05 [2/2]

どうしよう。


私、椿初流は今とても非常にやばい状況にいる。
叶うことなら数分前の自分の息の根をとめたい。いや、そこまではいかなくとも口を塞ぐとか、ね…
というか本当これどうしよう。
きょとん、とした顔で見つめられて、初夏だと言えまだ涼しいはずなのに身体中から変な汗が吹き出てくる。
元々そんなにキレない頭がこういう時に回転、するはずもなく。さっきからどうしようばかりが渦を巻くようにぐるぐるしている。きっとポケ〇ンバトルなら私の状態は、こんらんだろう。
もう逃げ出してしまいたい、そう思い始めた頃、きょとんとしていた美人さんが口を開いた。

「美人さんって、俺のこと?」

目をぱちくりさせて自分を指差す美人さん。何ですかその仕草可愛い。
じゃ、なくて。まぁ周りに人は居ないし、もう誤魔化しようがないのでこくりと首を縦に振る。
ああ、終わった私の人生。


「ふ、っはははは!そっか、ふふ…俺が、び、じ…っ」

…ちゃんと息できてるのかな。

や、違うだろ私。確かにまた笑いとまんないみたいだけど。
知らない人からわけわかんない呼び方されて…
一応褒め言葉?だから不快まではいかないだろうけど。困る、よね。うん、私だったら困る。

「はーあ、面白かったー……ん?どうかした?」

ひとしきり笑って満足したのか目尻に浮かぶ涙を拭いながら、此方の目線に気付いて気にかけてくれる。
……どうでもいいけど、また涙出るまで笑ったんですね。

「…あ、いや、怒らないのかと思いまして」
「怒る?なんで俺が。君、何か怒られるような事したのかい?」
「や、だって…!、失礼、じゃないですか」
「ふっ、ああ、あの『美人さん』ってやつ?まあ、まさかそんな呼び方されるとは思ってなかったけどね」
「ですよねー…」

私も口に出すはずじゃありませんでしたとも。

「でも、普通に名字とかでいいのにどうしてあんな呼び方を?」
「え?あ、いや……えっと、なまえ……」
「名前?」
「あの、名前、教えて貰っていいですか…」

初めましてですよね?
そう言うとまたぽかんとする美人さん。これでどこかで会ってたとしたら申し訳ない。けど、こんな美人さん1度会ったら忘れるはずがない。いくら私の名前を覚える脳細胞が死んでたとしても。でも名前知りませんって面と向かって言うとか、ほんと失礼極まりない。申し訳なさすぎて泣けてくる。
しかし次の美人さんの言葉で今度は私が目を見開く番になる。

「…ふふ、そっか、そうだったね。なら仕方ないね。」

仕方ない…?
ああ、名前を知らなくてもってことか。だったら私の初めましてであるという認識が当たりってこと?
すんなり行き過ぎてぽかんとしてる私とは裏腹に、「そっか、そうだよね。それが普通だよね」と1人でにこにこ納得してる美人さん。
どういう状況か分からないけど、何とかなってる感じ?

「椿さん」
「うわはい!」
「…名乗るのが遅れてすまない。俺の名前は幸村精市」
「幸、村君…ですか」
「そう。ふふ、同学年なんだから敬語じゃなくてもいいのに」
「え、あ…うん」

なんと美人さんは幸村君というらしい。更に同学年。
…嘘でしょ?この落ち着きと心の広さは高校生じゃない。
いや私3年だからそれ以上の学年はないんだけど、そう思わずにはいられない。

「…そろそろ行かないとやばいな、じゃあ椿さんまたね」
「あ、うん。またね…?」

爽やかに微笑みながらそう言って屋上から少し急ぎ足風に去る幸村君に曖昧に微笑みながら手を振って返す。
果たして『また』がいずれくるのか疑問だけれども、取り敢えずお腹空いた。
空腹を訴えるお腹に手をあてて、そういえば今日は父が遅くなる日だと思い出して軽くため息を吐く。家に誰も居ないということは、だ。自炊しなければいけないということだ。
いやまぁ、いいけどさ。

今日は色々あったなぁ…晩ご飯はお好み焼きだな、うん。お好み焼き食べたい。
帰りにスーパー寄ろう。






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