happy choice (one more time!)

前作「happy choice」の続き的なものです。
話の繋がりがわかりやすいようにotherに置いていますが思いっきり85です。

***

クラウドに勝手に注文されたアイスクリームとコーヒーを受け取ったスコールは眉間にシワを寄せ、適当な場所へと移動するとそこに座り込んだ。

(くそ!一体なんなんだ!)

トレーに乗ったクッキーアンドクリームにホイップクリームと切ったイチゴとソースがトッピングされたカップにアイスコーヒ。間違いなく美味いとは思うが自分が頼んだものを勝手に変えられた上にからかわれたことが面白くない。バッツに対して淡い思いを抱いていることがクラウドにバレていたことに動揺してしまい文句の一つも上手く言えなかった。そのフラストレーションがじわじわと腹の底からこみ上げてくる。
アイスクリームとコーヒーには罪はないが手をつけず、まるで仇のように睨んでいると突然バッツが背後から現れた。

「よっ!スコールも頼んだんだな?」
「……ああ」

頼んだのはほぼクラウドであるがと脳内で突っ込みつつ答えると、バッツは自分が頼んだアイスクリームを片手に横に座り込み、トレーの上をまじまじと見つめた。

「おっ!スコールはアイスに色々乗っけたんだな?美味そうだ」

三種類のアイスを食べながら話すバッツにスコールは他人の分まで美味そうだとよく言えたものだと内心呆れながらアイスクリームに手をつけ始める。事情を知らない、朗らかな雰囲気と口調のバッツが横にいるといつまでも一人で怒っているわけにはいかないだろう。
気分を変えるためにプラスチック製の匙でアイスクリームとイチゴを掬うと口へと運ぶ。ミルク感の強いアイスと生クリームの柔らかい甘さの中にある、砕いたココアクッキーのほろ苦さとイチゴとソースの甘酸っぱさが味を引き締める役となっている。モーグリが勧めてきただけあって美味いがそれがクラウドにもたらされたものだと思うと複雑であった。
スプーンをゆっくりと進めるスコールにバッツは自分のアイスクリームを食べつつも視線をスコールから外さなかった。

「どう?美味いか?」

どうやらスコールが食べているアイスクリームが気になっているらしい。自分の分を手にしておきながら他人の物まで気にしているのかとスコールは内心呆れる。

「……普通に美味い」

元の世界でアイスクリームがある身としては珍しさはない。美味いことには美味いがスコールにとってはアイスクリームはそれ以上でもそれ以下でもない。むしろ不味いアイスクリームの方が珍しいと思っている。けれどそこは世界の差。今回アイスクリームを生まれて初めて食べるバッツはスコールが思っている以上に味、食感、見た目に感動していたらしい。

「普通って言うくらいなんだからスコールの世界では結構気軽に食べられるものなのか?だとしたらすごいなぁ」
「子供の小遣いでも食べられるものだ」
「そっか。そんなに身近なものなんだな。スコールのカップ、アイスと一緒に果物やクリームが入っていて美味そうだから通っぽいなと思っていたから納得だ」
「別に通というわけではないが……」

確かにスコールにとってアイスクリームは珍しいものではないが頻繁に食べると言うわけではない。それにこのデコレーションはモーグリの提案をクラウドが勝手に注文したものである。しかしそれをいちいち説明するのも面倒なのでそのあたりは黙っておくことにしてアイスを食べる方の再び専念する。
スプーンを進めるスコールに対しバッツは自分のアイスクリームをすでに食べ終えており、じっとスコールの手元のアイスクリームに熱い視線を注いでいる。彼の視線から何を考えているのかスコールは察すると溜息を吐きつつカップのクリームにスプーンを刺し、それをバッツの方へと差し出した。

「少し食べるか?」
「お、いいの?」

バッツの台詞は遠慮がちではあるが表情は待ってましたと言わんばかりである。
言葉と表情のギャップにスコールは内心苦笑すると自分のアイスクリームのカップをバッツに手渡そうとしたがそれをする前にバッツはスコールに向かって大きく口を開けてきた。

