拍手お礼ログ2

■ 拍手お礼 ミニ小説



やわらかな日差しが差し込む午後。バッツはセシルと光の戦士、ティナと共に陽光を避けるために木陰に座りながら少し離れた場所で球技に興じている仲間達を眺めていた。
昨日思わぬ敵の襲来により、外での遊びどころではなくなってしまったから仕切り直しをしようとティーダを中心に何人かの仲間達が幼いスコールを誘ったのだ。

「今日こそはスコールにかっこいいところ見せるっスよ!」

にっかりと笑いながら誘いに来たティーダには、昨日の出来事を、怖い思いをしたという記憶だけのものにしたくないという思いを感じられた。ティーダ以外にも、昨日その場に居合わせたフリオニールとオニオンナイトの少年、すばしっこさが売りのジタンと意外にもクラウドもその輪に加わっている。皆、小さな子供の中にある思い出を少しでも良いものに塗り替えようとしているのだろう。息を切らしながらもボールを力一杯蹴るスコールの姿からは昨日の陰りは見えなかった。
ぽんぽんと跳ねるボールに声を上げながら追いかける仲間達とそれを見て声援をおくるティナに今戦いの真っただ中であることを思わず忘れてしまいそうだとバッツは小さく笑うと隣にいたセシルもつられて笑った。

「みんな楽しそうだね」
「ああ。そうだな」

穏やか光景に目を細め、ぼんやりと眺め続けたが向けられているセシルの視線が外れない。何かあるのかとバッツは首を傾げるとセシルは「君もあの中に入らないのかなと思ったんだ」と笑った。

「こういった、大人数で何かをするのは君も好きなんじゃないかい?」

敵襲がないかどうかは自分と光の戦士が見ているから遠慮しているのなら行ってきたら?とセシルは提案したがバッツは複雑そうな表情を一瞬浮かべた後にゆるゆると首を横に振った。

「いやちょっと違うんだ」
「何がだい?」
「少し、考え事があったからさ」

バッツとセシルの会話に気付いた光の戦士とティナが顔を向ける。それを感じながらバッツは遠くにいるスコールへと視線を移した。
自分よりも大きな仲間達に混じり、動き回る姿は今の姿相応の子供らしさを感じる。無垢で、多少不器用さはあるものの仲間達に正面から触れ合う姿が眩しい。この世界での戦いもそこから来る不安も今のスコールを見ていると忘れそうになる時さえある。そうなるのはスコールの中にそのような陰りがないからだと気付いたのだ。戦いに身を置いていると仲間達を失うかもしれない、たとえ生き抜いて戦いが終わったとしても今ここにいる仲間達と、スコールとの別れがくるということが影のように常についてくる。

「ずっと一緒」

昨晩スコールから向けられた言葉は優しく、そしてとても残酷なものだった
出会いと別れは表裏一体であることを幼い彼は意識していなかった。昨日イミテーションの一件で身近な人間がいなくなることに対して不安に感じたからこその願いは影を増幅させ、ぴったりと張り付いているような、そんな気持ちにさせてきた。
スコール元の姿に戻さないといけない。その思いが強くなったのはスコールの願いに応えることも、ひとときの不安を忘れさせるための偽りの言葉も言えなかったからだ。
無垢なものから逃れたいが故にそう考えているなんて我ながら酷い人間だとバッツは心の中で自分を嘲笑すると空を飛ぶボールを見やる。ボールは緩やかな弧を描きながら地上へと落下していく。地に落ちる寸前にスコールがそれを拾い、ティーダが笑顔とともによく拾ったと親指を立てて褒めている。益々賑やかになる集団がとても遠く感じられた。
沈黙したままのバッツの姿に気にしたティナがおずおずとした様子で何か声をかけようとしたがそれを光の戦士が制し、代わりに話しかけてきた。話しづらそうなティナに気遣ったのだろう。

「君が考えていることはスコールに関係することなのか?」

疑問形ではあるが発した光の戦士の言葉に迷いはない。穏やかな時間が流れる中で話題にすることに迷いはあったが下手にはぐらかすことはできそうにない。ティナにまで心配をかけられたのなら尚更だ。勘のいいセシルにも間違いなく気づかれているだろう。
自分の中にある重いものを少しでも吐き出して軽くさせるかのようにバッツは小さく息を吐くとともに中に渦巻く淀みを悟られないように慎重に言葉を紡ぎ出す。

「昨日のことでさ……スコールもみんなも無事だったけど……何か起こっていてもおかしくない状況だったんだよな」

バッツの言葉にティナの表情が曇る。無事でよかったではなく、もしもバッツが言った何かが起こっていたらと意識したのだろう。心優しい彼女に昨日出来事を蒸し返すようなことをしてしまい申し訳なさはあったがこの事態をなんとかしたい気持ちの方が優っていた。
スコールの身の安全の為も勿論ではあるがそれを盾にして自分の内側を隠すことをするなんてと増していく罪悪感に胸を押さえるとセシルが口を開いた。

「バッツの言っていることはわかるよ。今回は無事でよかったけどもしまた同じようなことがあったら……」

みんな全力で守ろうとするだろうが無傷ですまないかもしれない。最悪命を落とすことも。
言葉に出さなかったも場の空気から光の戦士とティナもセシルが言わんとしていることを察しているようであった。

「スコールを元の姿に戻したい」

漂う空気を裂くように発したバッツの言葉に三人は頷いた。

「元よりそのつもりではあったが了解した」
「私も……できることはなんでもする」
「勿論。僕もだよ」
「みんな、ありがとう」

協力を約束する三人にバッツは頭を下げると仲間のことなのだから当然だと三人は顔を上げるように促した。そうと決まればどう行動するかである。

「まずは元に戻す為の手がかり探しだね。スコールがあの姿になってから何人かで姿が変わった断片探しはしてみたけど未だに見つけられていない」
「魔法の線も……私も何度かスコールを診させてもらったけど……」
「手がかりは何も見つかっていないということか……」

芳しくない調査状況に光の戦士が眉根を寄せたがバッツは無いわけではないと手を上げた。

「あのさ、少し考えていることがあるんだ」
「考え?」
「ああ。力をかりられるかはわからないけど。スコールがあの姿になったのは時が関係する魔法による状態異常か何かの一種だとしたら……適任そうなのに心当たりがある」
「……時の魔女アルティミシアか」

バッツが言おうとしていた人物の名を光の戦士が呟く。強大な魔力を持ち、時を操る魔女ならばもしかしたら……しかし彼女は敵対する軍勢の戦士の一人でありスコールの宿敵である。そんな人物が力をかしてくれるだろうか。

「バッツの案は確かに良いと思うけどあの人がスコールの為に協力してくれるかしら……」

話を聞くどころか会ってくれるのかすらも怪しいとティナは困った表情を浮かべる。しかしバッツは考えにまだ続きがあるので聞いて欲しいと言った。

「普通そうだろうな。だからカオスの中でも話を通してくれそうなやつに頼んでみたらと思ってるんだ」
「……兄さんだね」
「ああ」

セシルの兄ゴルベーザは敵軍に属してはいるが話が通じない相手では無い。弟であるセシルの身を案じてか戦いの最中であるにも関わらず単身姿を現すことがあるらしい。アルティミシアに直接コンタクトをとるよりも彼に間に入ってもらった方が話しやすいだろう。

「更に頼んでしまって、しかもセシル個人の負担が大きくて悪いんだけどさ、セシルからゴルベーザに話をしてもらえないかな。勿論おれも立ち会うから」

自分から話を振っておいて他力本願で申し訳ないと頭を下げるとセシルは穏やかな笑みを浮かべ、わかったと頷いた。

「僕から兄さんに話をしてみるよ。アルティミシアが聞いてくれるかはわからないけど兄さんなら大丈夫だと思う。だから、そんなに重く考えないで」

兄に対する信頼の強さから快く引き受けるセシルにバッツは「ありがとう」と再び頭を下げた。

「これでやることはきまった」
「ああ。手がかりが見つけられそうなら何だってやってみようと思う」

光の戦士にバッツは頷く。不意に少し離れたところでボール遊びをしている仲間達の楽しげな声が聞こえてきた。今後の話に集中していて声が聞こえていなかった。わいわいとボールを追う仲間達の姿にセシルとティナは目を細める。

「これからのことで色々心配はあるけど穏やかな時間も大事だね」
「うん……そうね」

立ち込めていた重い空気が一瞬で消え去る。今後の目標ができたこともあるが明るい雰囲気がそれを塗り替えてくれたようだ。
しかしそれでもバッツの胸の内にあるもやは消えなかった。

(みんなありがとう……そして、ごめんよ)

本当の心の内を隠して、厚意に頼ってしまって。
明るく響く声がバッツには今も遠くの出来事のように思えてならなかった。



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少し暗いお話になってしまいました。85要素がほとんどなくてごめんなさい;;
話を進めつつも次回はほのぼのとしたお話にしようと思います。








■ 拍手お礼 ミニ小説



その小さな事件は朝食後に起こった。
食事の後片付け当番であったバッツとオニオンナイトの少年が居間として使っている広間に戻るとフリオニール、クラウド、ティーダがスコールを囲んでいたのだが普段と様子がどこか違っていた。
顔を俯き、服の裾を握っているスコールに対し、三人は少し困った様子で何かを話している。やりとりは聞こえないが何か注意されるようなことでもされたのだろうか?
子供にしては聞き分けがいい方であるスコールが珍しいとバッツは小首を傾げると隣にいたオニオンナイトも同じことを思ったらしく「どうしたんだろ?」と目を丸くし、四人を見やっていた。

「ティーダなら兎も角、スコールが怒られ……てるわけではなさそうか。あんな風に取り囲まれてるのって今までなかったよね?」
「そうだなぁ。何かをするにしてもおれたちに聞いてからするくらいだったからな。ちょっと気になるな」

顔を見合わせ、事情を聞いてみるかと頷きあい、バッツとオニオンは四人の元へと歩み寄った。

「おーい、どうしたんだ?」

手をひらひらと振りつつ、四人に加わるとスコール以外の三人は視線を向けてきた。

「あ、バッツにオニオン!フリオにクラウド、バッツならスコールも話を聞いてくれるかもしれないんじゃないスか?」
「そうかもしれないが事態をややこしくしたお前が言うか?」

二人がやってきたのはこれ幸いと顔を明るくするティーダにフリオニールは呆れた表情を浮かべる。二人の会話がよくわからないバッツとオニオンナイトはまたも小首を傾げ、一体何があったか説明してくれと頼むとクラウドが小さなため息と共にフリオニールの方を指差した。指の先へと視線を移すとフリフカフカとした、オフホワイトの子供用の衣類がフリオニールの腕にかけられているのが目に入った。

「今日は肌寒いからスコールにこれを羽織れと言ったのだが……ティーダが余計な一言を言ったせいで話が拗れたんだ」
「え?俺のせい!?」
「間違いなくそうだろうな……」

フリオニールがぼそりと呟くと手にしていた羽織をバッツとオニオンナイトの少年によく見えるように広げて見せてきた。羽織は、裾と袖に赤のだんだら模様がついた、猫の耳フードつきのデザインのローブであった。

「あれ?もしかしてそれって、白魔?いや、耳がついてるし……導師のローブかな?」
「?オニオンの世界のものなのか?」

フリオニールの問いかけにオニオンナイトは品定めをするように目を凝らしてローブを見るとわからないと首を振った。

「よく似ているとは思うけど同じものかまでは……けど、それがどうかしたの?ジョブ効果はなさそうだけど寒さ対策にはいいんじゃない?」
「まぁそうなんだけどな……」

どこか言いづらそうな様子のフリオニールにクラウドは「ちょっと来い」とバッツとオニオンナイトを手招きする。どうやらあまり大きな声で話したくない内容らしいことを察した二人はクラウドに招かれるまま、スコール、ティーダ、フリオニールから少し離れたところまで移動すると顔を寄せ合い、訳を聞いた。

「で、あのローブがどうしたんだ?」
「ああ……今日は肌寒いからフリオニールが探し出してきてスコールにあれをよこしてきたんだが……着せようとした時にティーダが今日はかわいい服装だと言ってきたんだ。スコールもどうやら着る前からそれが気になっていたみたいでな。着てくれようとしないんだ」
「?導師のローブってそんなに気になるものなの?」
「オニオン、あんたの世界はどうかは知らないが俺の世界では子供、どちらかと言えば女が着ることが多い。それも普段着ではなくどちらかと言えば仮装に近い、物語に出てくるような人間の衣服という認識だな」

クラウドの一言でオニオンナイトは「ああ……」と納得顔をする。オニオンナイトの世界ではジョブと呼ばれる特集能力別に服装、装飾品が存在し、先ほどフリオニールが見せてきたローブは可愛いものというよりも導師と呼ばれるジョブ能力者を象徴するものであるというのがオニオンナイトの認識であった。

「なるほど。それで気にしちゃうんだね」
「へぇ〜おれの世界でもローブを着ることにそんなに抵抗はないなぁ。スコールの世界はたぶんおれやオニオンよりもクラウドやティーダの世界の方が近いだろうから嫌がるのかもなぁ」

それぞれ異なる世界から来たものが集まると見方や感じ方、考え方が異なるんだなとバッツは頷く。
今だに俯いたままのスコールにあんな風に頑なに嫌がっているのなら別の服を出してやればいいじゃないかとオニオンナイトは提案したがクラウドは首を横に振った。

「それができるならそうしている。小さい子供の衣類はそれほど調達していない上に急に寒くなったからな。重ね着させようにも予備の衣服は洗濯していて厚着をさせることができないんだ。かといって俺達の物は大きすぎる。あのローブもフリオニールが断片調査をしに行った時にたまたま見つけて持って帰ってきた物だ」

何しろ急に姿が変わったものだから子供用の物資を十分に揃えられていないとクラウドが言うとそれなら仕方ないかとオニオンナイトは肩をすくめた。
ひそひそ話をする三人をよそにフリオニールとティーダの説得は続く。

「これを着るとふかふかあったかいッスよ?」
「嫌なのはわかるが今はこれしかないから頼むよ。今日は寒いし体が冷えて風邪をひいてしまうと困るだろう?」
「さむくない……」

小さな声で反抗するスコール二人は困った表情で顔を見合わせた。今までここまで反抗されたことがなかったために戸惑いと、いくら小さいとはいえ、相手の理解を得ないまま無理に着せることには躊躇いがある。どうしたものかと二人が他の三人の方へと視線を向けるとその隙を突いてスコールが部屋に戻ると言い出した。

「ぼく、ねむいからおへやでねてる……」

そう言うと誰の追跡も許さないかのように早足で部屋を後にした。朝食を済ませたばかりで眠いわけないだろうとフリオニールが追おうとしたがクラウドがやめておけと肩を掴む。

