硝子のケースに入れられたニカ。 酸素マスクを拒否する癖に苦しそうに喉を押さえ、咳き込む度に羊水が赤く色付いて行く。 「暴走、止まりません!」 「このケースもあと数分も持たないかと・・どうします!?」 「もうストックがない!どうにかして抑え込め!」 騒然とする研究室。 どうやら落下した食堂のシャンデリアや、揺れた食器達は彼女の能力に感化されてああなったらしい。 直ぐに駆け付けて来たコムイとリーバーは、彼女を管理するモニターからデータを採りどこかへ電話をかけていた。 廊下も騒がしく、シャンデリアに下敷きにされたファインダー達を医療班が運んでいるようだった。 「いやぁ!ニカ!」 「ミツキ・・っ」 俺の後を追うように研究室へ入って来たミツキ、リナ、馬鹿兎は彼女の姿を見て青ざめた。 そして、泣き崩れるミツキの肩を抱き締めて大丈夫、と言葉を掛けるリナ。 一方、俺と馬鹿兎は己の拳を握り締め血で汚れた羊水に浮かぶ彼女を見上げていた。 「鎮静剤効きません!」 「糞っ」 「内臓機能、精神状態、脳波、全て危険域に入ります!」 「心肺停止まであと3分!蘇生の準備整えておいて下さい!」 硝子のケースに爪を立て、大量の血を吐き出しながら何かを叫ぶニカ。 そんな彼女を見ていられずに視線を逸らせば馬鹿兎に肩を叩かれる。 「ユウ・・。外に出てるさ・・。」 「否・・いい。」 こんな時に俺が側にいてやらなくてどうするんだ・・。 辛いのは俺じゃない。 目の前で苦しんでいるニカだ。 唇を噛み締めて視線を戻す。 刹那、咳と共に大量の血液を吐いた彼女の身体から力が抜けた。 響くのは耳につく高い音。 その源に目を向ければ刻まれているのは平行線で。 「心肺停止!」 「蘇生開始します!」 「嫌よお・・ニカ・・っ死なないで・・っ」 「ミツキ・・」 リナがミツキを抱き締める。 頭が痛い。 何故こうなった? 額に手を当ててニカを見上げる。 だって、 さっきまで笑って・・それに・・ 「・・・・!?ケース膨張!破裂します!」 一人の研究員が声を張り上げる。 「そんな・・!意識がないんだぞ!?」 「解りません・・!伏せて下さい!」 硝子のケースがミシミシと音を立てて軋み、それが合図だったかのように周りの奴等が伏せる。 頭が回らない俺は只立ち尽くし、ぼうっと彼女を見ていた。 バリィン! 爆風と共に、飛び散るケースの破片と羊水。 頬に微かな痛みを感じて手を当てれば指先についた血を見て我に帰り、割れた硝子のケースに視線を移す。 そこには硝子の破片が散らばる地面に中腰になりこちらを睨み付けるニカの姿が在った。 その瞳に光は無い。 「心肺蘇生・・!?モニター確認!」 「跳ね上がりました!しかし、異常値です!」 数人の研究員が羊水を拭くタオルを片手に彼女の元へ駆け寄る。 しかし、 「うわぁぁあ!」 「ぐっ、ぁ・・!」 触れようとした瞬間に弾かれ壁へと叩き付けられる。 周りを警戒しているのか、ニカは息を荒くし相変わらずこちらを睨んでいた。 怖がったモノ。 (神様) 嫌ったモノ。 (人間) 失ったモノ。 (心) 欲したモノ。 (温もり) 愛したモノ。 (貴方) ×
|