1 ヤンキーと役者 / 摂津 万里
勉強もスポーツも遊びも、少し見れば何だって誰よりも上手くできた。
別に大した事してねーのに、いちいち周囲の反応は大きくて余計に気が乗らなくなる。
「さすが万里だぜ!」って言われる度に、興味が失せる、どうでも良くなる。
こんなに簡単なのに、何でお前らできねーの?
「つまんね」
人生イージーモード、こんなに楽で簡単なのに必死になってる奴らが馬鹿らしい。
ソイツらに限って絡んでくるから更にウゼェ。
頑張ってる…熱くなってる…だから報われる?俺にも敵わねぇのに?
ブチのめす度に、自分の中で冷める何かが増した。
なのに、これは一体どういう事だよ?
「嘘だろ…」
「コレで良いか」
今、何が起こった?ぶっ飛ばされた?俺が?
いや、事実だ。目の前で俺を見下ろす胸糞悪ィ顔と声は消えない。
O高最強のヤンキー、兵頭 十座…!コイツに膝をつけられたんだ!
俺が?十七年間生きて、負けなしの俺が?ふっざけんな。
「てめぇ!マジぶっ殺す!!」
「……」
「オイ、何か言え!逃げてんじゃねーよ!」
「…決着は着いただろ。俺はもうてめーは相手にしねぇ」
「はぁ?どういう意味だ、コラ」
「てめーは今までの奴らとは違う。少なくとも今までの奴らはテッペン取ろうって野心があった…てめーには何にもねぇ」
「あぁ?意味分からねーこと言いやがって。一本取ったくらいで調子に乗ってんじゃねーぞ」
まるで見透かしてるかのような眼しやがって、クソ!
完全に馬鹿にしてやがる、何が相手にしねぇだ…勝ち逃げする気だろ!
マジでふざけんな、誰が許してやるかよ!!
ヒラヒラ避けやがって、ぜってー逃がさねぇ!!
「な、何だ何だ!?」
「やだ、柄悪そう…!」
「ヤンキー同士の喧嘩か!?オイ…誰か警察呼んだ方が…」
外野に兵頭の気が逸れる、チャンスだと拳を振り上げた。
余裕かましてんのが運の尽き、コイツで決着だ。
俺の勝ちだな、兵頭!
そん時だった、振り上げた俺の腕に力がかかったのは。
「!?」
「『そこまでだ!』」
腕を掴んだ奴、線の細い野郎だった。
学ラン着てるソイツは俺の腕を押さえて動きを止めて睨んでくる。
人だかりのざわつきがあったが、ソイツの眼は真っ直ぐ俺を映してた。
「何だお前。人の喧嘩に横やり入れてんじゃねーぞ」
「『決着は着いてただろ、お前の負けだ。これ以上やろうってんなら、俺が黙っちゃいねぇ』」
「あぁ?」
下手にカッコつけた学ランの羽織り方しやがって、ドコ高だ?
女みてぇに線が細い癖に、どっか威圧がある…俺の恫喝にも動じねーし。
こんな野郎に庇われてる兵頭は、何で息を飲んでんだ?
コイツと知り合いなのか?だから庇ってんのか、なるほど…一匹狼もツルんで生きてたと。
「ア…アンタ…」
「『だから言っただろ、1人で無茶すんなって!』」
「!?」
「『お前が俺を突き放そうが、俺は絶対にお前を見捨てねぇ』」
「……」
何に友情ごっこ見せてんだ、熱くなりやがって馬鹿らしい。
会話と様子からして親友ですってか…余計にイラついてきた。
「『そういう仲だろ?俺たちは。なぁ』」
「っ…!あ…あぁ…」
「『だろ!だからよ、いつでも呼べよ、俺を。…って訳だ、コイツに拳を向けるってんなら、俺が相手になってやる』」
「良い度胸じゃん。その女面、一発で伸してやる」
「『やってみろ、俺は倒れねぇ。お前なんかに負けやしねぇさ』」
「!」
口端上げて不適に笑いやがる、勝利確信してるような絶対的な自信。
兵頭は嘘のようにギコちなくなってるし、マジ何なんだコイツ。
「また1人、乱入!?早く警察を…」
「待って…ねぇ、あの学ランの子って確か…」
「あ!思い出した!!」
「!、嘘!?ホントだッやだっ何でこんな所に!?しゃ、写メ写メ!!」
ガヤがウルセーが、構わねぇ。
俺から視線を外さず笑ってるコイツに今は頭にきてた。
やってみろだ?上等だ、その面あかしてやるよ。
握った拳をさっきよりも力を込めてぶん殴る。
兵頭が何か叫ぶよりも早く、俺の拳の方が早ぇ。
ホラな、クリティカル!さすが俺じゃん、これでコイツも…
「きゃぁあ!殴っ!?」
「しっ!まだ終わってないよ!」
終わってない?もう終わっただろ、さっきから何でこんなに周りが…って、何だコレ。
男も女も、子供から大人までいつの間に、こんなにどっから…。
「だ、大丈夫かッ」
「『…オイ、まだ終わってねーぞ。てめーの拳はそんなモンか?』」
「まだヤれんのか、お前…」
「『こんな拳じゃ俺は倒れやしねぇ!!』」
「っ!」
な、何だコイツの異様な迫力…っ、馬鹿みてーに熱くなって何だ?
呆れてたのに言葉を飲んじまった自分に気づいて、ハッとなっちまった。
「きゃー!!さすが、喧嘩番長!」
「良いぞ、GOD座!!」
「こっち向いてー!次も絶対見に行くからっ!」
は?GOD座?どういう事だ…?
って思ってたら兵頭が立ち上がって、ソイツに詰め寄った。
「アンタ!顔、本気で殴られッ…!」
「しっ…!」
「ッ」
「ご鑑賞ありがとうございました!GOD座『番長の誓い』をよろしくお願いしまーす!」
は…?一体何なんだ?兵頭を押さえたかと思ったら、ガヤに手を振って全く雰囲気が違ぇ。
さっきまでの熱さが嘘みてぇな笑いで応じて…『番長の誓い』?待てよ…確か、前にそんな漫画を読んで…
…やべー、俺、今マジで間抜けな顔してんじゃね。クソ、そういう事かよ。
「凄い迫力あるストリートACTだった!舞台の1シーンそのものだったよ!」
「番長カッコイイ!もう1回見に行きたくなった!」
兵頭のツレじゃなかった。
思い返せば、あの台詞も読んだ内容そのものだ…コイツ、演技だったってのか。
それだけじゃねぇ、俺と兵頭の喧嘩から全部、劇に仕上げやがった。
鳴り止まねぇ拍手と歓声、銭を投げる奴まで。
ソレに笑顔で応えるコイツは…待てよ、俺、本気で殴っちまったんだぞ?
「アンタらもありがとな、でもヤンチャは程々にだぜ?…ってこんな時間!?やっべ!」
「!、お、待っ」
「主宰にまたドヤされるー!!」
「!?」
待、と言うまでもなく、勝手に驚いて勝手に手振って走って行った。
残された俺と兵頭…どうすりゃ良いんだよ。
完全に気まずいしかねーだろ…隙だらけの兵頭に一発返せる機会?そんな問題じゃねぇし。
マジでとんでもねぇ事しちまった。
「…オイ…てめぇ…俺は絶対にてめぇを許さねぇからな」
「……」
兵頭にガンつけられても文句は言えねぇ。
理由はどうあれ、俺がやっちまった事はヤバイ。
役者…しかも、あの様子じゃ相当な人気役者の顔をぶん殴っちまったんだから。
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