おわりとはじまり -4-

「(やはり自分から聞きに行くべきだろうか…?)」


お宝の整理を終えて自室に戻ったスコールはベッドに座り込み、考え込んでいた。


先ほどジタンに相談したところ、自分がバッツに何かをして嫌われた可能性は低いとのことだったが、バッツが姿をあまり見せなくなったのはあの夜からだ。


自分が何か気に障ることをしてしまって今の状態が続くのなら、団体行動を行う上てよくはない上、何より自分自身が気にしてしまって何をするにしてもそちらに思考が向かってしまう。



バッツへの気持ちを自覚し始めた時、一時の気の迷い、気のせいだと思っていた時もあったのだが、彼のことを気にし、頭を悩ませてしまう現在の自分がどれほど彼に好意を抱いているか、嫌というほど痛感してしまった。



「(…まさか俺の気持ちを知ってしまって避けられている…?…いや、そうだとしたらジタンも気が付くはず…。)」


自分達をよく見ている洞察力の優れた仲間を頼るのは情けないが、自分の目よりは確かなので、ノーと考えることにする。

だとしたら何が原因なのか、と再び振り出しに戻ってしまい、スコールは眉間に皺が寄ることを自覚しながら考え続けた。


するとふいに気配を感じる。


考えていて気が付かなかったがドアの向こうに誰かいる。
仲間ならノックをするはずだがそれがない。


「・・・。」

スコールは気配を殺し、ガンブレードを手に取り、足音をたてずにドアへと近づいた。




「(ジタンには言われたものの、どうしよう・・・。)」


わけのわからない病気のことをスコールに話せと言われたが、話して解決できるものかと甚だ疑問である。

・・・というのは建前で、ジタンを疑って話さない、会わない口実を作ろうとしているだけなのだとわかっていた。

「(なんでこんなに苦しいんだよ・・・。)」

スコールのことを考えるだけで苦しいのに、うまく説明できるかわからない。

それに加えて最近あまり顔を合わせていないのに、一対一で話をするので躊躇ってしまう。


何度ノックする手を上げ下ろししたかわからず、話すべきかどうか悩んでいると、急にドアが開き、強い力で部屋の中に引きずり込まれた。


「(な、なんだぁ!?)」 


明るい室内に入ったかと思うと、体が浮き上がり、天井が見える。
どうやら投げ出されたらしく、あっと言う間に体がやわらかな何かのうえに着地した。

ベッドの上だと判断した時に自分の体に何かが馬乗りになる。


強烈な殺気と強い力。

一瞬敵かと思って体が強ばったがすぐに敵ではないとわかった。

「バッツ?」

声の方に視線を向けると、ガンブレードと困惑したスコールの顔が瞳に入ってきた。



「アンタ、一体何やってるんだ。気配があるのにノックしてこないからてっきり…。」


どうやら考え込んでいて完全に気配を消していなかったらしく、スコールが敵と勘違いしたらしいことに気付いた。


先程までかなり殺気立っていたのが、嘘のように気をゆるめ、ガンブレードをしまうと、「すまなかった。」と一言詫びて体から降りられた。



「いや、おれがなんか中途半端に気配を消してたから。勘違いさせてしまってごめんな?」


倒された体を起こし、ベッドに腰掛けるとすぐ隣にスコールが腰掛けてきた。


数センチで肩が触れ合いそうになるくらい近いことに気付く。

先程馬乗りなられたことを思うとなぜ、こちらの方が緊張するのかわからない。


「(ジタンに言われたとおり、話してどうにかしないと・・・。)」

病を治せるのがスコールだけだと言われたことと、自分でどうすればいいかわからないなら・・・と意を決して話そうとしたときに、スコールから話し掛けられた。

「バッツ・・・。」
「へ?」


話そうとしたら、逆に話し掛けられてしまい、変な声で答えてしまったが、スコールは別段気にせずに話を続けた。

「最近姿をあまり見せなくなったのは・・・俺が何かしてしまったから・・・か?」

「え・・・?」


思ってもいなかったことを言われて戸惑う。

スコールを見たり、近くにいると落ち着かないため、治まるまで会わないようにしていただけで、スコールが何かをしてきたからというわけではない。

かと言ってスコールが原因ではないとは言えず、どう答えるべきか悩んでいると、それを肯定と捉えたのか、スコールがさらに話を続けた。


「俺が何かをしたのなら、すまなかった。アンタがここまで避けるほどのことなのに・・・自覚がなくてすまない。」


「え、えっと・・・。」

「・・・アンタとジタンと俺の3人でチームを組むことが当たり前になっていたが、もしそれが辛いなら俺は明日から別の奴と組む。だから、仲間たちとの調和が乱れる前に・・「ちょ、ちょっとまってくれよ!」


遮るようにバッツは慌ててスコールの手をつかみ、待ったをかける。


「な、なんでそうなるんだよ?確かにここ最近、おれ、おまえを避けてたけどそこまで考えることないだろ?」



まさかスコールがそんな風に考えていたとは思ってもいなかったためかなり困惑する。
ジタンのアドバイスよりもまずは誤解を解くほうが先のような気がした。


「おれ、お前のこと嫌だとか、一緒にいてて辛いとか一度も思ったことないよ。だからさ、そんなこと言わないでくれよ。」


そう言ったものの、スコールの表情は晴れることはなく、組んだ腕の片方で顔を覆い、ため息を吐かれた。


「・・・じゃあ聞くが何故避けているんだ。何か理由があってのことだろう?」

「う゛・・・。」


そう言われるのはもっともなのだが、バッツ自信もはっきりした理由がわからないので返答に困る。

しかし、この状況下で黙っているわけもいかず、観念したかのように、ぼそぼそと小さな声で話しはじめた。


「す、スコールを見ると・・・落ち着かない。」

「・・・は?」


落ち着かないと言われてしまい今度はスコールが困惑する。

何かバッツをハラハラさせるようなことをしただろうか?と、記憶を手繰り寄せてみたが最初の単独行動以外は特に心配させるようなことはしていないはず。・・・とスコール自身は思っているのだが。


そう考えるスコールをよそにバッツは話を続ける。


「スコールがどこで何してるか目で追ってしまうと、酸欠と似たような症状がでちまう。変に鼓動がはやくなっちまってなんか熱っぽくなるし・・・もしかしたら心臓の病気かとも思ったんだけど・・・。」


「・・・。」


バッツが次々と止まることなく話していると、スコールの顔から次第に困惑の表情が消え、頬に若干赤みが増す。まじまじとバッツを見つめているが、バッツはそれに気が付かず、目を逸らしてさらに話を続けた。


「他の仲間だとそうならないのに…なんかおれ、呪いにでもかかっちまたのかな?それでジタンに相談したら治せるのスコールだけだって言わ・・・。」



最後まで言う前に、気が付いたらバッツはスコールの腕のなかにいた。
いつもよりも近く、スコールの息遣いや香りがより鮮明に感じられる。


「お、おおぉぉうい!?」


あまりにも突然の行動にバッツは慌てて逃れようとしたが、がっちりと包み込まれて逃れることができない。「放してくれ!」と頼む前にスコールがバッツの耳元でささやくように話し掛けた。


「バッツ・・・。」
「は、はいっ!?」


スコールの体温と心地よい低音の声に今までにないくらい鼓動が高鳴り、絶え絶えになりながらもなんとか返事をする。


「・・・今のは、その、本当か?」
「な、なんだよ?こんな時に嘘なんかつかないよ。」


ジタンにスコールに話せと言われ、自分でどうすればいいかなんてちっとも思いつかなかったのでその通りに行動しただけで、なぜ、スコールの腕の中にいるのか。

今の状況を理解して頭の中で処理をしようとしたが、鼓動をなんとか押さえようとするので精一杯で何も考えられなかった。


すると、スコールがバッツの顎に手を添えて自分の方にむかせる。

スコールの青い瞳が今までで最も近くに見えたかと思うと、次の瞬間唇が重ねられた。



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