「もう耐えられねぇこの極太眉毛!そっちが出ていきやがらねぇなら私が出てくのだわ!!眉毛ファック!禿げろばーかばーか!」
「んだと!?眉毛が禿げてくれたら大助かりなんだよばかぁ!って、アリスーーーーー!!」
いつまでもうざったい眉毛を振り切って荷物もそこそこに家を出たのがついさっき。
アルやマシューのところじゃすぐにアーサーが来そうだし、フランシスや菊のところもアーサーが通ってそうだから駄目。
フェリシアーノとロヴィーノのところは親分も居るし安全だろうけど悪友繋がりでアーサーにバレたらいけないし…
と言うことで、
「今日だけでいいの。お願い!匿って欲しいの」
「まぁ、…わかりましたわ。よろしいですか、兄さま?」
たどり着いたのは、仲の良いリヒちゃんと、リヒちゃんを守っているバッシュのところ。
ここなら絶対安全、且つ私もリヒちゃんと居れて嬉しい。
目の前には可愛らしく眉毛を下げたリヒちゃんと腕を組んで眉を寄せているバッシュ。
これで断られたらどうしようと思いながらバッシュを見つめていれば、硬く引き結んだ唇が開いた。
「…本当は断固拒否したいところであるが」
「兄さま…」
「あー、我輩も女子供を見捨てるほど非道ではないのである」
「バッシュ…!ありがとう!」
照れくさそうに頬を掻くバッシュに思わず飛び付けば、リヒテンの頼みであるからであって…ともごもご言っているバッシュ。近くではリヒちゃんがまぁ、と微笑んでいて…ああ平和だ。
「では部屋に…」
「兄さま、私がお部屋に案内いたします」
「そ、そうであるか」
バッシュの言葉を遮ったリヒちゃんを珍しいと軽く目を見張っていたけれど、行きましょうと私の手を取って歩き出すリヒちゃんがとても楽しそうでバッシュには悪いけれどリヒちゃんにお部屋を案内してもらうことにした。
後を追いながら訓練に戻るバッシュの背中にもう一度お礼を言えばちらりと振り向き早く行けと言うように払われる手。でも私はバッシュの耳が赤くなってるのを見逃さなかった。
「あは、相変わらず素直じゃないのね」
「優しいところも変わらないのですよ」
くすくすとリヒちゃんと笑えば、こっちですと部屋を案内される。
ああ、ここに来て正解だった。
ここはとても暖かい。
優しすぎる風は通り抜けて
(大丈夫、私は眉毛が居なくてもやっていける、)
(いつまでも甘く見られちゃ堪らないのだわ)