8 襲撃者
イタチと修行を終えた名前が帰路につく頃にはすっかり夕方になっていた。
行き慣れた緩い坂道を駆け上がりながら、灯りが見える家へ一直線だ。
遅くなってしまったが、家ではクシナが夕飯を作って帰りを待ってくれているだろう。
「遅いってばね!」と、軽く怒るだろう母を想像しながらも、エヘヘとなりながら最後の階段を駆け上がった。
門を抜けて扉までつく頃には、夕日と紺色の闇が交じって星が煌めく。
「ただ…!、…?」
手を扉の取っ手に触れて開けようと込めていた力を直前で止める。
浮かべていた笑みは驚いた表情へと変わり、声は引っ込んだ。
名前が扉を見つめ、次に庭先から見える窓へと視線を移しても何の変哲もない。
だが、分かるのだ…そこに感じなれない気の気配が。
(おとうさんでも自来也せんせーでもない…だれ?木の葉の気、じゃない)
里内でさえ感じた事がないチャクラの感覚、それが家の中に複数ある。
母の気配と一緒にだ、と名前が息を呑んで装備している忍具入れへ手を伸ばした。
片手で印を組んだ瞬間、名前はその場で消えた。
一方、家の中には投げられた手裏剣とクナイが壁に刺さり荒れた状態になっている。
一番広い居間、カーテンが締め切られた窓際に追い詰められながらもクナイを構えるのはクシナ。
それをジリジリと囲むのは黒い装束で身を隠した謎の忍たちだ。
「アンタたち、人の家に勝手に入り込んで絶対に許さないんだってばね!!」
「……フン、ほざくな」
「しかし、こうもしぶとい女だとは聞いていないぞ。どうする?これ以上長引くと気づかれるぞ」
1人が呟くように聞くと、もう2人も頷く。すると、真ん中で構えていた1人が沈黙の後に忍刀を構え直した。
「時間がない。これが最後だ、大人しく従えば痛い思いはせんぞ?九尾の人柱力よ」
「誰がアンタたちなんかに!私も木の葉の忍、舐めんじゃないわよ!」
「そうか、では痛い目にあってもらおう」
「!?」
リーダー格らしき男が合図したすぐ、残りの3人がクナイを一斉に投げる。
勿論クシナは全て叩き落とし、「どうだ」という表情を返したが。
次には、印を組んだリーダー格が「かかったな」と笑んだ事で形勢が逆転する。
「く!これはっ…!?」
「どうだ、我ら秘伝の術は」
ニヤニヤと笑いが近くなる中でも、クシナは悔しい思いで地に膝をつくしかない。
弾き飛ばした3本のクナイがそれぞれ近くに刺さったまでは何とも思わなかった。
それがまさか術の印が刻まれたものだと見抜けなかったのがいけなかった。
リーダー格が印を組む事で発動したらしい術は、クナイから飛び出した3色のチャクラ鎖がクシナを縛り上げる。
(この術の感じ、まさか)
3色の細いチャクラ鎖に縛られているだけなのに、身体に力を入れてもまるで動けない。
「そうだ、気がついたか?貴様らうずまき一族に連なる術だ。こうやって応用もできるのだから強力で便利だよ、封印術とやらは」
「手間をかけさせやがって」
「っ!」
ガッと長い赤い髪を掴み上げられる痛みに顔を歪めると、敵の笑いが家内に響く。
まさか敵が封印術に類する術を使用できるとは…それ以上にうずまき一族である自分が捕まる悔しさも合わさった。
「連れていくぞ」とリーダー格の冷静な声は、クシナの髪を掴み上げている男の嘲りを含んだいたぶりを諌めていた。
「我らの任はコイツを連れて行く事だ、引き上げるぞ」
「…隊長、お待ち下さい。外にチャクラの気配が」
「なに?」
2人がクシナを術のクナイごと縛り上げている中、1人が外の方を振り返って警戒を強めた。対して反応したリーダーの隊長は訝しむ、事前情報では四代目は重要会議で遅くなるはずだ。
押さえつけられているクシナだけがいち早く誰なのか気がついて目を開いた。
「小さな気配、どうやら子供のようです」
「なんだ、ガキかよ。って事はコイツの?」
「…確か娘が1人いるという情報だったな。家内にいないと思っていたが、出掛けていたのか」
「アンタたちっ、娘に何かしたら、許さないってばね!ったぁっ…」
チャクラの縛りで苦しくなる息の中でも必死に叫ぼうとしたが、床に顔を押し付けられて言も封じられてしまう。
それでも抵抗すると余計に押さえつけられて痛みが増した。
どうします?と判断を仰がれる敵隊長は、「子供はどうしている」と更に様子を聞く。気配を読んでいた者が少し黙った後で、「どうやらこちらに気がつかず帰ってくるつもりのようです」と答えた。
「もう少しで扉に手を掛けます」
「…捕らえるか、良い質になるだろう」
「御意」
「!」と、クシナが身体を反応させて叫ぼうとするも、塞がれてしまった口からは掠れた息が漏れるしかない。
名前!!と心中で叫ぶ名には、逃げてと意でいっぱいだった。
このままではこの敵の忍たちに自分と同じように捕まってしまうだろう。
絶体絶命だ、と瞳を閉じそうになった時。
予想外の声を上げたのは、気配を読んでいた1人だった。
「!、そんな馬鹿な!子供の気配が急に消えて!?」
「何を言っている、一体どうした?」
「申し訳ありません…!しかし、いきなり気配が消えたんですっ」
「そんな事があるわけないだろ!」
(まさかあの子、飛雷神を使った?)
