「その理由で今までミツキはニカを殺して来た・・と言うことかい?」 「そう、です。」 司令室。 任務から帰還したミツキとニカはコムイの座るデスクの正面に置かれたソファーに座り、俯いた。 やってはいけない事をしていたのは解っている。 今度はその罪を二人で背負って行く為に、ミツキが全てを話そうと提案したのだった。 「俺がミツキの居場所になり、ミツキは俺に安らぎを与える・・それで俺達の関係は築けていたはずだったんだ。」 だが、いつの間にか歪んだ関係に入った亀裂が大きくなり・・そして、割れた。 まるで世界が180度変わってしまったかのようなそんな感覚だった。 「終わり」と「始まり」。 時計は時を刻みだして一度に二つの変化を与えたのだ。 「正直俺達はもう、この身体や教団の人間はどうでも良いんだよ。全てを憎み過ぎた為に憎悪なんて感情はとっくに忘れてしまったから。それよりも重荷に感じていたのは生まれて来た事の罪。これは一人で抱えるには重過ぎた。結果的には罪に罪を重ねる事になってしまったが、気休めにすがる事しか出来なかったんだよ。」 少しでもこの世界を忘れられるように、と。 そうでなければ気がおかしくなりそうだったから。 コムイはデスクに膝をつき絡めた指の上に顎を置くと溜め息を一つ吐いて顔を伏せた。 二人分の罪を背負ったニカと、『ニカ』を保つ為に過ちを犯し続けて来たミツキ。彼女達が見る闇は計り知れないと理解していた・・していたのに。 「僕の所為だ・・。」 どうすることも出来やしない、既に定まっていた宿命を背負った二人をまるで他人のように傍観していただけ。 救える方法はないのだとこんな世界だが幸せを願っていたのに何もしない内に諦めて。 口だけだ。 室長なんて所詮ただの肩書き。 「すまなかっ「いやいやそういう謝罪とか要らねえからお前の所為じゃねぇし。」 は、と顔を上げるコムイ。 煙草をくわえたニカは片手を左右に振って、背凭れに背を付けた。 「だって君達は・・」 「さっきも言っただろーが、教団の事はもうどうだって良いんだよ。最初はそりゃ憎くて憎くて堪らなかっただろうが、今はなんつーか開き直ったような受け入れる事が出来たような・・。取り敢えず俺達が餓鬼だったんだ、世界が狭かったんだよ。」 な、とミツキに振るニカ。 ミツキは眉をハの字にしながらも薄く微笑み頷いた。 コムイはデスクの上に両手を置き強く握り締め、どうしようもないな、と漏らす二人に訊ねた。 「許した・・とでも言うのかい?」 僕達が償うべき罪を。 謝っても謝りきれないような、許され無い事をしたこの僕達を。 「勘違いするなよ。許した訳じゃ無い。ただ―・・」 何だかんだ言って教団(ここ)だけは何があっても俺達を見捨てない。 まだ良くどういうものかは解らないけれど・・ 「『仲間』なんだろ?」 俺達は弱い。 だからこそ支え合うのだと、大切だと思う存在を守りたいが為に、戦い、生きようと思うのだと。 神田が教えてくれたんだ。 「ったく・・、アイツには負けたよ。」 この俺が。 クスクス笑いながら立ち上がり、涙ぐんだコムイに背を向けドアノブをそっと握った。 「長かったな・・ここまで来るの。」 自分で自分の事を見透かしていたつもりだった。 何も解っちゃいなかった癖に。 やっと向き合えた気がする。 この世界、身体、そして宿命と。 まだ人は怖いけれど、つい昨日よりも少しだけ優しく見えたこの世界なら愛せるかもしれないとそう感じたんだ。 なあ神田。 気付いてんのか? お前の所為なんだって。 ×
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