おわりとはじまり -7-

夜闇に浮かぶのは金色の満月。

普段なら見ても何とも思わないことが多いのに、今夜の月は何故か様々な感情を泉のごとく湧きだたせる。


スコールは屋上で想い人を一人待っていた。

昨日の一件から意気消沈していたところを、仲間の一人の手助けもあって何とか立ち上がれた。


「(・・・まずは謝ることだが、次は何を話そう・・・。)」


相手の同意もなく初めて唇を重ねてしまったことを詫びなければいけないが、その後は?

昨夜のバッツの様子を思い出す。

泣きそうだった顔は思い出して心が痛んだ。

相手のペースを全く無視してしまった己の行動に自分で自分を殴りたくなった。
今度は失敗しないように、想い人に自分の想いをきちんと言葉にしよう。

そう思い、再び満月を仰ぐ。


太陽からの光を反射して輝く月。
太陽がなければ輝かないそれはまるでバッツと自分のようだと思った。

明るく、行動的な彼に巻き込まれる形でなんとか皆の輪のなかに入る自分は太陽が無いと輝くこともできない月のようだと自嘲していると背後から足音がした。


ゆっくりとふりかえると、月明かりに照らされたバッツが立っていた。



「その、お待たせ・・・。」

少し顔をそらしながら申し訳なさそうにバッツがこちらにやってくる。
どうやら、昨日のスコールとの一件がまだ尾を引いているのか、中々目を合わせようとしない。

いつもよりも若干距離を開けながら、スコールの横に来たもののお互い話すタイミングをうかがっているのか中々話し出さない。

気まずい空気が流れるが、昨日の自分の暴走を謝らなければと、スコールが意を決した時に、先にバッツの方が話し始めた。

「・・・スコールはおれにとって大切な仲間だ。」

”仲間”

この一言でスコールは自分はバッツにとって仲間の一人でしかないのだと思い知らされた。

元々、この世界には戦うために召喚されたのだ。
恋心など不要だということなのだろうか・・・。

想い人と心を通わせることができたらと何度思ったかはもうわからない。
自分の気持ちを何度殺しただろうか。

昨日のバッツの言葉から、同じ気持ちだと思い、彼との関係をぶち壊しにしてしまったのに、バッツは今まで通り”仲間”としてみてくれるだろう。

「(十分じゃないか・・・。)」

また、いつも通り、自分の気持ちを殺せばいい。
そうすればそのことに慣れて、元通りの関係に戻れるかもしれない。

―わかった。−

この一言を言えば元通りだ。

頭では分かっていても心が追い付かない。
一言がなかなか言えない。



スコールが俯き、耐えるかのように手でこぶしを作って意を決して言おうとすると、突然、バッツの方からスコールの両手を取り、自分の手で包んできた。
思わぬバッツの行動に、スコールが何が起こったのか理解をするよりも早く、バッツの方がさらに話を続ける。


「・・・けど、いつのまにか仲間とは違う目で見ていた。」

泣いているのか、笑っているのか、どちらともつかない表情を浮かべ、まっすぐにスコールを見つめる。

二人の瞳が交差する。

「スコールのすること、話すことが気になって仕方なくなった。」

バッツの瞳にはスコールが、スコールの瞳にはバッツが映し出されている。

自分と同じく、彼も、バッツも瞳に自分を何度も写し出してくれたのだろうか。

「ジタンに゛おれ自身がどうしたいのか゛聞かれたとき、正直、どうしようか迷った。けど、スコールが踏み出してくれた。きっとたくさん勇気がいったんだよな?今まで色々考えてくれたんだよな?・・・だったら、おれも自分の気持ちを正直に伝えようって決めた。」


目を細め、バッツはスコールを見つめる。

「おれのものまね、気が付いたらさ、スコールの技がいつの間にか一番上手くなってたよ。他の仲間たちに比べてさ。そんだけスコールのこと見てたんだよな。」


苦笑するバッツのその言葉だけで十分だった。

今度はスコールが、自分の手を包んでくれたバッツの手を包む。
男の手だが、自分よりも若干小さく、旅人らしい、少し節がごつごつした手であることに初めて気が付いた。

バッツが近い。

今なら、自分の素直な本当の気持ちが言える。聞いてもらえる。

そう思うと、なぜか自然と言葉が出てきた。

「・・・バッツ・・・俺も同じだ。あんたのすること、話すことが・・・すべてが気になって仕方がなかった。気が付いたらいつのまにか、あんたは俺の心の一部になっていた。」


