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2 GOD座の演劇中毒 / 苗字 名前


「っ〜…まだ痛むや…大分良くなったんだけどなぁ」

口を動かす度にあった痛みも少なくなったし、みっともなかった腫れも引いてきたはず。
少なくともガーゼで隠せるくらいには治ったし!
でも主宰は許してくれないのは目に見えてるから、まだまだ帰れる道は遠い。

―えっ!?名前!?どうしたのソレ!
―お前っ!怪我してるじゃないか!一体何があった!?
―エヘヘ、ストリートACTの成り行きで
―どんな演技したら、そんな怪我負ってくんの!?

こっそり帰ろうと思ったけど、こういう時だけ何で裏口で張ってんの丞、晴翔!
今回は時間ギリギリだけどちゃんと帰ってきたじゃない!間に合ったじゃない!!
腕組み門番みたいに待ち構えてるし!普段は仲悪い癖にこんな時だけ息ピッタリで迫らないで!
ちょ、丞腕まくりしないで!?どこに行く気!?仕返し!?そんな事どうでも良いから、静かにしてよ…じゃないとっ

―騒がしいぞ…ッ!?名前!!その顔は何だ!
―げ、主宰…
―お前という奴は…!役者が顔に傷を負うとは何事だ!

ううっ…やっぱり主宰に見つかったじゃんか。
しかも今回はマジギレだし…分かってますよ、私自身が一番…
でも、あの時は避ける訳にはいかなったもの、喧嘩番長なら受けて立つはずだし。
舞台の流れでも、そうなってるし…って、丞!晴翔!息ピッタリで溜息つかないでよ!
誰が演劇中毒だっ!人を病気扱いしないでくれる!?
私は、ただ演劇と舞台が好きなだけ!お芝居してたいだけだよっお芝居してないと死んじゃうだけだし!

―…ソレを中毒って言うんだよ。馬鹿だ、馬鹿だよコイツ
―今回ばかりは晴翔の言う通りだ。名前、こっち来い…お前、しばらくストリートACT禁止だ…とにかく手当を
―!?、嫌だ!絶対嫌!手当いらないからストリートACTしてくる!
―はぁ!?何言っ名前!
―お前たち、いい加減にしないか!!
―!?

う、主宰の怒鳴り声が頭にキンキンして…丞と晴翔も黙りきっちゃうし…
え…何でこっち凄い目で睨むんですか…ま、まさか…

―名前、お前はしばらく勘当だ
―えぇえ!?ど、どういう事ですか主さ…
―少なくとも、その顔が完全に治りきるまでGOD座の敷居を跨げると思うな。GOD座の名を使ってのACTも一切禁止する、自分の仕出かした事の重さを反省しろ
―そ、そんな!?

GOD座、出禁!?ソレって、舞台どころか稽古も禁止って事!!
そんなッそんなのって…!

―主宰は私に死ねと!?
―うわ…そういう捉え方になるの?どういう思考してんだか…
―主宰の馬鹿ーー!!鬼ッドケチッ悪魔ーー!!
―安静にしろって意味だろ普通…って名前!??オイ、待てー!!
―捨て台詞?逃げ足だけは早い…
―フン、奴には良い薬だ。丞、晴翔。お前たちもアイツに構うんじゃないぞ
―…!は…い
―はーい。言われなくても大丈夫ですよ、僕は。丞は心配かもですけど

アレから何日経ったけ?一週間?二週間?どうでも良いや…
凄く腫れて痛かった頬がココまでになるのに思った以上にかかったのだけは分かる。
でも別にそんな事は気にならない…跡が残ったって、化粧で隠せるレベルなら問題ないし。
舞台に影響ないなら問題ない、それよりも今どうしょうもない事…!
稽古ができないっ!!舞台に立てないっ!!
演技がッッできない!!!

さすがに数日1人でできる内容は遣り尽くしちゃったし…やっぱり限界があるのは分かってた。
パントマイムも、エチュードも全部してるけど、1人じゃ幅が狭くなる。
GOD座経由の劇団もダメ元で足運んだけど、問答無用で追い出されるし…くッ!こういう時だけ根回し良いんだから。
ドケチ主宰め…何で私あの人の下でやってきたんだろ。あ、GOD座の舞台が高レベルだからだった

「よくよく考えれば考えるほど、GOD座って主宰さえいなきゃ最高なんだけどなぁ」

あの人、質より利優先だから、最近の舞台は芝居っていうよりショーだよね。
晴翔は忠実だけど、丞は明らかに不満堪りまくりな顔してた。
私は正直、利優先でも構わない。拘りないけど、最高にできるなら最高に越したことはない。
衣装もセットも演出も全部上を目指して、肝心なのは役者の演技だけだ。

それにしても、これからどうしよう…
見つかるの嫌で、わざとビロードウェイ避けてACTしてたけど、結局もうココしかなくなっちゃった。
戻って来たは良いけど、頭の中がグチャグチャで調子が出ない。
クラクラするのも稽古ができないせいだ、絶対そうだ…

「…イ」

あぁ、晴翔は意地悪いから助けてくれないから、せめて丞に会えたらなぁ…

「オイ、アンタ!」

頑固だけどスライディング土下座とかしたら、多分折れて稽古付き合ってくれるよ…きっと…

「!?、わっビックリした!?」
「さっきから声掛けてだろ。それより、やっと見つけたぜ…」
「?」

急に大きな声掛けられて凄いビックリした。
頭がボーッとしてたのもあるけど、振り向いた先にいたのがイケメンでビックリ。
見たところ高校生?何かチャラい今風の子って感じだけど、私何かしたっけ?
あれ…でも、どこかで見た事あるような?

「ごめん、ちょっと考え事してたんだよ。俺に何か用か?」
「…いや、用っつーか…探してたんだよ、アンタを」
「?、俺を?もしかしてファン?珍しいな、女の子は多いんだけど、君みたいな少年は初めて」
「少年じゃねーし、ガキ扱いすんな。あとファンでもねぇよ!覚えてねぇの?俺を」
「??…どっかで会ったような気はするんだけど、誰だっけ?」

ファンじゃないならGOD座?いやいや、劇団仲間は全員覚えてる。
じゃあ関係者だったかな…それも漏れなく覚えてるはずなんだけど…やっぱり頭回ってないのか私。
物凄く悩んでいるのが顔に出てたみたい、イケメン高校生が目に見えるくらい呆れ顔してる。

「アンタ、印象全然ちげぇし…その顔の傷、殴っちまっただろ」
「………!、あぁ!あの時の!」
「時間掛かり過ぎだろ!どんだけ間とってんだよ」

ホント役者かよ、って失敬な!これでもGOD座で主演やってますからね幾つも!

「…そのよぉ…殴って、悪かった…」
「え?あ、うん。大丈夫だよ、もうすっかり治ってきてるし気にしてないから。大した事ない大した事ない」
「大した事あるだろ…」
「ん?」

まさか謝ってくるとは思わなかった。もしかして、そのために探してくれてたって事?
見た目は軽そう、チャラそうに見えるのに、意外と根は良い子なのかも。
私としては出禁くらったのが痛手くらいで全然大した事ないんだけど、この子の方が気まずそうな顔してる。
というか、思い返してみれば、全然印象違うのは君だよ高校生。
あの時の、もう1人のヤンキーくんに突っかかってた勢いはどこへ?熱さも敵意も嘘のように無いから別人みたい。
まぁ私には関係ないから、どっちでも良いけど。
それよりこの空気どうしようなぁ…私が下手に大丈夫って良いっても、この子の様子だと引いてくれなさそう。
あぁ演技したい芝居したいパントマイムしたいエチュードしたい…
ストリートACTに戻りたいんだけどぁ…ん?ストリートACT…そうだ!

「そんなに気にしてくれてるならさ、俺とストリートACTしてくれないか!」
「!、ストリートACT?」
「ああ!1回だけで良い!そしたら、全部チャラって事で!」

お、凄いポカンとした顔してる。そんな顔もできるんだな高校生!
それより、何て救いの手だっやった!!これで1人芝居じゃなくなる!!

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