心配無用

人は生活環境によって性格や精神年齢が決まると思う。


たとえば、スコールとティーダなどがいい例だ。

2人は同い年だが考え方や振る舞いがまるで違う。

命の危険と隣合わせの世界に身を投じ、武器を片手に戦場を駆け抜け、死を越えて生を繋ぐ環境に身をおいた傭兵の少年と片方は命の危険なんて考えもしない世界で好きなスポーツに人生をささげようと考えた少年。

だからなのだろうか、スコールは自分のことは自分ですることがほとんどで、他人に弱みを見せたがらない。
逆にティーダの場合は年長者と共に旅をしてきた時間が長かったためか、フリオニールやセシル、クラウドに絶対の信頼を置き、遠慮なく甘える。


「(同い年でも…こうも違うものかね〜…。)」
樹の上から仲間たちの様子を眺めながらジタンは一人、心の中でごちた。


旅の途中の水場でコスモスの戦士たちは休息を取っていた。

セシルが入れた紅茶とフリオニール作の焼き菓子を手に取り、それぞれ気の合う仲間たちで談笑したり、久しぶりの水辺や木陰での休憩を楽しんでいる。

ジタンは木に上り、皆を見渡せる高い位置で紅茶と菓子に手をつけながら仲間の様子を見ていた。


リーダーであるウォーリアは目を閉じ、樹に身をもたれかけさせながら休息を取っている。


リーダーから少し離れた場所ではクラウドとティナ、オニオンが3人で何かを話しながら休息を取っていた。
もともとティナとオニオンは2人で旅をしていたので、行動を共にすることが多いが、それを見守る位置にクラウドが収まることが多い。
いざという時の敵襲に備えてのこともあるのだろう。

水辺のすぐ近くでは泳ぐバッツにティーダが手を振り、泳ぎ方を教えている。
そのティーダの横ではフリオニールとセシルが、年の割にはやや幼く無鉄砲な少年を守るかのように座っている。

時折、ティーダが何かをしようとすると、フリオニールが注意をするように声を発し、セシルが2人の間に入ってたしなめるような動作をしている。

そんな光景を微笑ましく思いながらジタンは、最後の一人に視線を移す。


一人、仲間たちと少し離れた木陰で上着を脱いで武器の手入れをする少年。
ジタンより1つばかり年が上なのだが、外見も言動も大人びた少年に、ジタンは少し心配していた。


バッツと3人で旅をしてきたからわかったことなのだが、スコールはなんでも自分一人で抱え込む癖がある。
コスモスに召喚された戦士だけあって強さは本物であるのだがどこか危なっかしい。

「(オレとひとつしか変わらないのに、もっと仲間に頼ってもいいと思うんだけどな〜…。)」

他の仲間たちは、大人びたスコールよりも自分はもちろん、ティーダやティナ、オニオンの方に注意を向けることが多い。



ジタンの場合は年齢も種族もバラバラな大勢の仲間と場所を分け合って眠り、時には旅をしてきたこともあったので同世代の中では比較的しっかりしているほうだと自覚はあるものの、いかんせんオニオンの次に年齢が若いため多少は気にかけられる。

しかし、スコールはそうではない。

大人びた言動と外見。
年の割には冷静で、戦闘に関しては年少組、この場合はスコールを含むオニオン、ジタン、ティーダ、ティナの5人の中では戦士らしい戦士に見える。

だから年長者は彼には他の年少者よりも一目置き、自分たちが特別に補佐にまわらなくても大丈夫だろう…と、今のこの場のようにの守りの対象になる…ということはない。



だが、ジタンからするとスコールもまた、自分と同じくまだ10代の少年なのだ。
バッツと3人で旅をしてきた時間が長いから、彼は表情こそは変わらないが、瞳に感情が出やすく、稀にだが年相応の反応をすることを知っている。

自分たちの負担が軽くなるから…とカオスの敵2名と戦おうとした彼の行動にひやひやし、それを間近で見てきたからこそ、人に頼らないこの少年が一番危ういのでは?と思うこともある。

ジタンがそんな思いを巡らせているとはつゆ知らず、スコールは武器の手入れに勤しんでいる。
少し離れた位置にいるスコールと同い年のティーダはバッツと水を掛け合って遊び、フリオニールに「風邪を引くから2人ともやめろ!!」と注意されていた。