敵の忍たちが動揺する中、クシナは瞳を開いて名前の使用する夫譲りの術を思い出した。
チャクラどころか存在自体がその場から忽然と消えてしまうのはそれしかない。
では、名前が飛んだ先は?と考えた刹那、眩い金色が視界を掠めた。
それは一瞬の出来事だった。
「なっ!?ぐはぁあ」
「き、金色の!?がはっっ」
チ!と舌打ちをした残りの敵たちが構える中でも、目では追いきれない閃光がたちまち2人を沈める。
構えた残りの2人も同じくやれると同時に、敵隊長が後ろに忍刀を振りかぶった。
ガッと金属同士がぶつかるり、宙を飛ぶ閃光の姿が初めて視界に捉えられる。
向けられたクナイを忍刀で弾く敵隊長は、トンと触れてきた片手をも斬り裂こうと振り下ろすが、また視界から閃光が消える。
「さすがは木の葉の黄色い閃光っ…一筋縄ではいかんか」
敵隊長はそう発しながらも前を見やって笑う。残っているのは自分1人だけであるはずだが、余裕な態度は崩れなかった。
何故ならば、足元に臥すクシナを引きずり後ろへと下がったからだ。
「フン、貴様の術など知っておるわ。時空間忍術、飛雷神!だが、私の傍へはもう飛べまい?」
「……」
「貴様が先ほど私にマーキングした事などお見通しだ!一歩でも動いてみろ?貴様の妻が死ぬぞ?」
もっとも、壁を背にした狭い隙間へは飛べまいがなと嘲笑う敵隊長の下げる忍刀はクシナの首元スレスレで。
距離を開けた正面に対峙するミナトは、片手にクナイを構えたまま黙していた。
険しさを宿すも凛と澄ましている表情は、敵隊長の嘲りを煽るも変わらない。
「やはりな!火影ともあろうが所詮人よ、妻の身が危険ならば動けまい?悪いが、これで我らの勝ちだ!」
「…それはどうかな」
「!」
敵隊長の背に施されたマーキングへミナトが飛んで不意打ちはできない、動く気配を見せればクシナの命がなくなるからだ。
その間にクシナごと逃げようと印が結ばれようとした時、ミナトが初めて言葉を返したから敵隊長は眉を潜める。
冷静な表情を崩さないミナトに敵隊長が混乱と同時に動転したのはまったく同じだった。
後ろに突然出現したのは小さなチャクラ。
「なっ!?馬鹿、な!!」
首筋を強く打たれて態勢を崩す。
最中、後ろへ向けた視線は宙に現れた気配の正体を捉えていた。
それが更に驚愕で動きを止めさせた。
赤い、子供?と紡がれる前に、完全に不意を突かれた敵隊長は瞬身の術で眼前に移動してきたミナトの一撃をくらう。
ドサリと倒れ伏した視界は、閉じる直前に見下ろし佇んでいるミナトとクシナの傍に寄る少女を映した。
(そう、か…!こやつらの子供、が、)
不意を突いてきたのは、あんな幼い子供だったのかと。
続きは紡げずに意識は途切れた。
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