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「やっぱりプレーンが一番でしょー」

「私はバナナが好きだっつってんだろ」

「やだあんずちん卑猥ー」

「あはは駆逐すんぞ?おい」

真っ昼間でしかもこんな廊下の真ん中で下ネタ言ってんじゃねーよ。そしてお前らはこっち見るな振り返るな。
あれだけ散々言っておいて何でこいつと一緒に居るんだとかまともな突っ込みが出来る人が居たらここに呼んでほしい。
あと、この大分ゆるふわな巨人を躾てくれる人も。




昼休み。
ここ最近稀に見る平和に、安心しきっていた私は高尾君と雑談しながらお弁当を食べていた。
なんと今日は黄瀬が仕事で遅刻するらしいやっほー。
五月蝿いのはいないし、昼食い終わったら久々に今日はのんびり図書室に行こう。
そう思っていた矢先、だ。奴が現れたのは。

「あ、居たー」

頭上からのんびりとした声が聞こえたと思ったら視界が一気に高くなり、つい先程までほぼ同じ目線に居た高尾君が今は大分下の方に居た。
ぽかん、と呆気にとられている高尾君と多分同じような表情をしているだろう私をそのままに、ぐりんと向きを変えられると肩に担がれる。

「う、ゎあっ、」

え?と思う間もなく前に落ちそうになって必死で目の前に広がる背中を掴む。
落ちるかと思った…!とても心臓に悪い!
私が落ちそうになってバランスが微妙に崩れたのか、よいしょと気の抜けるような声と共に抱え直され腰の辺りをホールドされる。さっきよりかは安定したが、肩に食い込む腹が痛い。
……………………これは所謂、俵担ぎっすか。

てかさっき見えた鬱陶しい紫の髪、こいつこの間の巨人じゃねえか。

「ちょっとこれ借りていいー?」

「…は、俺?」

これ呼ばわりされた私をちらりと見る高尾君。少し困っているようだ。
面倒なのは嫌だけど、でもなー。
もう、起きてしまったのだ。今更面倒事を回避するのすら面倒くさい。

「…高尾君、悪いけど蓋だけ閉めといてくんない?」

「や、それは別にいいけど…」

彼がいい人で良かった。
せっかくのご飯が外気に触れてかぴかぴになってしまうのは勿体ないからな。抵抗してもどうせ面倒ならなるようになれってね。




…事の発端を思い出していたら段々腹立ってきた。
めっちゃ見られたし、あああああ教室戻んのツラァ…!

「てゆーかあんずちんめっちゃ軽いんだけどちゃんとご飯食べてんのー?」

「…………うわぁ、」

「は?何そのドン引きした顔。捻り潰すよ?」

まさか自分がこんなこと言われるなんて思いもしなかった。大分寒い…見て。鳥肌。あはは。なに?世の乙女はこれできゅんっとかしちゃうの?つら。
思わず顔を引きつらせると物騒な言葉が返ってきた。お前の身長でそれ言っちゃあ洒落にならんだろう。




「降りてー」

「いっ、!いった!んの、ばかたれ…っ」

どこまで運ばれるんだろうと思っていたら、中庭の割りと大きい木の下辺りでいきなりどさりと落とされた。
扱い!雑だよ!!
ちょうど幹の部分に腰と尾てい骨をぶつけ、声にならない悲鳴をあげている私に構わず喋り出す巨人。
いや構えよ、少しは気にしろよ!

「てかあれでしょー。あんずちんって、みどちんと一緒でしょー」

「…は?」

「クラスー」

理解するのに数秒かかった。ああ、クラスね。クラス…
打った腰を擦りながら無遠慮に隣に腰を下ろした巨人を見上げる。座ってもなおこの身長差である。うわあいいなあ。削いだら縮まるかなあ。

「…ちょっとー、聞いてるの?」

「あ?あー、うん聞いてる聞いてる。あっ聞いてませんでしたやめてください」

適当に返事をしたら頭掴まれてギリギリされた。いや、え、痛い痛い痛いガチで。
手が馬鹿みたいにでかいとこんな芸当も出来るのね、なんて頭の隅で考えながら離してもらった頭を抱える。
まだ圧迫されてる気がする…変形したらどうしてくれる。

「てかそのあんずちんって、私?」

「うん」

「いやもうこの際何で名前知ってるのとかはいいけどさ、何故あだ名だよ?」

しかもちょっと古い。
黄瀬と言いこの巨人と言い何でちょっと古いの。むしろ私が遅れているのか?

「そんなの決まってんじゃんー。
その方が可愛いから」

俺が、と最後に聞こえた気がした。
……………なるほど。確信犯か。こてんと首を傾げられて妙に納得。図体がでかいのに可愛いだの妖精だの言われる由縁はそこにあるのだろう。

「で、みどちんと同じクラスでしょー?」

「だから誰だよ」

「はぁー?そんなこともわかんないの?みどちんだって。緑間…なんちゃら」

「……緑間真太郎」

「それだー。なんだ知ってんじゃん」

いやこの前高尾君経由で知り合ったもんよ。なのだよ君だろ?
何かと世話を焼いてくる気難しそうな緑色を頭に思い浮かべるのは難しくない。
ていうかお前話し振ってきたくせに色々雑だな。

「で緑間君がどうしたよ」

「んー俺みどちんと同じ中学なんだよね」

「…………へー」

うん?そう、え、いや、うん。

だから?
みたいな。言ったら捻り潰されそうだけど。気を使って 世間は狭いもんだね と言うべきか。
特に続かない会話にパーカーのポケットをごそごそ漁るとクッキーが入っていたので一枚摘まむ。うん、美味い。
一人でボリボリとクッキーを食べていたら隣から凄く視線を感じたのでそちらに目をやる。

「……………なに」

「………べつにー」

多分欲しいんだろうな。
凄いガン見してくる癖にいるか聞いたら 別に とか返す辺り凄く意地っ張りなのかもしれない。
めんどくせー。

まぁ、私はあげないけどね。



妖精さんと一緒
(…甘いものばっかで太りそうだよねー)
((欲しいって言えばいいのに…こいつめんどくせー))

 

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