「血圧、脳波共に正常値。」 「精神状態は?」 「問題ありません。」 透明の液体が入った硝子ケースの中で眠る『ニカ』。 白衣を着た男達は何かのデータを取りながら彼女を観察していた。 「5秒後、『ニカ』目覚めます。」 硝子のケースに入った液体の水位が徐々に低下して行き、それが合図だったかの様にニカは瞼を開けた。 「今回は少し時間がかかったな。」 「仕方無い、本来なら2年前に滅びるはずだった身体だ。」 ―・・最後の瞬間(トキ)までは、生かさなければ。 ---------- 早朝。 まだ完全に日が昇っていないと言うのに、食堂は沢山の人間で溢れ返っていた。 神田は人目の付かない隅の席に腰を掛け、朝食である蕎麦を啜るが、 「よーっすお兄さん。」 「チッ」 その隣に前触れも無く姿を現したラビに舌打ちを漏らし箸を置いた。 「酷いさ!俺ってば今任務から帰って来たばっかなんだからもう少し優しくしてくれたって―・・・・」 いつも通りのリアクションを取るラビだったが、神田から伝わるピリピリとした雰囲気に口を閉じる。 二人の間には重苦しい空気が漂い、周りの話し声や食器が擦れる音が煩いくらいの沈黙が続いた。 「おい、」 先に口を開いたのは神田。 彼はまるで何も無かったかのように再び箸を取り蕎麦を啜り始めた。 一方、ラビは解かれた沈黙に少し安心した表情を浮かべたようだったが、それは直ぐに凍て付いてしまうのであった。 「"最後の瞬間(トキ)"って―・・」 ガタン、 神田が言葉を言い終わらない内に大きな音を立てて立ち上がるラビ。 「・・あ?」 「"最後の瞬間(トキ)"が、どうしたって―・・?」 ---------- 今から7、8年前の出来事。 黒の教団は千年伯爵との聖戦でエクソシストと探索部隊(ファインダー)の大半を失った。 戦力が及ばなかった訳では無く、世界と神が定めた"波"がそうさせるのであった。 "最後の瞬間(トキ)"とはこの時訪れた危機の事を言う。 「でもそれは防がれたんだろ?」 談話室へと場所を変えた彼等。 神田はブックマンの後継者としてラビが記した記録に違和感を感じた。 "最後の瞬間(トキ)"は防がれたというのに、何故そんなにも血相を変えて食い付いて来るのか。 ニカと言い、コイツと言い・・ 神田のその問い掛けに、ラビは首を振って答えた。 「違うんさ。"最後の瞬間(トキ)"は・・」 推定されるアクマの数とエクソシスト、探索部隊、嘗て起こった"最後の瞬間(トキ)"から過ぎた年月や自然災害の数に満月が見えた回数等、地球の理(コトワリ)を含めた全てを暗号化して計算して行った結果、嘗て防がれた“最後の瞬間(トキ)”は、再び起こるという事がわかったのだ。 しかも、予想されるのは以前とは比べ物にならないくらいの惨劇。 自然や神の摂理すらも関係する為に未然に防ぐ事は不可能だった。 さらに多くの人々が血に染まり、大地は荒れ、世界は破滅への第一歩を踏み入れる事が予想されている。 教団が何年もの時間を掛けて予測した“最後の瞬間(トキ)”が始まるであろうその年月は―・・・・ 「今年・・・・!?」 ×
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