甘みと酔い

※今作は「久遠のかけら」後のお話ですが単体でも読めるようになっております。



夜の闇の中、月と家々の明かりを道標にスコールは帰路を歩いていた。普段なら、とっくに家に帰り着き、食事を済ませて眠るまでのんびりと過ごしている時間であるのだが今日は予定が入っていた。
リックスの村周辺の魔物退治仕事で知り合った村人の一人が退治仕事が落ち着きつつあるので祝いをしようと食事会を開いてくれた。小さな村とはいえ、人が集まる場が苦手なスコールは最初断ろうとしたものの場を開こうとしたのが先日食事を断った相手であった上に、同居人で想い人のバッツに折角だから行って来いと背中を押されてしまったのだ。

「仲間でわいわい楽しくするのもたまにはいいもんだぞ?みんなスコールのことが気になってるだろうし、一度断った相手からの誘いなら行っとけよ」

当日は自分も外で食事を済ませるからと朗らかな笑みで言われるとスコールは何も言えなくなってしまった。
バッツに促されたものの、最初はあまり乗り気ではなかったスコールであったが、数ヶ月仕事を共にした者達はスコールの物静かな性格をわかっており、会は和やかに進行し居心地は悪くはなく寧ろ心地よいとさえ思えた。加えて美味い料理と酒で腹を満たすこともでき、満足感を感じながらお開きを迎えられたのでバッツの言ったとおりたまにはいいものかもしれないと考えを改めた。
一連の出来事を思い出しながらスコール小さく笑みを浮かべていると、夜風に頬を撫でられ、その冷たさに現実に引き戻された。上着を着ているものの北の山間に位置するこの村の朝晩の冷え込みは厳しく、侮れない。

(暖房の準備をしておいた方がいいだろうか?いや、室内ならまだ大丈夫か……なら温かい飲み物を出せるように準備しておこう)

バッツも外で食事を済ませてくると言っていたので飲み物だけでも出せるようにしておけばいいだろうか。今回のことに加えて、普段から世話を焼いてくれている彼にせめて冷えた体をあたためる飲み物くらいは出そう。
そう決めるとスコールは歩く速度を少し早め、急ぎ、二人で暮らしている家に帰り着く。家の明かりが点いていないのでバッツはまだ帰っていないようであったが帰ってくるまでのんびり待つことにしようと家に入り、明かりを灯す。着ていた上着の埃を払い、上着掛けに掛けて家の中を歩くと一人しかいない家は随分と広く、室内であるにもかかわらず肌寒く感じた。

「我ながら重症だな」

人一人がいるかいないかでこうも感じるようになってしまうとはと苦笑すると取り敢えず暖をとろうと台所へと足を向けた。

(確かバッツがハーブを使った茶葉を貰ったと言っていたな。一足先にいただくとしよう。丁度冷えた体もそれであたたまるだろう)

薬缶に火をかけ、普段使っているカップとポットを出し、茶の準備を進めていると戸を叩く音が響く。来客にしては遅すぎるので最初は風のいたずらかと首を傾げたが、数秒の間をおき、控えめに叩かれる音は規則正しく、自然のものではなくどうやら人が叩いているのに間違いなさそうであった。

(バッツか?いや、それにしては叩く音が違う気がするが……それにバッツならすぐに家に入ってくるはず)

同居人の帰宅にしては様子がおかしいとスコールは首を傾げると、薬缶の火を止めて玄関に向かう。すると扉の外からバッツとは違う、男の声が聞こえてきた。その男は宿屋の主人であると名乗るとバッツを送ってきたので扉を開けてほしいと頼んでくる。

(何故宿屋の主人に連れられて帰ってきたんだ?)

疑問に思いながらスコールは扉を開けるとそこには宿屋の主人らしき年老いた男と、その男に肩を貸してもらっているバッツがいた。バッツは立ってはいるものの顔を俯けており、調子が悪そうであるのは一目瞭然であった。朝は普通であったのに今までの間に一体何があったんだとスコールが問うと主人はよたよたとしながらバッツをスコールに引き渡し、申し訳なさそうに頭を下げた。

「悪いねぇ。うちの客からもらった酒でバッツと一杯やっていたんだがどうやら合わなかったのかへべれけに酔っちまったらしいんだ」

美味くて飲みやすい酒だと二人で開けている途中、急に酔いが回ってこの有様。帰そうにも一人で歩くことすらままならないようであったので自分が連れ添ってきたと主人説明すると再び深々と頭を下げた。

