死神と道化

「君はなんでも壊すんだねぇ。」


数体のイミテーションを粉々に砕き、高笑いを上げていたケフカの背後にあらわれたのは死神の青年クジャだった。


「あらーいらっしゃい。君からきてくれるなんてめずらしいですねぇ〜。」


歓迎しますよとばかりに両腕を開いたケフカを避け、クジャは壊れたイミテーションの前に歩み寄る。

手足がばらばらになり、元は胴体だったもの、恐らく頭と思われる部位が無造作に転がっており、本物なら辺りは血の海だっただろう。

クジャは長い銀髪を芝居がかった動作で後ろに流し、足元に散らばるイミテーションだったものの残骸を邪魔そうに蹴り飛ばす。


「まったく、何が楽しくてこの"ニセモノ"達をいたぶるんだい?」 


こんなものをばらばらに壊して何が楽しいのか。

クジャ自身イミテーションをさほどいいものとは思っていない。むしろ険悪感しか湧かない。

かりそめの存在でありまがいもの。
特に自分達に意思がなく、ただの駒として打ち捨てられる意味がない存在。


何人かのカオス勢は使い捨ての兵士のように戦力として割り切って使っていたが、クジャ自身が好んで使おうと思ったことはただの一度もなかった。

目の前の男も、兵士として使用してる時もあるようだが、道楽として使っているほうに割合を占めることが多く、ただの気まぐれで先ほどのように壊してしまうことが多い。

コスモスの戦士の姿をしたものもあれば、自分が属するカオスの戦士のものもあったし、自分自身の姿を模した物を指先の魔法ひとつで蹴散らしている時もあった。


趣味のいい”お遊び”とはとても思えず、鼻で笑うとケフカが「何で笑うのさぁ〜」と間延びしたように聞いてきた。


「君は気に入らないかもしれないけど、ぼくちん、形あるものはいつかは壊れちゃうと思うんだよね〜だから、美しく、完成されたうちに壊しちゃえばその美しさは朽ち果てないでしょ?」


ケフカは足元に咲いていた花を乱暴に引きちぎると、聞いたことのない呪文を花に向かって唱えた。

手の中にあった花は見る見るうちに萎れてしまい、最後には砂塵になって地面にぱらぱらと落ちてしまった。


「ほーら、さっきまでキレイに咲いていた花だって時間が経てばこうなるんだよ?だからぁぼくちんはこうするんだよ!」


手のひらに魔力を集中させ、火球を生み出し、それを放つ。
足元に咲いていた花々は瞬く間に炎に包まれ、無残にも燃えていく。


何が面白いのかそれをみながらケタケタと笑うケフカが理解できない。いや、理解できてもうれしいものではないのだが。


どうもこの男はカオス軍の中では”読めない”部類の存在だと思う。

静かにしていたと思ったら、急に奇声を発して魔法を放ち、本人は優雅と思っているのかもしれないが芝居がかったイラつく動作をした次の瞬間乱暴な口調になる。

かといって多重人格ではなく、それが”ケフカ”そのものであることが分かったのはここ最近だ。

同じく何を考えているかわからない暗闇の雲やセフィロスなどは思いつきで行動をしない分まだ可愛い方だ。


やりとりしていると疲れることはあるが、自分が振りほどこうとしても興味の対象が移るまで付きまとうケフカには慣れてしまったため、こうして共に時間を過ごすことも最初の頃に比べて多くなった。・・・最初の頃に比べてだが。


そんなことを考えているクジャなど露知らず、ケフカはクジャに同意を求めるように、小首を傾げる。少しも可愛らしくは見えないが。


「ねー?こうしたほうがさっきみたいに枯れて醜くなるさまをみなくていいでしょ?」


人差し指を振りながら小ばかにしたような動作をするこの男に多少のいらつきを覚えながらクジャが反論する。


「君は本当に単純だねぇ。時間を経て美しくなるものは沢山あるんだよ?例えば森の木々、演劇に小説。良いものは何年でも残るし、次への刺激になるんだよ?後先考えずに馬鹿みたいに壊していくのは美しくないね。」

「ん〜君ってさぁ、かなり執着心が強いタイプなんじゃなぁい?あのオサルサンにしてもさぁ、こーんなに手間をかけて自分で捕まえるんじゃなくてぇ、ニセモノたちにぜーんぶまかせちゃえばいいんじゃないのぉ〜?」

「ふん、魔導の少女に固執する君にいわれたくないね。」

「んふふ。あのコはトクベツなんですよ。」


真意を図ることのできない笑みとケバケバしく化粧が施された顔に益々いらだちが募っていくを感じながら、クジャは再び足元のイミテーションに視線を移した。


意思もなく、文句も言わずに酷使される彼らは姿以外人としての要素はまったくない。やはり気に入らない。


何も言わず、イミテーションをただ眺める彼の背中をケフカは興味深そうに見る。

"まがいもの"、"ニセモノ"、といいつつもイミテーション達を見るクジャの瞳には複雑な感情が渦巻いていることがすぐに分かった。

今、彼は一体何を思っているのか興味がそそられる。暴いてみたい。ぐちゃぐちゃにしてしまいたい。純粋な心からくる狂気を秘めて。


「(実は美味しいものを後にとっておくタイプなんだよね〜ボク。あのコがもちろん一番だけど、キミはその次くらいなんだよね・・・。)」


イミテーションを通り過ぎて、前を歩く銀糸の髪の男。

ケフカにとって命が予め定められた目の前の男はイミテーションと何ら変わりはなかった。

けど、それでも自己を主張し、自分を強く見せようとする姿は時に青臭くみえ、作り物にしては本物らしく振舞おうとしている彼をケフカは内心面白くて仕方がなかった。


「(ま、この戦いも暫く続きそうですし、のんびり気長に行きますかね〜。)」


ケフカはそう思うと、軽やかにスキップをしながらイミテーションとクジャを追い越して前のほうへ進んでいった。



---

DFFでよく行動を共にしている(ように見える)この2人の話が書きたかったのです。
芝居がかった動作をしたり、相対する相手(ケフカの場合はティナ、クジャの場合はジタン)に執着するところとか共通点はあるものの、命や存在感、強さなどに縋りつくクジャのほうが弱い部分を持っている分ケフカのほうがいろんな意味で強いような気がします。


[ 67/255 ]


[top][main]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -