Step up lesson? -1-

※85でR18です。
性的表現がありますので、18歳未満の方、苦手な方はご注意ください。







大学からの帰り道、スコールは足取りも重く家路へと向かっていた。

体調が悪いわけではない。
家に帰りたくないわけではない。

家に帰れば同居人で、恋人のバッツが待っている。
(先ほど夕飯のメニューをご丁寧にもメールしてきてくれた。)

足取りが重い原因ははっきりとわかっていた。
参考書が入ったカバンと一緒に持っている黒い紙袋に目を落とし、ため息をついた。



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「家に兄貴が泊りに来るからDVDと本を預かってくれ。」

講義が終わる直前に、友人のジタンからメール届いた。本文を確認すると上記のメッセージと、待ち合わせの場所と時刻を指定してきていた。

ジタンは学部は違うが、高校時代からの友人だったため、たまに会って話をしたりするが今日のように当日になってアポをとるようなことはめずらしかった。
いつもなら数日、最低でも前日に伺いをたててくることが多いことから、今回の兄の訪問によほど慌てているのだろうということがすぐにわかった。

「(普段世話になることが多いからな・・・。)」

自分は2人暮らしのため、広めのマンションを借りている。
多少の荷物くらいなら預かっても大丈夫だろう。

ジタンが指定してきた時刻に待ち合わせ場所の学内のカフェテリアに向かうと、すでにジタンが座って待っており、彼はスコールを見つけると手を振って呼んでくれたのでそちらに駆け寄った。

「待たせたな。」

スコールは席に座ると、ジタンが「いいってことよ。」と明るく笑う。
この友人は人の気持ちを察するのが上手く、さりげない気遣いができ、スコールに取っては数少ない、気を許せる大切な友人だった。

「メールは見た。預かって欲しいものは・・・。」
「おっ、話が早くて助かるよ。」

ジタンは自分の横に置いてある黒い紙袋をスコールに手渡す。
兄が泊りにくるから預かってほしいと言っていたため、部屋の広さの確保のためかと思っていたのだが思っていたよりも袋のサイズが小さい。

不審に思ったスコールが袋の中をみると、一瞬固まってしまった。


袋の中にはアダルトDVDと雑誌が数冊入っていた。


「なっ!?」

声に出して驚きそうになったところをすんでのところでジタンに口元を抑えられた。

「驚くのはわかるけど、周りに人がいるから・・。」

小声で言われて、手を離される。

「・・・これは何なんだ。」

誰かが見ているわけでもないのに、スコールは周りの様子を窺うように左右を確認し、ジタンに小声で話しかける。

「・・・みればわかるだろ。」

視線を少し逸らしながら「お宝・・・。」と言ってきたジタンに、先ほど評した『気の許せる大切な友人』の一言を返せとスコールは内心叫びたかった。
なぜこれを預からなければならないのかと、眉間に皺を寄せて自分を見つめてくるスコールにジタンは申し訳なさそうに話し始めた。

「今朝兄貴が妹を連れてこっちに来るって連絡があってさ。一週間ほどいるらしいんだよ。みつかったら小言言うだろうし、なによりミコト・・・あ、オレの妹な。ミコトの教育上によくないからさぁ・・・。」
「・・・あんたの兄弟は部屋の家探しをするようなやつらなのか?」
「いや、まぁ・・・ありえないくらい部屋を掃除していくような奴等なんだ。特に兄貴が綺麗好きでさ、水回りからクローゼットの服の整頓まで文句言いながらピカピカにしてくんだよ。いつもなら別の友人に事前に頼んでたんだけどさ、来るって連絡があったのが今朝だったし、捕まったのがスコールだけだったんだよな・・・頼むよ。」

困った顔で手を合わせてくるジタンには申し訳ないが、一人暮らしならともかく、さすがに同居人がいる家にアダルトDVDや本を持ち帰るわけにはいかない。
何よりも同居人であり恋人であるバッツに、自分がこのようなものをもっているとは思われたくない。

「悪いが・・・あんたも知ってるだろ?俺はバッツと二人暮らしをしている。」
「けどよ、男なら一つや二つもってるのは普通だぜ。スコールもバッツと暮らすまではもってただろ?持ってなかったとしても借りて観るくらいならしたことはあるだろ?」
「・・・。」

ジタンが言いたいことはわかる。
自分だって男で、そういったものに興味が湧いた時期はあった。

しかし、今は一番近くに恋人がいるので、もし見つかってそういう類に頼っていると思われでもしたら・・・と思うと簡単に「了解した。」とは言えない。

「・・・一緒に暮らしている以上は持ち帰りたくない。以上だ。」

スコールが頑なに拒否をするのはジタンも承知の上であった。

彼はこちらが呆れるくらい恋人に対して真面目だ。
こういうものを持っていると少しでも思われたくないのだろう。

だが、自分も今日の夜にでも来るであろう兄と妹にこれを見られるわけにもいかない。
手っ取り早く捨てるか、駅のコインロッカーに預けるかなども考えたのだが、捨てるのはもったいない。
一日おきにロッカーに行くのも面倒だし、ただでさえ貧乏な学生。そんな金の使い方はなるべく避けたい。
そして、隠すなら隠すで何よりもより確実なところに隠しておきたいのだ。