「あーん」
「は?」

どうやら口に放り込んで食べさせて欲しいらしいと察する。

「……自分で食べられるだろう?」
「や、おれが手にしたら食べすぎそうだからさ。スコールが分けても大丈夫な量に調節してくれるといいかなって思って」
「そう、か?」

バッツの言い分にスコールは食べる量くらい自分で制すればいいだけだろうと思ったが珍しいものであれば普段食べるものに比べて難しいのかもしれないと考えなおす。
全部ではなくほんの数口バッツの口に運べばいいだけだ。簡単なことである。しかし……

(なんだろう……緊張するな)

目の前で口を開けながらアイスを待つバッツはまるで親鳥から餌を与えられるのを待つ雛鳥のようである。しかし、意中の相手に物を食べさせるという行為は相手の行動を制しているためか何となく後ろめたいような気持ちになってしまう。

(バッツが了承しているなら……)

スコールは心の中で自分に言い聞かせるとアイスクリームをひと匙すくう。ようやくご相伴にあずかれそうだとバッツは悟ったのか瞳を閉じてスコールの方へと更に顔を寄せる。完全に気を許しているようであった。
瞳を閉じ、口を開けて待つバッツは普通に見れば味見待ちでなんとも思わない筈であるのにまるで口づけを待つかのようにスコールには見えてしまい、はっきり言って目の毒であった。
眺めていたい筈のなのに目を逸らしたい。けれどそれは勿体ない。早くバッツに食べさせて終わらせたい気持ちとわざと焦らしてもっと彼の顔を眺めていたい気持ちが混ぜこぜになりスコールは手元を狂わせてしまった。

「あ」
「わ、つめた!」

バッツの口に入る筈だったアイスクリームは唇をかすめて地に落ちてしまった。

「す、すまない」

スコールは慌てて謝罪するとバッツの衣類に落ちたアイスクリームが付着していないかを確かめる。アイスクリーム一口分は駄目になってしまったが幸いにもバッツの衣服が汚れてはいなかった。悪かったと再度謝罪をするスコールにバッツは別にいいと朗らかに笑い返した。

「おれが食べさせてって頼んだんだから気にすんなよ。それに、ちょっと口元についてるしな」

そういうとバッツは舌を出し、唇についたわずかなアイスクリームを舐めとりだした。ピンク色の舌先がちろりと口端から出て、ゆっくりと唇の上を滑る。上唇から下唇へと一周し、綺麗に舐めとる様はジタンあたりが見れば笑いながら「行儀が悪いなぁ」と一言で片付けていたかもしれない。しかし、そこは想い人というフィルターが掛かっているスコールからすると全然別の感想を抱いてしまう。

(なんか……色っぽくないか?)

口元と舌先に意識を集中させているためかバッツの瞳は伏し目がちになっている。普段快活な様子のバッツとは違い、憂いを帯びているかの様にさえ見えてしまう。それに唇を舐めとる仕草が加わると艶っぽさが増し、良からぬ思いを嫌でも抱いてしまう。

「バ……」

無意識に名を呼び、バッツへとスコールが手を伸ばそうとしたがバッツの背後からモーグリが突然現れ、妄想の世界と現実の世界が曖昧になっていたスコールを現実へと引き戻した。

「お兄さんお兄さん」
「お、さっきのモーグリか?」
「クポッ!残りの期間限定フレーバーをどうするか聞きに来たクポ!」
「わざわざ聞きに来てくれたのか?ありがとなー」

パッと表情を変え、モーグリと話し出すバッツにスコールはそっと手を引っ込める。真昼まで、しかも近くに仲間達がいるのにバッツの意思を無視して手を出していたかもしれないと思うとモーグリが登場してくれて助かったとこっそり安堵の息を吐いた。

「お兄さん、残りの期間限定フレーバーが気になっていたみたいだけど、アイスクリームはたっくさん食べるとお腹を壊してしまうかもしれないクポ!だからお持ち帰りもあることを伝えようと思ってやって来たクポ!」
「持ち帰り?けどアイスクリームって溶けやすいんだろ?」
「クポクポ!そこはこの特製のお持ち帰り用の箱の登場クポ!」

スコールのことなど気にせず会話を進めるモーグリとバッツ。モーグリはバッツに屋台と同じ配色の箱をどこからともなく取り出す。

「これは冷気の魔法を応用して作ったお持ち帰り用の箱クポ!アイスクリームを中に入れて蓋を閉じておくとアイスクリームを溶けさせることなく保管しておくことができるクポ!」
「へぇーそんな便利なものがあるのか。けど持ち帰りまで用意してもらっていいのか?」
「クポ!今回は女神様からご馳走してほしいと頼まれたから満足するまで味わってほしいクポ!」

