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気持ちの良い爽やかな朝。

今日はよく晴れた日だ、空が青いなんて爽やかな曲がどこからか流れてくる。ぱちりと目を開けると携帯のメール受信を知らせる光が点滅していた。
こんな朝早くから誰だろうと眠い目を擦りフォルダを開く。先月出来たばかりの友達であるみやびちゃんからだと脳内が認識するよりも早く、本文を見て布団を文字通り飛び起きた。
まずいまずいまずい。
バッと携帯の時刻を見ればいつもならとっくに家を出ている時間だ。どうして、と枕元に置いてある目覚まし時計を見れば深夜の数字を指したまま秒針すら静止していた。じーざす。

父の急な転勤で私立の学校に通うことになって早2ヶ月。
長年愛用していた目覚まし時計が壊れてしまった。いや前から1時間早く鳴ったりとかはあったけども。よりによって朝に止まるとか、お前………。長年連れ添ってるのに別れ間際に盛大に裏切られた気分だ。
朝食を食べる暇もなく、お弁当は購買かなと財布の中身を頭の中で思い浮かべる。今月は食費がそんなにかかってないからまだ全然余裕はあったはず。
拝啓天国のお母様。やっと家事には慣れましたがこういう細かい出費が月末痛いんだと痛感しそうで怖いです。どうか新しく買う時計は長持ちするよう祈っていてください。

暫く走り続けていると、周りちらほら立海生が見えてきた。心無しか、みんな早歩きなのは気のせいじゃないだろう。本鈴5分前くらいには教室につきそうだななんてほっと胸を撫で下ろして(撫で下ろす胸はないんだけど)走っていた足を緩めた時、なにか違和感を覚え立ち止まる。
さっきは余裕が無くて周りに目がいってなかったけど何となくで後ろを振り返ると、うずくまっている女の人の姿が目に入った。な、なんだかやばそうだ。
咄嗟に走ってきた道を戻って傍らにしゃがむ。大きなお腹を抱えているのを見ると妊婦さんか…顔色は悪いなんてものじゃなく紙のように色がなくて目を見開いた。
幼い頃から何故か人より多く降りかかるトラブルがあれど、人が倒れていたりするのはいつまでも慣れない。
しんどそうに浅い呼吸を繰り返す妊婦さんの背中をさする。私が、しっかりしなきゃ。







「はー、良かった…」

妊婦さんが担架で救急車に運ばれるのを見て、一先ず安心だと安堵の息を吐く。今日携帯を家に忘れなくてよかった。
少し気になるけれど学校に行かなきゃと、もう一度後ろを振り返ると救急隊員の人と目が合ったのでぺこりと頭を下げる。遅刻だけどこれは許される仕方ない遅刻ですよね。最悪朝のSHRが終わる前に教室に行ければ…ん?どうして足が前に進まないのだろう。答えは腕を掴まれているから。どうして救急隊員さんが腕を掴んでいるんだろう。

「ご家族の方ですか?急いで中へ!」

「え…あ、わ、私はその……」

「早くしてください!」

「はいすみません!」

どうしてこうなった。







「ほんと期待裏切らないよね!」

「みやびちゃん、笑い事じゃないんだよ!」

目尻に涙を溜めて爆笑してる目の前のみやびちゃんの様子にむくれる。
あのあと、あれよあれよという間に救急車に押し込まれ、病院について駆け付けた旦那さんと待つこと2時間半。
無事に生まれた知らせを聞いて、ほっとしたのも束の間、挨拶も程々に急いで学校に向かったのだ。着いたら4限目の真っ最中だし、理由を話したら信じてくれないわ笑われるわ果てにはこれじゃ授業にならないと私のせいにされた。
あれはほんと笑えたわと思い出したのかクツクツと喉の奥で笑っているみやびちゃんを見て、当分ネタにされるだろうなと遠い目になる。こっちは必死だったというのに。そうですよね、人が必死になってるのって面白いですものね。
穴があったら更に掘って埋まりたい気分だ。

「ま、でも良かったじゃん?あんたのお人好しで救われた人が居るんだから」

机に項垂れる私の頭をつつくみやびちゃんの言葉に顔を上げると頬杖をつきながら ね?と微笑みかけられた。かわいい。
名前と顔を覚えるのが苦手で友達が中々出来ない私にとって、初日に質問攻めから助けてくれたり話しかけてくれたみやびちゃんは、私には勿体無いくらいの出来すぎた友達だ。

「てか、あんた職員室行かなくていいの?」

「…え?何で?」

何か呼び出されるような事したっけ?思い当たる節がなく首を傾げると目の前でみやびちゃんが長い長いため息を吐いた。
ため息つくと幸せ逃げちゃうんだよ。

「さっき放送で呼び出されてたじゃん。また聞いてなかったの」

早く行かないと先生怒るよー、なんて言いながら向けられる哀れみの目にさっと血の気がなくなる。
何それ初耳だよ!

「え、職員室って…今すぐ!?」

「休憩時間中に。まぁ…あと15分しかないけど」

時計を見るとあと10分で予鈴が鳴りその5分後に本鈴の後、休憩時間が終わる。
いや、今すぐじゃん。時間的に。普通に考えて無理でしょ

「と、ととと!取り敢えず行ってく、ったい!」

ただでさえ、この学校無駄に広くて未だ迷子になるのに5分で往復なんて不可能だ。あっでも先生が5分で話を終わらせてくれれば10分余って、うん、それくらいなら……
急いで立ち上がると机に足をぶつけた。痛い!!
けらけらと笑うみやびちゃんを涙目で睨み付けながら職員室まで全力疾走。

どうか間に合いますようにと願うタイムリミットまであと…




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