酸いも甘いも

冬の灯が灯りはじめる街中。バッツは上機嫌で箱を抱えながら自宅兼店へ帰る道を歩いていた。
柔らかい光に包まれた街中は行き交う人もどこか浮き足立っているように見える。おそらくクリスマス、正月という大イベントが迫ってきているからなのだろう。慌ただしくもあるが楽しみをそわそわと待ち構えているようなこの雰囲気をバッツは好んでいた。
ツリーにサンタやトナカイの形のオブジェやランプなどクリスマス特有の飾り付けやプレゼントにと商品を宣伝しているポスターにCM。どれもこれもこの時期だからこそである。
ちょうど電化製品屋を横切ろうとした時、年末商戦用にとディスプレイされていたテレビから見知った者の姿が見え、バッツは思わず立ち止まった。
テレビに映っているのは腕時計のCM。色んな世代の男女のペアが日常生活の中で腕時計をつけているシーンが映し出され、鮮やかに切り替わっていく。老夫婦、小学生くらいの少年少女、仕事の同僚らしきスーツ姿の男女、大学生から高校生くらいの年齢の私服の男女……その片割れがスコールであった。
二人とも学生らしい、どこか初々しさと清潔さのイメージを持ちつつもしっかりと腕時計が注目されるような仕草をさりげなくしている。主役は自分ではなく時計であるということなのだろう。
だが、そこで自分をさりげなく出すのがプロである。一瞬映ったスコールのアップ。そのほんの一瞬だけスコールの眼差しが強くなる。その視線の先は腕時計。腕時計をしっかりアピールするために画面越しに見ているものを自分へと引き込んで腕時計へと繋いだのだ。
普段のスコールの、店で人目から隠れながらコーヒーを飲んで世間話をしたり課題をしている姿からは想像できないその姿に流石はプロだとバッツは感心しているとCMからテレビ番組へと変わったのでその場から離れることにした。
思わず道草をしてしまったが手に持っている箱のこともあるし、さっさと店に戻らないといけない。

(いけないいけない。スコールが出てるCMだったからついつい見ちまった)

心の中で己に注意し、箱を抱えなおして店へと続く道を歩いて行く。
手に持っている箱の中身は幼馴染の家がやっている洋菓子店『タイクーン』の新作の試作品。その試食を頼まれて渡されたのである。
幼馴染とバッツの関係は、単なる幼馴染という間柄だけではなく、バッツが経営している店で出すケーキをタイクーンから仕入れている。幼馴染からしたらバッツは大口の客でもあった。
クリスマスや年末年始は売り上げアップに繋がる時期なのでそれ用にと作られた試作品の感想を聞かせて欲しいと渡されたのだ。
箱の中身は切り株を模したケーキ、ブッシュドノエルとクリームとイチゴがふんだんに使われたデコレーションケーキを切り分けたものであった。
完成度の高さにバッツは目を輝かせたが、幼馴染姉妹の姉曰く「ケーキの完成度を更に上げるためだ。食ったら感想を言え。そうしなければこれからは頼まない」と厳しい言葉を添えてくれた。

(ま、確かにそうだよな。うちの店でもいくつかケーキを置かせてもらってるからこれも仕事のうちか)

楽しみではあるが、商売仲間から頼まれた仕事の一つであることには変わらない。けれどどこか役得感を感じながらバッツは鼻歌交じりで店の裏手へと回り込む。すると、勝手口の前に人影が見えた。

「?スコール?」

そこにはシンプルなコートを纏い、顔を隠すかのようにマフラーに顔を埋めたスコールがいた。ただし、背格好と佇まいでバレてしまっていたのであまり意味がないようであるが。

「どうした?いつもなら店の玄関を使うのに」
「不在のようだったので待たせてもらおうと思ったのだが……人通りが気になったからこっちに移動した」

スコールと出会った時、彼はファンと思われる女性たちにつけられ、ここへと逃げ込んできた。多分今回もそれを恐れたのであろう。人気が絡む商売は本当に大変だなとバッツは小さく笑った。

「そっか。寒い中待たせちまったな。少し寄っていけよ?コーヒーくらいご馳走するよ」
「いいのか?」
「おう。スコールはこの店の常連さんの一人だからな!それに、今日はいいものがあるんだ!」
「はぁ……まぁあんたがそう言うなら」

