happy choice

ある休息日のお八つ時、集まったコスモスの戦士達の目の前に揃いのエプロンを纏った数匹のモーグリと淡い色合いのピンクとブルーのペンキで綺麗に縞模様に塗られた大きな屋台が突然目の前に現れた。
戦士達が驚き、モーグリ達と屋台を交互に見ているとモーグリ達は目の前でペコリと頭を下げ、挨拶と共に説明をし始めた。

「戦士の皆さん!こんにちはなのクポ!今日は秩序の聖域の女神様からの差し入れを持ってきたクポ!日頃頑張っている戦士の皆さんに冷たくて甘くて美味しいアイスクリームを沢山用意したクポ!みんなメニューを見て好きなのを選んでほしいクポ!」

代表格らしいモーグリの説明に残りのモーグリ達もウンウンと頷き、アイスクリームの種類が書かれてあるメニュー表を取り出し、戦士達に配っていく。モーグリ達はご丁寧に戦士達が来た世界の言語に合わせたメニューを持ってきているらしく、デザインは同じではあるが文字が違うものを数枚取り出すと、読めるものはどれかと尋ねて手渡した。
メニューを受け取ったもののアイスクリームを知らない何人かの戦士は不審な目でメニューを眺めたが、知っている者が冷たい菓子だと簡単に説明した。

「乳やその中に果物を混ぜてを冷たく滑らかにしたものか……それは珍しいな」

光の戦士がそう呟き、一匹のモーグリに沢山あるアイスクリームの中でどれが美味いかを聞く。モーグリはくるくると踊るようにその場を回りながらどの種類もそれぞれ美味いからどれが秀でているかは比べられないと言いつつも、アイスクリームを知らないらしい光の戦士に食べやすいのはどれかを一緒になって考えてくれた。

「お兄さん、アイスクリームは食べたことがないのなら、最初は王道のバニラをシングルコーンでいかがクポ?」
「ばにら……こーん?それは一体?」
「クポッ!あまーいミルクのクリームの中にバニラビーンズといういい香りのスパイスの粒が練りこまれているものクポ!コーンはワッフルをうすーく焼いて巻いたようなものと思って欲しいクポ!こうしてコーンの上にクリームを乗せると完成クポ!」

モーグリはすぐさまディッシャーでバニラアイスをすくうと円錐型の中が空洞になっているコーンを逆さまにして上に乗せ、光の戦士に手渡す。光の戦士はそれを受け取ると、周りの戦士達を見回し、「先にいただく」と小さくクリームを齧ってみる。
アイスを知っている戦士達の言った通り、牛の乳の味が強く感じられる甘いクリームは滑らかでとても冷たい。口の中に広がり、溶けるクリームの濃厚な甘さとバニラビーンズのほのかな香り。その不思議な食感と美味さに二口、三口と食べ進めると口の中だけに冬が訪れたかのようにひんやりとしてくる。
今まで食べてきた菓子は焼いて作られたものばかりだったので、冷やして作られた菓子の魅力に光の戦士は戸惑いながらも一言「これは……とても冷たいが美味だな」とポツリと漏らした瞬間、アイスクリームに怪訝な表情を浮かべていた仲間達が食い入るようにメニューを眺め、モーグリに説明を請うた。

「すまない。俺もアイスクリームは初めてなのだが、どれを選んだらいいだろうか?」

メニュー表のイラストと説明文を見ながらフリオニールがモーグリを呼ぶと、モーグリは一緒になってメニューを覗きこんできた。

「お兄さんもアイスクリームは初めてクポ?それなら最初のお兄さんとは違ってチョコレートなんてどうクポ?」
「ちょこれーと?」
「こちらも勿論甘いけど、甘さの中にほんのりほろ苦さが混じっていてそれが甘みをより一層引き立てるクポ!バニラに比べると口あたりはほんの少し重みがあって美味しいクポよ!」
「なるほど……じゃあそれにしてみようかな?」
「クポ!一口にチョコレートと言っても種類はいくつかあるクポ!気になるのを選ぶといいクポ!」

