交錯。



コツン コツン

静寂の中では、小さな足音さえも響き渡ってしまう。
紀田正臣は、その足音を聞いて一糸纏わぬその体を、恐怖に震わせた。

正臣は白い四肢を壁に繋がっている鎖で縛られており、動きを制限されている。
正臣が恐怖に体を震わせるたびに、鎖は擦れ合い、音を奏でた。

蜂蜜色の染めているのに柔らかな髪は、何故だか汚れていてくすんで見える。
髪だけではなく、正臣の体はところどころ傷ついており、かなり弱っているようだ。

薄暗くコンクリートで作られた、窓ひとつないこの部屋には分厚い扉の隙間から漏れる光が唯一の頼りである。
しかし正臣は、恐怖の色が浮かんだ瞳で瞬き一つせず、その光を見ていた。

「まっさおみくーん、良い子にしてた?」

まるで歌うように正臣の名を呼びながら重い扉を開けたのは、口元を歪ませた折原臨也だった。
この世の全てを掌握したときの侵略者ののような表情をしており、優越感と満足感に満ちた笑みを浮かべていた。

正臣は、先程まで恐怖に震えていた素振りを押し隠し、真っ直ぐに臨也を睨み付けた。

「……」
「あれ、返事なし?と言うか…まだそんな目出来るんだ」

臨也はまた笑みを浮かべるが、さっき見せた笑みとは別の笑みだった。
目は笑っておらず、寧ろ怒りが隠っているようにも見えた。

しかし、ふと思い出したように自分の懐を探り始めると、また侵略者のような優越感に満ちた笑みを浮かべた。

「これ、なーんだ」

臨也が懐から取り出したものは、世間一般的にリモコンと呼ばれるものだった。
そのリモコンを、とても面白いものかのように臨也は正臣に見せ付けた。

正臣は、リモコンをまるで世界で一番恐ろしいものを見るかのような目で見ていた。
顔も青ざめ、絶望に染まっていた。

正臣の下半身をよく見ると、所々白濁の液が光を反射しており、独特の青臭い香りが漂っていた。
そして、普通は排泄物を吐き出すしかない場所には、ピンク色の何かが埋まっていた。

「や…やめっ…!!」
「そんな目で俺を見る正臣君には、お仕置きをしなきゃねえ?」
「だからや…あっ、あぁああっ!!」
「言うことを大人しく聞かない方が悪いんだよ。まぁ、もっともこれ位で大人しくなっても面白くないんだけどね」
臨也がリモコンのスイッチをオフから最大まで引き上げると、正臣の体に埋め込まれていた玩具が激しく震えた。
正臣は寝ていた状態から、上半身を起こして臨也を睨み付けていたのだが、強すぎる快楽に体の力が抜け、床に体を預けた。

玩具が動くたび、正臣のソコからは白濁と透明の液体が混ざったものが溢れ出る。

幾度となくそれを体験させられた体はかなり限界を迎えており、快楽と痛みとが混ざって正臣に襲いかかる。
痛いのか快楽なのかが解らず、頭が狂いそうになる。

「あぁ、あぁっ、」
「はは、やっぱり正臣君は淫乱だよ。こんなトコ攻められて勃っちゃうんだからさ」
「ち、がっ、あぁああっ、あっ!!」

迫り来る快楽の波に堪えていると、臨也は楽しげに正臣の近くまで歩いていった。
そしてしゃがみ込むと、未だ抵抗の光を失わない瞳で睨み付けてくる正臣の乳首を指で弾いた。

ほんの少しの衝撃。
それなのに、正臣はここに来てから何度目がわからない絶頂を迎えた。

(な、んで…っ)

絶頂を迎えても止まない快楽の波に犯され、正臣の思考は止まりそうになる。
だがその後のことを想像し、それだけは避けなければならないと、正臣は必死に思考を巡らせた。

何故この様なことになったのか。
正臣には、未だにそれが理解出来ていない。
臨也を怒らせるようなことはした覚えはないし、別段目立つようなこともしていないはずだ。

なのに、臨也は正臣をどこだかわからない監獄のような所に閉じ込め、今もこうやって正臣に攻め苦与え続けている。

精神的な苦痛と身体的な苦痛から、意識していないのに正臣の目からは涙が零れ落ちる。

「ひぁっ、あぁあっ、あっ…」
「……」
「ひぐっ、ひっ、あぁああっ、」

快楽に体を震わせていた正臣だが、突然臨也の声が全く聞こえなくなったのを不思議に思い、うまく動かない顔を動かし臨也の方を見た。
すると、臨也は今まで見たことないような冷たい瞳で正臣を見下ろしていた。