「かなり意固地になっている時は何を言ってもダメだと思う。今追いかけるのはむしろ逆効果だ」
「しかし」
「部屋に戻ると言っていたから寒かったらシーツとかで暖をとるとは思うけどさ。そのままにしていていいの?」
「そうッス。ほっといたままにするのもよくないと思うッスよ」

放っておけないとオニオンナイトとティーダが食いついたが「じゃあどうする」とクラウドが問うと二人は黙りこくった。いけないと思うものの良い方法がないらしい。
押し黙る四人に今まで黙って様子を見ていたバッツが突然フリオニールに手に持っているローブをこっちに寄越してくれと言い出した。

「ちょっと考えがあるからさ、ひとまずそのローブをおれにくれない?」
「え、それは構わないが」

いきなり頼まれ驚いたものの素直にローブを差し出すフリオニールにバッツは礼を言って受け取るとそれを持って歩き出す。ティーダに何かいい方法でも思いついたのかと聞かれたがバッツは「上手く行くかはわからないけどな」と苦笑し返すとそのまま部屋を出て行ってしまった。

「一人で任せてもいいのだろうか?」
「少なくとも俺達よりは警戒されないと思うがな」

心配そうに呟くフリオニールにクラウドは返すとひとまずはバッツに任せようとその場を収束させたのだった。




幼い姿になってからスコールは就寝時は自室ではなく、他の仲間達の自室で眠ることになっている。本人が幼いこともあるが、万が一の奇襲に備えて誰かがすぐそばで守れるようにとそう決められていたのだ。日によって誰が面倒を見るか変わることはあるが大抵はバッツが添い寝をしているのでおそらく向かった先は自室として使っている部屋だろうとバッツは予想し、真っ先にそちらへ向かった。閉じられている扉を念のため軽くノックしてから開くと予想通り、寝台の上にこんもり膨れたシーツが目に入り苦笑した。

(素直すぎるんだよなぁ)

膨らみのすぐそばに腰掛け、そっと触れたが反応はない。眠っている気配はなく規則正しい寝息も聞こえないので狸寝入りであるのがばればれであった。眠いと言ってしまった以上そうしなければいけないと思っているのか、誰とも話したくないという意思表示なのか。幼い子供故に気持ちを言葉にすることが困難であるから殻にこもるという選択肢をしてしまって収拾がつかなくなってしまったがための姿とも考えられる。

「なぁ、スコール。本当は眠くないんだろ?」

話しかけたが返事はない。頑なな姿にバッツは膨らみの背中と思われる部位を優しくさすってやりながら言葉を続ける。

「フリオやティーダ、クラウドがローブを出したのはスコールの体を心配してなのはわかってるんだろ?だから”嫌だ”じゃなくて”寒くない”って言って着ようとしなかったんじゃないのか?」

ぴくりと、僅かに動いた小さな身体からその通りだったかとバッツは笑う。もともと聞き分けはいい方であるから多分フリオニール達の言うことも理解している上での反抗だと思っていた。だからこそ、何故嫌がるのかをきちんとスコールの口から聞かなければいけない。子供だからとはいえスコールも一人の人間。相手の言い分を聞いているのならこちらも聞かなければいけない。他に誰もいない、一対一なら話しやすいだろうしこちらも聞きやすいだろう。

「なぁ、話してくれないか?スコールさえよけりゃさ」

話したくないのならそれでもいい。決めるのはスコールだ。その思いを込めて問う。暫くの沈黙の後にシーツからくぐもった声が漏れ出た。

「……わらわない?」

自分の内側が他人にどう見られるのだろうかと不安そうな声であった。元のスコールもあまり自分の心情を言葉にする方ではなかったことを思い出す。大丈夫、笑わないよともう一度優しく背を撫でるともそもそとシーツが波打ち、小さな顔が現れた。白いシーツにまるい輪郭と瞳からまるで小動物……雪兎のようだなと思いながら今度は頭を撫でる。

「話してくれるか?」
「ん……」

シーツから出てきたスコールの声と表情はぎこちなさが残ってはいたが見たところ迷いはなさそうだった。言葉にするのが苦手なだけだとスコールの言葉を待つとぽそぽそと小さな声でゆっくりと言葉を紡ぎ出してきた。

「あのね……おにいちゃんのいうこと、ちゃんときかなきゃって、ぼく、おもうよ?」
「うん。けど、他に何か思うことがスコールにはあるんだよな?」
「……うん」

頷きつつちらりとそばに置いている子供用のローブに視線を移すと俯いた。

「ぼく、つよくなりたい……かわいいよりも、つよく……バッツおにいちゃんたちやおねえちゃんのように……」
「強く?」
「うん……ぼくだけかわいいは……やだ」

話しながら小さな手でシーツを強く掴んでいる。余程強くそう思っているのか握りこぶしがかたく強張っていた。
そう言えばクラウドからティーダにかわいい服装と言われたということを思い出す。幼い彼は仲間から守る対象として見られ、幼さ故の言動を微笑ましいものだと思われている。自分よりも一回り近く、もしくはそれ以上の集団の中で自分が特にそのように見られていることを気にしていたところからきた小さな反抗であったことを理解した。スコールにとってのかっこいいは、皆にはやく追いつきたい、自分だけなのは嫌だという気持ちの延長なのかもしれない。

(一番近いオニオンですら今のスコールからしたら大きなお兄ちゃんだもんなぁ……だからこそ過敏になっちまったのかもしれないな。ティーダに悪気はなかったのだろうけど)

話してくれてありがとうなと頭を撫でながら小さなローブを見やりながら暫し考える。
見た目の可愛さから幼さやか弱さを連想したのならどうしたものかと思ったが、ひとつ思い出す。

「そうだ。スコール、ちょっと見てろよ」

言いながら座っていた寝台から立ち上がり、ふわりと一回転する。一瞬でバッツの服装が青い衣から袖と裾がゆったりしたフード付きの白いローブへと変化した。

「おにいちゃん?」

突然衣服が変わったことに驚いたのか目を丸くして見つめてくるスコールにバッツは「似ているだろ?」と笑いかけた。

「この服装はな、白魔法……ティナやセシルがよく使うケガを治す魔法を使う人間が着る服なんだ」
「まほう?」
「そう。仲間達のケガを治せるなんて、すごいだろ?」
「……うん」
「おれの世界以外にもオニオンの世界もそこにあるローブのようなものを着ているすごい能力をもったやつがいるらしい。つまりな、凄い奴は服装や見た目だけで決まらないってことさ」

床に片膝をつき、スコールに向かって両手を広げると察したスコールが寝台から降り、抱きついてくる。それをひょいと持ち上げると目線の高さがほぼ同じになった。

「スコールはさ、今のおれの服装が変わってか弱くなったとか思うか?」

抱き上げられたまま暫くの考えた後に「思わない」とふるふると小さく首を横に振った。

「ちがうふくでもおにいちゃん」

そう言われバッツは「だろ?」と片方の手で器用にスコールの頭を軽く撫でると寝台に腰掛ける。置かれたままの小さなローブを手に持ちそれを目の前に持っていくと小さな手がそれを掴んだ。

「おにいちゃん……」
「ん?」
「わがままいって、ごめんなさい……」

頭を垂れるスコールにバッツは我儘じゃない。謝らなくていいんだぞと穏やかに微笑んだ。人の話を聞き、我慢できないこと、嫌なことでも何でも思っていることを正直に話してくれたお前は良い子だと言うとようやくスコールが笑った。
たとえ身体は小さくともひとりの人間の悩みや問題を大きい小さいと勝手にはかるものではないとバッツは改めて思う。