モーグリはそう言うとバッツにメニュー表を広げて見せ、持ち帰りをするのなら帰る頃に合わせて用意をするとまで言ってくれた。モーグリの気遣いにバッツは礼を言うとその言葉に甘えることにしたらしく、残りの期間限定フレーバーを詰めてくれと頼んだ。

「アイスクリーム、三つとも美味かったから他のも食べてみたいと思っていたんだ。ありがとな」
「クポクポ!お気に召した様で何よりクポ!ただ、魔法は半日しか持たないから持ち帰ったら、家の冷凍庫に移し替えるか今夜にでも食べて欲しいクポ!」
「よしきた。じゃあ持って帰って夜にでも食べようかな?帰ってからのお楽しみだ」
「クポ!オススメの食べ方はお風呂上がりクポ!火照った体に冷たいアイスはまた格別クポよ!」
「そりゃいいな!じゃあよろしく頼むな!」
「かしこまりクポー!」

モーグリはくるくると踊る様に飛ぶとメニュー表を閉じ、仲間達がいる屋台の方へと飛んでいこうとする。そこでバッツは何かを思いついたらしく、モーグリを引き止める。

「あ、そうだそうだ!モーグリ!それとクッキーアンドクリームのアイスクリームも追加しておいてくれ!」
「クポ?定番メニューも気になったクポ?」
「いや、こいつの分だよ」

突然バッツに指を指され、スコールは驚く。

「俺は別に……自分の分は今食べているので十分……」

そう言いかけて断ろうとしたところでバッツはモーグリに見えないように、さっと人差し指を自分の唇に軽く当てる。黙っておけと言うことなのだろうとスコールは察して大人しく従うとバッツは笑みを浮かべ、モーグリの方へと向き直って追加の注文を改めて頼んだ。それをモーグリは快く了承すると今度は呼び止められることなく屋台の方へと戻っていった。
モーグリがこちらの声が聞こえないくらい離れたことを確認するとスコールはバッツに何故自分の分の追加を頼んだのかと問いかける。

「おい、何故俺の分まで……」
「だってスコールのアイス、おれまだもらってないもん」
「それなら今ここで……」
「わかってないなぁ」

バッツはそう言うとスコールの耳元に口を寄せる。

「アイスクリーム、食べさせてくれるんだろ?」

熱い吐息と共に吐き出された台詞にスコールは弾かれた様にバッツを見る。するとバッツはペロリと舌で唇と舐め、再びスコールの耳元で囁いた。

「中断してしまった続き、期待してるよ」

そう言うと踵を返し、スコールの元から離れていく。一瞬見えたバッツの顔は挑発的な台詞とは別に頬が赤く染まっていた。
色気付いた表情と台詞からバッツはスコールが先ほど不埒な思いを抱いていたことを見抜いていたのだろう。見抜かれたことは恥ずかしいがそれ以上に彼が続きを求めてきたことを自覚していけばしていくほど嬉しさが混じり、広がっていく。

(もしかして、バッツも期待していたのか?)

だからあんな風に、珍しく挑発的な態度をとったのだろうか。言った本人も後で頬を染めるほど恥ずかしくなるほどの。
スコールは自分の頬が熱くなっていくのを感じ、誤魔化すかの様に手に持っていたアイスを掬い、口に入れる。少し溶け始めたアイスクリームが何故か先ほどよりも甘く感じてしまう。
まるで今の自分達の気持ちの様だとスコールは思う。
熱くなっていく顔と口の中に広がるアイスの冷たさが心地いい。
火照った体に冷たいアイスは格別だと言っていたモーグリを思い出し、今夜は色んな意味で甘い時間を過ごせそうだとスコールは期待に胸を膨らませる。
薄巻いていたフラストレーションは綺麗さっぱり無くなっていたのであった。



***
アイスクリームの話脱線編。
スコさんは神経質ですが、嬉しいことがあるとそちらに感情が引っ張られて怒りや不満が雲散霧消してしまう単純さがありそうな気がしたり(あ
バッさんは欲に対しては基本スコさんの気持ちを優先させていそうな気もします多分。


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