大嫌い?
折原臨也は、平和島静雄が大嫌いだ。
人間を愛しているのに、彼だけは愛することが出来ない。
それは、彼が人外の力の持ち主で、人間というより化け物に近いからだと臨也は考えている。
だから臨也は、静雄を怒らせたり、困らせたりすることで、彼に対するストレスを解消していた。
そして今日も、わざわざ危険を侵してまで、池袋まで足を伸ばしていた。
「いぃーざぁーやぁー!!!池袋にくんなっつったろうがぁー!!!!」
「あっは、何で俺の行く場所をシズちゃんに決められなきゃいけないわけー?そんなの、絶っ対嫌だからね」
怒り狂う静雄は自動販売機を投げ、避けられたことに更に怒りを覚えながら、標識を凄まじい力で引っこ抜いて、至極楽しそうな笑みを浮かべて逃げる臨也を追い掛けた。
入り組んだ道で撒くために、臨也は人がギリギリ1人入れるくらいの幅の裏路地へと体を滑り込ませた。
静雄から全力で逃げながらも、臨也の笑みは崩れることがなかった。
静雄も臨也を追い掛けるべく、体が臨也より大きいことと、標識を手にしているからか、少しばかり狭さに顔をしかめながらも、目は臨也を捉え続けながら裏路地へと体を滑り込ませた。
ただ、静雄の口は弧を描いており、目はいつもとどこか違う色の光が宿っていた。
しかも、走って追っかけるわけではなく、標識を肩に掛けながら、早足で臨也を追っていた。
「くそっ…!!うぜえうぜえうぜえうぜえ殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すっ!!」
「全く…ホントシズちゃんって、理屈も何も通じないから嫌だよねー」
いつも臨也に向けている言葉を言っている静雄の口元は、笑みが浮かんだまま。
そんな変化には気付かず、臨也は、はぁとため息を吐きながらも、全く笑みを絶やすことなく走っていたが、角を曲がったところで今日始めて笑みが崩れた。
「やっば…そういや此処って道無くなってたんだっけ……」
不自然に笑みをひくつかせながら、臨也は自分の背中に冷や汗が伝うのを感じた。
前方と左右は、何故だか窓もない壁。
後方からは、世界で一番大嫌いな人間のゆっくりとした足音と声。
辺りを見回しても、あるのは倒れた空のゴミ箱くらいだ。
臨也が、これが人生初の絶体絶命だと理解するのに、そう時間はかからなかった。
「俺としたことが…嘘、でしょー…」
臨也からは笑みが消え、焦りが浮かび上がった。
今まで、臨也が静雄から逃げ切れなかったことはなかった。
そのため、静雄に捕まった時のことなど考えたこと自体なかった。
持っている知識で必死に打開策を練るも、焦った頭では当然いい策など思い付く筈もなく、足音が止んだ。
「ノミ蟲ぃ……ようやく追いついたぜ……」
「ははー…ちょっと…勘弁なんだけど…」
後ろから聞こえた声に、臨也後ろを振り向く。
ようやく取り繕った笑みも、普段の笑みとは違う、乾いた笑みでしかない。
ただ、その笑みも、静雄という存在を視界に捉えた途端、また崩れてしまう。
臨也は、静雄が喜怒哀楽の怒に値する感情に包まれていると予測していた。
いや、そう思い込んでいた。何故なら、今までずっとそうだったのだから。
しかし、静雄は臨也の予測を裏切り、先程臨也が浮かべていたのと全く同じ種の笑みを浮かべていた。
「え…?シズ…ちゃん…?」
「臨也よぉ…手前は俺が大っ嫌いなんだよなぁ…」
「あ、当たり前でしょ?俺は、シズちゃんのことなんて…大嫌いだよ」
臨也の知っている静雄には似合わないゆったりとした動作で、静雄は臨也を追い詰めていった。
臨也は静雄からの突然の質問に、更に頭を混乱させながら後ろへと下がる。
後ろに道はなく当然の事ながら、下がり続けた結果、背に壁があたり、完璧に逃げ道を封じられる形になってしまった。
静雄の笑みは、未だ崩れることはない。
「そうか…そうだよな…俺は、手前を愛してる」
「…っへ?」
臨也は拍子抜けした声を出した。
今日の静雄はどこかおかしい。
いつもと違う行動をする。いつもと違う表情をする。いつもと違う…言葉を紡ぐ。
静雄は、臨也の頭の上辺りの壁に標識を持っていない方の手を置き、顔を鼻っ面がくっつくくらい近付けてから、息を吸い込んだ。
「俺は手前が好きだ、愛してる。俺は手前の事を毎日毎日考えて毎日毎日考えない日なんてなくて他の奴らなんかに見せたくねえ永遠に一生ずっと俺の家に俺の部屋に閉じ込めて縛って括りつけて外に出れなくしたいそうだよ俺は手前が好きなんだよ殺してやりたいくらい愛してるんだ手前も俺を好きになれよ愛せよ人間を愛してるなんて言うな俺だけを見ろ」
一息で、そう言った。
臨也はその言葉を全て理解した。
理解したくもないが、無駄に冷静になってしまった臨也の頭は、静雄の言った言葉が、意味が全て分かってしまった。
「は、は…シズ、ちゃん…冗談も程ほどに…」
「冗談なんかじゃねえ」
淡い期待も虚しく、物凄く真剣な顔で言われてしまった。
「臨也、俺は手前が好きだ」
気持ち悪い。とは不思議と思わなかった。
むしろそう思わなかった自分が気持ち悪くて、つい舌打ちをしそうになる。
何て返事をしていいのか分からず黙っていると、静雄は臨也の両腕を片手で掴みんだ。
「ちょっ…!な、何する気?シズちゃん…」
「……」
ヤバい、ホントにヤバい、と脳内で警報が鳴る。
どうしようも出来ない自分が、歯がゆくて仕方がない。
臨也の目の前で、その作業は淡々と行われていく。
静雄は、臨也の腕を持ち上げ、手にしていた標識も持ち上げ、臨也の腕に軽く押し付けると、その怪力で標識を曲げ、即席の手枷を作り上げた。
「これで…流石の手前も、逃げられねえよな…?」
嫌な汗が、頬を伝う。けれども、臨也の口元は弧を描いていた。
「はっ…上等…ちょうどいいよ、どっちが上が決めようよ」
「あぁ、そうするとしようぜ」
同じタイミングで、2人はニヤリと純粋ではない笑みを浮かべた。
大好きの反対は無関心。
大嫌いの反対は…?
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初UPがこれってどういうことだろう…
うん、病んでる静雄が書きたかったんだよ。
みごとに玉砕しましたけど←
ホントはこれ、R入る予定だったんですけど、文字数などの関係により省略しましたw
気が向いたら書くかもしれません。