「っ…」

声が出なかった。
快楽は断続的に正臣を襲い感じている筈なのに、音という音を発することが出来なかった。

今まで見たことのない怖い顔だと言うこともあるが、正臣には見捨てられた、という恐怖が頭を駆け巡っていた。
快楽とは別の、恐怖からくる震えが体を支配する。

「い、ざっ…や…さ」

何度も口を開閉して、名前を呼んだ。
しかし、臨也は全く表情を変えない。

突然、リモコンのスイッチが切れ、玩具の震えが止まった。
電池切れではなく、臨也がスイッチを切ったようだ。

それなのに、正臣の震えは収まらなかった。
むしろ、倍増したくらいだ。

「ど…し、てっ…」
「なんで止めたかって?」

そっちじゃない、と発しようとするが、うまく声にならない。
臨也は無表情ではなくなったが、正臣を蔑むかのように嘲笑した。

「つまらないからだよ、正臣君の反応に飽きちゃったんだ」

その言葉が直ぐに嘘だと正臣は理解した。

臨也は何か別の理由で正臣に対して怒っているのだとも、理解した。
けれどその別の理由が何か正臣には理解できなかった。

うまく声が出ず何も喋らない正臣を一瞥すると、臨也はそのままの笑みを浮かべたまま部屋を出て行った。

「う、あ…」

待って!と臨也を引きとめようとするが、声にならない。

口を何度も開閉させるが、強烈な孤独感と恐怖心でまるで喉がくっついてしまったかのようにうまく呼吸が出来ない。
あんなに酷いことをされているのに、臨也が居なくなった途端にこの世に自分一人しかいないのではないかという孤独感。
もしかしたら本当にもう臨也は帰ってこないし飽きられてしまったのかという恐怖感。

その他にも様々な感情が正臣の頭で蠢き、正臣はぼろぼろの体を震わせながら耐え切れず涙を流した。

「臨、也さん…」

酷いことをされて涙を流しながらも、正臣は臨也のことを愛していた。

時折見せてくれる、正臣が怪我をしたときは本気で心配してくれるところや、本当のとこは優しくてでもとても不器用なところが凄く大好きなのだ。

他の誰が知らなくても、正臣は臨也は本当はとても優しい心の持ち主だと言うことを知っている。
ただ、それを表すのが途轍もなく下手で、不器用で、うまくいかないだけだと言うことも知っている。

だからこそ、今回のことは正臣はとても強いショックを受けた。

「臨也…さん…臨也さん…臨也さん、臨也さん…っ!!!!」
「うるさいなぁ…そんなに何回も呼ばなくても聞こえてるんだけど」
「臨也、さん…!?」

ぼろぼろと涙を零しながら、何度も届くはずのないことを知っていながら臨也を名を呼んだ。
本当に、届くわけがなくて戻って来ないと思っていたのに、臨也は戻ってきた。

そのことにとても驚きながらも、正臣の心は安堵感に満ちていた。

「…んで、何の用?」
「あ、いや…」
「用がないなら俺忙しいし、もう行くよ」
「ま、待ってください!!!」

臨也が面倒くさそうに部屋を出て行こうとすると、、正臣は限界に近いはずの体を動かしながら臨也を呼び止めた。
それでも尚臨也が行こうとすると、正臣がもう一度呼び止めるので、臨也は足を止め振り返った。

「…何」
「あの…何でそんなに…怒って、るんですか…?」
「……解らないの?」
「すみません…解りません…」

正臣が申し訳なさそうに俯くと、臨也はため息を吐き正臣の近くにしゃがみ込んだ。
ビクリと反射的に正臣が体を震わせると、臨也は正臣の体を抱きしめた。

「一週間前、シズちゃんと話してたでしょ」
「え、あ、はい…」
「凄く…嫌だった」

確かに正臣は、一週間前に平和島静雄と言葉を交わした。
しかし、一言二言であった上に、他愛もない日常会話だった筈だ。

けれども臨也は、それを見てとてつもなく嫉妬してしまったらしい。

臨也が今日までどんな気持ちで正臣を見ていたか、どんな気持ちで犯罪紛いの監禁をしていたか、を全部打ち明けると、思わず正臣は吹きだしてしまった。

「臨也さん…ぷぷっそれって思いっきり勘違いじゃないですか…っ」
「うるっさいな…笑いすぎじゃない?」
「だって…っ」

先ほどの恐怖はどこへ行ったのやら、お腹を押さえながら正臣はヒーヒーと笑いを堪えている。

「だってそんな、少女漫画みたいじゃないですか…っ」
「だからうるっさいな…あの時はホントにテンパってたんだから…正臣君が俺の傍を離れちゃうんじゃないんじゃないかって」
「…だからこうしたんですか?」

自分の手枷を持ち上げて正臣は言った。
臨也は小さく頷きながらも、正臣を正臣の動きを奪っていた枷から解放した。

「ごめんね、もうしないよ」
「いえ…さっきまでは辛くて死にそうでしたけど…何ていうか、少し嬉しかったですから」
「…本当?」
「はい、勿論です」

ぼろぼろの体のままだが、正臣は正臣らしいふわりとした笑みを浮かべて答えた。

交錯し続けていた二人の思いは、漸く一つになった。



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有沢様に捧げます、相互祝いです…!

うえあ、リクエスト通りじゃなくてすいませ…;
頑張ったつもりですが無理でした←

有沢、こんなやつでよかったら持ち帰るなりしてやってくれ…!
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