「(ティーダと足して2で割るとちょうどいいのかもしれねーな。)」
焼き菓子をかじりながら、ジタンは苦笑した。

すると、ティーダと一緒に怒られていたバッツがスコールに近づく。
武器の手入れを終えたスコールになにやら楽しげな表情で話をしている。

一人でいることの多いスコールに話しかけるのが多いのは、自分かバッツ、誰とでも仲良くなりたがるティーダである。

「(よくよく考えればバッツはスコールよりも年上だったな…。)」

行動が子供っぽいところがあるバッツが年長者であることをたまに忘れる。

年少者の中で年長の仲間に頼らないスコールや自分のそばにいてくれることが多いのが年長者らしくない彼だ。
年上の風格はないものの、ジタンはバッツに対しては他の年長組よりも接しやすいと感じている。

10人の仲間が集合した後も、3人旅の延長でスコールを含めた3人でテントを使うことも多い。

「(…スコールもバッツなら頼りやすいかな…?)」

何やら話をしている2人の様子を再び伺うと、バッツがスコールの横に座り大げさなそぶりで何かを説明している。
どうやら先ほどの水辺で遊んだことを説明しているようだ。

少し耳をすませて聞いてみると、ティーダの世界のスポーツ、ブリッツボールの説明をしているようだった。

「(おいおい…まさかそれにスコールをさそっているんじゃないだろーな…;;)」

ジタンがティーダに聞いたところ、スフィアプールと呼ばれる、大きな球体のプールに2チームに分かれてボールを取り合い、敵の陣地にあるゴールにボールをシュートするスポーツであるということを理解している。
とてもではないがスコールがするようなスポーツでない…とジタンは思う。

それを知ってか知らずが、バッツはスコールに楽しそうに話をしている。
そしておもむろにスコールの腕をつかむとむりやり水辺に引っ張っていき。ティーダに声を掛けている。

…ジタンがまさか!?と思った時には時すでに遅し、バッツがスコールの手を引っ張って水辺に飛び込んだ。

ばしゃーん!!と大きな水柱が立ち、ほかの仲間が驚き一斉にそちらの方へ視線を移すと、笑顔のバッツと最高に不機嫌そうな顔のスコールが水面から顔を出していた。

2人の行動にはしゃぐティーダ以外の仲間たちは唖然とした表情をしている。

バッツはともかく、スコールが水遊び(この場合本人の意思はまるっきり無視だが…)をするとは思っていなかったのだろう。


周りの時が一瞬止まったかと思った瞬間、スコールは全体重をかけてバッツを沈めにかかった。


「わーっちょっ!!沈む沈む!!」

もともと、スコールのほうがバッツよりも身長が高いうえ、普段上着に隠れてはいるものの割と筋肉質な体型をしている。
覆いかぶさるスコールにバッツは苦戦しているようにみえる。

騒ぐバッツにスコールは「うるさい」と一言発し、何とか沈まないでいるバッツの頭を抑え込もうとしている。

そんな2人に割って入ってきた者がいた。

「オレもまぜるっすー!!」

大きな水柱が立ったかと思うとティーダがスコールを抑え込みにかかっていた。
ティーダの方がスコールよりも小柄ではあるが、水のスポーツに打ち込んできただけがあって勝手がわかるのか、あっという間にスコールを押さえ込みにかかっている。
そこで復活したバッツが今度はティーダに加勢した。

「がほ…っ!!卑怯だぞ!!」
「いーじゃん!!スコール強いんだし!!」
「たまにはやられることも大事っすよ?」

3人の周りはいくつもの波が立っている。


騒ぐ3人の様子に呆然としていた仲間たちが大声で笑う。

ティナやオニオン、フリオニールやセシル以外にも、あまり表情を変えないウォーリアやクラウドまでもが。
スコールの様子を窺っていたジタンもまた腹が痛むくらい笑っていた。

「(なんだ・・・そっか。)」

スコールにはバッツという年上の仲間がいるじゃないか。

無口な彼をぐいぐいとひっぱっていく仲間が。

強引ともいえるやりかたかもしれないが、孤立しがちなスコールをあっという間にみんなの輪の中に入れてしまった。
ウォーリアやセシル、クラウド、フリオニールにはおそらくできない方法で。

普段大人びた少年が、年相応に見える。

「(心配して損したぜ。)」

騒ぐ3人に自分もまざろうかな?とばかりにジタンは木から飛び降り、水辺に向かって走って行った。


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