる…)

薄れていく意識の中で、今までのぼんやりとした日々を思い浮かべた。
しかし、どうしても研究所で過ごした日々以外の事は思い出せない。
ゆりかごに入ると、全てがどうでも良い様に感じられるのだ。

名前はそれに不安を覚えつつも、完全に閉じた瞼を開けようとは思わなかった。
そこで、意識は途切れる。

深い眠りに。

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