「仕事の礼をしようとしたんだが本当に悪いことをした。このままだと二日酔いになっちまうかもしれないから明日の朝、酔い効く薬草を採ってきて届ける。だからこの通り」
「いや、気にしなくてもいい」

いい大人のくせして自己管理ができていないバッツの方に問題があるとスコールは言うと自分の体に寄りかかっているバッツを軽く揺する。体を揺さぶられたバッツは呻き声を上げながら宿屋の主人に詫びを入れた。

「ううー悪いなぁ……ちょっと調子に乗って飲み過ぎちまったばっかりに」
「そういうことだ。だから気にする必要はない」

水を飲ませてさっさと寝かせるとスコールは主人に言うと、主人はまた頭を下げ、帰っていった。
主人の姿が夜闇に消えるとスコールはバッツに肩を貸したまま家に入った。バッツの足取りは重く、しかも足元がふらついていて危なっかしい。この状態で家まで送り届けてくれた主人にスコールは心の中で詫びるとバッツの両足の膝裏に手を掛け、横抱きにした。痩せて見えるが筋肉質な成人男性のバッツは決して軽くはない。しかしふらついた状態で歩かせる方が危険だと判断したのだ。突然体制が変わったからかバッツは重たげに瞳を開く。

「うっ……すこーる?」
「おとなしくしていろ。寝台まで運ぶから」
「ごめんよ」

世話になると大人しく抱かれたまま運ばれる。酔いが回っているのを考慮してかあまり揺らさないように運んでくれていた。
出会った頃は自分とそう変わらなかった体格は今ではスコールの方が背丈が高く、体格も恵まれている。大人びていたとはいえ成長期の少年だった彼は逢えなかった数年間で見かけも中身もぐっと大人の男らしくなっていた。
がっしりとした力強い腕に掻き抱かれながらバッツはスコールを盗み見すると精悍な顔つきに心臓が跳ねる。
鼓動を悟られぬようにとバッツは無意識に胸に手を当てる。それに気付いたスコールはたどり着いた寝台にバッツ寝かせ、靴を脱がせると気分がすぐれないのか?と問うてきた。

「あまり酷いようなら水と吐き戻せるように器を持ってくるが」
「ん、そこまでじゃないから大丈夫。だけど何か飲み物を.……水は欲しい、かな?」
「了解だ。待っていろ」

横になってるバッツの頭をひと撫でし、スコールは台所へと向かう。その背中を視線で追いながらバッツはふかふかの寝台に身を沈め、こっそりと熱い溜息を吐いた。

(……すっかり大人になっちまって)

離れていた期間があったためかこうして出会った頃の時と比較してしまう。優しいことに変わりはないが不器用さは多少なりを潜め、年齢を経て得た余裕と穏やかさに今ではどちらが年上かわからなくなる。

(おれ、もう少し余裕があったよな?このところスコールに甘えっぱなしだな)

また一つふぅ、と溜息を吐くとカップと二つの水差しを乗せた盆を持ったスコールが戻ってくる。すぐそばのナイトテーブルに盆を置くと、バッツに起きれるかどうか聞いてきた。

「カップに水を入れてやるから上半身だけでも起こしてくれ。できるか?」
「んー」

のろのろとした動作で身体を起こすと横になっていた時よりも頭に重みを感じる。ふらつきそうになる上体にスコールがさっと肩に手を回して支えてくれたが思いがけず腕の中に飛び込んだ形になってしまい、バッツはスコールの胸に手をつきながら悪い、と詫びた。

「ごめん、危なっかしくて……」
「いや。問題ない」

スコールはそう言うとバッツを抱きしめたまま水差しに手を伸ばし、カップに注ぐとそれを手に取って手渡した。

「お、悪いね」

スコールからカップを受け取ろうとバッツは手を伸ばしたが、スコールは渡すことなくカップを口元に当てがってきた。てっきり自分にだと思っていたバッツは呆気に取られたがどうやら飲ませようとしているらしいことはわかった。

(ここまでされるほどじゃないと思うけど……まぁ、甘えるか)

自力で飲むことはできるが断る理由もない。されるがままにカップに口をつけるとそろそろと慎重に傾けられ、中に注がれていた液体が唇に触れて口内に広がる。

「ん?」

カップに入っていたのはてっきり水かと思っていたが広がるのは甘く、爽やかな香り。水に何かを混ぜて作ったらしいそれを一口分流し込まれ、こくりと喉を鳴らして飲み込むとカップが口元から離される。

