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お腹空いたな。
授業終了の鐘が鳴り一息吐く。なんだか今日は疲れた。
授業を受ける気になれず(かと言ってサボる勇気もなく)ぼーっとしていたらビシバシ指名されて問題解いてみろって言われたし。私が数式なんて解けるはずもなく、正直にわかりませんって言ったら諦めるなとか意味わからないこと言われる始末だ。
わからないものはわかんないんだよ!どこの修造だよ!大体数学なんて将来役立つかも怪しいのに…とぶつぶつ言いながらふと隣を見ると、すやすやと眠る結城君。

私なんてぼーっとすることすら許されなかったのに!
少し妬みの念をこめて隣の結城君を見ているといきなり後頭部に衝撃がはしり、油断していた私は机に頭をぶつけた。
ガン゙って、…!ンにも濁点ついた…!!!

「…何やってんの気持ち悪い。やめなさい」

「みやびちゃん酷い!叩かれた頭も言葉の暴力によって傷つけられた心も痛い!!」

「大丈夫大丈夫。あんたの心はプラスチックだから」

「硝子ですらないの!?」

「それよりお腹空いたんだけど。早く食べよ」

「………はい」

今日もみやびちゃんは絶好調です。
いつものようにガタガタと机をくっ付けているみやびちゃんを見て、私も鞄の中からお弁当を取りだ…………ん?あれ、可笑しいな?
鞄の底にお弁当箱らしきものを見つけられず、事実を受け入れたくなくてばさーっと鞄をひっくり返す。

「あはは、おかしいなぁ。今日は透明マントで包んできてないのに」

「可笑しいのはあんただから。いきなり鞄ひっくり返すなんて何事?」

空笑いしてもしかして妖精さんかな?と現実逃避をしていたらみやびちゃんに呆れた顔をされた。だって!お弁当がないんだよ!何でだ、どこに行ったの私のお弁当。
…そういえば朝急いでたからテーブルの上に置いてきた気がしなくもない。みやびちゃんをちらりと見るとため息を吐かれた。わかる。私にはみやびちゃんが今何を考えてるのかわかるよ。
多分、「どうせお弁当でも忘れたんでしょ。馬鹿な子ね」

「はぁ、馬鹿だね……購買、行ってくれば?」

「ほらねー!!って、購買!そっか!」

その手があった!
私はいつもお弁当だし、中々利用しないから思い付かなかったけど、この学校には購買という代物がある。この間も大変お世話になりました。中学とはいえ私立だし大学附属だから色々な設備が充実しているのだ。
ありがとうみやびちゃん!ありがとう校長先生!
早速お財布だけ手にして購買へ向かう。が、教室を出て行こうとするとみやびちゃんに呼び止められた。

「売り切れてたら、分けてあげるから」

「え?売り切れ?あはは!まさか〜」

「…………グットラック」

たかが学校の購買で品物が売り切れるなんて、そんな漫画みたいなことあるわけない。この間だって15分休みに行ったら全然あったし!そう言えば、焼きそばパン美味しかったなぁ。メロンパンもあったから、商品補充してる人は私の好みを熟知しているのかもしれない。今日はメロンパンにしようかな。足取り軽く購買への廊下を歩く。
……その時少し考えればのよかったのだ。購買に行くのにグットラックって何だ?なんでわざわざ購買に行く前にあんな優しい一言をかけられたんだ?と。その時頭の片隅で浮かんだ疑問は食欲に消えしまったが、数分後嫌でも全てわかることになるとはこの時の私はまだ知らなかった。



「うわ、何これ…」

購買前は凄い人集りで何かもう、言葉に言い表わせないくらい凄い人。人。人。
某グラサン大佐の「人がゴミのようだ」という迷言を高らかに叫びたいくらい凄い人。それどころじゃないんだけどね!
でも流石にあれに突撃する勇気はないなぁ。
何あれ。年末年始にやるバーゲンセールのようにも見えてきた。もう少ししたら人ひくかなー、と待ってみるも一向に人が減る気配はない。むしろ増えてる。
これはあれだ。完全に遊園地行って「あ、あんまり並んでないなー。あとで来よう!」って人気アトラクションがあまり並んでないのを良いことに他のアトラクションに行き戻ってきたら長蛇の列で絶望するとかそういうフラグだ。

これは行くしかない、と決心して人ごみへと一歩、また一歩と歩を進める。
歩みが遅いのは決して緊張感を表現しようとかじゃなくて単純に人混みに突撃するのが嫌なだけだ。
近くまで来るとそれはもう凄い迫力で。………人の壁だよね、これ。

「すみませ、通しうわっ、ちょっ!」

少し控えめに声をかけながら押し退けて奥に進もうとしたら押し出された。
……………いや、うん。ちょっとわかってたよ。こうなることは。しかし!こんなところで挫ける私じゃないはず…!