(大人の、自分の良かれで言い聞かせていたら、相手の理解は得られないし一方通行だよな……スコールがこの姿になってから考えさせられたり気付かされることが多いな。本当)

膝上で抱かれたままローブを頭から被り、着替え始めるスコールを手伝うと自分と似た格好になり小さく笑う。嫌がっていた猫耳ローブは小さな少年によく似合っていた。

「お、似合ってるじゃないか。フードの形はちょっとだけ違うけどおれとお揃いだなぁ。どうだ?あったかいだろ?」
「えへへ」

照れたようにはにかむスコールによしと頭を一撫でして立たせてやり、手をつないだ。

「さて。今日も一日が始まるな。せっかくだから今日はおれとおそろでいようか?やることが沢山あるから手伝ってくれるか?」
「うん。でも、フリオおにいちゃんたちのとこもいきたい」
「お、よしきた。気にしてるだろうしな。せっかくだしお揃い自慢しに行こうぜ」
「うん!」

先ほどの拗ね坊は何処へやら。急に元気になったスコールにバッツは声に出して笑った。
その後、揃いの白魔道士姿の微笑ましさに一部の仲間が羨み、白いローブが仲間内で流行ったのは別のお話である。



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ほのぼのめに。
バッツさんと小さいスコールのお揃い、いいと思うのは管理人だけでしょうか?









■ 拍手お礼 ミニ小説



食料集めの仕事は新たな補給場所の探索と以前見つけた補給場所へ再度向かう2パターンに分かれている。前者は前衛を中心としたチームを組んでの補給となるが、後者は安全と見なされた場所であるのなら戦闘の補助を主としているメンバーでも向かうこともある。また、戦いの日々に身を置いているが故に安全な場所での食料補給は戦士達にとってちょっとした息抜きにもなっており、弁当を携えてりピクニック気分で向かう者も少なくはなかった。
今回食料補給担当であるバッツは幼いスコールを外に連れ出しても問題ない調査で安全が確認された森を補給場所と決めた。山菜やキノコ、木の実の補給なら小さな子供でもできないことはない。加えてコスモスの加護がはたらいている拠点の古城かその周辺の森くらいしか自由に歩けないスコールに大人しいとはいえ好奇心のままに行動したいこともあるだろうと思ったからだ。軽食と飲み物を持って仕事に出かけようと言った時、嬉しそうな様子を見せたので思った通りだと笑いそうになったのであった。

「いってきまーす」

拠点に残る仲間達の見送りに元気よく手を振って出発し、複数のひずみを経由する。敵対勢力に拠点が見つからないようにするためだ。距離はたいしたことはないが迷いやすい為確認しながらだと実際歩いた距離よりも長く感じる。歩くのに飽きかけてきた頃にようやく目的地の森に着くと先程の気分はどこへいったのやらスコールは駆け出し、近くにあった木のそばの木の実を拾い集め始めた。

「これ、たべられる?いっぱいおちてる!」

食料補給と言ったものの、半分はお遊び気分にさせてやろうと思っていたのだがどうやら真剣に取り組むらしく、集めた木の実を見せ、食べられるものかそうでないものかを聞いてくる。小さな手のひらに乗っているのは栗の実で焼いても茹でても美味しい森の恵みであった。バッツは食べられるぞと頷き、お手柄だとスコールの頭を軽く撫でてやる。

「これは栗だな。簡単に調理して食べられるしお菓子にもできるな。じゃあスコールはこれを集めてもらおうかな?いがいがに入ってるのは少し踏んでから取り出せよ!あと手袋も忘れんなー」
「うん!」

いい返事にバッツは目を細め、もう一度頭を撫でてやると早速二人で栗拾いを開始する。
今日やってきた森は季節が秋だからか大量に栗が落ちている上によく見ればきのこや山菜もそこかしこに顔をのぞかせている。食卓が秋の実りで賑わいそうだとバッツはうきうきと栗と一緒にそちらの収穫にも取り掛かった。
スコールもまたバッツとはさほど離れていないところでせっせと栗を拾い集める。あらかじめ手渡されていた袋はバッツのものに比べるとかなり小さいがそれでもスコールにとっては大袋である。自分で見つけたものだからしっかり集めて帰ろうと使命感に駆られ次々と袋に放り込む。拾ってはすぐ近くの実へ。また拾ってはそのすぐ近くの実へ。まるで標を辿るかのように栗集めをしていると不意に森の香りとは違う、潮の香りが鼻をくすぐりスコールは顔を上げた。

「なんだろ?」

数メートル先、モヤモヤとした白い気体のようなものが浮かんでいる。目を凝らすと気体の中にこの森とは切り離された別世界が見えた。気になったスコールはもっとよく見てみよう近付くと中には青い空と海が広がっていた。優しい潮風と眩しく輝く太陽はとても魅力的で子供の心を虜にするのにものの数秒とかからなかった。
今度は思い切って頭を突っ込んで覗き込んでみる。顔だけは海、体は森の中という不思議な感覚にスコールは今すぐ海の世界へと足を踏み入れたくなったが、動きそうになる足を何とか止めて考え直す。
普段から仲間達にどこかへ行く際は誰かに聞いてから、一人では行動しないようにと注意されていることを思い出す。単独行動の許可がおりたとしても、どこの何に注意すればいいかまで何度も言われるのにこの森に来た時に目の前のもやもやについて何も言われなかった。この森のど真ん中からいきなり海へ行けるようになっているのをバッツは、大人たちは知らないのだろう。

(バッツおにいちゃんに……)

自分一人で知らないものに触れることに対して急に不安になった。すぐ近くにいるバッツを呼んだほうがいいと、スコールは声を掛けようとしたその時、スコールの頬を一陣の風が撫でる。振り返ると気体の向こうの世界に見たこともない大人が立っており、目があった。



「スコールー?どこだー?」

食料集めに気を取られ、少し目を離してしまった。スコールの性格から一人で勝手にどこかへ行くことはないだろうし、普段から皆気をつけろと注意をしているから大丈夫だろうと思っていたのだが。

(少し目を離してしまったのがよくなかった……敵襲の気配は感じられなかったからちょっと出歩いているだけだと思うけど……)

それでも不安はある。気が付かない間に怪我をしていたり、攫われでもしていたら。この森では魔物やイミテーションの類を見かけたことはないとのことではあるが完全に安心である保証はない。そう考えるとすぐに探し出さなければと自然と早足になる。辺りを見回すと少し先に新たなひずみがあるのに気付いた。

(まさかこの中に入っちまったのか?)

