OH! MY DARLING,OH! MY GOD!

昨夜バッツは一人暮らしをしているクラウドの家でセシルを含め三人で宅飲みをしながら他愛もない話をしていた。
クラウドもセシルも見かけによらず酒にめっぽう強いのもあって、ペースはゆっくりではあったが酒を飲む手も話も止まることはなかった。
大量に摂取したアルコールに加えて終電の午前様の帰宅。バッツが眠気と酔い心地にやられ、風呂にも入らずそのままベッドへと倒れ込んだのは言うまでもなかった。
そして夜が明け、昨晩遅くに眠ったにもかかわらず、普段と変わらない時刻で起床した。寝不足と酒が残った身体での起床は普段に比べて全身が重く、動作が緩慢であった。

「あーあー……」

大きな欠伸を共にバッツは両拳を天井に築き上げて体を伸ばし、重い身体を何とか起きる方向へとギアチェンジする。重く、中々動かない頭を横へぶるぶると数回振り、身体と頭をシャキッとさせようとフラフラとした足取りで一階にある風呂場へと向かった。

今から風呂の湯を張るのは時間がかかるのでシャワーで済ませるが、汚れが落ちてさっぱりするし、ぼんやりした頭も覚醒するだろう。
昨日着たまま寝た服や下着類を洗濯機へ突っ込み、素っ裸になって風呂場に入ると少し熱めに設定した湯のシャワー全身かぶる。少し脂っぽくなっていた髪と身体が濡れ、汚れが流れ落ちていくような感覚がして心地がいい。だがただ湯で流すだけではさっぱりしないので手早くシャンプーやコンディショナー、ボディソープと順に手に取り、全身隈無く洗い流す。
不快に感じていたベタつきが無くなり、バッツは長く伸ばすように息を吐くと、髪と身体の水気を取って風呂場を出た。その頃には入る前まで感じていた気だるさは完全になくなっていた。

清潔なタオルで髪と身体を拭くと、それを腰に巻き、その姿のまま居間へと移動する。その途中で台所へ立ち寄り、冷蔵庫から500mlのペットボトルのジュースを片手にする。
これで後は着替えだけだとバッツは下着姿のまま居間へと入る。ごくごくと喉を鳴らしながらジュースを飲み、ぷはぁーと爽快に息を吐くと先ほどまでだらだらとしていた身体が嘘のようにシャキッとする。
さてお次は着替えだとバッツはタオルを一旦ソファーへと無造作に置き、着るものを取りに二階の自室に上がろうとしたところで外から聞き慣れた音楽が流れてきたことに気付いた。
その音はごみ収集を告げる収集車の音楽であった。その音楽と曜日から今日は燃えるゴミの日の収集日だったこととまとめておいたゴミの大袋の存在を思い出す。
音の大きさからもう間も無く普段出している収集場所にやってくるようだ。

「やばいやばい!着るもの着るものっと」

冬ならまだしも暖かくなってきたので流石に次の収集日まで生ゴミが入ったゴミ袋を持ち越したくない。
バッツは慌ててキョロキョロと辺りを見回すと部屋着用として使っているくたびれたジーンズを見つける。昨日出かける前に服を着替えて脱いでそのまま置いていたものだった。風呂に入ったばかりではあるが仕方がないとすぐさま足を通し、上もないかと探したが見つからない。
昨日着ていたものはどうしたのだろうと記憶を掘り起こしてみると、洗濯機に突っ込んでしまったことを思い出した。洗濯機は先程回したばかりなので中なので洗われている最中である。つまり上に着るものがない。
いっそのこと上半身裸で出るか?いやいやそれは野性味が溢れてすぎている気がする。やっぱり二階の自室まで急いで戻るかとバッツが悩んでいるところでダイニングの椅子にかけられている布が目に入った。



同時刻。バッツの家の隣に住んでいるスコールは大きな袋を手にして自宅から出てきた。
ゴミ当番はよほど急いでいない限り最初に家を出る誰かがついでに出す決まりではあるが、休日はスコールの役割であった。平日仕事をしている父親は休日は朝寝坊をすることがほとんどである。食事を担当している姉はキッチンで朝食を準備しているので自然とスコールがその役割に落ち着くことになったのである。
欠伸を噛み殺しながらゴミ袋を手にし、門を出ると日の光が全身に降り掛かる。まだ気温はそれほど高くはないはずであるのに日の光の強さ故か、気温以上の暑さを感じる。これはさっさと出して家の中に戻ろう。スコールはそう決めて収集場所へと足を進めようとしたその時、背後から大きな声で名を呼ばれた。その声は聞き慣れた幼馴染の声であった。

「スコールー!おはよーう!」

朝っぱらから大声で挨拶するバッツにスコールは軽くため息を吐く。
好意を抱いているとは言え、まだ完全に覚醒していない頭に響く大声は少々キツいものがある。それに、この声量なら近所迷惑であるとも思う。外にいる時は普通に挨拶してくれとスコールは何度もバッツに伝えたのだが、遠く離れていようが近くであろうが見かける度に大声で名を呼ばれるのは変わらなかった。
ただ、その理由が「スコールを偶然見かけると嬉しくなって気付いてもらえるように呼んじまうんだよ」とのことだったので本気で怒るまでには至ってないのではあるが。
そんなことを思い出すと、余計にバッツを無視をするという選択肢はない。ただし文句の一つでも言ってやろう。聞くとは思えないがと思いながらもスコールは後方を振り返った。

「朝から近所迷惑だぞ。バッ……!?」

振り向きざまに文句を垂れたスコールであったが、目に入った幼馴染の姿に絶句する。
下はジーンズとサンダルという普通の服装であるのに、上は水色のエプロンのみというちぐはぐな格好をしていたのだ。しかも胸の部分はギリギリ隠れるか隠れないかの布面積である。
見る人が見たら視界の暴力とも言える格好ではあるが、バッツに好意を抱いているスコールからすれば理性を大いに揺さぶられる。例えるなら角を曲がったところでいきなりプロボクサーから殺人級のストレートパンチを食らったかのような衝撃であった。

「はー、間に合った間に合った」

固まったままのスコールを追い越し、バッツは意気揚々と収集場所へと向かう。
収集場所にはちょうどゴミ収集車が到着しており、乗っていた清掃員の男性が奇怪なものを見るような目でバッツを見ている。それにも関わらずバッツはお構いなしに「お願いしまーす」とゴミ袋を置き、無事にゴミを出すことができてよかったと笑った。
数秒後、ようやくスコールは我にかえると慌てて自分もゴミ袋を置くと家へと帰ろうとしているバッツの方へと目を向けた。後ろから見ると裸の背中がバッチリ見えてしまったが、固まりそうになるのをなんとかこらえ、「ちょっと来い!」と怒鳴り声と共に首根っこ、もといエプロンの首ひもを掴んで自宅へと引き込んだ。
家人が台所と自室に引きこもっていたのでバッツの姿を見られることがなかったのは不幸中の幸いであった。スコールはバッツを二階の自室まで引きずっていくと、そのまま室内へと乱暴に引き入れる。寝ている父親は兎も角、姉にこのようなバッツの姿を見られるのを避けたいので念の為、鍵を掛ける。スコールはきょとんと目を丸くしているバッツに聞こえるかのように大きくため息を吐くと、家人には聞こえないようにバッツの肩を掴み、耳元に口を寄せ、声量を落として怒鳴りつけた。

「なんて格好をしているんだあんたは!」

スコール怒りの声にバッツは驚きから一瞬キツく瞳を閉じたが、すぐさま小首を傾げてスコールを見つめてきた。
先ほどからスコールが感じていたことだが、どうやら何故ここに連れてこられたのか、そして何故怒号を浴びせられているのかわかっていないようである。
自身に無頓着で大らかであるが故なのだろうか。スコールは眉間に皺を寄せ、バッツに何故そのようなおかしな格好をしているのかと問うとバッツはふにゃりと気の抜けた笑顔を見せ、ガシガシと髪を掻きながら口を開いた。

「やー朝風呂から上がったらさ、ちょうど収集車の音が聞こえてきたからゴミ出ししないとって焦ってこの格好で出ちまった。前から見たらタンクトップとあまり変わらないから裸よりはマシ……」
「ば、バカかあんたは!どこがタンクトップだ!むしろ見方によっては全裸よりも恥ずかしい格好だぞ!」

バッツからどんな頓狂な返答が返ってくるのだろうかとスコールは構えていたものの、いざ聞くと思わずひっくり返りそうになってしまう。
そんな理由でそのような格好をしているのか?
しかも隠れてるなら大丈夫だろうとのたまうバッツであったが、清掃員に怪訝な顔をされていたのが見えていなかったのだろうか?
それに下を穿いているとはいえ、上半身裸でエプロンを身につけている姿はほぼ裸エプロンではないか。
破廉恥を感じていないところからそのように見えているとは微塵も思っていないのだろう。しかもエプロンの胸の部分の布面積は狭く、少しずれるだけで乳の首が見えてしまうと思われる。もしかしたら横からなら見えていたかもしれない。
眉間に皺をさらに深く刻むスコールにバッツは呑気にもそろそろ家に帰りたいと言い出した。

「おれ、腹減ったからさ。朝飯食べたいしそろそろ帰ってもいいか?」
「……帰るなら玄関からではなく窓からにしてくれ」

清掃員に見られたとは言え、これ以上人目につかないようにとスコールは頼んだがバッツは即座に首をブンブンと横に振った。

「それは無理。今日はまだ鍵閉めたまんまだから。おれの格好をスコールが気にしているのはわかったから次からはなるべく気をつけるよ。このまま出たとしても家はすぐそこだし何キロも歩くわけじゃないからさ。今日くらいはいいだろ?」

たとえ見られたとしても近所の人間なら大丈夫だろう、という一言をバッツは付け加えないでいて置いた。スコールの性格上、そう言うとまた雷を落とすだろうということをわかっていたからだ。ここは簡単に済ませてさっさと退散したほうがいいだろうとバッツは「それじゃ!」と片手を上げて部屋の扉を開けようとしたところでスコールに肩を掴まれた。

「……まて」
「何だよ?もう話は終わっただろ?」
「俺のTシャツを貸してやる。だからそれを着て帰れ」
「ええー洗い返すのめんど……」
「いいから着て帰れ!」

怒りが先行しているためか、最早声量を抑えることに気を付けていない。
そんなスコールに「大声出してもいいのか」とバッツはツッコミを入れそうになったが、火に油を注ぐことになるかもしれないとすんでのところで言葉を呑み込む。
バッツからすれば別に迷惑をかけているわけでもないので放っておけばいいだろうと思うのだが、一度怒り出すと鎮火するまで時間がかかるのがスコールの性格であった。些細な一言でも過剰に反応するのをわかっているのでこの場は大人しくしておくに限ると結論付ける。
わかったとばかりに素直に頷くバッツにスコールはクローゼットを乱暴に開き、その中から畳まれている清潔なTシャツを一枚取り出した。黒地に白の獅子の小さなシルエットが左胸にプリントされたそれはスコールのお気に入りの一枚ではあった。

(先日卸したばかりだが仕方がない……)

バッツに裸エプロンもどきで外を歩かれるよりかはいいし、彼のことだ綺麗に洗濯して返してくれるだろう。
スコールはバッツの手にTシャツを押し付け、着ろと促す。しかしバッツはTシャツを着るどころか広げることもせずスコールへと押し返してくる。

「これ見るからに新しいやつだろ?もっと他にくたびれた……」
「いいから着ろ!」

新しいも古いも関係あるか!とスコールは再びバッツのエプロンの首ひもをひっ掴み、乱暴に着替えさせる。その際に首が絞まったためか、驚いて暴れるバッツにスコールは構いもせずエプロンを無理やり剥ぎ取った。桜色の胸の頂きに一瞬煩悩が刺激されたがそれを何とか振り切り、バッツの頭にシャツを被せて一気に下ろす。身につけてしまったことで観念したのか、バッツは「別にいいのに」と小さな不満を漏らしながらシャツに腕を通した。
バッツとスコールは似たような体格ではあるのでサイズに問題はなかった。ただ、スコールが好むデザインはカジュアルよりも綺麗なモード系の物が多く、素朴な雰囲気のバッツにはお世辞にも似合うとは言えなかったが。

「……似合ってないなぁ、おれ。まあ、スコールの姿形や雰囲気の方がやっぱ似合うのなぁ」

部屋の中にあった全身鏡でバッツは自分の姿を確かめながら感想をこぼす。その間に剥ぎ取ったエプロンをスコールは丁寧に畳むとバッツへ差し出した。

「グダグダ言うな。それを着たのならもう帰っていいぞ」
「お、エプロン畳んでくれたのか?ありがとな。さてさて、それじゃ帰って飯にするかな?スコールは?まだ食べてないないならうちで食べないか?」
「姉さんが作り始めているからいい……」
「そうかそうか。じゃあ帰るなー。あ、シャツは洗って返すから」

のほほんとバッツは笑うと、それじゃあなと片手を振りながらスコールの部屋を出て行った。
扉が閉められた後、スコールはそっと耳をすませると軽快な足音が遠くなり、やがて玄関の扉が開閉する気配がした。ようやく一息つけるとスコールは安堵の息を吐き、寝台の上に倒れこむように仰向けになった。
起きたばかりのはずなのに一日動いた後のような疲労感を感じる。それもこれもバッツのせいだとスコールは脳内で悪態をついたがすぐに先ほどの裸エプロンもどき姿を思い出し、ぶすぶす燻りかけていた不満が上塗りされていく。例えるのなら薄桃色の花畑のような、甘やかな煩悩が嫌が応にも頭の中に広がっていき、スコールはそれを振り払おうと左右に何度も寝転がったが無駄なことであった。

(くそっ!何もかもバッツのせいだ……!)

階下から朝食の準備ができたと知らせる姉の声に、すぐさま騒がしく反応する父親の声が重なる。一日の始まりはこれからだというのにスコールは暫く寝台から起き上がれそうになかった。


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男の浪漫である(ほぼ)裸エプロンと彼(ティー)シャツの筈なのにときめきは皆無ですね……。
題名はTMRさんの歌から。ズレたバッツさんと可哀想なスコさんのお話でした(汗)


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