ディスプレイ越しのNew Year

「12月31日の23時半頃にこのメモの通り作業をしてくれ。」

年末年始実家に帰るスコールは下宿先のマンションを出る際、玄関先で見送りをする同居人のバッツにメモを一枚渡したのだった。



現在12月31日23時半。

炬燵に入ったバッツの目の前には渡されたメモとスコールが普段使っている10インチ程の大きさのタブレットがある。
メモ書きにはそれを使って作業をするように書かれていたのでそれにしたがったのだ。
便利な世の中になったもので、わざわざPCを起動せずにこれさえあれば、ネットもメールもOKである。
スコールの場合、使う用途によってPCと使い分けをしているようだが情報端末は携帯電話だけで十分なバッツは触ったことはまったくない。

初めてタブレットを触るので少々不安だが作業メモはあるので大丈夫だろうと思い、少し慎重にボタンを押して画面を操作し、メモの通り指定のアプリを起動した。

アプリを起動すると、何やら画面が変わり、名前のようなものが表示される。
一体なぜスコールはこのようなことをさせるのだろうと考えながら次の指示を確認しようとしたところでポップアップが表示される。

ポップアップ画面には「着信」と表示されていた。

いきなりの事態にバッツはどうすればいいのか判断できず、焦りながらメモに何か書かれていないか確認すると、『ユーザ名が"lion_heart"の場合出ろ。』と書かれていた。
よく見ればポップアップにはユーザ名と通話許可、拒否を表すアイコンが表示されている。
ユーザー名を確認するとメモに書かれていた"lion_heart"だったため、バッツは通話のアイコンをタッチした。
すると、アイコンをタッチした瞬間、タブレット画面には見慣れた恋人の顔が表示された。

『バッツ。』
「え!?スコール!?」

画面にはスコールの顔が映し出されており、おまけに声まで聞こえる。
訳がわからず面食らったバッツにスコールは苦笑しながら話を続けた。

『驚かせてすまない。メモの通りの作業をしてくれたんだな、ありがとう。』
「え?どうしてスコールの顔が画面に映ってるんだよ?声まで聞こえるし・・・どういうことか説明してくれよ。」

このようなことに疎いバッツにスコールは一から説明し始める。
タブレットを操作して起動してもらったアプリはインターネットを使用した音声通話アプリであり、それを使用すると相手の顔を見ながらの会話ができることをスコールはバッツに分かりやすく説明をした。
スコールの説明にようやく理解し、納得したバッツは「なるほど。」とほっと息を吐いた。

「世の中便利になったもんだよなぁ・・・。」
『まあな。』
「しかし、何もこれを使わなくても携帯電話に連絡してくれたらよかったのに。」

会話をするなら携帯電話でも十分だろうとバッツはスコールに言うと、スコールはやや視線を逸らして答えてきた。

『携帯だとあんたの場合は使い古した二つ折りの携帯だから会話しかできない。』
「?会話ができれば問題ないだろう?」
『・・・あんたの顔を見て年を越したかったんだ。』
「・・・え?」

ほんのりと頬を赤くしながら答えるスコールにバッツは一瞬詰まってしまった。
毎年実家での年越しをするスコールは今年地元に帰らないバッツに一緒に来ないかと誘ってきた。しかし、バッツはスコールに家族の団欒を邪魔するわけにはいかないと丁重に断った。
自分一人の年越しに気を遣って誘ってきたのかと思っていたのだが・・・まさか顔をみて年を越したいと思っていたとは思わなかった。

少し照れ臭そうに言ってきたスコールの言葉にバッツもまた頬をほんのりと桜色に染めた。

「そ、そっか?あ、おれも嬉しいよ!スコールの顔を見ながらの年越しで!」
『・・・俺も同じだ・・・。』

お互い照れからくる体温上昇に汗をぬぐったり、ぱたぱたと顔を仰ぎながら、話題を変えようとバッツは話始めた。

「実家、どうだ?ゆっくり過ごせているか?」
『ああ、父親と姉と三人で過ごしている。ゆっくりさせてもらってるよ。あんたは?』
「おれもだよ。スコールがギリギリまで大掃除手伝ってくれたから。その後はすごく楽だったよ。ついさっき年越し蕎麦食べて、年末特番をみていたよ。」
『そうか。』

どうやらお互い穏やかな年越しを過ごしていたらしく、笑い合っていると、近所の寺から除夜の鐘の音が聞こえてきた。

「今、除夜の鐘の音が鳴ってる。そっちには聞こえるかな?」
『いや、音は拾えていないみたいだ。けど、こっちも近くの寺から鐘の音が鳴ってる。・・・後少しで来年だな。』
「そうだな。早いものだよな。一年って。」
『ああ。あんたと過ごした日々が充実していて・・・あっという間だった。』
「うれしいなぁ、そんな風に言ってもらえて。」