聞き分けが良い方ではあるが子供故に好奇心に駆られて頭で考えるより先に体が動いてしまうこともあるだろう。ちらちらと見えるひずみの向こう側の世界は青い海と空が広がっている。普段拠点の古城やその周辺の森くらいの活動範囲のスコールからしたら物珍しさで飛び込んでしまうことも十分ありえる。

(行ってみるか)

意を決し足を踏み出して中へと飛び込むと一歩向こうは森の中であったのに海辺へと景色がガラリと変わった。森の中は少し涼しかったのが一転した暑さと日差しの眩しさにバッツは思わず目を細めた。

(あっちいなぁ……けどここの海は気持ち良さそうだ。スコールがいたらみんなを連れて海水浴へと洒落込んでいたかもしれないな)

きっと海に興味津々だっただろうと想像して少し笑いそうになったが、そのスコールがいないのだから探さなければと気を引き締める。楽しいことを考えるのはその後だ。
くるりとあたりを見回すとほんの十数メートル先、見慣れた小さな人影を、スコールを見つける。よかった。やはりここにいたのかとほっと安堵したと同時にスコールのすぐそばに人が立っているのに気付いた。
濡れた黒髪に褐色の肌、筋骨隆々の肉体。纏っている空気から只者ではないと感じる。出会うのは初めてではあるが仲間達の話から聞いた、カオスの戦士であることはすぐにわかった。

(あいつは……カオスのジェクトってやつか?)

安心したのも束の間。まさか敵側の人間がいるとはとバッツは頭が痛くなった。遭遇した仲間によると敵ではあるものの話が通じない男ではないとは聞いている。もし戦いを望むのなら相手になるが幼いスコールだけは見逃してもらえるように話すことはできるだろうか?
混乱する頭で色々と考えていると、バッツに気付いたスコールがぱっと明るい表情を浮かべ、こちらに駆けてきた。

「おにいちゃん!」

木の実が入っているらしい袋を手につかんで揺らしながら危なっかしげに走ってくるその姿の先、ジェクトがゆっくりと大剣を構え始めているのが見える。自分かそれとも背を向けているスコールを狙っているのか、あるいは両方なのか。どちらにしても物騒な気配を感じ、バッツは瞬時に剣を取り出し、スコールを引き寄せると身構えた。
自分はどうなっても構わない。せめてスコールを無事に逃がさなければ。そう覚悟を決めたが自分達に向かってきたと思っていたジェクトはそのままバッツとスコールを素通りし、その更に後方へと向かい、一瞬後重い斬撃と同時に絹を裂くような断末魔が響いた。

「へ?」

状況が理解できず頓狂な声が出てしまった。一体何があったんだとジェクトがいる後方へと振り返って確認するとすぐそばにはイミテーションの亡骸が転がっていた。先ほどの断末魔はそれらしく、ジェクトはコキコキと肩を鳴らしながらバッツとスコールへと視線を向けた。

「そいつが心配だったのはわかるが油断しすぎってやつだ」

持っていた剣を砂浜に突き刺すと腕を組み、胸を張る。剣を手放したことからどうやら戦う意思はないらしいことを察し、バッツは自分も剣をしまい、抱いていたスコールを砂浜に下ろした。

「えーっと。助かったよ」

敵側とはいえ助けられたのは事実である。バッツが取り敢えず礼をいうとそれに気付いたスコールも倣って「ありがとう」と言う。二人に対しジェクトは「おう」と快活に返した。どうやら仲間達の言っていた通り話のわからない男ではないらしい。ケフカや皇帝のようにこちらを敵視している得体のしれない者もいるがゴルベーザのように誠実な者もいるのだ。スコールが気になっていたとはいえ敵対勢力と一括りにしてはいけなかったとこっそり反省する。

「本来ならいっちょ手合わせといくだろうが、小さいのがいるなら休戦だ。たく、迷子かとちっと焦ったが保護者がいるのなら安心したぜ。こんな世界にガキ一人放り出されたのかと思っちまった」
「なんだ。それで声をかけていたのか」

たまたま行きついたスコールを見つけて迷子かもしれないと気を掛けてくれたのか。そういえばジェクトはティーダの父親であったことも思い出す。子を持ったことがあるのなら対応もなれたものなのだろうか。人見知りがちなスコールも怖がっていないようなので見つかったのがジェクトでよかったと安堵する。しかし……

(流石にこいつがスコールだということは話さない方がいいよなぁ……)

セシルからゴルベーザを経由してアルティミシアに協力をしてもらえないかと話はしたものの、戦力低下を好機だと捉える者もいないとは限らない。アルティミシアの場合、元の姿の、SeeDである彼に対して思うものが強いと思われるが、先ほどのケフカや皇帝は間違いなくちょっかいを出してくるだろう。情報の流出は少ないに越したことはないので黙っておこうと決めたがそう上手くいかないのが幼子である。

「おうぼうず、名は何っていうんだ?」
「……スコール」
「あ!」

何気無く聞いたのであろうジェクトの質問に対して正直に答えるスコールにバッツは遅かったと頭を抱えそうになった。個人行動が目立つカオス軍とはいえ敵メンバーの名前くらいは知っているだろう。その予想は当たっていたらしく、ジェクトは一度首を傾げるとスコールの目線に合わせられるよう屈み、確かめるように顔を覗き込んだ。

「変わった剣で戦ってる兄ちゃんと同じ名前のようだがよく見りゃあ似ているな。あいつのガキにしちゃ大きすぎだが仮にガキだとしても同じ名前をつけることはねぇだろうし……まさか本人か?」
「う……」

ジェクトの質問に対しバッツは馬鹿正直に言葉を詰まらせてしまい、「図星か」と呟かれる。ここまであからさまに表に出してしまった後では下手な誤魔化しは気かなさそうだとバッツは小さくため息を吐いた。
スコールを迷子だと気にかけたところやイミテーションを迎撃してくれたところから狭量な者ではないのは間違いない。ジェクトに他言無用で頼むと念を押すとバッツは訳を話しはじめた。


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ジェクト登場。バッツさんはあまり動じないとは思いますが想定外のことが重なってうろたえる姿とかたまにはあってもいいんじゃないかなーと。
スコさんがジェクトに対してあまり人見知りしていないのはティーダと同じブリッツボールを見かけたからかなとか思っていたりしています。






■ 拍手お礼 ミニ小説





バッツはスコールの身に起きたことを簡単にジェクトに話をした。敵方ではあるが味方から聞いた話と接した時の印象から彼が小さくなったスコールに危害を加えることも何かこちらの不利になるようなことはしないだろうと判断したからだ。先程イミテーションを迎撃してくれたことも大きかった。
バッツが話し終えた後、ジェクトは少し離れた波打ち際で一人遊びに興じているスコールの背をしばし眺め、がしがしと乱暴に頭を掻き、息を吐いた。

「おかしな世界だと思ってはいたが、そんな不思議なことまで起こるんだな」

ジェクトの呟きから、バッツは彼が何か手掛かりになるようなことを知っていないことを察する。元々、ジェクトと同じ世界から来たティーダもスコールの身に起きたことの原因となりそうな情報を持っていなかったのでそうであっても仕方がないのだがそれでも少しでも何かを知るきっかけになればと思っていた。

「やっぱりそう上手くはいかないよなぁ……」

ボソリと呟くバッツにジェクトはスコールからバッツへと視線を向けなおすと気を落とすなと背を叩いた。

「まぁ起きちまったもんは仕方ねぇ。誰が悪いとかそんなんじゃないんだろ?お前さんは気にしすぎってやつだ」

どうやらジェクトなりに励ましを入れてくれているようであった。豪快な外見と言動ではあるが他者の内側の機微に鈍感ではないらしい。叩かれた背がじんじんとするのを感じながらバッツは苦笑すると礼を述べた。

「まさか敵方に励まされるとは思わなかったよ。けど、ありがとな」
「こんな状況で敵だとか戦うどうのには流石にならねぇよ。それに、あの兄ちゃんがあんな状態でやり合って勝っても全然面白くねぇしな。ま、元の状態で二人掛かりでも俺が勝つけどな。なんせ俺は特別だからな」

