気遣い不要

仲間とはいえその人数がそれなり多く、付き合いがある程度長くなるとその中で特に親しい相手ができることがある。
ジタンにとってその相手はバッツとスコールの二人であった。
初めから二人と気があったと言うよりも、元々暮らしていた世界から神々が争う別世界へとやってきた時にこの二人と行動を共にしたのがきっかけとして大きいとジタン本人は思っている。
バッツに関しては誰とでも親しくなれる性格をしているので行動を共にしていなくとも仲良くはなれたとは思うが、もし最初に行動を共にしていていたのが自分ではなかったら彼はそちらの方とより親しくなっていたかもしれないし、逆に自分もそうであったかもしれない。
もう一人のスコールの方はバッツとは対照的に他者と必要以上に接することをあまりしない為3人で行動を共にするきっかけがなければそこまで親しくはならなかったもしれない。
そう考えるとこの二人と出会い、共に旅をし、親交を重ねて今の関係を築いてこられたのは奇跡と言ってもいいのかもしれない。二人には気恥ずかしくて言わなかったもののジタンはこっそりそう思っていた。だからコスモスに喚ばれた仲間達が揃ってからもジタンはバッツとスコールと行動を共にすることが多かった。
仲間の中でも特に親しいのはこの二人だろう。そう思っていた二人が紆余曲折を経て互いに想いを通じ合わせたと知った時は同性であることや互いに異なる世界の人間であること、神々の戦の最中でいつ別れが来てもおかしくない状況であることなど諸々のことをすっ飛ばして純粋に嬉しく思ったほどジタンにとって二人の存在と繋がりは強いものとなっていた。
不安要素はあるものの互いにそれを知った上で今の気持ちを大事にし、決断したことに大袈裟かもしれないが感動さえした。二人には今を、この時を大事にし、愛を育んでもらいたい。そう思っていたのだが……。

(現実はそうはいかねぇのかな〜……)

少し前を歩き、他愛のない世間話をしている二人の背中を見つめながらジタンはこれまでのことを思い出しながらこっそりとため息を吐いた。



今日の仕事は三人揃っての食料集め。拠点を決めてから食料を備蓄できるようになり、一定量の食材を確保のために定期的に補給することが定型的な任務となっている。加えて拠点の守りを固めるための見張りや見回り、新たな断片調査などの任務があり、それをリーダーである光の戦士が戦士達の交流と戦う上での連携力と結束を高める為にメンバーの選定をランダムに決めるようになったためにここ最近はこの三人で任務につくことはほとんど無かった。
久しぶりに三人揃っての任務につけると知った時、ジタンは気心がしれている方である二人が一緒と知って嬉しさはあったもののそれ以上に事情を知っている自分の前でも普段とほとんど変わらない様子である二人から想いあっている同士の進展状況の変わらなさが気になって仕方がなかった。

(二人が付き合い出してすぐに仲間達と合流して拠点決めたり、その生活になれるのにバタバタしちまったとはいえ……付き合う前と変わらなさすぎなんだよなぁ)

内心ぼやきながら二人の会話に耳を傾けると、バッツが何やら指差しスコールと話をしている。

「この前この近くで木苺がなっているのを見つけたんだ。そろそろ食べ頃だと思うから採りにいってもいいと思うぜ」
「そうだな……拠点に大量に砂糖があったはずだ。ジャムなどに加工して保存できるようにしてもいいだろうな」
「だろ?甘いもんはティナやティーダあたりが特に喜びそうだし何よりも摘みたての生の食材が食べられるのっていいよなぁ。ついたら三人でつまみ食いしようぜ。あ、方向はこっちな」

目当ての食料探しにどの方向へ向かうかを話しいている二人の会話の色気のなさ。この際自分のことは無視して惚気のひとつやふたつを見せてくれてもいいとさえ思えてくる。
二人があまりにも普通すぎる為、今回の仕事も実は当初は仮病を使って二人で行かせてみようかとも考えていた。仕事とはいえ想いあっている者同士が誰にも邪魔されない状況は自然といい雰囲気になるのではないか。そう思い、前日から調子が悪そうな演技をし、任務当日まで長引きそうであれば二人で行ってきてもらえるように話をすれば二人は心配そうな表情と言葉を掛け、しまいには当日空きメンバーである光の戦士に変わってもらうように頼もうかとさえ言い出したので慌ててそれを止め、仮病作戦は失敗に終わってしまった。