モーグリはそう言うとチョコレートアイスが数種類が掲載されているページを開き、フリオニールに指差ししながら一つ一つ説明していく。チョコレートアイスの種類だけでも数が多いので説明されても把握しきれなかったが、とりあえずは同じチョコレートアイスでもナッツや果物、砕いたらしい菓子類が色々入っている方が色々味わえてお得なように思えたのでフリオニールはそれを指差した。

「このチョコレートにナッツとましゅまろ?が練りこまれているものを頼むよ」
「クポッ!お兄さんお目が高いクポ!じゃあ食べ方はどうするクポ?コーン?それともカップ?」

ディッシャーを手にしつつ聞いてくるモーグリにフリオニールは再び考えていると、隣にいたオニオンナイトの少年も何やら考え込んでいるのが目に入り、そちらに視線を向けた。

「うーん……キャラメルリボンって味もだけど名前の響きも可愛すぎるかな?リボンってついてるとな……」

年頃らしい彼は味以外のところにも敏感なようらしい。少年は他の戦士達に比べて年齢が下である為、子供のように見えることを気にしていることがあった。その様子を微笑ましく眺めていると、少年は考えた末にメニューをモーグリに指差す。

「僕はこのコーヒー味のものにするよ。苦くはないんだよね?」
「クポッ!コーヒーの風味はするけれどちゃんと甘いクポ!他のものに比べて甘さは少し控えめだからトッピングに砕いたクッキーはいかがクポ?」

モーグリはそう言いながら数種類のトッピングを見せてくる。オニオンナイトはそれを少し眺めた後、任せるよとモーグリに返した。

「僕もアイスクリームは初めてだからね。君のオススメに従うよ。じゃあトッピングと……コーンで。全部食べられるのって捨てるものが少なくていいよね」
「クポッ!了解クポ!」

言い訳のようにコーンを選ぶオニオンナイトにモーグリは元気よく跳ねるとアイスクリームを用意しはじめる。
モーグリとオニオンナイトのやり取りを見ていたフリオニールは確かに全部丸ごと食べられるコーンの方が得なようだと納得すると自分もコーンにしてくれと注文を待っていたモーグリに伝えた。

フリオニールとオニオンナイトの注文が終わると後ろでメニューを持って待っていたセシルが近くにいたモーグリに食べ方について質問をした。

「アイスクリームを乗せる器のコーンとカップは食べられるかそうでないかの違いなのかい?」
「大体あってるクポッ!けどカップは器が食べられない代わりにすこーしだけアイスの量をおまけしているクポッ!あとアイスは溶けやすいから、溶けて垂れるのを気にせず食べることができるクポッ!」
「なるほど……じゃあ僕はカップにしようかな?イチゴのソースかな?それが練りこまれているものを」
「了解クポッ!そうだ!カップで食べるなら温かい飲み物を一緒にどうクポ?コーンだと手に持っていないといけないけど、カップならトレーと一緒に提供することができるクポ!」
「へぇ。飲み物もあるんだね」

食べ方を勧めるモーグリにセシルはメニュー表を捲ると確かに数種類の飲み物が記載されていた。先ほど光の戦士が一口食べた時に「とても冷たい」と感想を零していたので温かい飲み物と一緒に食べて飲むのも良さそうだと判断した。

「じゃあ温かい紅茶をストレートで一緒に貰えるかな?」
「かしこまりクポ!戦士の皆さんに満足していただけるようにするのがモグ達が女神様に与えられた使命クポ!」
「ふふ。ありがとう」

胸を叩くモーグリにセシルはふわりと笑って礼を言う。モーグリは嬉しそうにくるくると数回回ると隣にいたもう一匹のモーグリに飲み物の準備を頼み、二匹でセシルに屋台と同じピンクとブルーの縞模様のカップに入ったアイスと紅茶が入った紙コップを用意し、トレーに乗せて手渡した。
セシルはそれを受けとると、次に並んでいたバッツが屋台の数種類のアイスクリームを品定めするかのように眺めながら話しかけた。