「スコール・・・。」

風のように爽やかで、自由な彼はあっという間に心の中に入ってきていた。

いつのまにか、自分の心の中に居座られていた。

いつのまにか自分の心の一部となっていた。

目の前にいる彼にスコールは想いを言葉にする。

「あんたが・・・バッツが・・・好きだ。」

ありふれた告白に、もっと気の利いた言葉が言えないものかと、スコールは自分自身を情けなく思ったが、これ以上言葉にするのは難しそうだ。

しかし、そんなスコールとは裏腹に、バッツはその言葉を真剣に受け止める。

「・・スコール、おれたちは全然違う世界から来た。すぐか、何年、何十年先かわからないけど、元の世界に帰る時が来る。それでも・・・おれでも、いいの・・・か?」

いつも笑顔のバッツからめったに見られない、真剣な表情。

それだけスコールのことを考えてくれているのだとすぐにわかった。
だから、自分もきちんと答えなければいけない。

「俺は・・・こうしてあんたと出会えたことを後悔していない。これからもそのつもりはない。いつかくる別れの時のためだけにあんたを・・・あきらめたくない。いつかが来るなら・・・゛今゛を大事にしたいんだ。」

バッツの手を握りしめ、はっきりと言い放った。
その姿はとても17歳の少年とは思えない、決意に満ちた姿だった。

「おれ、あきらめ悪いぞ?断るなら今・・・」

再度確かめるように言い始めるバッツに、スコールは手を引き、腕の中に彼を閉じ込めた。

「何度も言わせるな。あんたが、バッツがいいんだ・・・。」

そういい、バッツの存在を確かめるかのように頭をなでる。

癖があるが、意外に柔らかい髪質を撫でてはじめて気が付いた。

バッツもまた、頭を撫でるスコールの優しい手つきに、瞳を閉じて堪能する。

「(ここまでされたら・・・もう・・・。)」

スコールを拒むことなんてできそうにない。
バッツはスコールの胸を軽く押し返して、再びスコールの瞳を見た。

自分への想いを告げてくれたスコールに、今度はバッツが返す番だ。

「おれもスコールが好きだ。人を好きになることは沢山あったけど、スコールは違うんだ。・・・仲間としてスコールのことをみれないって思ったのも、恋愛感情を含んでみてしまうってことだったんだよな。・・おれってばかだよな・・・知らないうちにスコールを傷つけてしまってたかもな・・・ごめんな。」

「・・・おれの方こそ・・・すまなかった。」

お互いに気持ちがわからず、すれ違ってしまった昨日のことが嘘みたいだった。
どちらともなく、笑ってしまった。

「これからも、よろしくな?」

「ああ・・・。」

破顔するバッツの顔を久しぶりに見たように感じる。
この笑顔に何度焦がれたのだろうか。
それが今、スコールの前だけにさらされている。

「バッツ・・・。」

名前を呼ぶと、スコールの意図を察したバッツがスコールの背に手を回してきた。
スコールはバッツの頬に手をあて自分の方に顔を向けさせるとゆっくりと視線をあわせた。

二人の視線が交差すると、バッツはふとスコールの瞳の色が海か空、どちらに近いか考えていたことを思い出した。


深みのある青い瞳。

「(・・・今、気付いた。スコールの瞳は・・・。)」



月明かりの下、二つの影がゆっくりと重なった。




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これにて85両想い話の終了です。

おわりとはじまりは”仲間”としての関係が終わり、これからは”想い合う仲間゛としての関係の始まりみたいな感じでつけさせていただきました。
スコールがようやく報われたと言いますか、バッツがジェットコースターロマンスと言いますか・・・。
そして、ジタン!彼がいなかったらこの2人、中々うまくいかなさそうだなぁ・・・と思って、当初より出番が多くなってました。

拙い話ですが、お付き合いしていただきまして、ありがとうございました!


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