38. 仲直り


「ヴィスカ!どこ行ってたんだよぉー、まさか本当に腹壊してたの?」

港に着くと、ややあってナランチャ、アバッキオ、フーゴの3人が遅れて到着する。
懐かしい彼女の姿に、ナランチャだけでなく、他の2名もどこかほっとした表情を見せていた。

「お腹?えっと……何の事…だっけ」

ヴィスカが困惑の表情を向ければ、後ろにいたジョルノがそっと耳打ちをする。

(この数日間、あなたが居なかったことーー…彼らは腹痛か何かで寝込んでると思ってるみたいだよ)
(ああ……なるほど)
(ここは話を合わせていた方が、心配をかけずに済むと思う)
(うん‥‥、ジョルノの言う通りかもしれない)

ぼそぼそと2人小声で話すのを、ナランチャたちは気づいていないようだった。

「ーーえーと、そう、ちょっと具合が悪くて。電話も出られなかったから……その」

言いかけると、アバッキオが珍しく口を挟む。

「あまり心配をかけるんじゃあねーよ、お前がいないとリーダーもミスタもまるで役立たずになっちまうからな」
「役立たず……?」

首をかしげると、ナランチャが声を張り上げた。

「ほーらアバッキオ!俺の言った通り、腹壊してたんだってぇーー!」
「分かった、分かったから俺に引っ付くな……」
「つーかブチャラティは?」
「ああ、今ちょうど船を借りてるんじゃあないか」
「へェ!?船だってぇ!こんな所に呼び出したのはそういう事かよォー」

「あの…役立たずって何の事ーー…」

アバッキオの言葉尻に引っかかってしまったヴィスカはもう一度そう零すが。


「そうだよ、アバッキオの言う通りだぜ」

後ろから聞えて来たのはミスタの声だった。

振り向くと、いつものような調子でミスタはこちらを見ている。
突然姿を消した自分を特段怒っているようにも見えず、かと言って再会を嬉しがっているようにも見えない。
ただ、その表情はどこか疲れていて、不機嫌なようにも思えた。
その原因は自分にあると分かっていたから、余計にいたたまれない。

「ヴィスカ、お前さァ、あんまり心配かけんな」
「………ご、めん」

言うと、手が伸びてきて、頭をガシガシと撫でられる。

「馬鹿野郎。スゲー心配した」
「……そうだよね、分かってる。ごめん」

「はぁ〜〜〜〜……」

ミスタにしては珍しい、深い深いため息が出る。
心配になり、うつむく表情を覗き見れば。

「ねぇ、大丈夫?」
「………」
「ねえ」
「……」
「ミスタ?」

ヴィスカからの呼びかけにミスタは答え兼ねていた。
彼女が目を合わせてくれ、こうやって話しかけてくれたのはいつぶりの事だろう。
ミスタは自分の顔がどうしようもなく赤くなるのを感じていた。
言いたい事はたくさんあるはずなのに、いざ彼女を目の前にすると、何を言って良いのか分からなくなる。

「なァ、あのさ、悪かったよ」
「え?何が?」
「仲間じゃねーとか、言っちまっただろ、前に」
「……あー……あれは……もう怒ってないよ」
「そーかよ……まぁ、とにかく…言い過ぎて…‥その、悪かった」
「……ううん、あの時は私も言い過ぎたから。その、こっちこそごめん」

泣きはらしたヴィスカの赤い目が柔らかく笑った。ミスタは思わず顔を背ける。
いったいヴィスカに何が起きたのか。それはまだ分からない。
手を取り、ブチャラティがそうしたように、今すぐ抱きしめてやりたいとも思う。

けれど、今自分は、ヴィスカがふらりと戻ってきた理由も、ここで悲しそうに笑う理由も、何もかも分からない。
気になる事は山のようにあった。涙の理由。黒塗りの車にスーツの男の存在。死んだ男に何があったのか。
それはきっと、これから少しずつ分かっていくのだろうとミスタは思いたかった。
だからこそ今は、自分ができる全てを、彼女にしてあげたいと強く思う。

「どこか痛ェ所とか無いのかよ」
「大丈夫」
「おい、ほんとか?お前さァ、平気じゃなくても平気なフリするだろ」
「…そんな事ない。痛かったら、"痛い"ってちゃんと言えるわ」
「そーか。‥‥…なぁ、痛い時は俺に1番に言えよ」
「どうしてミスタに?」
「…どーしても」
「……分かった」

「……頼む。もう突然、消えたりするな」
「…‥‥ーー」

その言葉には、「分かった」とは、言えなかったけれど。

「……努力する」
「はぁ?努力ってなんだよ……」

間の抜けたミスタの顔と言葉に、ヴィスカはまた笑った。

プロシュートは消えてしまった。今日の夕方までにはアジトに戻ればいいだろう。
せめて最後の思い出にーー…、皆で島に行く事くらい許されると思いたかった。

クルーザーの手配が終わったらしく、店から出てきたブチャラティは目当ての船へと歩き出す。
ヴィスカも、ミスタも、彼の後を追うようにして、波止場をゆっくりと歩いて行った。


38. 仲直り end



(ミスタとの会話、久しぶりすぎてこっちまでドキドキしてきたよ…)

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