OH! MY DARLING,OH! MY GOD! -2-

学校が休みの土曜日。スコールは普段とは変わらない時間に目覚めた。
普段の休日ならまだまだ眠っている時間ではあるが、今日はその流れに乗ってはいけない。
起きてすぐ目覚ましとばかりに洗顔し、髪の毛を整えて、簡単ではあるが朝食を済ませて身支度に取り掛かる。
今日の予定はバッツと映画を観に行くこと。
大学生と高校生では接する時間が少ないので、バッツと一日共に過ごすことができると思うとどこかそわそわとしてしまう。学校がある平日でさえも眠気と戦いながらのそのそと活動を開始するのに今日はもうはっきりと頭が覚醒している。恋人と一緒というだけでこうもスタートが違うのかとスコールは自身に苦笑しながら衣服を選び始める。

(だいぶ暑くなってきたし折角の外出だ。この前買ったばかりの夏物のシャツとTシャツにしよう)

今日はせっかくの二人揃っての外出なので卸したばかりの濃いカーキーの半袖シャツと明るいグレーのTシャツを選び、もともとから持っているジーンズと合わせる。夏に差し掛かり始めている季節には清潔感と共に清涼感も考えなくてはいけない。使い慣れているボディバッグを取り出して財布とスマートフォンとモバイルバッテリー、ハンカチを入れ、姿見の前で全身を確認する。シンプルでラフな格好ばかりのバッツにも寄せてかっちりとしすぎないことも大事だとスコールは自分の選択に満足し、これでいいだろうと一つ頷いた。
準備は整った。あとは約束の時間まで部屋で過ごせばいい。ちらりとベッドのそばにおいている置き時計で時間を確認すると、予定の時間よりもまだ一時間近くある。

(早く準備しすぎたようだな……約束の時間までネットサーフィンでもしてるか)

そう決めると、デスクに向かおうとしたら、ふと窓から人の気配がした。
どうやら隣の家のバッツが窓を開けたようだ。朝の日課の目覚めの日光浴と空気の入れ替えをしているのだろう。雨風の強い日以外はするらしい。平常運転のバッツにスコールは小さく口元を綻ばせると、こちらも挨拶がてら窓を開けようと腰を上げる。出かける予定ではあるが、時間の前に顔を合わせてはいけないことはない。
カーテンを開き、その流れで窓を開くと、ちょうど陽の光を浴びていたバッツと目があった。

「おはよう!スコール!」

窓越しから元気よく挨拶をしてくる幼馴染兼恋人は……爽やかな朝に相応しいとは言えない配色の衣類を着ていた。
上は国民的人気キャラクターのチョコボのキャラTシャツなのはまだいい。問題はそれがショッキングピンクとパープルの迷彩柄の中心にグレーのチョコボのシルエットがデカくプリントされていることだ。目がチカチカしそうな配色のTシャツの下は濃いグリーンの裾上3センチ上に細い白横縞が一本入ったブランド物と思われるハーフパンツ。頭にはレインボーカラーの文字で「Lv5 Death!」と大きく刺繍された黒いキャップをかぶっていた。一体どこでそのような衣類小物を調達してきたのだろうかとスコールは眩暈を起こしそうになった。

「今日は映画に行く約束だったよな。約束していた時間までまだ間はあるけど、スコールはもう起きて準備していたんだ!早起きさんだな!」

はにかみながら話すバッツの表情は、恋人の欲目なのだろうか、とても可愛らしく魅力が洪水のように溢れていた。スコールにとってその笑顔は日の光よりも眩しいとさえ思う。ただ、笑顔だけならよかったのだが首から下がまるで毒虫かと思う配色の服とバランスのせいで可愛いだけで終わらなかった。

(こいつは……どういうセンスをしているんだ!)

普段のバッツはシャツ、Tシャツ、ジーンズというシンプルな服装が多く、派手な色味のものや柄物を着ることはない。選んでいるアイテムも財布に優しい量産されたファストファッションブランドから購入していることがほとんどだ。ただ、彼なりに少しはこだわりがあるのか、服かカバン、小物のどれかにチョコボを潜ませていることが多い。今日着ているTシャツもチョコボが入っている。そこはバッツだからで片付けられるのだが問題は全体のバランスであった。

「おい」
「ん?何だ?」
「何故そんな格好をしている?」
「え?そんなにおかしいか?いつもよりちょっと派手な感じだとは思うけどさ」
「ちょっとどころか、見るからにバランスがおかしいだろう!今日は出かけるのに……その姿は悪目立ちするからやめてくれ」

スコールは不満をはっきりとバッツにぶつけると、「そちらに行くからどいてくれ」と言い放つ。それにバッツは素直に従い、窓から二、三歩離れるとスコールが窓から部屋へと入ってきた。
バッツの前に立ち、身につけているアイテムを数秒じっくりと見るとやがて大きくため息を吐いた。