ここはもう押し付けていく形をとるしかない。

そう判断したジタンは席を立ちあがる。

「とにかく頼んだぜ!!あ、なんならバッツと一緒に観て楽しんでくれてもかまわねーから!!」
「なっ!!」

スコールがジタンがとんずらするのを止めようと立ち上がった時には時すでに遅し、友人は素早い動きと足の速さで生徒の波を抜けてカフェテリアから外へと飛び出していった。
残されたスコールはジタンの「お宝」をさすがに放置するわけにもいかずに、嫌々ながらも紙袋を持ち帰ることにしたのだった。


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「ただいま。」

自宅のマンションの扉を開けると、中から食欲をそそるような香りと、何かを調理している音がする。

スコールは紙袋に再度目をやり、上からDVDや雑誌が見えてしまうかもしれないと思い、自分が着ていた半袖シャツを脱いで、上から押し込み完全に隠してしまう。

バッツの目に触れないようにするには、自分のデスクの中が一番だろう。クローゼットは共用スペースだし、ベッドの下などは論外だ。
そうなると、自分のデスクに向かうにはバッツのいるキッチンの前を通りすぎないといけない。
なんとか誤魔化して、機会をみて、どこかに隠そう。
そう決心し、何事もなかったかのようにキッチンへ向かうと、大なべに何やら煮込み料理を作っていたバッツが笑顔で出迎えてくれた。

「お、おかえりー!!お疲れさん!!」
「ただいま。」

眩しい笑顔で出迎えてくれる恋人に多少癒されるも、紙袋の存在がばれないかが気になってしまう。

「(さっさとやり過ごして隠してしまおう。)」

荷物をバッツになるべく見えないように持ち替えて、そそくさと部屋に向かおうとすると、バッツが冷蔵庫から調味料を取り出しながらスコールに向かって叫んできた。

「メシまだかかるから先に風呂入ってこいよ!」
「・・・少し後にしたいんだが。」

さっさとDVD類を隠したいスコールとしては、バッツが調理中でそちらに気をとられているうち済ませてしまいたい。
しかし、そんな時に限ってバッツは引き下がらなかった。

「お前、今日の般教に体育のコマあっただろ?汗流すと気持ちいいし、汚れ物も洗濯しちまいたい。」

自分が受講している講義スケジュールまで覚えられているとは思わなかった。
こう言われてしまったら、さっさと風呂に行かないと不審に思われてしまうかもしれない。
デスクの中を整理して隠す時間はなさそうだ。

「了解した・・・。」
「おうっ!お前が出てくる時間に合わせてメシにするからな〜。」

いつもなら、その気遣いに嬉しく思うのだろうが、今日は間の悪さに定評のある恋人に頭を抱えそうになった。
スコールは部屋に入り、デスクの椅子の下に紙袋を見えにくいように置くと、部屋着とタオル、今日の授業で使ったジャージを持って駆け込むようにバスルームへと向かった。



スコールがバスルームに向かったのを見送り、バッツは時計を見る。

「(出るのは30分後・・・かな?後は煮込み料理とご飯が炊きあがるのを待つだけだし、洗濯でもするか。)」

コンロの火を切り、鍋に蓋をして余熱で出来上がるようにしておいて脱衣場へ向かう。
バスルームからはシャワーの音が聞こえるのでスコールはもう入ったのだろう。遠慮なく脱衣場のドアを開けて中に入ると洗濯機を開いて、洗濯カゴに入っている衣類を選別しながら洗濯機に放り込んでいく。
その途中でふと衣類が足りないことに気付き、首を傾げた。

「(今日のスコール、確かシャツとTシャツを着てたよな?)」

カゴの中には下着類、Tシャツとパンツ、体育で使ったと思われるジャージ類しかない。

「(・・・部屋かな?)」

カゴを戻し、洗濯機の蓋を閉めて小走りで部屋へと向かう。
スコールのデスクの辺りをキョロキョロと見ると、少し見えづらい、デスクの椅子の下にある紙袋から衣類の端が見えた。

「お、あったあった。」

バッツはにっこり笑い、衣類を引っ張りだそうとしたら、弾みで袋の中身をぶちまけてしまった。

「あ、やっちまった。」

中身を拾って袋に戻そうとして、硬直した。


ばらまかれたDVDのジャケットに写っていた、あどけない顔に似合わず、豊満な胸をした少女が上目遣いにこちらを見ていたからだ。

「(ええっと、これっていわゆる・・・だよな?)」

ばらまかれたDVDと雑誌を見るかぎりは夜の教科書の類。
少し早まる鼓動をなんとか落ち着かせながら一枚手にとってみると、あからさまに性交渉を行うと思われる題名が大きくとプリントされていた。

「(スコールも男だしなぁ・・・。)」

真面目で堅物なスコールも若い男。こういったものをスルーしてきたとは思っていない。
実際に自分がスコールに初めて抱かれた時、少し不器用ながらも、リードしてくれていたので普通にこういったもので知識を得ていたのだろう。

