6 友だちだから
「ごほん!とりあえず、遠慮せずに食べるがいい。わしのおごりだ」
「わぁ!ありがとうっ自来也せんせー!」
「ありがとうございます」
場所は温泉街から移って、近くの甘味処。
木の葉でも美味しいと評判の甘味処の外椅子に座りながら自来也が運ばれてきた串団子を差し出した。
それを見て顔を輝かせた名前と目を丸くして凝視するイタチにおごりだと声を掛ける。
と、すぐに反応を返した幼子2人の返事の調子は対照的だったがどちらも同じ喜だった。
自来也がお茶をすする間も、出された皿をどう食べるのかと思えば名前が手を伸ばす。
イタチが慣れた手つきで串から団子を外し、名前が用意した2つ分の小皿にテキパキと分けてしまった。
その極々慣れた分け方にポカンと呆けて茶を持ったまま自来也の動きが止まる。
すぐに小さく笑って、互いに異なる味の団子を指し示して語る様子を眺めた。
(こりゃ何度も一緒に食べている様子だのう…何と言うか、微笑ましい)
色も恋も感じさせない純真な男女の友情。
見ているとこちらまで穏やかになりそうな程のほのぼのさは久しく見ていなかったためより好ましかった。
ただでさえ18禁パラダイスな取材ばかりしてきた自来也にとっては余計にだ。
ふっと穏やかな笑みを瞳を閉じる…そこまでは子を見守るような立派な大人な空気だった。
瞳を開けて、空気を一転させるまでは。
「のう!イタチ!名前は可愛いだろう?んん?」
「…はい?」
ニヤニヤと弧を描くのは口だけでなく両目も同様であり、いかにも愉快といった気。
身を乗り出して、どうだ?とご機嫌に聞いてくる様は明らかにからかいを含んでいる。
急に話題を振られて、最後の団子を飲み込んでイタチは瞬いて僅かに首を傾げる。
名前もお茶を手に持ってキョトンとこちらへ視線をやっていた。
その双方を見やった自来也は空になった湯のみを名前に差し出して、「お代わりを頼めるかのう?」と言い渡す。
「分かった!入れてくるねっ」
「頼むぞ、いやぁ名前は本当に良い子だのう」
素直に自来也から湯のみを受け取って席を立った様子を褒めた自来也。
会話のために明らかに名前を外させたのだという事まではイタチでもすぐに分かるからそちらへ向く。
身を近づけてそっと耳打ちするように小声で発せられたのは、まさかの予想外な内容だった。
「可愛いじゃろう?何たってわしの孫弟子でもあるからのう!なに、お前が名前を可愛いと思うならわしが指南してやっても良いぞ!」
「?」
「木の葉きってのモテ男、自来也様直伝 恋の必勝法じゃ!」
「……」
ババン!と手を前へと突き出して、またまた歌舞伎調な決めポーズでかっこつける。
そんな自信満々な様子に当のイタチと言えば、冷静に数度瞬きして「そうですか」と返した。
拍子に、ガクシッと前へつんのめった自来也が小声で詰め寄る。
「お前、ホントにノリが悪いというか可愛げが足りんのう!そんな様子じゃ成長しても女心を掴めんぞ!?」
「別にモテたいわけではないので…お気遣いだけありがたく受けます」
「かぁーッ!!その歳でその台詞を聞かされるとは!」
何か過去の痛い思い出でも思い出したのだろうか、両手を頭にやって空を仰いで何か葛藤している。
その間も、自来也に向かい続けているイタチの表情や心持ちはあくまで本当に真剣だった。
良い意味でも悪い意味でもな様は、幼い事もあってやはり自来也の推しは理解できない。
それはどんなに大人びて冷静な思考を持ち得ていてもだ。
しかしわざわざ教えを授けようとしてくれようとしている意は伝わるから無下にもできない。
と、イタチは瞬いて名前へ視線をやってポツリと「でも」と呟いた。
頭を抱えて空を仰いでいた自来也が目ざとく反応してバッと顔を戻してくる。
目にしたのは、年相応の優しい雰囲気を浮かべている横顔だった。
「名前と一緒にいるのは楽しいです」
「!…そうか」
性別も、精神思考も、忍としての特質も、それこそ里内の立場も全く異なるけれど。
一緒に修業して競い合って、語り合って甘味を食べて過ごして。
全てを含めて純粋に想えるのは、一緒にいられて嬉しいという感情。
だからこそ、名前の言った言葉が嬉しかった。
(オレの初めての友達、か)
名前にとっては一番だとも言っていたけれども、イタチもそうだと思う。
あまりにも年齢に似合わない思考と態度は、周囲の同世代の子供たちと軋轢を生むばかりだから。
普通なら生じるはずのその軋轢を、ものともせずに飛び越えるから名前なのだろうと。
(飛雷神の術みたいだ)
初めて出会った衝撃の出会いを脳裏に思い出した。
お茶を持って戻ってくる名前が途中でイタチの視線に気がついてエヘヘと笑い掛けてくる。
対して、イタチの口元が僅かに緩んだ変化を隣の自来也はしっかりと見られた。
「なら仕方ないのう」と顎に手をやって同じく笑う。
その表情にもうからかうような仕草は見られず、戻ってきた名前が湯のみを差し出す。
そのままもう片方はイタチへと差し出された。
「はい!イタチの分もね!」
「ありがとう」
「ん!」
伸ばされた小さな手が確かに、差し出された湯のみを手にする。
渡される際に触れ合った手の温もりは、湯のみと同じく程良い温かさだった。
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