「、通し」

「ちょっと何なの!?」

「すみません!」

押し出された。というか文字通り押された。何これ難攻不落だよ。どこの戦場?いや実際の戦場とか見たことないけど。
お昼どうしよう、とかアイドルの出待ちとかこんなんなのかな、とか思ってたらいきなり人の波がすーっと引いた。イリュージョン…
どうしたのか疑問に思うよりも、よっし!これでお昼買える!と思った私は軽い足取りでカウンターのおばさんのところに向かう。

「すみません、メロンパンください」

「あら、ごめんなさいねー。今日はもう完売しちゃったのよ」

……え?
いやそんな。まだ時計の針はそんなに進んでないということは昼休み開始から僅か15分も経たないうちにパンとか完売ってそんなことあるの?
ベーシックなあんぱんとか焼きそばパンとかは全て空になっていて棚に残っているのはよくわからないしあまり見かけない類のパンばかりだ。
みやびちゃんがグットラックと言っていたのは。あんなに優しい言葉をかけてくれたのは、このことを知っていたからなのか。

「他のパンとかなら残ってるけど……あ、これとかどう?」

そう言っておばさんが見せてきたのは、焼きそばクリームパン。
あからさまにがっくりする私を見て、頬に手をあてやっぱり駄目?これ人気ないのよねーとか言ってるけどその理由なんて明白だろう。焼きそばクリームパンて。何で菓子パンと惣菜パンを組み合わせようとしたの?カオスでしょ。
焼きそばクリームパンを開発した人に頭の中で文句を並び立てているとおばさんは、代わりにこれあげるからと何かを私の手に握らせてさっさと中に引っ込んでしまった。

ゆるゆると手の中のものに視線をうつすと、そこにはゆるいキャラクターが描かれたパッケージの飴が。
ファイト!と無駄に達筆で書かれたメッセージにイラッときて思わず飴を床に叩きつける。
ファイト!って何!馬鹿にしてるのか!飴ひとつでお腹がふくれるか!
つい熱くなった後、虚しくなってしゃがんでそっと飴を拾う。帰ろう、みやびちゃんが待ってる教室に…。

「おい、大丈夫か?」

さーて、どっこいしょ、と重い腰を持ち上げようとしたらふいに上から声をかけられる。誰だ?私にこんな低い声の知り合いは居ない。ゆったりとした動作で声の方を向くと美味しそうな煮卵………じゃなくて、見事なまでのスキンヘッドのワイルド君が。
もちろんこんなワイルドに心当たりはない。しかしワイルド君は私の方を向いている。念のため、私の後ろを見るも誰も居ない。

「……………私?」

「いやお前以外に誰が居るんだよ」

たっぷりと間をあけて確認すると即座に突っ込まれた。すごい、突っ込み慣れてる。

「あ…えっと。何です?」

「いや、しゃがんでたから具合が悪いのかと思って…大丈夫か?」

優しい…!
感動して握手を求めようと思ったが彼の手元を見た瞬間動きがとまる。彼の手には菓子パンから惣菜パンが大量に抱えられていた。

「おのれ君は勝者か…!!」

「いや何の事だよ」

かくかくしかじかと理由を話すとワイルド君はとても親身になってくれた。優しい。
あれは今思い出しても怖い。身震いする。今朝といいさっきといい今日は女の子の怖い一面を見てばっかりな気がする。おかしいな。いやでも今までも意外と地方によって女の子の特色あったからなんか多分今日はたまたま女の子が怖い日なのかもしれない。いやだなそんな日…。

「じゃあこれやるよ」

そう言ってワイルド君が差し出してきたのはメロンパン。
大好物です。

「えっ、え、いいの!?」

「いいんだって。どうせこれは頼まれたやつだからな。」

あいつは少し控えるべきだ…とか何とかぶつぶつ言ってるワイルド君。頼まれたやつなら尚更駄目なんじゃないかと思ったが独り言から察するにいいものなんだろう。なんかよくわからないし嬉しいけど、でも、

「…どうした?」

「や、知らない人から施しを受けるわけには…」

「施しって…はは、お前真田みたいな奴だな。いいって、受け取ってくれ、な?」

真田って誰だ。戦国武将か。
爽やかに笑うワイルド君にブラジルの風を感じながら貰うだけは悪いから何か変わりになるものを探す。多分こういうタイプはお金を渡しても受け取ってくれない。お婆ちゃん子だった私は知っている。

「………これ、あげる」

結局あげられるものはこれしかなくて仕方なくそっと差し出す。

「ぶはっ!…………っくっく、なんだこのキャラクター、」

「さぁ。さっき購買のおばちゃんから貰ったんだよねぇ」

「ふ、サンキュー」

そう言って爽やかに微笑んだワイルド君は、人待たせてるから行くな、と手を振って行ってしまった。いい人だ…
ねぇ、もしかしなくともワイルド君ってパシリなの?そこまで考えてやめた。みやびちゃんが待ってる教室に帰ろう。





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