(二人きりじゃなきゃ意味ねぇし何よりリーダーが同行となると絶対普通に仕事して帰ってくるに決まってらぁ)

そうなるくらいなら自分が行った方がいい。仮病作戦が駄目なら今度は自分だけはぐれた作戦で行こう。そう決めて二人の後を歩く形を取り、そっと離れようとしたのだがことごとく気づかれてしまい、上手くいかなかった。
盗賊であり、気配を殺しての隠密作戦が得意であると自負していたが神に召喚された戦士は一筋縄ではいかなかったとこっそりと肩を落として、これ以上行動を起こせば流石に不審に思われると大人しくついていこうと決めて今に至る。
昨日から作戦がことごとく失敗してしまったジタンはまだ仕事の途中であるのに既に疲労感でいっぱいである。ジタンの気遣いと気苦労など察していないバッツとスコールの二人は再び他愛もない話をしながら歩を進めている。その姿が恨めしくさえ思えてくる。

「……はぁ」

二人に聞こえないよう胸に渦巻いている悶々としたものを吐き出すようにため息を零すとジタンは二人の背後を大人しくついて行くのだった。



バッツが話していたとおり、しばらく歩いた先に沢山の木苺が実っていた。赤く色づきツヤツヤとしたそれは宝石のような輝きと甘酸っぱい香りを放っており思わず手を伸ばしたくなるほどである。

「随分たくさん実っているな」

感心したように呟くスコールにバッツは「お手柄だろ?」と自賛しながら木苺を手に取ってもぎ取り口に放り込む。木苺は見た目と香りの通り美味かったらしくバッツはよしと頷いた。

「うん。料理にも菓子にもできそうだから今日はこれとこの周辺の山菜やキノコ、木の実を集めていこうぜ」
「了解だ。俺は別の場所を探してみようと思うからあんたらはこの辺を頼む。つまみ食いはほどほどにな」
「りょうかいりょうかい。また後でな」

木苺をつまみ食いしながら話すバッツにスコールは自分の担当分の食材類を入れる袋を肩にかけるとさっさと動き出す。その姿を仕事熱心と捉えるのか素っ気ないと捉えるのか。ジタンは「少し位休憩してから行けばどうか」と小さくなってゆく背中に向かって叫んだが「早くすませたらそれだけ早く帰れる」と返して木々の向こうへと消えてしまった。
仲間達と合流してから単独での行動を控えるようになったものの、たとえすぐ近くに想い人がいようとも任務となれば別かとジタンは首と尻尾を下げ、盛大にため息を吐いた。

「なんであんなに素っ気ないんだよ」

バッツと共にいられるように気を揉んでいたこともあり、少し不満げに呟くジタンにバッツはまぁまぁと肩を叩く。

「まぁ固まって探すより効率が良さそうだからいいんじゃないか?あいつの好きにさせてやろうぜ?」

呑気に木苺を摘まみ続けつつ宥めるバッツにジタンは眉根を寄せる。付き合うのは当人同士のこととはいえ、限られた時間をもう少し大事にしてもいいのではないか?そんな思いがわきあがり、表情に出てしまった。ジタンの表情から何かを察したらしいバッツは木苺を頬張るのを止め、頬をかきつつ首を数回ひねると少し声を落としてジタンに話しかけた。