小首を傾げつつ応じるスコールにバッツは笑うと勝手口を開け、店へと招き入れた。

「今日は定休日だから好きなようにくつろいでくれよ。コーヒーはブラックでいいか?」
「ああ、頼む」

カウンターに座りながらこくりと頷くスコールにバッツは了解と笑みをこぼすと二人分のコーヒーを準備し始める。
やがて店内に香ばしい香りが漂い、二つのカップにはフチを金色に光らせるコーヒーがなみなみと注がれていく。

「はい、どうぞ」

スコールの目の前にカップを出し、バッツは自分の分のコーヒを手にとると早速口に含む。外を歩いてきて冷えた体にはコーヒーと室内の温かさが沁みる。
ほっと一息つきながらバッツはカップに口をつけていると、スコールがじっと視線を一点に集中させている。視線の先は渡された試食が入った箱であった。

「……タイクーンの菓子か?」
「お、気になっているようだと思っていたけど、店を知ってるのか?」
「アル……社長とマネージャーがここのケーキや菓子を好んでいるんだ。店のロゴが特徴的だから覚えていた」

そう言うスコールの視線は洋菓子店タイクーンのロゴ、飛竜に注がれている。白地の箱に青みがかった銀色に色づいた飛び立つ竜の影のロゴは創業時からずっと同じものを使っており、店の味もあってこの近辺の大人も子供もすぐにわかるものであった。
幼い頃、両親が時折自宅用に買ってきた焼き菓子やケーキの箱や紙袋に刻印されている飛竜のロゴからタイクーンの菓子だと見抜いて喜んだことはバッツにとっては懐かしい思い出であった。

「確かに飛竜のロゴは特徴があるし、長く使われているからなぁ。ここのケーキ、実はこの店にも置かせてもらってるんだよ。その関係で新作の試食を頼まれたんだ」

そう言いながらバッツは預かってきたケーキの箱を開く。中からは二、三人前サイズのブッシュドノエルと苺とクリームがふんだんに使われたケーキがふた切れ鎮座していた。

「ブッシュドノエルとショートケーキか?」
「おお。なんでもブッシュドノエルはクリスマスシーズン用でこっちのケーキは普段出しているショートケーキとはまた違う今季限定のものらしい」

バッツは自分とスコールの分の皿を取り出し、苺とクリームのケーキを一切れずつ乗せる。
ブッシュドノエルの切り分けは、さすがに二つは多いかもしれないと気持ち小さめに切り、追加で皿に乗せた。薄めに切ったためか、先にのせたケーキにブッシュドノエルが寄りかかってるような盛り付けになってしまったが試食なのでご愛嬌ということにしておく。

「ほい、どうぞ」
「?試食を頼まれたのはあんたなのに俺も食べていいのか?さっき箱について聞いたのは催促をしたわけではないのだが……」

目の前に出されたケーキをじっと見つめながらスコールが問う。きっちりした性格の彼にことなので試食とは言えコーヒーだけじゃなくケーキまで出されることに抵抗があるのかもしれない。

「まぁ頼まれたのはおれだけど、不特定多数にそうするわけじゃないからいいだろ。それに、お前は割とはっきり意見を言うタイプだからな。モニターは多いに越したことないって」

幼馴染達はバッツ以外試食してはいけないとは言っていない。これは自分を信頼し、任せたからなのだろうとバッツは考えている。
スコールのことを気に入ってはいるが、甘いものが極端に苦手だったり、あまり自分の意見を言わないタイプで試食に不向きであればこのようなことはしていないだろう。
好意を持っているからではなく、力になってくれそうだと思ったからそうしているのだ。
そこは洋菓子店の姉妹との関係と似通っているとも思う。

「……食べたら感想を言わないといけないということなんだな」
「そう。どの点が美味いとか、食べづらく感じるとか率直に言ってくれることを期待してるよ」

スコールはケーキの皿とバッツの顔を交互に見比べるとやがてわかったと頷いた。
その反応にバッツは満足そうに微笑むと2人してフォークとケーキの皿を手に取る。
さて、まずはどちらからいこうかとバッツは悩む。

(……チョコクリームのブッシュドノエル……いや、ここは苺の方にするか)

そう決めて苺のケーキを一口大に切り分ける。
スコールはさっさとどちらを食べるか決めていたようで、味をじっくり品定めするかのように咀嚼している。手元にケーキは苺の方が減っており、どうやらバッツと同じく最初はこちらと決めたようであった。