歯を見せて自信満々に胸を張って笑うジェクトにバッツは鉢合わせたのが彼で良かったと思った。コスモスのメンバーも頼りに思っているが彼らとはまた別の安心感や頼もしさをジェクトから感じる。一見粗雑に見えるが砕けて会話をしてくれることで話しやすくなり、安心してしまうのだろう。ジェクトに対して頑なさを持つティーダにそれを言ったらムキになりそうだとバッツは想像し小さく笑みを浮かべる。
二人で話しながら背中を丸めて砂浜に座って遊んでいるスコールを眺めていると、スコールが振り返り、こちらへと駆けてきた。大人同士の会話が終わったことを察したらしい。小さな手に握りしめた袋を揺らしながらそのままバッツの足へとぶつかるような勢いで抱きつく。

「おはなし、おわった?」

身長差から上を見上げる形になってしまうので、上目遣いで聞いてくるスコールにバッツは「ああ」と頷くと頭を撫でてやった。

「良い子にしててくれてありがとな」
「えへへ」

良い子と言われたことが嬉しいらしいスコールはふわりと笑みをこぼす。待っていてくれている間の遊びに夢中になっていたらしく、頬にまで砂がついている。バッツはスコールの身に合わせるように屈むと頬に付いている砂を親指の腹で優しく払ってやった。その光景をジェクトが柔らかい視線を向けて眺めている。その視線に気付いたスコールがバッツの耳元に唇を寄せて話をしてきた。

「んー?」

小さく話すスコールの声がよく聞こえるようにバッツは更に屈み、もっと耳を近づけて話を聞くとやがてうんと頷く。

「そうだな。スコールがいいと思うやつを選びな」
「うん」

何やら話している二人に内緒話の内容が聞こえないジェクトが黙って様子を眺めていると、小袋を持ったスコールが少し緊張した表情で足元にやってきた。持っている袋に手を突っ込みごそごそと探り、袋の中から何かを取り出すとジェクトを見上げてきた。

「おせわに、なりました」

そう言いつつ差し出してきたのはイガがついたでかい栗であった。状況が把握できずジェクトがバッツの方を見ると、バッツは「よかったら受け取ってやってくれ」と笑いかけた。

「スコールがさ、迷子になったのと奇襲してきた敵を倒してくれたからお礼がしたいんだとさ」

仲間達の手伝いをした時にご褒美やお礼として菓子類を貰ったりすることがあるのでそれを真似ているのだろう。大の大人に拾った木の実をそのまま渡すあたりは子供ではあるが感謝の気持ちを伝えることを怠らないのは良いことであるとバッツは思っている。ジェクトの方もスコールの気持ちを汲んだのか、腰を落とすと「ありがとよ」と礼を言い、スコールの頭を少し乱暴に撫でた。

「こんなでけぇ獲物とるなんてやるじゃねぇか」

褒めつつイガつきの栗を受け取るジェクトにバッツはスコールに「よかったな」と頷くと、照れ臭そうな笑みを浮かべていた。お礼ができたことと、褒められたことが嬉しかったのだろう。そんな素直な姿が可愛らしい。スコールに倣って自分もとバッツはジェクトに持っていた袋のうちの一つを差し出す。スコールが渡した栗一つでは少ないだろうと自分が採っていた木の実やキノコ、山菜類の一部が入った袋であった。

「これはおれから。色々世話になったからさ」
「お、いいのか?」
「ああ。ほんの一部だしおれ達は帰る前にまた採って補充すればいいからさ」

口止め料も兼ねてもらってくれと冗談交じりで添えるとジェクトはそれじゃ遠慮なくと受け取り、その袋の中にスコールからの栗を入れ、口を紐で縛った。

「単独行動だと食料確保に限界があるから助かったぜ。この場所は俺くらいしか来ないとは思うが気ぃつけて帰んな」
「ああ。そっちも気をつけて」

そろそろ移動するらしいジェクトにバッツは軽く手を挙げ、別れの挨拶をする。すると大人しくやり取りを眺めていたスコールが、別れを惜しんでいるのか、おずおずとした様子でジェクトを見上げた。

「また、あえる?」
「……さぁ、どうだろうなぁ」

寂しそうな様子を見せるスコールにジェクトは少し困ったように笑いかける。今回はジェクトただ一人だけで、戦う気がなかったが敵勢力である以上次はどうなるかはわからない。スコールがこの状態である間はできれば敵勢力との接触は本来なら避けるべきことなのだ。ジェクトもそう思っているからこそ“次”を口に出さないのだろう。

「スコール」

バッツは名を呼び、頭を軽く撫でるとスコールが見上げてくる。名残惜しい気持ちはわからないでもないが引き止めて困らせるのは良くないと緩く首を振って駄目だと注意するとスコール本人も分かっていたのか少し間を置いてから小さく頷いた。

「……ばいばい」

名残惜しそうに手を振るスコールにバッツは苦笑する。少し可哀想ではあるが聞き分けがいいのは助かる。後で別の形でフォローするようにしようと決めると、ジェクトに引き留めて悪かったと軽く謝っておく。

「仲間以外の誰かに会うことは今までなかったからなぁ。引き留めてごめんよ」
「気にすんな。まぁ、あの無愛想そうな兄ちゃんがガキの頃はこんなだったとは思わなかったからちっと驚いたけどな」

カラカラと笑うジェクトにバッツはきょとんと目を丸くした後にぷっ、と吹き出す。その様子にジェクトは首を傾げる。

「なんだ、いきなり」
「ごめんごめん。んー……多分さ、あんただからだと思うぞ?」
「は?いってぇどういうことだ?」

訳がわからない様子のジェクトにバッツはその足元を指差す。指差す先には大剣とブリッツボールが転がっていた。

「それ、ティーダが使ってるのと同じボールだろ?スコール、それで沢山遊んでもらってるんだ」

な?とバッツはスコールの方を向くとスコールは小さく頷き「ティーダおにいちゃんといっしょ」と呟いた。スコールもジェクトのボールがティーダの持っているものと同じだと気付いていたのだろう。丸い突起物がいくつもついたそれは普通のボールとは形状が異なるので特徴的でわかりやすい。普段からティーダにブリッツの技を見せられ、一緒になって遊んでいるのなら見分けるのは尚更容易い。
初対面のジェクトに対して人見知りをしている様子があまり見られなかったのはよく知っている仲間と同じものを持っていたからだろう。そう言えばスコールがその姿になって初めて仲間達を前にした時、ティーダがブリッツをしている姿を見せて気をほぐしていた。今のスコールにとって安心するものの一つになっているのかもしれないとバッツは推測する。

「はっ、ガキがガキのお守りか。自分のことすらまだまだできてなさそうなひょろひょろの未熟もんの癖になぁ」
「はは、お互い意地っ張りだなぁ」

肉親故か憎まれ口を叩くジェクト。ティーダも普段は素直で彼なりに仲間に気遣いを見せるのに父親のこととなるとムキになる。その姿はそっくりで彼らが血の繋がりのある親子であることは一目瞭然であった。彼らの間にある溝はどのように生まれたのかはわからないが決して分かり合えないとは思えない。

「じゃ、今度こそ俺は行くからな」

長いは無用とばかりにジェクトは荷物袋を抱え直し、背を向ける。その背に向けてバッツは最後に一言と、声をかけた。

「ジェクト」

名を呼ぶと足が止まる。

「あんたの息子はあんたと同じでいい奴だぞ」

ジェクトの広い背中に言葉を投げたが彼は振り向かず、再び足を進めて歪みの方へと消えていった。
確実に聞こえているはずなのに反応がなかったがジェクトが何故こちらを振り向くことも何かを言い返すこともしなかったのは何となくわかった気がした。

(照れ臭さとか、頑なさとか、息子のことになるとうまくいかないとかそんなのかな……多分)

やっぱり意地っ張りの似た者親子だとバッツは微笑ましいものを感じながら小さく笑う。
すぐそばにいるスコールが「いっちゃったね」とさみしそうに呟いているのが聞こえ、バッツは頭に手を置き、軽く撫でてやった。

「さ、おれ達も行こうか」
「うん……おじちゃんにもボール、おしえてもらいたかったな」
「ははは!それ、ティーダが聞いたら……いや二人とも自分がって意地の張り合いになるかもなぁー」

エースを自称する息子と自身を特別だと豪語する父親。この二人が顔を合わせるとどうなるか。戦いの最中ではあるが彼らの間にある隔たりが埋まることをこっそりと願いながらバッツは逸れないようにとスコールの手を繋いだのであった。


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ジェクト親父とちびスコと兄ちゃん兼父ちゃんのようなバッツさんなお話。
アーロンさんは思慮が浅いと言っていましたが、懐が深く、いざとなったら頼りになる人だと思っています。(カッコいい親父が書きたいです……)






■ 拍手お礼 ミニ小説



旅暮らしの時は持てる荷物や移動の関係でその場に留まれる時間に限りがあることから洗濯は数日に一回の割合でまとめて洗うか、同じ衣服を数日着続けるかで対処していた。しかし、水源と安心して生活を営める場所である拠点を確保した今なら毎日洗濯を行なっても問題はなく、むしろ衛生的だと言うことで日々の雑務の一つに組み込まれるようになった。
その洗濯の本日の当番であるバッツは大量の衣類と洗剤を混ぜた水が入った大きなタライの前に座り込んでいた。
今日は天気が良く、日差しも強いので洗濯をするにはもってこいの日であった。この日差しなら日が落ちるまでには洗濯物は間違いなく乾くだろうし、加えてこの世界は天候だけでなく季節もいきなりガラッと変わってしまうことがある。その為洗える時はしっかり洗おうとそろそろ替え時であるシーツや枕カバー類もついでに出しておいてくれと前日仲間達に頼んでおいたのだ。
量は多いがその分やりがいがあるとバッツはふんっと鼻を鳴らして気合いを入れると洗濯に取り掛かる。
まずは衣服。それが終わったらシーツ類だと手を動かす。タライの中に汚れた衣類と水、洗剤を入れ、ざぶざぶと軽快に洗濯板を使ってこすり洗い、綺麗な水ですすぎ、そして絞る。時折汗をぬぐいながら次々とこなしていく。
繰り返しばかりの地味な作業ではあるが埃や泥、汗が混じった衣類が少しずつ綺麗になっていくのは気分がいいし、沢山の衣類が干されて風にはためく光景は達成感がある。それに、洗剤と太陽の香りを含んだ洗濯ものを取り込むのも田畑の収穫作業のようで満ち足りた気分にもなるのだ。
重労働でもその中にある楽しさややりがいがあると思えることなどを見つけるのがこなせるコツだとバッツは思っていた。
鼻歌交じりで十人分の衣類の洗濯を終えると、水が入っていないタライへと次々と脱水とばかりに絞ったものを放り込む。これを干したら次はシーツ類が控えている。さっさと干してしまい、城内にまだ置いたまま残りの洗濯物が入ったカゴを取りに行くかと思っていたところにバッツを呼ぶ声がした。

「おーいバッツー」

呼ばれた方向へバッツは振り向くと、取りに行こうと思っていた大量のシーツが詰め込まれた大きなカゴと小さなカゴが一つずつ、こちらへと向かっているのが見えた。一瞬カゴが足を生やして歩いて来ているように見えたがよく見るとカゴから頭がにょっきりと生えている。
髪色や足などの身体的特徴と歩き方から身体がすっぽりと隠れるくらい大きなカゴを抱えたジタンとスコールだとわかりバッツは内心苦笑した。

「スコールにジタン!洗濯物持って来てくれたのか」
「おー。置き場に大量にあったのを見かけたからな。天気がいいしバッツのことだから今日一日で全部洗っちまうと思ってよ。スコールと二人で持ち切れる量だったからちょうどいいかなって思ってよ」

ジタンは話しながらバッツのすぐそばにカゴを置くと顎で軽く隣のスコールを指した。
スコールはジタンよりもふた回りほど小さなカゴを倣って置くと「うん」と頷く。
ここ最近のスコールはバッツが任務や雑務をこなしている時は一人遊びに興じていたり、時間の空いている仲間達に面倒を見てもらっていることが多いので一緒に手伝いにやって来るのは珍しい。
バッツは柔らかな笑みを浮かべるととりあえずカゴを持ってきてくれたことに礼を言った。

「スコールもジタンもありがとな。いく手間が省けたよ」
「いんや。おれは別に。たまたま城内を歩いていたらスコールが洗濯カゴの前をウロウロしてるのを見かけたんだよ。な?スコール?」

ジタンの説明にスコールは少しもじもじした様子で小さくうんと頷いた。

「おにいちゃんがおせんたくしてたから……おてつだいしたかったの」
「そっか」

控えめに話すスコールにバッツは礼の気持ちを込めて軽く頭を撫でてやる。
雑務とはいえ、幼いスコールが手伝いを申し出てもできることは限られている。割れにくい木製の食器やあまり重量のない食品を運んでもらうことくらいだろう。他に安全で簡単なものであればたまに手伝いをしてもらってはいるが難しいことの方が多く、大人しくしてもらっていることが多い。スコール自身もそれが一番の協力だと思っているのだろう。
自分にできることとしたいことは違うのだとわかっているのからこそ手伝いの申し出も遠慮がちなのだ。

(けど、寂しいんだろうなぁ)

一番近い年のオニオンでさえも外での任務や雑務をこなしている。もしかしたら一人疎外感のようなものを感じているのかもしれない。かと言って大人達と同じことをしてもらうのも難しい。
さてどうしたものかとバッツしばし考える。今自分がしている洗濯も干してもらうには背丈が足りない。かと言って洗うとなれば小さい体では重労働である。何かできないかと視線を彷徨わせるとスコールとジタンの横にあるシーツが詰め込まれた大小二つのカゴに目が止まった。

(シーツか。見たところ大きな汚れとかはないよな……)

シーツとすぐそばにある大きなタライと洗剤……この三つを順繰りに見やりバッツはよしと頷くとジタンに声をかけた。

「なぁジタン。お前暇か?」
「ん?別に忙しくはないけどさ」
「じゃあ頼まれてくれない?大浴場から石鹸に新しいタオル。それをスコールと一緒に持って来てくれないか?」
「……ほぼ強制かよ」

バッツの頼みにジタンは苦笑を浮かべると断る理由も予定もないので了解とばかりに頷き、スコールの手を引いて元来た道を戻って行く。数分後、戻ってきたジタンの手にはフカフカのタオルが、スコールの手には石鹸が入った小箱握られておりバッツは快活に礼を言った。

「二人とも助かったぜ。さて、次のもう一仕事だ。その前に二人とも靴脱いで裸足になって足を洗ってくれ」
「はいはい」
「うん!」

バッツの指示にジタンはやれやれと軽く首を振り、スコールは手伝うことが嬉しいのかもう一仕事の一言を聞き勢いよくこくこくと頷く。
二人は靴を脱ぎ、井戸のそばで持ってきた石鹸を使って足を洗い始めた。
そのそばでバッツは先ほどのスコールとジタンが持ってきたシーツを数枚大きなタライに放り込み、水を洗濯用に使ってる洗剤と一緒に流し込む。シーツはあっという間に水を吸い込み、タライの中にひたひたのシーツと少し泡立った洗剤を含んだ洗濯水が広がった。

「これでよしっと。さーて二人共。足洗い終わったらこっちに来てくれ」

足を洗い終わった二人にバッツは声をかけると二人は素足のままバッツのそばまでやって来た。
ジタンはもうバッツの意図を察したらしく洗い桶の中をしげしげと見つめていた。

「ふーん。もう一仕事って言われた時何するんだって思っていたけど、確かにこれなら子供でも手伝えそうだな」
「相変わらず察しがいいな。これなら小さいスコールでもできるだろ?」
「だな。オレはともかくスコールだと手を使うとすぐに疲れるし、今日みたいに暑い日には涼しくてもってこいの仕事だな」

感心するジタンにバッツはいい思いつきだろ?と胸を張る。
年長者二人にしかわからない会話に幼いスコールは小首を傾げ、これから何を始めるのか自分にも教えてほしいとばかりに二人の会話に割って入った。

「ねえ!なにするの?」

普段より少し大きめの声で問うスコールにバッツとジタンはハッとして視線はそちらに向ける。自分達の会話に入れず置いてけぼりにされたのが少し寂しかったのだろう。バッツはスコールの目線の高さに合わせてしゃがみ、肩に軽く手を置くと放っておいて悪かったと謝った。

「悪い悪い。あのな、ジタンと一緒にさ、このタライの中にあるシーツを足でふみふみして洗ってくれないか?」
「ふみふみ?」
「そう。ふみふみ」

バッツの説明にスコールはタライに視線を移し、考えるように暫し眺めた後、もう一度バッツへと視線を戻し、眉根を寄せて首を傾げた。

「……あしでしおせんたくしてもいいの?」

スコールの問いと表情から、洗濯は手でするもので足でするものではないと言いたいのだとわかった。訝しげな様子から汚れがちゃんと落ちるかとか、足で踏んでいいものではないとか思っているのかもしれないとバッツは少し笑うと「いいんだよ」と頭を軽く撫でてやる。

「ああ。目立つ汚れはなかったし、寝た時にかいた汗や埃を落とすくらいならガシガシ洗わなくても、もみ洗いで十分だろ。さっきジタンと足をきれいにしてもらったのはそのためだよ。あわあわのシーツをふみふみしながら洗うのは楽しいぞ?」

バッツの説明を聞き、納得したのかスコールは「わかった」と頷く。その横でジタンは自分のズボンの裾が洗濯の水で濡れないように膝までくるくると巻いて準備を整えていた。それを見てバッツもスコールが履いているズボンの裾を整えてやり、よしとばかりに頷いて立ち上がった。

「じゃあスコール、ジタンと一緒にお手伝いしてくれるか?」

お手伝いと聞くとスコールはぱっと表情を明るくして大きく頷き返してくる。やはり大人に混じって手伝いがしたかったのかとバッツはスコールのわかりやすい反応に笑みをこぼすとジタンに「頼んだぜ」と声をかけた。やり取りを見ていたジタンが了解とばかりに親指を立ててニッと笑う。

「よっし!じゃあスコール、始めるか?」
「うん!」

ピシッと背を伸ばし同じく親指を立てるスコールにジタンはウインクを送るとまずは手本とばかりに先にタライの中でへと足を入れた。
洗剤入りの水にひたされ、ぐっしょりとしたシーツの上を向いて右足左足を交互に踏んでいく。すると透明に近かった水がたちまち泡立っていく。今日は気温が高いので水の冷たさと足に絡む泡の感触のくすぐったさがとても気持ちよかった。
ある程度泡立ったところでジタンは洗剤で滑らないように両手を繋いでスコールを招き入れる。自分がやっているように踏み洗いしてみろと促すとスコールは小さな足で「よいしょ、よいしょ」と呟きながら踏み洗いを始めた。ジタンほどではないがシーツとシーツの摩擦と足による撹拌で洗濯水が泡立っていく。それが嬉しかったのか瞳をぱっと輝かせた。

「あわあわ……!」
「おお!上手いじゃねーか!よーしどんどん踏み洗いしていくぞー」
「うん!」

「いっちに、いっちに」とジタンの掛け声に合わせて二人で大きなタライでざぶざぶと踏み洗いをする。
あわあわと泡立つ洗濯水と白いシーツの中にいる二人はまるで雲の上で足踏みしているようでなんだか微笑ましく楽しそうであった。その光景にバッツは目を細める。
やはり手伝ってもらって正解だった。
幼さ故に危ないから、できることが限られているから遊んで時間を潰してもらっていた方がいいだろうと大人の都合で締め出しすぎるのもよくないなと改める。
スコールでも無理なく楽しくできそうな手伝いを考える必要があるかもとバッツはぼんやりと考えていると突然視界に白いものが飛び込んできた。

「ぶっ!?」

鼻の頭に泡の塊がばふっとぶつけられ、バッツはそれを取り払おうと頭をぶんぶん振り、手先でバタバタと払った。
何事かと泡が飛んできた方へと目を向けるとジタンが泡つきの尻尾をゆらゆら揺らしながら意地の悪い笑みをバッツへと向けていた。

「油断大敵だぜ?な、バッツも意外に抜けてるところあるだろ?」

どうやら尻尾で器用に泡をすくって投げたらしいジタンはきょとんとした表情を浮かべているスコールへと凄いだろと胸を張る。
それを見たバッツは笑みを浮かべると「お返しだ!」とすすぎ用に使っていた手桶の中の水を手ですくい、二人に向かってふるいかけた。陽の光を含んだキラキラした水の粒がジタンとスコールの頭上に降りかかる。

「わっ!冷てっ!」
「わぁ!」

降り注ぐ水滴を冷たそうに、だが気持ちよさそうに打たれる二人にバッツはにっと歯を見せて笑うと仕切り直せとばかりにパンパンと手のひらを叩いた。

「こら!遊ぶのもいいけどこれも仕事だぞー?この後レモンと蜂蜜であまくてつめたーい飲み物作ってやるからほれほれ働け!」
「へーへー!現場監督殿!よーしスコール、働いた後の一杯を楽しみに頑張りますかね?」
「はーい!」

現場監督バッツにジタンは敬礼をするとそれに倣ってスコールも敬礼する。そして再び「いっちに、いっちに」と大きな掛け声とともに大きなタライの中で踏み洗いをする。
今度はちゃんと長く続けてくれそうだ。
バッツは苦笑すると自分の手元にある洗濯したての衣類に目をやる。さっさと干して楽しそうな二人に自分も合流するとしよう。熱心な二人の掛け声に合わせた鼻歌を歌いながら洗濯を手に取った。
さて、自分も加わる気満々であるバッツであったが、楽しそうに洗濯をする二人の声に聞きつけてやってきた拠点待機組の仲間達が加わり、大洗濯会が繰り広げられあっという間に洗濯は終わってしまい、仲間に加われずうなだれるのであった。


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バッツさんがかーちゃんポジになりつつある気がします…




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