4 波乱万丈 / 立花 いづみ
「…うーん…いないなぁ…」
「監督先生?どうしたッスか?」
劇場も稽古場も、MANKAI寮内を探してもどこにもいない。
最近、出掛けてる事が多いとは思ってたけど、今日も出掛けていないんだと思う。
あまり私がウロウロしてるから、見かねた太一くんが声を掛けてくれた。
「万里くん、今日も外に出てるんだなぁと思って」
「今朝早くから出てくの見たッスよ!言われてみれば、万チャン最近出掛けてばっかッスね!ひょっとして彼女とか…!?」
「どうだろう…?」
羨ましいッスー!って拳握ってる太一くんだけど、何でもこなす万里くんの事だから有りえなくはない。
でも、その割にはいつもよりテンションが低めだったり、珍しく調子悪そうにしてたけど。
十座くんに突っかかる回数が減ってたのも気になるし、何より最近は稽古により身が入っていない気がした。
や、いつも適当だし身は入ってないけど…それ以上に。
何か気がかりがあるって感じだったし、左京さんのイライラも限界に近くなってた。
「外も土砂降りになっちゃったみたいだし、あんまり遅いと心配かも…」
「あんなに晴れてたのに、通り雨ッスかね!」
おまけに今はスコールかと思うくらい豪雨になって、外に出てた組はみんな慌てて帰ってきてた。
いないのは万里くんだけだ、それが余計に気がかりだった。
「監督さん、大丈夫ですわ。きっとすぐに帰ってくると思います」
「なまえちゃん…うん、そうだと良いんだけども…」
「それよりご一緒に紅茶はいかがですか?今日はアールグレイですの」
「美味しいよ〜、俺のは、さんかく入りなんだ〜♪」
「え…あ、ありがとう…」
と言ってたら、談話室にいるメンバーも話に乗ってくれた。
三角くんがくれた紅茶を受け取りつつ、あぁさんかくって角砂糖のことか…え、三角砂糖?だけど。
それより、私はにこやかに笑って紅茶を口に運んでるなまえちゃんの状態にツッコミを入れた方が良いのかな…!?
太一くんを振り返ったら、首を高速で横振りしてるから駄目って事だよね!?
「駄目ッス無茶ッス断固反対ッス!触らぬ神にタタリなしッス…!」
「何か鳴きました?」
「ワン!!ッス!!」
「……」
キラキラ笑顔で振り返ったなまえちゃんに、鳴いてみせるワン…太一くん。
そんななまえちゃんの下にいるのは、無言の天馬くんだ…。
三角くん、よく近づけるね!?覗き込めるね!?私、絶対無理だよ!!
「てんまは凄い〜本当にイスみたい〜」
「……ッ」
「椅子の稽古ですから*」
「天チャン…ッ!俺っち何だか涙が止まらないッス…!」
四つん這いな天馬くんの上に優雅に座して、全くブレない姿勢で紅茶をたしなむお嬢様…。
最初見た時は気が遠くなっちゃったけど、慣れって恐ろしい…。
人間って本当に凄い生き物だと思う、もう日常と化していて誰も何も思わなくなってスルーだし。
いや、当の彼らは日々何か大切なのが失われてる気がするけど。
特に天馬くんは白目が上手くなったよね…。
「うわ、何このカオスな空間。大草原不可避なんだけど」
「なまえちゃんとテンテン、まだ明るいのにソレは刺激が強すぎっしょー!?ってかテンテン、生きてるっ!?」
「一成ウルサイ。こんなのいつもの光景じゃん」
「至さん、成くん、幸ちゃんもいかがですか?」
「俺は遠慮。座り心地わるそ」
「俺も」
「2人とも超絶クール〜!」
スマホ片手にゲームを止めない至さんもさすがだけど、チラ見しただけで普通に無視する幸くんもクールだ。
一成くんだけが何だかんだで真剣に心配してくれてるよね。
その間も一言も発しない天馬くんのイス演技は神だと思う、天才子役恐るべし。
って、そんな話をしてたら十座くんと臣くんも来て…、2人はまだ戸惑うっちゃうみたいだ。
ここに来てそんなに日が経ってないのもあるかも。
「…何か凄いな」
「プロの稽古って、とっても厳しいんです」
「ソレは天馬オンリーかな…?」
臣くんの笑顔が汗つきってレアだけど、笑顔で返せてあたり臣くんらしい。
ボソッと呟くだけで視線逸らしたのは、喧嘩負けなしの実力で関わっちゃいけないって判断したのかぁ…十座くん。
あ、そう言えばさっき玄関の方で他にも足音がした気がしたけど。
「ひょっとして万里くん帰ってきたりした?」
「俺は知らねぇ…」
「見かけだゾ!見かけたゾ!」
「!、亀吉!」
バタバタとはばたいて飛んできた亀吉が至さんの肩に止まって鳴いた。
え、それって本当!?と聞いたら、足からパワーバー離す。
また至さんのお願い聞いてたんだ…。
「万里、ビショ濡レ!お客もビショ濡れだッタ!お風呂直行!」
「ビショ濡れ…って待って、え?お客って1人じゃないの!?誰か一緒!?」
「やっべ、SSRキタコレ」
「至さん全く聞いてないし!!」
「万里が客連れてきたって事か?」
そうみたいです臣くん!って違う!
亀吉の話だと2人とも豪雨にあったって事じゃ…それじゃ大変、風邪引いちゃうよ。
なんか温かいもの用意しとかないと、あと声掛けを。
「監督、俺が行って話してくるよ」
「お願いできますか?私じゃさすがに行けないので」
「俺っちも行くッス!万チャンの友達とかめっちゃ興味あるッス!」
「……」
「え?もう良いかですって?そうですね、私も飽きましたし稽古終了ということで」
「じゃあ、なまえ〜俺と一緒にさんかくしよう〜」
「はい〜、さんかくしましょう〜」
「テンテン、生きてるー!?」
「…なんとか…」
「瀕死に近いよコレ…」
なまえちゃんが紅茶のカップを天馬くんの上に置いて立ち上がって、三角くんと戯れてる。
あそこだけホンワカしてるなぁ…一成くんが天馬くんにフォロー入れてるみたいだし大丈夫かな。
と、話をしていたらいきなり大きな音が奥の方からして。
「ッきゃあぁぁぁあ!!?」
「!?」
凄い音と女性の叫び!?
え!?なに!?何があったの!?明らかにお風呂場の方だったけど!?
「ちょ、コレ…もうフラグ立ちまくりでしょ」
「何の事ですか至さん!?」
「さんかく!?さんかく見つけたっ!?俺も行くー!」
「(何だか聞き覚えがあるような…)私も参ります〜」
「えぇっ早ッ!?ちょっとー!?」
なまえちゃんと手繋いで走る三角くん速すぎだけど!!
それより、一体何があったのー?!っていうか何したの万里くんー!!
せめて犯罪はなしで!犯罪はなしでーー!!
「監督、すっげぇ混乱してるぜ…」
「テンテン、復活〜!俺たちもセッツァー見に行くっきゃないでしょ!」
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