「上も下も、アイテム単体だけ見るのならいい。問題は合わせ方だ。センスを疑う」
「はは。スコールはオシャレさんだから手厳しいなぁー。Tシャツとキャップはクラウドから、下はセシルから借りたんだ。まだ時間あるし、いつもとは違う合わせ方を考えてみようとしたんだ」

言われてみればどちらもバッツが普段購入するものに比べて幾分上等であった。人からのものなのなら普段の格好のものと毛色が違うのは納得できる。

「まずは被っているキャップか上か下か、どちらか一つを選んで脱げ。一緒に組み合わせを考えてやる」
「おお!スコールはおれから見ても小洒落ているってのはわかるしな。助かるよ」

バッツは嬉しそうに頷くと、下と上を数回見比べた後、ハーフパンツとキャップを脱いでベッドに置いた。
個性的なデザインTシャツとありがちな白と水色の縦縞のトランクス姿のバッツはぱっと見寝起きのような姿であった。おまけにキャップを脱いでからわかったのだが髪があちこちに飛び跳ねている。寝起き感が5割増しである。
二人で出かける予定なのに普段以上頓着していないように見えるバッツにスコールは目から塩水が出そうであった
そんなスコールの心情などつゆ知らずのバッツは呑気そのもので、胸を張りながら腰に手を当てて次の指示を待っている。

「で、どうするの?」
「はぁ……目立つアイテムを選ぶのなら他はシンプルなものを選ぶ方とかなり考えやすくなる。タンスを開けさせてもらうぞ」
「ああ。いいぜ」

バッツから了解を得るとスコールは衣装ダンスを下から上へと順に開いて中を確認すると、何を合わせるのか決めたのか、薄手のグレーのパーカーとのジーンズを取り出した。

「まずはこれを着て待っていろ。俺の持っている小物から合わせやすそうなものを探してくる」
「おう」

選ばれた衣類を手渡され、バッツは頷くとスコールは素早く自分の部屋へと戻っていった。
取り残されたバッツはスコールに言われた通り、ジーンズを穿き、パーカーを羽織ると部屋にある全面鏡で姿を確認する。Tシャツ以外は普段の組み合わせであるが存在感のあるTシャツの効果か、普段よりもしゃれて見える気がした。その上、シンプルなパーカーを羽織っているので収まりもいい。

「流石はスコールだなぁ。オシャレなものを集めて着るだけじゃやっぱダメなんだなー」

小洒落た恋人に倣い、バッツも新しい格好をしてみようと思って普段着ないものを着てみたのだが見事に失敗してしまった。スコールが選んだ組み合わせの方が服もイキイキとしているように見える。慣れないことを急にするものではないな苦笑を浮かべていると、スコールが戻ってくる気配を感じた。

「待たせた」
「そんなことないよ。で、大きな袋だなぁ。何を持ってきたんだ?」

スコールの方にはかなり大きいトートバッグが下げられており、こっぽりと膨らんでいた。合わせやすい小物といったが、一つや二つではなさそうであった。

「小物もだが、その頭もなんとかした方がいいだろう」

そう言い放つとトートからTシャツと同じ色合いのパープルとブラックの二色に分かれたリストバンドにシンプルなブラックのトート、ピンクの靴紐にブラシとヘアワックスを取り出し次々と並べた。

「ガチャついた柄のTシャツを全身の統一の要に見せるのなら、小物類の色もそれに合わせたらいい。二色のリストバンドのパープルはTシャツの色と、ブラックのトートはリストバンドのもう一方の色と合う。靴紐は……あんたが持っているスニーカーに付け直せ。そうすればシンプルに纏まって見えるだろう。あと、ジーンズは踝より上にロールアップして、踝までの靴下を履け。パーカーは長袖だが生地が薄めだから問題ないだろう。それでも暑いと感じたら捲ったり腰に巻いてもいい」
「ま、待ってくれ。注文が多くて覚えられないよ……」

バッツはもたつきながら言われた通りリストバンドを時計の代わりに左手につけて、パーカーの腕の部分を七分のところまで捲り上げた。受け取ったトートには財布とハンカチ、傷だらけの古いガラケーを放り込んでおく。あとはジーンズと靴紐かとバッツが部屋から出ようとすると、スコールは「待て」とパーカーの裾を掴み、座るように促した。

「ここまで来たのなら髪もなんとかしてやる。あんたのことだ。頭まで手は回らない、と言うか回さないだろう。
「おお、髪の毛もしてくれんの?」
「言っただろう。最後まで面倒を見てやる。髪が終わったら俺も部屋に戻って出る準備をするから、靴紐はその間になんとかしろ」
「なるほど。了解了解。んじゃお願いしようかな?かっこよくしてくれよー」