スコールの言葉を嬉しく思いながら、バッツは言葉を続ける。

「スコール・・・あのさ。」

そう言いかけたところで、スコール側から突然ドアを開くような音とスコールとは別の男性の声が聞こえてきた。

『スコール!エルがお茶淹れてくれたぞ!・・・ってあれ?なにやってるの?』
『なっ!?』

画面の向こうには後ろを振り返ったスコールと髪を束ねて暖かそうな半纏を着た中年男性が見えた。

父親と姉と過ごしているとスコールは言っていたのでどうやら彼がスコールの父親だろう。
沈着冷静な印象を与えるスコールとは対照的なので一瞬誰かと思ったが、所々のパーツはきちんと親子だとわかる。
パジャマと真っ赤な半纏というい出立ちのスコールの父親と思わしき男性はそれだけ見ればだらしなく見えたがよく顔を見れば整った顔立ちの男性だった。

バッツがあっけにとられながらも画面越しから二人を見ていると、男性もまた画面のバッツと目の前のスコールを交互に見た後で、苦笑して頭を掻いた。

『・・・もしかしてお取り込み中ってやつかな?』

スコールがこっそりと誰かと会話をしていたことにようやく気付き、彼と画面越しのバッツに謝るようなジェスチャーをしてきている。
そんな男性の様子にスコールは火山の噴火のごとく彼に怒鳴り始めた。

『ドアをノックしてから返事があるまで入ってくるなどあれほどいっただろう!!』
『あーそうだったな。すまない。お父さんが悪かった。』

「(・・・やっぱり親父さんか。)」

急に喧しくなった画面の向こうをバッツは苦笑しながら様子を伺う。
いつもは大人しいスコールが珍しく声を荒げて思ったことをはっきりということは心を許しているという証拠だ。
流石親子だなぁとバッツは微笑ましく見ていたが、対象的にスコールは苛立った様子で父親を部屋から追い出そうとぐいぐいと押し出していた。

『ちょっ!!そんなに押さなくても出ていくって!!スコールとお話中の人!ごめんな!そしてごゆっくりー!』

息子から力任せに追い出されてかけている状況にもかかわらず、スコール父は気にしていないのか明るく画面越しのバッツに向かってひらひらと手を振って笑うとそのまま部屋から追い出されてしまった。

部屋の鍵を盛大な音を立てて閉め、大きく息を吐いて画面の前に戻ってきたスコールにバッツは指を指して大笑いをして迎えた。

「はは、今のが親父さんか?スコールとは違って明るくて、そそっかしそうな人だなぁ!」
『煩いだけだ。まったく、部屋に入る前はノックしろと昔から言っているのだが聞いたためしがない。姉さんの部屋には必ずするくせに。』
「女の子と男の子だと違うだろ。そう言うなって。・・・お、あと1分で年明けだぞ。」

タブレットに表示されている時刻を見ると、いつの間にか今年も残すところあと一分だった。
スコールの方も時間を確認したらしく、「・・・本当だ。」と呟く。

そんなスコールの様子にバッツは先ほど言いかけたことの続きを言うべく、少し咳払いをしてタブレットを持ち直して話しかけた。

「さっき言いかけたことだけどさ、スコール、今年一年沢山お世話になった。おれ、スコールと出会えて凄く嬉しいんだ。」

穏やかな笑顔でゆっくりとスコールに言うと、ディスプレイの向こうの恋人も頷いた。

「俺もだ。あんたと出会えて、沢山の時間を過ごせてよかった。」
「うん。一緒に朝起きて、ご飯食べて、出かけても同じ場所に帰ってきて、ご飯を食べて風呂入って寝て。普通の毎日だけど必ず帰ってくる、帰りを待ってくれている人がいることがすごくすごく嬉しくて幸せだなって思っていたんだ。」
『バッツ・・・。』

タブレットに表示されていた年が一つカウントされる。

「・・・スコール、新年明けましておめでとう。今年も、これからも、ずっとずっとよろしくな。」
『バッツ・・俺からも明けましておめでとう。これからも変わらずに傍にいて欲しい。』
「うん。スコール、ありがとう。大好きだ。」
『俺もだ。バッツ、ありがとう。そして愛してる・・・。』

ディスプレイ越しの新年の挨拶に恋人達は穏やかに微笑み合い、新しい年を迎えたのだった。

Happy New Year♪


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バッツ、スコール明けましておめでとう!!
少し短めだけどおめでとう(思いついたのがギリギリだったので間に合ってよかったです;;)

年末年始を文明の利器に頼って過ごしていますが、現代ならこんな風に過ごす人たちもいるのではないかと思いまして。
ただ、この小説今の時代だから当たり前なのであって何年かしたらどうなってるのでしょうね;(ガラケーなくなるのかな?)
どうでもいいことですがバッツさんはこの小説の設定ではガラケー持ちでPCはたまにスコさんに借りるくらいの人の設定です。

読んでくださりありがとうございました!!


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