(こりゃ遅れを取っちゃいけないな)

そう思いバッツは口にケーキを運び、舌で味を、歯で食感を味わう。
最初に感じたのはクリームの甘さと滑らかな食感であった。
今回のクリームはタイクーンが売りにしているミルク感のある生クリームではなく、ホワイトチョコを使ったクリームだ。生クリームに比べてやや食感は重いがその分ホワイトチョコ特有のコクが感じられる。使われている苺がホワイトチョコのクリームの重さを和らげるのに一役買っている。甘いクリームの中にある苺の酸味と香りが口内を爽やかにしてくれているのだ。
ふわふわのスポンジケーキもクリームに合わせて甘さが控えめのようであった。

(なるほど。苺と見せかけてクリームが主役のケーキってわけか……タイクーンは生クリームがめちゃくちゃ美味いけど、今年はあえて別のクリームのケーキを出したんだな)

この近辺では老舗の有名洋菓子店と評判であるがそれに甘んじることなく時代に合わせて成長していこうとする気概が伺える。
こりゃうちの店も負けていられないなとバッツは密かに意気込んでいると、スコールが口を開いてきた。

「……クリームがいつもの生クリームと全然違う……ホワイトチョコのクリームか?」
「ケーキの情報を与えていないのによくわかったな。なんでもホワイトチョコのクリームに合わせてケーキの上は生の苺に、中の苺はコンフィにしたらしい。少し甘酸っぱい仕上がりにしているらしいからクリームは甘めにしたんだとよ」
「……なるほど。確かに甘酸っぱさがあるからこその甘さだな」
「だろ?上に乗っている生のイチゴは軽く粉砂糖をふりかけているから雪っぽくていいよな」

ホールでの状態を見ていないから想像であるが、冬のシーズン限定という謳い文句に合わせて降り積もる雪をイメージして作っているのだろう。
これは間違いなく売れると思う。

「試食とか言っていたけどだいぶ完成されているな。あとは細かい調整くらいか?多分イチゴのコンフィの食感くらいかな?上に生のイチゴが使われているからこっちはあとちょーっと柔らかくしてもいいんじゃないかなとおれは思った。スコールは?」
「俺は……悪い、ただ美味いとしか思わなかった。ただ、普段のタイクーンの生クリームのケーキにはない目新しさがあったのがよかったと思った。この時期はクリスマスに正月と大人数で過ごす行事が控えているから食べ比べもできたりしていいと思う」
「はは。そう思ったということはパティシエの挑戦が成功したということだろうな。毎年冬季限定のケーキも生クリームが主役で果物や土台のスポンジを変えたものばかりだったからな」

バッツはそう言いながら朗らかに笑うと次はブッシュドノエルの試食に取り掛かかろうとしたがスコールの様子が少しおかしいことに気付く。彼は食べかけのショートケーキを眺めながら何かを考えているようであった。

(何かケーキに気になる所でもあったのかな?いや……来た時点でいつもと少し違ったか?)

いつものスコールならバッツが不在であるなら携帯に連絡を残して立ち去るか、時間を置いてやってくるかのどちらかであった。わざわざ裏口にまでまわって帰ってくるのを待っていたのは初めてである。
何かあったのだろうか?そんな疑問が浮かび、バッツは迷うことなくスコールに問うた。

「今日はどうしたんだ?」
「何を言ってる?」
「ちょっといつもと様子が違う気がしたからさ。なんとなくだけど」
「……少し疲れているだけだ」
「そう?」

スコールが何かを言い淀んだように見えたのでバッツは小首を傾げる。
言いたくないのなら無理に言う必要はないが、若いが故に抱え込んでしまうこともあるだろう。
ただ、それで無理に聞こうとするとこじれてしまう可能性もあるので強くは出れない。
さて、どうしたものかとバッツは考えようとしたが、考えるよりも先にスコールの方から話しかけてきた。