ご機嫌なのかバッツはヘラっとした笑顔をスコールに向けると、どっかりと床においていたクッションの上へ胡坐をかいた。その背後にスコールは回ると手櫛で毛先を確認する。

「寝癖がすごいな。所々のハネがひどいぞ」
「そうか?無造作ヘアってやつ?そういうことにできないかなぁ」
「……少し無理がある」

左右にハネているものもあれば、ハネが下を向いているもの、重力に逆らうかのように逆立っているものとちぐはぐなハネ方をしているのでどう見ても作った髪型ではなく寝癖に見えてしまう。
スコールは霧吹きで髪を湿らせると手櫛で髪を梳き、整えていく。ハネが酷いところは更に霧吹きで湿らせ、ブラシで梳いて整えると持ってきていたドライヤで髪を乾かした。

「おお、ちょっと変わったか?」

部屋の姿見からちょうど自分の姿が見えるらしいバッツが楽しそうな声をあげる。それに対し、スコールは「仕上げだ」とワックスを掌に取り、体温で温め両掌を擦り合わせて伸ばすとバッツの髪を根元から毛先へと馴染ませ、ボリュームを作った。癖のついているところは指先でワックスをつけて遊ばせ、先ほどバッツが言っていた無造作ヘアーを作り上げていく。

「……完成だ」
「お、今風っぽいな!こりゃクラウドやセシルにも負けないなぁ」

大学の友人の名前を出してバッツは満足そうに笑う。どうやらお気に召したらしい。スコールはホッと息を吐くと、掌に残ったワックスを水で洗い流すまでの応急としてティシュで拭い取った。

「しかし、何故今日はちぐはぐな格好をしていた?」
「ん?だってスコール、最近おれと出かけること増えただろ?その時おしゃれだなぁって思ってさ。だから隣歩いてるおれもおしゃれしてみようかなって思ったんだよ。それをセシルとクラウドに話したら、それぞれで服や小物を参考用にって貸してくれてさ。セシルは結構いい品の物を身につけているし、クラウドは色んな服を組み合わせるのが上手いからさ。二人が使っているものならおれもいけるかなって思ったんだけどダメだったなー」

バッツはのんびりとした口調で説明すると、ベッドの上においていたハーフパンツとキャップをすぐ側の紙袋にしまう。どうやら借りた衣類が入っているらしい。よくよくみると紙袋は二つもあり、そこそこの大きさであった。バッツの友人達それぞれがバッツに合うようにと考えてくれたらしい。バッツとの仲の良さが伺えるそれからスコールはほんの少し友人達への嫉妬と、頼って欲しい不満をバッツにぶつけるかのように彼の額を中指で弾いた。

「イテッ!いきなりデコピンかよ!」
「ふん。いつものあんたの姿もいいと思うが、そういう話なら今度は俺にも相談しろ。その、あんたは子供の頃から俺にとって兄のように頼もしい存在ではあったが頼りっぱなしはもう嫌なんだ……恋人、だからな」

目を逸らし、話すスコールにバッツはデコピンされた額をさすりながら目を細める。
恋人同士になったとはいえ、弟のように思っていた期間の長さから、困り事を話すことを考えたことはなかった。心の何処かで彼は庇護する対象であると思っていて、それが抜けていなかったのかもしれない。人生における経験値の差も関係性も子供の頃とはもう違うのだ。

「そっか。そうだったよな。おれ、スコールのことちゃんと好きだけど、どうも幼い頃の弟みたいな存在ってところが抜けていなかった」
「……それが悪いわけではない」
「うん。わかってる。わかってるさ」

バッツは目を細めるとスコールの肩を軽く叩き、立ち上がった。

「今日は映画の後は買い物かな?スコールに服の合わせ方を色々教えてもらうとするか!」
「……まぁいいだろう。ただし、チョコボは抜きでな」
「ええーオレのお気に入りなのに!」
「いい加減年相応という言葉を覚えろ」
「厳しいなぁ」

互いに笑い合い、軽口を叩きあえるのは今も昔も変わっていない。けれど、昔とはどこか違う。
多かれ少なかれ日々変わりゆくものがある中でこうしてお互い笑い、時に怒ったり泣いたり、驚いたりしながらも、互いを知り、知ってゆく関係がこれからも続けばいい。
そう思いながら笑いあった。



−−−
拍手メッセージからスコさんが服を選ぶというお話をいただいたので書いてみました。
バッツさんは着るものにあまり頓着しなさそうで、スコさんはこだわりが強そうですね。


[ 186/255 ]


[top][main]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -