NO.TIE.TLE 番外編 | ナノ


「オラ、ニカ起きろ。朝飯。」


「んー‥」


ニカの髪を優しく撫でて、あやすように起こす。


だるそうに目を擦りながら日の光が眩しくまだ鮮明に周りを映さない瞳とぼんやりと目が合い、ちゅ、と唇を重ねる。


「‥今何時?」


「もう11時だ。昨日、22時には寝てたから13時間は寝てるぜ。規則正しい生活しろって婦長に言われてるだろうが。」


手を引き身体を起こしてやる。


まだ完全に覚醒していない彼女は数ヶ月前から窓際に置かれたもう湿気ているであろう煙草に手を伸ばした。


「どんだけ寝ぼけてんだよ。」


禁煙、と付け足し煙草へと伸ばした手に体温計を握らせる。


「熱計ったらちゃんとグラフに書いておけ。」


「ん‥はい‥」


「(本当‥朝弱ぇよなコイツ‥)」





毎朝、こんなやり取りを続けて七ヶ月。










『妊、娠?』


『ええ。吐き気がしたり、だるかったり‥って、言ってたでしょう?ご懐妊よ、おめでとう、ニカ。』


数週間前から感じていた体調不良。


見兼ねたユウが婦長に診て貰えと言うので嫌々ながらも診察へ行けばそう告げられ。


『神田君、きっと喜ぶわよ。』


婦長が優しく微笑む。


しかし自分の頭がついていかない。


ユウと自分の子供がいる、と言われて嬉しくなかった訳じゃない‥でも何だか変だ。


自分は子供を身篭る事は出来ない身体だと思っていた。


人の子では無いから‥人の手によって造り出された、人の形をした、其れとはまた違う別のモノ‥この世界で云う『特殊』を越えた存在だ。


自分の子供なんて見ているだけの『夢』だと思っていた。


そっとお腹に手をあてる。


まだ実感が湧かない。


こんな自分の中にもう一つ命があるなんて‥。


産まれて来る子供は自分のように『普通』に生きて行くには要らない能力を授かり嫌な思いをしないだろうか。


自分に母親になる資格はあるのだろうか。


そして何より、ユウは喜ぶのだろうか。


怖い。彼に伝えてしまったら全てが変わってしまいそうで、今のままでは居られなくなりそうで。





頭の中が真っ白になる。





『ふ、婦長、』


『なぁに?』


『俺‥』


命は大切だと誰よりも解かっているつもりだ。


でも、怖いんだ。


神様のレプリカの子供。


どんな目に合うか解からないし、どんな能力を持って産まれて来るか解からない。


もしこの行為が禁忌に禁忌を重ねる事で神様の気に触れてしまったら‥産まれて来るこの子はどんな罰を受ける事になるのだろうか?


『婦長、俺、』





『下ろす、何て言ったらぶった斬る。』





聞き慣れた声のした方を見る。


何時入って来たのか、診察室の扉に寄り掛かり此方を見つめるユウ。


婦長はにっこりと微笑むとユウの椅子を用意して奥の部屋へと入って行った。


もしかしたら自分の知らない所で何かやり取りがあったのではないかとつい不信感を覚える。


『どうして、』


『どうせまた、下らねぇ事でも考えてるんだろ。』










体調が悪いと、本人から聞いていた。


もしかしてまた、身体に障害が出てしまったのかと一瞬冷やっとしたが‥長い間彼女だけを見て来たからだろうか、其れとは違う何かを感じもしかしたらと思い婦長とコムイの元へ駆け寄った。


症状を大まかに説明すると、婦長が嬉しそうに今日にでも診せに来いと言う。


一方、コムイはまるで考え事をするかのように顎に指を乗せ黙っていて何かマズイ事でもあるのではないかと思ったが、





『ニカと神田君の子供には、「コムイお兄ちゃん」って呼ばせよう!』


『黙れこの変態野郎が!!』





どうやら、彼女の体調管理さえしっかりしていれば母体と子供に何か影響が出る事はないらしい。


が、もしかすると産まれた後にニカのような特殊な能力を持っている事が解かったり、育って行く過程でこの世界に在る万物じゃ説明のつかないような何かが起こったりするかもしれないと言われ。


もし子供が出来ていたら、彼女はきっと其れを一番に恐れるのだろう。


そしてまた、一人で全てを抱え込もうとするのだろう。





でも。





『まだ子供が出来たって決まった訳じゃないのに、神田君凄い嬉しそうな顔してるね。』





愛してやまない人との子供。


ニカと、俺‥二人の子供。





其の事実だけでこの先どんなに辛い事が待ち受けていようともやって行けると思った。





愛しているから。










『ニカ‥俺達の子を、産んでくれ。』










一緒に育てよう。











その日からニカは大好きだった煙草と酒をパッタリ止めた。


煙草は長年の生活習慣からか寝ぼけている時だけ勝手に手が伸びるようだが、代わりに体温計を持たせれてやればそれ以上もう何も言わない。


食事の管理を徹底している為、以前よりも少しだけ健康的になった身体からぽっこり出るお腹を優しく撫でる。


「‥あ、蹴った。」


「流石俺達の子供だ、良い度胸してやがる。」





何があってもお前は誰よりも幸せにしてやるからな。





ゆったりと流れる愛しい時間を共有する。


一つの幸せがもう一つの幸せを生んで、自分達の周りを囲んで行く。


「あ、お二人さーん!
俺、子供の名前考えたんさー!」


「気がはえーなお前。」


「つってもあと三ヶ月だろうが。もう直ぐだ。」


「そうさ、ユウの言う通り!」


「あ、二人ともー!
私、子供の名前考えたのー!」


「アイツもか‥」


「皆考えてる事は同じだな。」


「居た!二人共!
僕、子供の名前考えたんだよ!」


「「コムイのはいい。」」


「酷い!!」







自分達が護った幸せのかたち。







何時か全てが終わって幸せな日常が訪れた時のお話し






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後書き


リリー様、リクエスト有難う御座います!ええと・・こんな感じで宜しかったでしょうか orz 一度、半分のテキストが消えるというハプニングに見舞われながらも管理人なりに一生懸命書いたつもりであります・・!それと、ミツキは原作沿いでちょーっと何かあるかも(ぇ)なので敢えて出しませんでした。それから、管理人の妄想爆発で神田の事を『ユウ』呼びしてm(殴)きっと、この頃になれば夢主ちゃんも神田の事を下の名前で呼んでいるだろうなーと思いまして‥!同じ苗字になっているはず!はず・・!何かありましたらメルボや拍手からご一報下さいませ^^


たつき


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