「なあモーグリ」
「クポッ?何かご質問クポ?」
「ああ。メニュー見たんだけどこの期間限定ふれーばー?ってやつは他のものと違うのか?」
「クポポ!期間限定フレーバーはその名前の通り期間限定のアイスクリームクポ!季節の果物を使っていたり、定番メニューとは違う少し変わった味のものが期間限定フレーバークポ!提供期間が終わっちゃうと次いつ食べられるかはわからないから気になるのなら試してみるといいクポ!」
「なるほどなぁー」

モーグリから期間限定フレーバーについての説明を受けているバッツの後ろでは、次の番であるティナがそのやり取りを眺めながらそわそわとした様子でメニューをもう一度開いた。

(色々な味があるのね……決めていたつもりだけど迷ってしまう)

つい数秒前までティナはチーズケーキ味のアイスにイチゴのソースが練りこまれているものとチョコレートチップが入ったアイスクリームの二種類にしようと思っていた。メニュー表からアイスは二種類以上頼んでもいいと書かれていたからだ。しかし、ここでバッツとモーグリのやり取りから期間限定フレーバーは定番メニューとは違い食べられる期限付きでそれを逃すと次はいつになるかわからないと聞いてしまい、迷いが生まれてしまったのだ。

(アイスクリーム自体今回が最初で最後かもしれないけど……もし次があってその時期間限定フレーバーが変わって食べられないのは……けどこれ以上はは多すぎるかしら?)

ちらりと周りを見渡せば、もうアイスクリームを受け取っているメンバーは一種類しか選んでいない。自分だけ数種類食べるのは少々恥ずかしい気もする。
ティナがメニューを広げながらちらりとバッツとモーグリの方を盗み見る。バッツも一種類だけしか選ばないのだろうか?だとしたら自分も種類をおさえようか?ティナがそう考えているとバッツは「よし決めた!」と手を叩き、モーグリに左から右へと指先で一を描くようにアイスクリームを指した。

「期間限定フレーバを今指差したやつとりあえず三つ!一人いくつまでって制限はないんだよな?」

バッツの注文にこっそりと様子を眺めていたティナが内心驚く。他の戦士達が一つに対して一気に三種類選ぶとは思ってもいなかった。この注文に対してモーグリには何と返答するのかと聞き耳を立てているとモーグリは勿論とばかりに額からぶらさがった赤い球体を揺らしながら大きく頷いた。

「クポッ!大カップでの提供なら一回に三つまでなら盛り付けOKクポ!お代わりも自由だけど、冷たいからお腹を壊さないように自分と相談して決めて欲しいクポ!」
「わかった!じゃあこれ食べて腹具合が大丈夫そうなら残りも食べてみようかな?とりあえず今のやつで頼むよ!せっかくだから他の期間限定も食べてみたいよなー」
「かしこまりクポー!お兄さん、期間限定アイスも定番に負けずどれも美味しいから気になってくれて嬉しいクポー!」

バッツの注文にモーグリはいそいそとした様子で先ほどのセシルに用意したものよりも一回り以上大きな、モーグリとアイスのイラスト付きのカップを取り出し、バッツが指差したアイスクリームを盛り付け始めた。
一人と一匹のやり取りを見ていたティナはもう一度メニュー眺めると意を決して頷き、すぐ近くのモーグリを手招きして呼んだ。

「クポッ!お嬢さんは決まったクポ?」
「うん。このチーズケーキとイチゴのものとチョコチップ入りのチョコ……と期間限定のシャーベットを」
「了解クポッ!すぐに盛り付けるから待ってて欲しいクポー!どれも美味しいからお楽しみにクポー!」

ティナの注文にモーグリは楽しげにくるくると回りながら注文が入った3種類のアイスを盛り付ける。モーグリからカップを差し出され、ティナがそれを受け取ると、バッツが同じデザインのカップを手にしており、二人の目があった。

「お、ティナも三種類選んだんだな?おそろいだ」

カップを顔の高さまで上げ、朗らかに笑うバッツにティナもまた自分のカップで口元を隠すかのように掲げた。

「うん。せっかくだから。バッツが頼んでいるのをみて私も……一つだけ選ぶことはできなかった」
「そっか。これだけあると迷ってしまうもんなー」

話しながら屋台から離れる二人。その後ろ姿を次に順番待ちをしていたクラウドとスコールが眺めていた。

「あの二人は三つも食べるのか……」
「別に好き頼んでいいだろう?しかし、控えめなティナがな……」

スコールの呟きにクラウドは素っ気ない風ではあったものの、普段からオニオンナイトの少年と共に気にかけているティナの嬉しそうな様子を内心喜ばしく思っていた。
バッツが先陣を切ったとはとはいえ、ティナが自分の望みを口に出し、それを実現させた。出会った時は自分自身を恐れ、内側にある何かを抑え込むかのように自己をあまり出すことをなかった少女が少しずつ前へと踏み出そうとしている。人によっては些細なことでもティナにとっては大きな一歩だろう。

「随分気にかけているようだな」

スコールの言葉にクラウドは視線だけそちらに向けると「相手と方向は違うがお前もだろう」と返した。その言葉に眉根を寄せるスコールにクラウドはわずかに口元に弧を描いた。
あまり自分のことを話しはしないがこの少年はわかりやすい。彼が普段から旅人の青年の背をよく見ていることは自分を含めて何人かの仲間はとっくに気づいているだろう。図星を突かれて年相応の反応を見せるスコールを微笑ましく思いながらクラウドは「お先に」と前を行き、屋台の前に立った。
沢山の種類のアイスをクラウドはさっと一通り眺める。甘いものは嫌いではないが今はどちらかというと喉を潤したい。セシルが先ほどアイスと飲み物を一緒に頼んでいたがそれに倣ってみようかとクラウドはメニューを眺める。するとメニュー一覧の中にちょうど自分の欲求を満たしてくれそうなものを発見した。

「モーグリ、このクリームソーダというのは飲み物とアイスを組み合わせたものなのか?」
「クポクポ!違うクポ!名前の通りクリームソーダ味のアイスクリームクポッ!お兄さん、飲み物の方が良かったクポ?」
「ああ。喉が渇いているからアイスクリームを食べつつ喉を潤せそうだと思ったのだがな……」

てっきりメロン味のソーダの上にバニラ味のアイスクリームが乗っているものだとばかり思っていた。それをアイスクリームのフレーバーにしてしまうとは。
最初考えていた通り、アイスクリームとは別に何か飲み物でも頼もうかとクラウドはページをめくろうとした時、モーグリはそれなら飲み物の中にあるソーダの上に好きなアイスクリームを乗せようかと提案してきた。のんびりな見た目に反して商売人らしく客の様子に敏感らしい。

「クポッ!ちょうど飲み物の中にソーダが数種類あるクポ!お兄さん、好きなソーダとアイスクリームを選んでくれたらモグが上にのせのせしてクリームソーダが完成するクポ!」
「メニューにないのにいいのか?」
「もっちろんクポ!乗せるだけだから気にしなくていいクポ!」
「そうか。じゃあ遠慮なく」

胸を張るモーグリの言葉にクラウドは甘えることにするとソーダとアイスクリームを改めて選ぶ。少し迷いはしたもののやはりこれだろうと最初から気になっていたクリームソーダ味のアイスクリームとメロン味のソーダを指差した。それを見たモーグリは大きく頷くとすぐに準備に取り掛かった。
注文が済んだクラウドは一旦落ち着くと、隣でスコールがメニューを開いているのが目に入った。それを他のモーグリが対応している。

「クポ!お兄さんは何がいいクポ?」
「バニラ……いや、クッキーアンドクリームをシングルカップで」
「了解クポ!注文は他にないクポ?トッピングも沢山用意……」
「いや、いい」

選んだフレーバーに合うらしいトッピングを勧めようとしたモーグリの言葉をスコールは遮る。どうやらシンプルな食べ方を好んでいるらしい。クラウドからみてこの少年は仲間の中では慎重な方で戦いでもそれ以外のプライベートなことでもあまり冒険をするタイプではないとは思ってはいたが。

「……せっかくコスモスからの差し入れなのだから好きに頼んだらどうだ?」
「は?」

普段通りの様子のスコールにクラウドは少々いたずら心のようなものが沸く。
突然話しかけられたスコールは驚きクラウドの方を向くと、クラウドはわずかに口角をあげてモーグリにスコールに勧めようとしていたものは何だと聞いた。