しかし、なぜか複雑に思ってしまう。

「(スコール、こういう感じのが好きなのか・・・?)」

少し大きめのシャツをはだけさせてこちらを見る少女。
可愛い顔に似合わず胸は大きく体は成熟している。
丸い瞳と少し厚めの唇は子供っぽさのなかにどこか色気を含んでいた。

自分も男なのでこういう類のものはレンタル屋で借りて何度か見たことはある。
しかし、スコールと付き合い、体の関係を結んでからは本屋やコンビニの雑誌コーナーを通り過ぎた時に表紙を目にするくらいだ。

スコールはそうではないのか?
そもそもなぜ、こう大量にあるだろうかと考える。

「(おれに何か問題があるのかな・・・いやいや、男の時点で問題大有りだろ。)」

自分で突っ込みを入れながら、今度は雑誌を手に取って見てみる。
整った顔立ちの女性が、裸の身体に大きめのシャツを羽織って悩ましげな姿を晒している。

「(それかこういう感じの人を本当は抱きたいとか?)」

足元を見ると大量のDVDと雑誌が袋から散らばっている。
そのどれにも、女性の裸体、もしくはそれに近い写真が表紙となっていた。

「(スコールが風呂から上がるまでまだ時間はあるよな。」

時計を見ると、スコールが風呂に入ってから10分も経っていない。
バッツはフローリングに散らばったDVDを1枚手に取り、デスクにおいていたノートPCを開いた。





「(もう少し入っていたいが、どうも落ち着かない。)」

いつもよりもだいぶ早く風呂から上がり、スコールは体を拭いて部屋着に着替える。
使っていたタオルでガシガシ髪を拭き、肩にかけて脱衣所を出た。
風呂上がりの身体からはほこほこと湯気が出ており、空調の効いているリビングに一直線で向かうことにした。

「(夕食の後、バッツは風呂に入る。その間ならなんとか隠せるだろう。)」

リビングに入り、火照った体を冷やし、体と心を落ち着ける。
飲み物でももらおうとキッチンの方を見ると、バッツの姿が見当たらない。

不審に思ってキッチンの中を覗き込むと、夕食の準備が自分が風呂に入る前からほとんど進んでいない。

「(・・・嫌な予感がする・・・。)」

なぜか胸騒ぎがしたスコールは早足でデスクが置いている部屋に向かうと部屋から蛍光灯の光が漏れている。
女性の喘ぎ声のようなものが微かに聞こえてきた。

ドアを思い切り開けると、バッツがびくりと体を震わせこちらを振り向く。

デスクに置いているノートPCから、淫蕩にふける男女の映像が流れていた。





「それで、俺の服が見当たらなかったから取りに来て見つけてしまったと・・・。」
「わざとじゃないんだよ。本当に偶然で・・・。」

あの後、2人は夕食のことなどすっかりと忘れて、なぜか正座で向かい合って互いにDVDと雑誌の訳を話すことになっていた。

スコールは大量のDVDと雑誌はジタンから押し付けられたのだと、バッツに携帯電話のジタンからのメールを見せて事情を説明し、自分のものではないことを主張した。
対するバッツは、スコールの洗濯物を探そうとして、見つけてしまっただけで、見つけようとして見つけたのではないと、プライバシーを詮索するつもりはなかったことを訴えた。

大量のDVDと雑誌が乱雑になっている真ん中で男2人が顔を突き合わせて話す姿は珍妙であったのだが、互いに身の潔白を証明しようと必死になっていたのでそんなことを気にする余裕もなかった。

「スコールも健全な男子だからさ、たとえ持っていたとしてもおれは全然気にしな「それ以上言わないでくれ。」

無理やり押し付けられたものとはいえ、恋人にそういわれると正直気持ちが凹んでしまいそうだ。

「・・・あんたも興味があるのはわかるが、人のPCで勝手に見るのはやめろ。」

ため息交じりでスコールはPCのROMドライブに挿入されていたDVDを取り出し、ケースに戻すとバッツがバツが悪そうに顔を背けた。

「だって、スコール、こんな感じの子やプレイが好きなのかなって思って・・・。」
「・・・は?」
「おれ、男だし、その、・・・スコールの好みがわかったら少しは喜んでもらえるかと思って・・・その・・・。」

いつも明るくハキハキしている彼らしくなく、最後の方は小声になっていた。

「・・・つまりあんたはDVDをみて俺の好きそうな趣向を学ぼうとしてい「それ以上言うなよ!!」

今度はバッツが言葉を遮った。
言いにくいことをスコールにはっきり突かれてしまい、余計に恥ずかしくなった。

今、まともにスコールの顔を見ることができない。
どんな顔をされているのか、正直見るのが怖い。

「さ、さっさと片付けて晩メシにしよう!!おれ、メシの準備してくるよ!!」

この場を離れようとして慌てて立ち上がろうとすると、手首をいきなり掴まれ、抱き寄せられる。

「あんた・・・かわいいな。」

耳元でスコールにそう囁かれると、いきなり噛みつくようなキスをされた。


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