「甘い……なんだこれ?」
「水にしようと思ったが蜂蜜とレモン果汁を入れた。酔いには糖分と柑橘系の果物がいいらしい」
「なるほど」

ぽつりと漏らすバッツにスコールは額に口付けるとまたカップを口元に当てて一口飲ませる。カップ一杯分飲み干すまで繰り返されるそれをバッツは全て受け止めると帰り着いた時に比べて幾分気分が楽になったように感じた。

「ありがとな。少し、マシになった気がするよ」
「いや……横になっていたからだろう」
「いんや。スコールのおかげさ」

のろのろ礼を述べるともう横になれと促され、バッツは再び寝台に体を預けた。スコールはバッツが横になったのを確認するとテーブルに片方の水差しと新しいカップを起き、喉が渇いたら飲めと言った。

「こっちは水が入っている。他に何か欲しかったり気分がすぐれなかったら呼んでくれ」
「お、おお。何から何まで助かるよ」
「いや……気にするな」

そう言いスコールは柔らかな表情浮かべるとバッツの額の髪を振り払い、軽く口づけを落とす。

「ゆっくり休め」
「お、おお」

顔が近づいたのでてっきり口にされるかと思ったので意外に思いながらもバッツは軽く手を振ってスコールの背を見送る。さみしいような、期待はずれにがっかりしたような、さみしさを感じる。随分甘えたになったものだとバッツは自身に苦笑すると大人しく目を閉じる。アルコールを入れたかほんのりあたたかい身体と、ふわふわくらくらする頭に柔らかなシーツに眠りを促され、バッツはあっという間に眠りの世界へと旅立って行った。




眠りの世界からの帰還は唐突であった。喉の渇きを感じたバッツはうっすらと瞳を開き、横たえていた身体を起こす。
どのくらいの時が経ったのだろう?ダイニングの方にまだ明かりが点いているのでスコールはまだ起きているらしいことはわかった。
酔いの方がどうだろうかと、ふるふると軽く頭を振ると眠る前まで感じていた頭の重みがほとんどない。まだ少し倦怠感はあるものの酔いは大分抜けたようだとバッツはほっと息を吐いた。

(少しは酒が抜けたっぽいな。けどもう少し水分とっておいた方がよさそうだ)

体に掛けていたシーツを剥ぎ、水を飲みやすいように寝台に腰掛ける形になったところで寒気を感じる。

「さむ……」

眠る前はアルコールが入っていたのであたたかかった為気がつかなかったが今夜は少し冷える。おまけに、眠ってかいた寝汗が体温を奪い、余計に肌寒く感じる。

(こりゃ先に体拭いて着替えた方がいいな。とりあえず拭くもんと寝間着を……)

薄暗がりの中、探し当てようと床に降り立とうとしたところでダイニングから足音が近づいてきた。

「起きたのか?」

気配か物音かで目を覚ましたと察したらしいスコールが顔を出す。鋭いなぁとバッツは苦笑すると寝汗をかいたから着替えたいと話した。

「酔いはほとんど抜けたんだけど今度はちょっと寒くてさ。それに汗で体が気持ち悪くて」
「わかった。少し待ってくれ」

心得たとばかりにスコールは頷くと、ダイニングに戻っていく。暫くすると湯気が立つ手桶と手拭いを手にしてやってきたので体を拭く為に準備してきてくれたのだと察し、バッツは礼を言った。

「おお。ありがとな」
「さっき茶を飲んだ時の残り湯があったから。手拭いもあるから体を拭くのに使え。その間に温かい飲み物を用意しておく」
「ああ。じゃあ頼んだ」

スコールから手桶と手拭いを受け取り、スコールが席を外すの見送るとバッツはさっそくとばかりに上半身裸になる。湯に手拭いを浸して絞り、温まった手拭いで体を拭くと汗の不快が取れ、手拭いの熱の心地よさもあって気持ちがいい。粗方拭き終わるともう一度手拭いを湯に浸して絞り、それを首筋に掛けて暖を取りながら今度は下半身に移る。流石に全裸になると寒いが一時のことだとさっさと拭き清める。拭き終わり、湯冷めしないうちに寝間着に着替えようと裸のまま箪笥の中を漁っているとポットを持ったスコールが戻ってきた。
既に肌を重ね合わせた間柄とはいえ、行為中とは違うからかスコールは裸のバッツに一瞬驚いた表情を浮かべると視線を逸らした。

「すまない。確かめもせず」

もう何度見られたかも触れられたかもわからないのに律儀に謝られる。真面目な彼らしくどんな間柄であれ、人の着替えの最中に確認もなく部屋に入るのは失礼であると思っているのだろう。バッツは気にしなくていいと笑った。

「もう着替えたから大丈夫。気にすんなよ。色々世話焼かせちまってごめんな」

手早く着替えを済ませ、入ってこいと促すと逸らした視線を向け直して近づいてくる。もしや着替えが終わるまで視線を逸らしたままだったのだろうか?

(ほんとに真面目なやつだなぁ)

持ってきたポットの中身を新しい小ぶりのカップに注いでいるスコールを眺めながら心の声でぼやく。よそよそしいとは感じないがここは自分達だけなのだからそこまでしなくてもとは思う。もし、逆の立場であったら「気をつけろ」と言われるだろうか?少なくとも出会った頃の”少年”であったスコールは注意というよりも怒りそうだ。それを想像すると可笑しい。

「……何を笑っている」

降りかかる声に我に返ると怪訝な表情を浮かべ、カップを差し出すスコールと目があった。思っていたことが表情に出ていたようだ。想像していたことを悟られないように何でもないと手を振ると話題をそらそうと差し出されたカップを受け取り、一口口に含んで飲み込んだ。

「お、今度はあったかい蜂蜜レモンか」

爽やかな柑橘系の香りと蜂蜜の甘さが口に広がるが先程の冷たいものと違い、生姜のぴりっとした刺激が加わっている。そういえば先程寒いといっていたので体があたたまるように工夫をしてくれたのだろう。その心遣いが嬉しかった。
こくこくと喉を鳴らしながらゆっくり飲み切ると、礼を言ってカップを返した。

「ごちそうさま。美味かった。また作ってくれよ」
「気に入ってくれたようでなによりだ。体調はもう大丈夫そうだな」
「ああ。おかげ様でな」

助かったと微笑むとふわりと頬に触れられ頬を包みこまれる。自分のものより少し大きくてあたたかい手。人に触れられる心地よさを教えてくれたのは亡き両親であったがそれを思い出させてくれたのはスコールだ。ひとりで生きていくのだと思っていた頃はもう二度と誰かに触れることも触れられることも無いのだと思っていた。

「バッツ」

名を呼ばれ、額に軽く口付けられる。これもあたたかい。

(ああ……もう……)

頬に触れられるだけで心地よかったのに更に望んでしまう。我ながら欲張りになってしまったものだとバッツは自身に苦笑すると両腕を伸ばしスコールの背に絡めると、自ら愛おしい者の唇へと素早く口づけをおくる。一瞬の早業に目を見開くスコールにバッツはいたずらっぽく笑った。

「おでこだけでしまいか?」
「……この酔っ払いが」

不意打ちが成功したのが嬉しかったのか子供のようにおどけるバッツにスコールは呆れつつも柔らかい表情を浮かべると仕返しに体重を掛けてバッツを寝台へと押し倒した。二人で一つの寝台に雪崩れ込むとどちらともなく唇を合わせる。今度は触れるだけではない。薄く開いた口に互いに舌を絡ませ、繋がりあうかのように深く口付けあった。息が苦しくなるまで互いを堪能し合い、離すと、つうっ……と舌先に銀糸が引き、切れた。

「……甘いな」

呟くスコールにバッツは一瞬何を言っているのかわからなかったがすぐに自分の口内に残っていた蜂蜜檸檬の味のことを言っているのだとわかった。けれど、それ以上に漂う雰囲気は濃厚で甘い。

「もっとしてもいいか?」

そっと寝間着に手をかけられながら聞かれると頷くかわりに背に回していたままの腕に力を込めて引き寄せる。それが了承の合図だと受け取ったスコールはバッツの胸元を開くと噛み付くように唇を落とした。肌を重ね合う幸福感に包まれながら今度は酒ではなくスコールに酔いそうだとバッツは瞳を閉じたのだった。





翌朝、宿屋の主人がバッツを訪ねると、出迎えたのはバッツではなく同居人のスコールであった。バッツはどうしたかとスコールに聞くとバッツは横になっており、起き上がれそうにない。用件は自分が聞くと申し訳なさそうに説明してきた。
やはり自分が飲ませた酒が合わず、二日酔いになってしまったかと項垂れると、持ってきた見舞いの品をスコールに差し出した。

