「柳生ならば、先生の頼み事で職員室に呼ばれている」
◇
「って真田君は言ってたけども」
用事を頼まれたなら教材室とかに居る可能性のが高いんじゃ…
ああ、ていうか凄く迷惑そうな顔されたらどうしよう…うわ、不安になってきた…
考え出したらキリキリと胃が痛くなって人が居ないのをいいことに壁に寄りかかって座り込む。普段香水とか変な芳香剤とか使ってないから変な匂いはついてないはずだけど…変に緊張してきた…
いやいやでもちゃんとやったし、大丈夫だいじょ、
「あの、大丈夫ですか?どうかされました?」
「へぇい!だだだだだいじょうぶで、 …やや柳生君!?」
「…はい?」
びっくりして吃りながら振り返れば探していた柳生君が居てまたもやびっくりする。
柳生君の肩がちょっと震えてる気がするけど気にしないでおこう。口の端もひくってしたような気がするけど気にしないでおこう。例え私が驚いて変な声を出してしまったとしても決して笑ったりしないよねだって周りから凄く評判がいい柳生君だもの!泣いたりなんかしてないよ!
「私に何か用事でしたか?」
「そうでした。これ、この間はありがとう」
「‥ああ。いえ、お役に立てたなら良かったです」
ほんとに助かったよーと言いながら手に持っていたハンカチが入っている小さな紙袋を渡す、とすんなり受け取ってくれた。少し間があったような気がするけど忘れてただけかな?柳生君毎日人助けしてそうだもんなあ。
…………んん、?
手渡した時に一瞬違和感を抱いて首を傾げるけど何に違和感をおぼえたのかまったくわからない。
ひとまずこれで肩の荷がおりた。
「…あ、もしまだ色とか落ちてなかったら言ってください、責任持って落とすんで!」
「ありがとうございます、きっと大丈夫ですよ。では、私はこれで」
アデュー と、また謎の言葉を残していった柳生君の背中を何となくぼんやり眺める。いやー良かった良かった。さぁ、私も教室戻ろ!
◇
すっかり身体が軽くなった。そのままるんるんとした軽やかな足取りで教室に入るとみやびちゃんに飴を貰ってその場で口の中に入れる。
あ、そう言えば私も今日はお菓子を持ってきてたんだ。こうしてたまに休み時間にお菓子の交換とか、すごく仲良しっぽい…!
鞄をあさりポッキーをみやびちゃんに手渡して ん?と首を傾げる。既視感。どこかで覚えがある気がする。
「初流?どうしたの?」
「んー……みやびちゃんって、左利き?」
何だか受け渡すのにもにょもにょするというか違和感が。
「今更?わかってるんだと思ってた」
ああ、そっか。さっき柳生君に感じた違和感はこれだ。
えへへとみやびちゃんには曖昧に返しつつ柳生君は左利きだったんだーと思う。
……………………あれ?
ハンカチ、とか、手差し伸べられた時、とか…………左手だったっけ?