- ナノ -




15 仲間と友と


「おじさん、おばさん!こんにちはー!」
「おぉ、名前ちゃんじゃないか!今日も修行かい?」
「ちょっとお待ちなさいな、ほら」

団扇マークの描かれた門をくぐり抜ければ、うちは一族の居住区であるうちは地区だ。
ミコトとクシナが再会して足を運んで以来、イタチは名前を地区内へと呼びやすくなった。
今まで里外れの森でばかりしていた修行も、イタチの提案でうちは家近くにある林にバリエーションを増やす。
そのお蔭で、名前が地区を歩き回っても一部のうちは一族は歓迎してくれるようになり。
地区内で銘菓うちはせんべいを売るうちはテヤキとウルチ夫妻もその内の人たちだった。

修行頑張ってね、と土産にうちはせんべいを持たされて顔を輝かせて礼を述べる。
それを見つめるウルチの目は孫を見るような穏やかさがあった。

「ありがとうございました!」

手を振って歩くのを再開しながら、擦れ違う何人かの若者たちと視線が合う。
その視線は打って変わって険しさと嫌悪を含んでいるのはテヤキとウルチから見ても明らかだった。
遠目から心配そうにしていたウルチが動こうとしたが、テヤキが止めに入る。
うちは一族でも一族愛の強い若者たちであると地区内でも有名なだけに睨みは強かった。
それでも、名前はわざわざ向かいを歩く道を選んで目の前に立ち手を上げて堂々と言った。

「こんにちは!」
「……」

笑顔で挨拶をする、勿論、若者たちはピクリと眉を動かし表情を険しくするだけだ。
傍から見ても一層悪くなるチャクラ気配でも、「こんにちは!」と名前は前から動かず繰り返した。
勿論、応えの挨拶はない。

痺れを切らした1人が、何かを言いだそうと手を上げかけた時。
後ろから別の歩いてくる気配を感じた若者が「おい」と呼び掛けた。
顏を見合わせたうちはの若者たちはチッと舌打ちして名前を見下ろした後で歩き進む。
挨拶もなければ無いものに扱われて横切り去られても、名前は表情を変えず動きを追って見送っていた。

ただ、名前の目に映るのは彼らの表情や恰好ではない。
正確には、彼らから発せられるチャクラの色をずっと眺めていた。
通りを横切って消える団扇マークから発せられるチャクラは暗く痛々しい色をしていた。

「こんにちは」
「!」

何かを感じ入るように視線を逸らさず、チャクラの残り香を目に焼き付けていると。
急に声を掛けられて思考を現実に戻す。
驚きながら振り返ると、そこには優しい笑みを浮かべている見慣れない少年がいた。

少年と言っても、名前よりは明らかに数歳年上だろう。
証拠に見えるのは額にある木の葉マークの額宛てだ、少なくともアカデミーを卒業している下忍以上。
幼い名前でもすぐに分かる少年に対して、「こんにちは!」と笑んで返す。

「君、最近うち(うちは地区)によく遊びに来る子だろう?」
「ん!友達がいるから!お兄さんは?」
「オレはシスイ、うちはシスイさ。君は?」
「名前、波風名前です!よろしく、シスイさん!」

手を差し伸べて挨拶すれば、同じように伸ばされる手。
握手を交わして挨拶できるのが嬉しくて、エヘヘと笑いを純粋に増させればシスイはちょっと考えて聞く。

「…さっきはごめん、うちの一族は難しい人たちも多いんだ」
「そうなの?」
「うん、全員が君と仲の良い友達のようにはいかないんだよ」

しゃがんで目線を合わせてくれるのはシスイが名前の幼さを汲んでくれているからだろう。
無邪気に挨拶した様子が、幼心にうちはの友達と重ねたのではないかと。
笑みを止めて、キョトンと真剣な表情のまま聞き返す名前は首を傾げて頷いた。

「あの人たちは私の事嫌いなの知ってるよ、チャクラがそう言ってる」
「!、チャクラを知ってるのか?」
「何でかは分からない…でも、私の事をとっても怒ってる、大嫌いだって」

目を丸くしているシスイの表情が幼子に言い聞かせる様子から変わったのも伝わった。

「でも、挨拶しないのは駄目だと思う。だって、同じ里の仲間だよ」
「…もしかして、そのつもりでわざとあんな風に挨拶したのか?無視されると分かって?」
「ん!」

当然だと言わんばかりに頷く真剣な顔に浮かぶ色に嘘はない。
向けられる純粋な心持ちに、シスイが浮かべてしまったのは苦笑だった。

「同じ里の仲間、か…名前、オレもそう思うよ」

パァ!と表情を輝かせる幼い子供。
シスイからすればまだ本当に幼いと映るのに、言われた言葉が何より共感できるのが嬉しくもあり辛かった。

忍として生きる以前に人である自分たちは、色々なしがらみに囚われて生きている。
自分たちうちは一族で言えば、それは一族としても誇りと蔑ろにされてきたと見る過去への屈辱。
けれども、それは木の葉の里の一員だという誇りもあるからこそだ。
だから、個人的な感情はどうであれ、はっきりと諍いがないのならば共に生きる里の仲間として言葉を通わすべきだと。

(こんにちは、すら言えなくなる怖さ)

一族でなければ、人として交わすべき挨拶も忌避されてしまうほど視界が狭くなる。
凝り固まる思考に染まる一族愛を激しくする一派の写輪眼を思い出して、眉を落としたシスイ。
その表情をずっと見つめている名前に気がつき、気持ちを切り替えた。

「オレもこれから他の人たちと仲良くなっていきたいと思ってるんだ。名前、良かったらオレとも友達になってくれない?」
「ん!シスイさんも友達!」

互いに笑い合って交わす、友達としての初めての挨拶。

共に語りながらうちは地区を歩く中、色々な事を語り合った。
名前は1番の友達がうちはイタチである事、シスイはうちは地区の自慢や南賀ノ神社の事など。
互いが気安い気性からかすぐに慣れ親しみつつ、イタチが待っている場所へ訪れて。
「初めまして」と挨拶して友達になりたいというシスイを受け入れたイタチが何とも言えない表情を浮かべていたのは別の話だ。

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