「二日酔いに効く薬草と、気分が悪くても食べられそうな果物を持ってきたからバッツにやってくれないか?」

見舞いの品が入った籠を差し出され、スコールはそこまでしてもらわなくてもと断る素ぶりを見せてきたが、自分の仕事を手伝ってもらったバッツに恩を仇で返すようなことをしてしまったのでせめてこれくらいはさせてくれと籠を押し付けるとようやく受け取ってくれたのでほっと息を吐いた。

「本当にバッツも、あんたもすまなかったね。薬草は煎じて飲むといいからさ。バッツに悪かった。そしてよろしく言っておいてくれ」

主人は長居をしても悪いからと帰ったが、よほど気にしているのか姿が見えなくなるまで何度も頭を下げて帰っていた。
それを見送ったスコールは小さく息を吐くと、籠を持って家の中に入り、扉を閉めた。

「誰か来たのか?」

扉が閉まると同時に家の奥から掠れたバッツの声が聞こえる。スコールは籠を持ったまま寝室へと向かうとそこには寝台にぐったりと横になっているバッツがこちらを見ていた。

「宿屋の主人から見舞いだ。あんたが二日酔いだと思って持って来てくれたらしい」

籠の中身を見せるスコールにバッツはバツが悪そうに顔を顰める。

「悪いことしちまったかもなぁ……」
「そうは言っても事情を説明するわけにもいかないだろう?本当は昨晩のうちに酔いが治っていて今日は腰痛で寝ているなんて言ったらどう思われるか……」
「まぁ……そうなんだけどさ」

色々勘ぐられるかもしれないことは避けた方がいいだろうとスコールが言うのを半分はお前が原因だろうとバッツは思いながらも黙って頷いた。
最近スコールが自分の仕事を持ったこともあってお互いタイミングが合わず、久しぶりの褥となったのだが、お互い自分が思っていた以上に相手に飢えていたらしく、交わりは一度で終わらなかった。
もっと、もっと欲しい……!!
言葉とともに貪るような口づけを交わし合い、性を吐き出して間もない、繋がった身体のままで互いを求めあう。本能のままの行為に溺れた上に、腰がイカれるまで繰り返したと今思えば恥ずかしすぎて顔から火が出そうだとバッツは首を振った。若い頃ならまだしもお互いいい大人であるのに羽目をはずし、おまけに腰を痛めるとは恥ずかしさに加えて情けない気持ちになる。
自分達だけでも思い出しただけでこの始末なのにもしそれが他人にばれようものならこれだけではすまないだろう

(流石のおれでも外歩けない……いや、いっそのこと焼けてなくなりたいと思っちまうわ……)

宿屋の主人には悪いが二日酔いで寝込んでいることにした方が都合がよい。
痛む腰をさすりながら心の中で宿屋の主人に謝るとバッツはなるべく腰に負担がかからないようにと慎重に、ゆっくりと身体を起こそうとしたがスコールにやめておけと止められる。

「無理をすると余計に悪くなる。あんたも俺も仕事がひと段落したところで今日くらい休んでも問題ないだろう」
「そりゃまぁそうだろうけどさ、家のこととか……」
「家のことは俺がするから大人しく休んでいろ」

ぴしゃりと言われ、バッツはぐぅ、と喉を鳴らす。無理に抗う理由もなければ責任を感じて些か頑固になっているスコールを相手にするのは体力がいるのでバッツは小さく息を吐くと大人しく寝台に身体を戻した。バッツの様子にスコールがよしとばかり頷くと見舞い品の籠を見せ、朝食用に果物を剥いてやるから選べと言う。籠の中には薬草と様々な果実が入っている。その中のひとつに丸々としたレモンがおさまっていた。客商売をしていて人一倍気遣いが細かい宿屋の主人のこと。酔いに効くだろうと選んでくれたのだろう。しかし……

(暫くは酒も蜂蜜檸檬もいいや)

昨晩の甘さを思い出し、バッツは照れを隠すように首を振るとレモンの横にあるりんごを剥いてくれとスコールに頼んだのだった。


甘めに。前作がシリアスだったので羽目を外したお話にしてみました。
今回の二人は相当お楽しみしすぎたのだと思います(ぁ)


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