フラストレーションと仕返し

※9視点の85(無自覚でいちゃついてるので注意)


「スコールの手、結構大きいな」

テントの中で微睡んでいたジタンは、バッツの一言で重くなりかけていた瞼を上げて声の方に視線を移した。
任務中に腕を怪我したらしいスコールをバッツが手当てをしているらしい。包帯が巻かれた腕に触れながら手の大きさを確認しているバッツとされるがままのスコール。仲睦まじい二人の姿にジタンは内心溜息を吐く。

(今夜もかよ……無自覚のイチャイチャは勘弁してくれよな)

想いを通い合わせている友人二人が幸せそうで何よりだが、時々鬱陶しく感じることも正直少なくはない。友人二人は他の仲間がいる場では自重しているようだが、事情を知っており、尚且つ協力者でもあるジタンの前では若干、どころかかなり気を緩まている。
それだけ二人が心を許している証拠ではあるのだと思うものの、二人の世界でよろしくされていると独り身であるジタンとしては辛いものがある。
ジタンにも想い合う存在がいたら事情は変わっていたかもしれないが、辛いことにこの世界にはジタン達が所属する陣営と敵陣営以外は人は存在していない。つまり出会いがない。

(ティナちゃんの微笑みが恋しくなるなー……)

仲間の中で唯一の女性であり、控えめで心優しい少女の姿を思い出しながら、ジタンはまた一つ、心の中で溜息を吐く。だが、そんなことはお構い無しに友人二人のふれあいは続く。

「思った通りおれの手より大きいなー」
「……だな」
「指も長いや。スコール、楽器に興味はないのか?この指の長さだと、ピアノを弾くのにいいと思うぞ」
「興味はないな。あんたが弾くピアノを聴けるだけで十分だ」
「そっか?勿体無いなぁー」

バッツは両手でスコールの手を取り、自身の手のひらと合わせて大きさを確かめたり、指の長さや太さを測るように撫でたり、握ったりしている。
想い人の接触に照れているのか、スコールの頬が普段に比べて赤みがさしているように見える
その光景に眠りの世界へと旅立とうとしていたジタンの意識はすっかり現実に引き戻されていた。面白くない気持ちを抱えて。

(独り身のオレへの当てつけかよ!わざとじゃないから余計タチが悪いわ!)

二人から漂う甘い雰囲気に、ジタンはじっとりとした視線で二人を眺める。
想いを通わせる前の二人は、お互いの存在が重荷になるのではないかと想いを伝えようとしなかった。戦いに勝利しても敗北しても別れが訪れるからと気持ちに蓋をして、仲間以上の関係を構築しようなんて以ての外と思っていたようであった。
微妙な距離感を保つ二人とよく行動を共にしていたジタンは、そんな二人の気持ちと考えにいち早く気付き、二人の仲を取り持とうとした。
ジタンにしてみれば、生きていれば遅かれ早かれ別れはやってくるのだから、蓋をする理由が別れであることは勿体無いの一言に尽きなかったのだ。
最初は二人ともいい年齢だから二人のペースに合わせようと、さりげない手助けをしながら様子見をしていた。だが、日に日に気持ちを大きくしつつも想いを打ち明けない不器用な二人にジタンは痺れを切らし、多少強引ではあったものの、「言いたいことを言えるうちに言え!」と背中を押した……というよりも突き飛ばした結果、二人は想いを通わせたのであった。
ジタンは友人二人を心の底から祝福したし、その時の自身の行動を褒め称えもした。ただ一つ、仲睦まじい姿を見せつけられる拷問の始まりという誤算があったのである。
ジタンは関係を知っているからと、三人で寝泊まりするテントで遠慮なく、と言いうよりも無意識に寄り添い談笑する。互いのボディタッチも多くなったような気もする。そして極め付けは、ジタンが見張り当番の日、テントを出た後に忘れ物に気づいて引き返すと、二人が唇を重ね合おうとしている場面に遭遇してしまったのである。
その時のことを鮮明に思い出しそうになり、ジタンはブンブンと頭を振って気を紛らわせた。
想いを通いあわせている者同士なのだから、そういった欲求はあるのはわかる。だが………

(オレがいる時は少しは遠慮してくれ……!)

心の中でジタンは雄叫びをあげるが二人は微塵も気付いていない。流石にこれは注意するべきだろうかと思ったが、ただ注意するだけでは腹の中に溜まっているもやもやを払拭できそうにない。

(くっそーこの状況を何とかできて、しかも鬱憤も解消できる方法なんて……あ、そうだ)

ジタンはいい方法を思いついたと意地の悪い笑みをこっそり浮かべ、触れ合いを続ける二人に話しかけた。

「手の大きさ合わせてるの?」

何気ない風を装い、話しかけるジタンに二人の視線がお互いからジタンの方へと向けてくる。

「お、ジタン、起きてたんだな!」

さっきからずっと見せつけられてたわ!そんな文句を思わずこぼしそうになったが、ここは我慢をしてジタンは話を続けた。

「いいこと教えてやろうか?お互い、指先で手のひらを滑らせてみたり、指の間をちょんちょん触ってみ?」
「何だぁ?それ」
「占いかまじないの類か?」

首をかしげるバッツとスコールに、ジタンは「いいからいいから」と促す。
ジタンの突然の提案に二人は疑問に思ったようではあったが、大人しくそれに従った。

「ふはっ!指先で手のひら撫でられるとくすぐったいな!」
「指の間はむずむずする……」

感想を漏らしながら、二人はそれぞれ相手の手を指先で触れていく。その姿をジタンはニヤついた表情で眺め、二人に声を掛けた。

「どうだ?嫌な感じはしないか?」
「嫌な感じはしないなぁ。むしろマッサージみたいで気持ちいいぞ」
「スコールは?」
「……まぁ、バッツとほぼ同意見だな」

質問に対する二人の回答に、ジタンはこの後の二人の反応を予想し、ほくそ笑みながらネタばらしをする。

「それ、お互いの体の相性をはかる方法な」
「へ?」
「は?」

目を点にした後、二人の顔がみるみると赤くなっていく。ジタンが言ったことを理解したのだろう。その反応に予想通りだとジタンは声に出して笑った。

「二人とも散々いちゃついていてウブ過ぎだなぁ。ま、体の相性も悪くなさそうでよかったな!」
「な……なぁ!」
「……」

金魚のように口をパクパクさせるバッツと無言で顔を伏せるスコールの姿にジタンは腹を抱える。
二人がまだ、”そのような関係”ではないことを承知の上での質問であった。その効果が思っていた通りでジタンは先ほどまで感じていたモヤモヤが一気に払拭されて、清々しい気持ちになる。
意外に奥手な二人には刺激が強かったようではあったが、普段散々二人の甘い雰囲気に当てられていた身としてこれくらいの仕返しは許されてもいいだろう。
ジタンは笑い過ぎて痛む腹を抱えながら、立ち上がると二人にトドメを刺す。

「と、言うことでオレは今日は他のやつのところで寝ることにするわ。二人とも、ほどほどに仲良くしろよな!」

仲良くの部分を強調して言うと、ジタンはにぃっと思わせぶりな笑みを浮かべてテントを出る。
背を向けた瞬間見えた二人の姿が、甘い雰囲気から一転して、微妙なものに変わっていたのが、面白かった。
普段の仕返しも出来たし、こんなことを言われたら少しはジタンの前でも自重するようになるだろう。発散と頭痛のタネが一気に解決してよかったとジタンは晴々とした気持ちでテントを後にした。
しかし、ジタンは後に今回の行動を後悔することになる。
今回の件が二人の関係が進む小さなきっかけとなり、更にパワーアップした甘い雰囲気と惚気に悩まされる日がそう遠くない日に訪れることを、ジタンはまだ知らないのである。


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9さんと無自覚ゆえにお構いなしにいちゃつく85のお話。
手を触れ合わせることで体の相性を確かめられると見かけたので。(お遊び的なネタかなと)
この後二人がどうなるのかはご想像にお任せします。


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