「クポッ!クッキーアンドクリームのトッピングは甘酸っぱいベリーのソースと切ったイチゴにホイップクリームをお勧めしているクポ!あとコーヒーやカフェラテと一緒に食べたりアイスにして上に浮かべるのもオススメクポッ!」
「なるほど」

説明ができて嬉しそうに話すモーグリにクラウドは頷く。それに対してスコールは無言であったが、纏っている空気から自分が食べるのだから好きに頼んでいいだろうと言いたげなのが伝わってくる。しかし、クラウドはどこ吹く風でスコールにボソリと呟く。

「好いている奴の好奇心旺盛な姿勢を少しは真似てみたらどうだ?話しかけるネタにもなるぞ」
「なっ!」

クラウドのつぶやきにスコールはわかりやすく固まる。その反応にクラウドは目を細めると勝手にモーグリにスコールのアイスにトッピングとそれとは別にアイスコーヒーをつけてくれと注文する。自分の勧めたものを頼まれて嬉しいのかモーグリはくるくると踊るように注文の品を準備し始めた。

「おい……」

自分の注文を変えられ、不満げな空気を纏うスコールにクラウドは出来上がった自分のクリームソーダを受け取ると「お先に」とさっさと離れてしまう。後ろからスコールの視線を感じるが振り向くことはしなかった。

(ジタンの苦労がわかった気がするな)

恋心を隠しきれずに洩れさせる少年と自身の色恋沙汰に疎い旅人に挟まれたしっかり者の盗賊の少年の苦労を感じ取る。ただ、普段澄ました顔をしている少年の一瞬狼狽えた表情をみれたのは中々面白かったなとクラウドは内心笑うと受け取ったアイスを手にして話しているオニオンナイトとティナの方へと歩いて行った。
一方文句を言う機会を逃したスコールにモーグリは能天気にアイスクリームのカップとアイスコーヒーを乗せたトレーを差し出す。

「はい、お兄さんの注文分クポ!美味しいクポよ!」

頼んだクッキーアンドクリームに生クリームとイチゴとソースが綺麗に、そしてしっかりとトッピングされていた。作り直せと言うのは流石にモーグリに悪いのでスコールは小さくため息を吐くと素直にトレーを受け取る。一応作ってくれたモーグリに礼を言うと脱力感を感じながらその場を離れた。それとは入れ違いで今度はジタンとティーダの二人が待ってましたとばかりに屋台のケースの方へと小走りで駆け込んできた。

「やーっと順番が回ってきたぜ」
「もう早く頼んで食べたいっス!メニューが多いから全部に目を通すのが大変だったよ!」
「な!みんなよくさっと注文できるよなー」

二人は明るくそう言うとメニューを開きながらモーグリを呼んだ。

「なーモーグリ、少し気になるメニューがあるんだけどさ、それって頼む前に味見することはできるかい?」
「クポ!もちろんクポ!尻尾のお兄さんは何が気になってるクポ?」

ジタンの質問にモーグリは即答する。モーグリの答えにジタンは「よかった」とニッと笑うと開いたメニューから二つのアイスクリームをそれぞれ指差した。

「このラムレーズンとチョコミントってやつ!ラム酒とレーズンの組み合わせとミントの清涼感が甘いものに合うのか気になってさ」
「なるほどクポー確かにその二つは個人の好みで評価が割れやすいクポ!」

モーグリはそう言いつつ小さな匙で二種類のアイスクリームを掬うとジタンに差し出す。

「味見用にどうぞクポー。お口に合うかどうか試してみるといいクポ」
「お、サンキューな!」

ジタンはにっと歯を見せて笑うと、モーグリから匙を受け取りそれぞれ味見を試みた。どちらのアイスクリームも口にあったらしく、ジタンはパッと瞳を輝かせるとモーグリに二種類とも欲しいと頼んだ。

「どっちも美味いよ。ラムレーズンは酒精が甘さをさらに引き立てていて美味いし、チョコミントは爽やかな香りと爽快感が舌に残ってたまらないなぁ」
「お気に召したようで何よりクポ!」
「ああ。じゃあこの二つをカップで!大きめに掬ってくれよ!」
「任せるクポー!」

