1 終戦から
空気が泣いてる。
遠くから聞こえる祈りを捧げる声だけが耳に響いて、眺めていた先から名前は後ろを振り返った。
登った木の上からは平穏な木の葉の里が光景がよく見える。
それでも後ろから聞こえてくる声と空気は幼心に泣いていると思った。
「名前」
「!、おとうさん!」
しばらくぼんやりと里を眺めていた名前を下から呼んだのは、大好きな父で。
パッと表情を輝かせて、かなりの高さがあるにも関わらず枝を蹴った。
重力に沿って落下する身体に目を見開いた父が慌てて両手を広げて受け止める。
「コラ!危ないじゃないかっ、怪我でもしたら大変だろ?」
「だいじょうぶ!だって、おとうさんがいるから」
「!、仕方ないなぁ…そのお転婆は母さん譲りだ」
「うん!それにわたし強いから、ひらいしんでパッとピュッてね!」
「ん、そうだね」
語る言葉は年相応に幼く無邪気で明るい。
それでも手に持つクナイを素早く振り回し遊ぶ様は大人顔負けの動きだ。
特殊な術式が施された独特のクナイは、この子が術を扱うようになって与えたからまだ記憶に新しい。
「でも慣れてないから人前で使うのは駄目だ、約束覚えてるかい」
「うん!」
「ん!良い子だ」
術式クナイを握って頷く娘の頭を撫でる。
ニコニコと同じ笑みを浮かべる父娘の顔立ちや雰囲気はよく似ていた。
そこへ後ろから、「名前?」と呼び探す大きな声が聞こえる。
あ、と瞬いていると、離れた先から姿を現したのは見慣れた母の姿であり。
父に抱かれている名前を見つけるなり、あからさまに安心した様子を顔に出すが次には盛大に怒りを爆発させた。
「コラッ!また勝手にどこ行ってたの!?あれほど1人で行っちゃ駄目だって言ったのに、心配したってばね!」
「うん、ごめんなさい。でもね、ここから里がよく見えるんだよっおかあさん」
「!、…もう、仕方ない子なんだから」
そんなに嬉しそうに里の方角を指し示されたら怒れないってば、と母は笑った。
そんなやり取りを横で見守っている父へ、母が声をかける。
「三代目様がお話があるって探してたわ、ミナト」
「話?…ん、分かった。すぐ向かうよ。クシナ、名前と先に帰れるかい」
「心配しなくてもこの辺なら大丈夫よ、物騒な輩は私が逆にぶっ飛ばしてやるわ!」
「ハハ、頼もしいや。じゃあまたね名前」
「…うん!いってらっしゃい!」
頭を撫でた手が離れた事に、ほんの少しだけ間が空いてしまったがすぐに笑顔を浮かべて手を振り見送る。
微笑み去っていく父の背が向かう先の空気は、小さく眉を寄せた名前にはやっぱり泣いているように見えた。
(たくさんの人が泣いてる…)
事実、先ほどまで母に連れられて参列していたのが哀悼の儀であった。
名前自身幼く理解出来ずとも過敏に分かるのは、その感覚だ。
「さ、帰ろっか」と笑顔で手を引いてくれる母の温もりに意識を戻して頷き笑う。
今も胸に伝わる悲しさを見せまいと。
この日、長きに亘って繰り広げられてきた第三次忍界大戦が木の葉隠れと岩隠れの協定締結によってようやく停戦になった。
双方で多くの忍たちが命を散らせ、深い傷跡を残したのは言うまでもない。
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