7 里の治安を護るもの
その後、取材を続けると言った自来也と途中で別れて歩き出す。
木の葉の大通りを一緒に忍術の話をしながら歩いていくと、ちょうど大きな建物が見えてきた。
「…!」
「?どうしたの?」
立ち止まったイタチの目がいったのは、建物の前で話し込んでいる数人の大人。
正確にはその中の1人、指示を仰がれている隊長だ。
首を傾げた名前はそのまま建物を見上げて、掲げられているマークを目にする。
手裏剣に団扇が組み合わせられたマーク…木の葉警務部隊のものだ。
団扇がイタチの纏う背にも描かれている事は既に見慣れているから、名前は再び視線を大人たちへ戻した。
「ん…?隊長あの子たちはひょっとして」
「…イタチか…」
幼い視線が隠す事なく集中すれば気がつくもので、数人の内の誰かが最初に声を上げる。
隊長と呼ばれた男は腕組み状態のまま顔だけを向けてイタチを捉えて名を呼んだ。
それを合図にイタチは横の名前に合図して一緒に駆け出す。
目の前まで辿り着けば、腕組みのまま見下ろされた。
厳格な姿勢と表情を崩さない男が誰なのか、聞かずとも隣のイタチが「父さん」と答えた事で分かった。
木の葉の治安を護る警務部隊の中心を担うのはうちは一族。
その隊長であり、また現うちは一族の長でもあるうちはフガクはイタチの父だ。
幼心に理解しながら、「こんにちは!」と挨拶した名前に視線がいった。
「この子は、お前の友達か?イタチ」
「うん。オレの友達、名前だよ」
「波風名前です!はじめまして!」
「…そうか」
相変わらず向けられる瞳は冷静さと厳しさを変えなかったが。
イタチと名前の双方から肯定された、友という単語には言った本人でありながらも驚きを見せる。
が、冷静な表情に戻ると「仲良くな」とだけ何事もなく言い告げた。
イタチはそんな父へと袋を差し出して、「母さんから頼まれたもの」と紡ぐ。
「温泉卵か、ご苦労だったな」
「警務部隊で食べるの?」
「ああ、たまにはなと話題に上がったんだ…忙しくて買いに行く暇も無くて助かった」
「忙しい?でも今は平和になったのに」
「戦を終えて平和になったからこそ生じる争いというものはある」
「……」
袋を受け取ったまま言い放つフガクの言葉は嘘も取り繕いもない。
厳しいままに告げられた内容に返しを止めたイタチを見ていた名前はフガクも交互に見やって瞬いた。
それからいきなり「じゃあ、ありがとうございますだね!」と大きな声で代わりに返す。
「!」と一瞬反応したフガクを見上げたままニパッと笑んで続けた。
「イタチのおとうさんたちが木の葉まもってくれるから平和!だから、ありがとうございます!」
「名前…」
「平和だとみんな笑い合えるからうれしいんだよ?ね!」
一緒にいられるから仲良くだってなれる、と手でガッツポーズを作って謎の意気込みを見せる様子に。
フガクはしばし無言だったが、ふと「そういう事もあるな」とゆっくり返した。
その表情は苦笑であれど初めて緩んでおり、イタチも目を丸くする。
反らず見上げていた明るい表情は、イタチへと振り向いて「ね!」と向けられた。
コクリと頷きで返されたやり取りを見やっていたフガクだったが、次に返す前に会話は中断された。
「隊長!任務の知らせが入ってます!」
「分かった。悪いが話はここまでだ」
警務部隊の建物から発された声に手を上げて返して、イタチと名前に向き直り別れを告げる。
「うん、また家で」と頷いたイタチと「ん!さようなら!」と手を振る名前を背に身を翻した。
後ろで幼い声の会話が小さく聞こえる中、歩いている内に追いついてきた横から小声で耳打ちがあった。
一族の若者である部下の1人だ。
「あの子供は、波風ミナトの」
「だろう、間違いなくな。それに、きちんと四代目とお呼びしろ」
「良いんですか?四代目の子とご子息が!」
「構わん、子供たちに境界はないだろう」
ですが!と、不満を前面に表す若者の声を諌めると反論は無くなる。
離れても尚、納得いかないという気持ちを浮かべるのは若者が一族に誇りを持ち、フガクを慕っているからだ。
ミナトが四代目に選ばれた時、うちは一族の中で不満の炎を燃やした一派の1人だった。
当時、一族を宥める事に苦心したのを思い出し溜息をつく。
そして先ほどのやり取りとイタチを思って。
(波風名前、か…)
臆する事なく「ありがとう!」とはっきりと感謝を告げてきたは幼さの無知からか。
瞳を細めながら、ふと思い出した先ほどの出来事に否と結論づける。
あの子供は、直前までフガクとイタチのやり取りを一心に見ていたのだから。
「あの子供、幼くもやはり四代目の子だな」
「?」
意味深な呟きは、訝しんだ若者には理解できなかった。
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