アイスクリームが褒められて嬉しいのかモーグリはすぐさまカップを用意し、これでもかとばかりにディッシャーでアイスクリームを大きく掬う。その横で注文待ちのティーダが羨ましげに眺めていた。

「ジタンいいなー」
「はは!そんなに羨ましいならお前もさっさと選んで頼めよ。モーグリが用意したアイスクリーム、なかなかいけるぜ?」

ウインク一つ寄越しながら早く注文することを勧めるジタンにティーダはすぐさま手に持っていたメニューを開く。もうすでに何を頼むのかを決めていたらしく、ページをめくる手に迷いはなかった。

「このバナナとイチゴが混じったやつとチョコにマシュマロとナッツが混ぜ込まれているやつ!コーンでお願いするっス!」
「クポ!お兄さん迷いがないクポね!このアイスはチョコレートソースを更に掛けるのがオススメだけどいかがクポ?」
「おう!美味しそうだからよろしく!」

元気よく注文するティーダにモーグリは「任せるクポ!」とこちらも負けないくらい元気な声で返す。
自分の分のアイスクリームを受け取ったジタンはティーダの注文がスムーズであったことが気になって聞くと、ティーダはにこやかな笑顔で仲間たちの方をこっそりと指差した。

「セシルからフルーツ系のアイスが美味いって聞いてさ。あとフリオニールがチョコのやつを美味そうに食べていたからそれにしてみたっス」

ティーダの指の方向をセシルとフリオニールが笑顔で自分のアイスクリームをつつきながら談笑をしていた。そう言えばこの少年はよくこの二人と共にいる。だから影響されたのかとジタンは苦笑した。

「なるほどなー。じゃあこれ食べて余力があったらオレも頼んでみようかな?」

アイスクリームを受け取るや否やすぐさま食べ始めているティーダを見つつ、ジタンは自分の分のアイスクリームをつつく。モーグリが多めに盛ってくれたアイスクリームは味見の時と変わらず美味く、ジタンは顔を綻ばせるとティーダと共に食べ歩きながら仲間達の輪の中へと戻っていった。


それぞれが思い思いのアイスクリームを手にし、仲間達と語らいながら食べている。
最初に注文した光の戦士は一足先に自分の分を食べ終えていたのでその光景を眺めると口元を僅かに緩める。
ようやく仲間達全員が合流し、来たるカオス軍勢との戦いに向けて厳しい鍛錬の日々を送っていた。朝から日が暮れるまで動き続け、己にも他者にも厳しくあることは勝利の為に必要なことであると思っていた。しかしーー

(コスモスは身体だけでなく心も休ませようとしてくれたのだろうか)

仲間達皆が表情を和らげ、アイスクリームを口にしながら談笑している。今この時間を大いに楽しんでいるようだ。
元いた世界とは別の世界にやって来て、環境も生活も自分を取り巻く何もかもが変わり、記憶までも失ってしまって不安を抱いている戦士も少なくはなかったと思う。だからこそこの戦いを早く終わらせ、記憶を取り戻し、元の世界へと帰還しなければ思っていたがそれに固執しすぎていたと光の戦士は反省する。

(懸命になることはもちろん大事だ。だがこの戦いはいつ終わるかわからない。だからこそ、人らしく、自分らしくいられる時間も作らなければいけなかったのだな……)

女神の差し入れはそのためのものなのだろう。
秩序の聖域にいるであろう女神を想い、空を仰ぐと光の戦士は心の中で礼を述べる。
すると背後から一匹のモーグリがすっとやって来て声を掛けてきた。

「お兄さん、アイスクリームを食べ終えたクポね。お代わりはいかがクポ?体が冷えたのなら温かい飲み物も用意しているクポ」

ふわふわと浮かびながらメニューを手にしているモーグリに光の戦士は振り返り、小さく笑う。

「もう一度、バニラをコーンで。よろしく頼む」

光の戦士の一言にモーグリは嬉しそうにくるくると舞った。

***
たまにはオールキャラでほのぼのを。
アイスクリームのフレーバー選びはそれぞれの好みが出てきそうですね。


[ 76/255 ]


[top][main]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -