可能性の世界

※注意
DFF ED後、もしもバッツさんがスコールを探しに旅をしていたらとしたらと思い書き殴ったお話とも言えない妄想文です。(管理人が思うバッツさんの性格から自ら探しにいくのとはあまりないとは思うのですが、もし恋しくて探したら……と思いまして)
台詞もなければ色々すっ飛ばしたあらすじのようなものですがそれでもよければどうぞ!



神々の戦いを終え、元の世界に帰ってきたバッツはあてのない旅を続けていた。神々が争う世界での記憶はほとんどなく、大事に思っていた少年がいたことだけ朧げにしか憶えていない。その少年を思い出そうとすると時に淡く、そして悲しく、心が締め付けられる。

何故こんな気分になるのかわからないまま旅を続けていたある日、ほんの些細なきっかけから次元の狭間に迷い込んでしまい、気がつくと知らない場所に降り立っていた。迷いつつ進むと小さな田舎町に辿り着き、そこでバッツは記憶の中の少年と出会う。

スコール。

名前を教えられた瞬間、記憶が戻り、バッツはスコールと再び出会えたことに喜ぶがスコールの方はバッツに対して不審そうな瞳を向け、何を聞いても首をかしげるばかりであった。

よくよく話をしてみるとスコールにはバッツの記憶がないのか会うのは初めてだと言ってきた。また外見はそっくりそのままではあるもののバッツの記憶の中のスコールとは違う点がいくつか出てきたのである。
バッツが迷い込んだ世界で出会ったスコールは傭兵ではなく小さな田舎町でパブを経営している母と、その手伝いをしながら町をモンスターから警護している父、そして姉の四人で暮らしているごく普通の少年であった。携えていた武器は確かにガンブレードではあったがあくまで父の手伝いと護身用に使っているだけで傭兵になれるほどではないと本人は言い切り、バッツが知っているスコールとは違うのだと愕然とする。

一方自分と似た人物を探しているらしいことを知ったスコールは見るからに落胆するバッツを気の毒に思い、当てがないのなら暫くこの村を、自分の家を拠点に探すことを提案する。父親も母親も姉も多少風変わりな格好をしていても身寄りのないと思われる人間を拒むような人達ではない。働かざるもの食うべからずとは言われるだろうが。
スコールの提案はこの世界にやってきたばかりで何も持たない知らないバッツからしたら渡りに船であった。多少の複雑さはあるものの手を差し伸べてきてくれた少年の好意に甘え、バッツは共にすることにした。

スコールの家族は初めは驚いたもののバッツが滞在することには反対はしなかった。元々スコールの父親ラグナも流れ着いた身であり、それを世話したスコールの母親レインと縁あって家庭を築くことになったことを話してくれた。
ラグナとレインは薄手の外套と宝石のような玉を肩当てや腰の装身具に散らした、この世界では見かけない姿のバッツに閉鎖的な村の中で浮かないようにと服を貸すと、モンスター退治かパブの手伝いをしてくれればいつまでも居てもいいと言ってくれたのでそれに甘えることにした。

その日からバッツはレインとスコールの姉エルオーネと共にパブを手伝うか、ラグナとスコールと共にモンスター退治をしてその合間にこの世界とスコールのことについて調べ、出会った世界での彼と彼から聞いた話と情報を擦り合わせる。
大きな違いはこの世界に魔女は存在しないこと。そしてスコールが属していたガーデンという傭兵育成学校が存在していなかった。また、スコール自身はこの村で生まれ、ずっと家族と暮らしており、外へはほとんど出たことはないとのことであり、彼が焦がれていたライオンも知らないとのことであった。

似ているようでそうではないスコールとこの世界。愛しあった存在との違和感が心にのしかかるもののバッツの心情を知らぬスコールとその家族は彼らからしたら素性の知れない者であるのにとても良くしてくれた。村人達も最初は余所者を警戒していたものの人当たりの良さと村を脅かすモンスター退治の腕もあってバッツは彼らからの信頼を得ていった。
ここにいればずっと穏やかで優しい時を過ごせる。甘い誘惑が幾度も心に過ぎった。しかし、姿が似た者と日々を過ごすことは安らぎと同時に罪悪感が湧き上がる。愛おしい存在と勝手に重ね、代替品のようにして心の隙間を埋めようとしている自分自身の身勝手さと浅ましさ。優しさに触れるたびにここに居るべきではないのだと思うようになっていく。

欲しい情報を得られなかったので近々出ていくことをスコールとその家族にバッツは告げる。彼らは最初惜しんだもののバッツの意思は変わらないと知り、せめて最後の夜は門出を祝うささやかな席を設けたいと言ってきた。
数日後、スコールの家族と村の何人かでパブでバッツの出立を祝った。たらふく食べて飲み、宴たけなわに差し掛かった時、スコールがバッツを呼び出し、村の花畑へと導いた。

月下の花畑。夜風に当たりながら無言の時が流れたがスコールが包みを差し出し、受け取って欲しいと告げる。その包みを開いてもいいかと聞き、了承を得て開くと中からは出会った時に彼が身につけていたライオンのペンダントが入っていた。
スコールが言うにはバッツがライオンのことを聞いてきてすぐ、自分で調べ、村の彫金師に頼んで作ったとのことであった。
誇り高くて強い存在が共に旅すれば安心だろう。無事に“また”ここに帰ってこれるようにお守りだ。そう言い、表情を崩すスコールにバッツの瞳から涙が一つこぼれ落ちる。
奇しくも出会った世界で別れた花畑にも似たこの場所で“また”と再会を思わせる一言と自分が彼に渡したようにお守りを渡されるとは。彼が身につけていたものと同じデザインのライオンのアクセサリーは重さも質感も全く同じで懐かしさすら感じる。
この世界も目の前のスコールも確かにスコール本人なのだ。
こぼれ落ちた涙が土へと落ち、波紋のように広がると光り輝く世界が一瞬広がる。

神竜

世界を、人を浄化し、新たな可能性を生み出す存在。
次元の狭間と神々の世界で見かけた存在がこの世界にももし存在していたとしたら、スコールの世界の中にも新しい世界が生まれることもあるのだろうか?スコールがいた世界に時間軸が数多に存在し、その中で神竜が“もしも”の世界の一つを生み出し、そこに自分は紛れ込んだのだとしたら……。
ひとつ、またひとつと頬に涙が伝う。
泣いているバッツにスコールが心配そうに瞳を丸くし、首を傾げている。その見覚えのある仕草にバッツは泣き笑うとひと時の優しさに縋りたいではなく、目の前にいるスコールへ感謝と親愛を込めて抱擁した。突然にも関わらずスコールは拒むことなくそれを受け入れる。
一つの可能性の世界にたどり着けたのなら自分が知っている彼がいる世界にも辿り着けるはず。確たるものとは言い難いが心の中に生まれた希望。それがあるのなら大丈夫。
いつ終わるかも会えるかもわからない旅路の不安はもうなかった。

翌朝スコールが目覚めるとバッツはすでに出立しており、枕元には彼が借りていた衣類や日用品と共に渡したはずのペンダントが残っていた。
気に入らなかったのだろうかと気落ちしそうになったが横にメモ書きのような手紙が残されていた。手紙には感謝と共にペンダントのことも書かれていた。『この世界のスコールとこれから現れるかもしれない大切な者へとっておけ』と。あまりよく分からなかったが受け取れなかった旨が書かれていた。
せっかく作ったものではあるのでスコールは試しに自分の首にそれを掛けてみる。すると不思議なことに長く身につけていたもののように馴染む。今までアクセサリーの類を身につけたことはないのにと首を傾げ、部屋を出ると普段よりも早く仕事に出て行こうとする父親と遭遇する。
何かあったのかと聞くと、村人から迷い込んだ旅人とチョコボを保護したと連絡があり見にきて欲しいと頼まれたのだと返ってくる。
どうやら先日見知らぬ者を世話していたから今回もうちで面倒を見ることになるかもしれないと能天気に笑う父親にスコールは今回もそうなりそうだと苦笑し、自分も行くと申し出る。
ふとバッツの「これから出会うかもしれない大切な者」の一言が脳裏を過る。まさかと思い首をふるが、変化のないこの村に現れた新たなる風はこの世界のスコールにとってかけがえのない存在となるのはもう少し先の話である。


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どうでもいい補足
この話のバッツさんの姿はDFFの天野版で最後に出会うかもしれないバッツさんは原作の姿をしています(髪型や瞳が違うので似て非なる感があっていいと思うのですよね)


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