「いや、嘘を吐いて悪かった。少し悩んでいるんだ」
「ふむ。おれでよければ聞くぞ?」

話しやすいように気軽な感じを装い聞いてみる。するとスコールは少し考え込んだ後に決心がついたのか静かに口を開いた。

「人から愛され続けるにはどうすればいいのかと思っていてな……」
「へ?それって……恋のなや……」
「違う。仕事の話だ」

即座に訂正される。なんだ違うのかとバッツは小さく笑うとスコールが一瞬不機嫌そうな顔をしてきたので慌てて「言い方がややこしい」と言い訳をしてなんとか不機嫌を納めてもらった。
スコールが気を取り直して話してきたのは自分のモデル業のことであった。確かに長く続けるなら人から愛されるのは大事で恋愛とはまた違うとバッツはこっそりと納得する。
スコールが話した内容は、最近仕事はそこそこ順調ではあるものの、それは新人であるが故に注目されているからで、目新しさがなくなると需要も落ちていくのではないかと気になっているとのことであった。

「モデルの世界は水物だからな……だから新しさで注目されている今から自分の位置をしっかりさせていきたいと少し悩んでいたんだ」

コーヒーを少しずつ飲みながら話すスコールにバッツはふむ、と腕を組んで考える。
飲食店経営をしているバッツと芸能の世界で仕事をしているスコールとでは立場もやり方も異なるのでモデルについてのアドバイスなんてまず無理な話である。しかし、人生を一足早く歩いて仕事をしている者として、一人の友人としてなら励ましくらいはできないものかと考える。
視線を彷徨わせているとちらりとタイクーンのケーキの箱とそのロゴが目に入り、バッツはこれだと頭の中で考えをまとめるとスコールに言葉を返しはじめた。

「んー難しい問題だよなぁ。けど、焦るのは禁物ってことは言っておくよ」
「それは……わかってはいるが」
「まぁ気持ちが急くのはわかるよ。けど、タイクーンのケーキを食っているとおれやお前なんてまだまだなんだから余計にそういうことになるのかなとは思った、かな?」
「はぁ?」

眉を寄せるスコールにバッツは小さく笑うとタイクーンのケーキの箱を指差した。

「ここのケーキって生クリームが売りになり始めたのは、おれがちっちゃい頃だったんだ。店自体は生まれる前からあったのにな。その頃も評判は悪くない、普通の店だったらしいんだ」

バッツが生まれる前や幼い頃の情報は人伝で聞いた物であるが、洋菓子店タイクーンは二十年近く前までは普通と評される店であったらしい。美味いは美味いがあくまで普通の域。近所に住んでいる人間がちょっとした祝いの時や贈答などで菓子類を買いにくるくらいであったとのことであった。

「今の店主が主力である生クリームのケーキを出して、それが人気になってそこから色んな種類の菓子を作っていったけど主力はずっと生クリームを使ったケーキだった。多分店の評判を確かなものにするためにあくまで主役はこれって定めたんだろうな。それで他の菓子も徐々に固めていって評判の老舗洋菓子店になった。その長い年月を経て、主力とはまた違うクリームでの売りを生み出そうとしているんだ」

今の店主が他店に修行を積んで戻り、先代と代替わりした後、主力の商品を見直し、再開発されてヒットしたのが現在タイクーンが売りにしている生クリームのケーキであった。
バッツが物心ついた頃にはタイクーンは近所どころか離れた場所に住む者でも買い求めにくる有名店となっており、その時も生クリームを使ったケーキが一番人気であったことは幼いながらに覚えてる。他のケーキも美味いがやはりタイクーンと言えばこれと推していた者も少なくはなかった。
主力を据えたまま、他も地道に確実にアップグレードしていったのだろう。そうして年月をかけて成長したタイクーンはどの菓子も美味いと評判になった。そこで今度は今まで主力にしていた生クリームとは別のクリームの商品を出そうとしているのだろう。
それができるのは今まで培った技術や自信、向上心などからくるものなのだろうとバッツは思う。

「それができるようになったのは焦らずじっくり着実にを大事にしたからだとおれは思うよ」
「長く続けるなら……か」
「そうそう。それ言ったらおれもまだまだ半人前なんだ。親父達が残したものでようやく店をやっていけてるんだからな。だから、今は焦らずに親父達の方法を踏みつつ少しずつ自分なりのやり方を固めていくつもりさ。親父達に頼りっぱなしにはならないようにも、この店を長く続けるためにもな……説教臭かったかな?」

三歳しか差がないが、どうもスコールの前ではどこか年長者をしてしまうとバッツは己に笑う。
見た目だけならスコールの方が大人っぽく見えるのだが、接していると自身に比べて青い部分が見え隠れする時があるのでなんとなく兄さん風を吹かせたくなる。
一人っ子だったから頼りにしてもらえる年下がいるのが嬉しいのだろうか?そんな風にも思えてしまう。
スコールはバッツの話したことを反芻しているのか、しばしの沈黙の後にゆるゆると首を横に振った。

「いや……根っこが似ているから聞いていて少し勇気をもらった」
「そう?まぁおれがもう少し頼もしかったらよかったんだけど、おれもまだまだ若輩だからさ。ステージは違えどお互い頑張ろうぜ」
「そうだな」

少し心が軽くなったのか、瞳に明るいものが宿るスコールにバッツはホッと息を吐く。
こう言ったところが年齢相応の少年だと微笑ましく思ったところで、先ほどスコールが出ていたCMを見かけたことを思い出す。
この感想を伝えると更に励みになるだろうかと思い、バッツはその話題を口にした。

「そうだ。全部の雑誌やCMは見ていないけどさ、おれ、スコールのカメラ越しからでも伝わってくる強い視線が好きだぞ。最近出てる時計のCMだって表情や仕草、ポーズで商品の魅力を伝えつつも確かならしさがあってさ。素人だからそれがいいのか悪いのかはわからないけどおれは好き。これは伝えておかなきゃな!」

これからもたくさん悩む事があるかもしれないが、そんな時に自分が言っていたことを思い出して励みにしてもらいたい。そんな願いを込めつつバッツは話す。
普段は客として、友人として接することが多いのでモデルとしてのスコールの話をしたことがないので不思議な気もするが。
そんな風に思い、スコールの反応を待ったが反応がない。何かマズかったところがあったのだろうかとバッツは小首を傾げてスコールを見ると、彼は目を見開き、口を真一文字に結んでいた。そしてほのかではあるが頬が若干淡く色づいている。

「スコール?」

スコールの目の前でブンブンと手を振り、顔を覗き込む。
そこでようやくバッツの存在に気がついたのか、スコールは弾かれたようにバッツから離れ、取り繕うかのように試食のケーキの皿とフォークを掴んだ。

「っ、なんでもない!試食の続きをする!」
「へ?急だな?そんな慌てて食べると味わかんなくなるぞ?」
「うるさいっ!」

普段の彼らしからぬ豪快な勢いでケーキを食べ始めるスコールに、バッツは首を傾げて自分の分を手に取る。
スコールはそんなにケーキが食べたかったのか?そう言えばタイクーンの話をしていたから食欲がそそられたのかもしれない。
そんな予想をしながらバッツは自分もケーキの試食を再開する。今度はブッシュドノエルの方を食べてみるかとフォークで一口大に切り、口に放り込む。
先ほどのホワイトチョコのクリームのケーキとは違い、こちらのクリームは甘さの中にチョコレート特有のほろ苦さがあってこちらはこちらで美味かった。

(今年のチョコクリームは甘さを少し控えたのか。冬季限定のケーキはクリームが甘いからそれに合わせたのかな?子供はチョコが好きだけど、これは大人も好きな味だ……だから食べきりの小さいサイズにしたのか。確かにスコールが言っていた食べ比べをするってのもいいかもな。おれ、一人暮らしだけど)

スコールを見ると彼は一気に平らげる勢いでケーキに食らいついている。あの勢いじゃ味も何もわからないだろうとバッツは笑うとおかわりにと残りのブッシュドノエルをまた小さく切り分ける。
そう言えばケーキを切り分けて誰かと楽しむのはかなり久しぶりであることを思い出す。一人暮らし故に自分で食べる分は今までカットのものばかりであった。

(流石に年末年始は難しいだろうけど、スコールを誘ってこんな時間を過ごすのもいいかもな。二人なら食べ比べもできるし、一人で食べるよりも楽しいよな)

そんなことを考え、バッツはスコールが落ち着いたら家に来ないかと誘ってみるかと軽い気持ちで考える。
バッツのその誘いの後にスコールが再び硬直し、ケーキをかっ喰らったのは別のお話である。



ーーー
スコールが所属している事務所の社長とマネージャーはアルティミシアとゴル兄さん(元モデルとそのマネージャー)の設定だったりします。
この話のスコールはバッツさんのことがなんとなく気になっているものの、その気持ちに気付いているのかいないのか(汗)バッツさんはスコさんのことを可愛い弟分くらいに見ているのか、けど結構気にかけているので実はかなり気になっている方なのかもしれない……曖昧な関係ですね。(書いている本人すらもわからないという……;;)


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