「多分だけどな、スコールのやつ、少しでも負担にならないようにあの行動だと思うんだよ」
「はぁ?一体どういうことだよ?」

表情だけでなく声にまで感情を滲ませるジタンにバッツは苦笑を浮かべる。

「いやな、おれたちそれぞれ別々の世界から来てそれまでの生活も異なるじゃないか。おれやジタンよりもスコールのが機械文明に詳しいけどその分野外での生活は……だろ?」
「あー……そういやあいつの世界って文明が発達していたから移動を徒歩で何日もかけたりするような世界じゃないんだったな」
「だろ?野宿したりすることもほとんどなければ、多分だけど物流もしっかりした世界で欲しい物がすぐ手に入るような環境だったと思うんだ。おれ達のような自分達でなんでも外で調達するような旅暮らしもほとんどしたことがなさそうだからなのかこうした外での食料探しでは遅れをとってるって思っちまってるんじゃないかなって。だからただ一人が気楽だとかとは別におれたちの負担にならないようにさっさと向かったんだと思うぜ?」

スコールが消えて行った木々の向こうを見つめながら話すバッツにジタンは目を丸くした。バッツは他者の意思決定を尊重する方であると思っていたがここまでスコールのことを考えていたとは思わなかった。初めてスコールと出会った時と同じようにただ相手のしたようにさせようとしたのではなく、これまでスコールと共に過ごしてきたことを踏まえた上での考えに彼がどれほどスコールを見てきたのかが伺える。先ほどまで付き合う前とは変わらないと思っていたが少し間違いだったようだと思い直した。

「お前、スコールのことよくわかってるんだなぁ」
「はは。まぁおれの想像だけどな。さて、スコールに負けないようにおれ達も仕事しようぜ」
「うーんそうまで言われるとぶつくさ言うのは野暮だよなぁ……りょーかい」

諭された形になったが渦巻いていた勝手な不満が和らぎ、素直に頷く。それを朗らかな笑顔で見つめるバッツにもしかしたらスコールもこうして絆されているのかもしれないとバッツの年上の上手さにジタンはこっそりと感心したのであった。



バッツは合流しやすいように自分はこの周辺で食料探しをすると言った為ジタンは少し離れたところを探して見ることになった。森の中を目を凝らして探し回ると山菜や木の実、キノコ類がそこかしこに自生しており仕事とはいえちょっとした宝探し感覚で楽しい。食べられる物かそうでないものかを見分けながら手にしている大袋に次々と狩り物を放り込んでいくとあっという間に袋いっぱいになった。

「大漁大漁〜」

鼻歌交じりに呟き、二人の状況確認と替えの袋があれば貰いにいこうかと大袋を肩に背負う。仲間達全員が合流して大所帯になったことに加えて育ち盛りの者や恵まれた体格に相応しい食事量の者もいる。先程二人が加工できる食品は加工して保存しようと言っていたので備蓄分が採れる余裕があるのなら確保しよう。
そう決めてバッツがいる方向へ歩き出そうとしたがそこではたと足を止める。もしかしてスコールもそろそろ戻ってきてバッツと合流しているかもしれない。だとしたらそこに自分が合流したらお邪魔になるのではないだろうか?そう考えたジタンであったがここに来るまでの二人の様子からお邪魔になるような場面に出くわさないかと首を振り、再び歩を進めていく。
バッツもスコールも恋愛方面に疎い、初心な方でありそうだと思ってはいたがまさかここまで見せないとは思わなかった。神々の戦いの最中であるとはいえ始終戦いっぱなしではない。想いを通い合わせた者同士、束の間の間でも身も心も触れ合いたいとは思わないのだろうか。お互い違う世界からやってきてこの特殊な状況と環境、立場が躊躇させているかもしれないがそれでももし二人がそれで自重しているのであれば逆に限りあるからこそ素直になってもらいたいとも思う。

(当人同士の問題ではあるからとやかくは言わないけどさ。あいつらには後悔してほしくないよなぁ。まぁ、そんな我慢とかしている風には見えなかったけど)

あれが彼らの付き合い方かもしれない。単独行動をとろうとするスコールに対してバッツがその行動理由を捉えているのを聞いた限り少なからず彼を想い、理解しているのだとは思う。

(付き合い方はそれぞれ……か)

仲間内で交流が深い方であるのと二人の性格を多少なりとも知っているからこそ自分が色々お膳立てするべきでは?と思っていたがその必要はなさそうだなとジタンは結論づける。
そろそろバッツと別れた場所に着くがバッツはどこにいるのだろうときょろきょろ辺りを見回すと見慣れた紅茶色の頭髪と薄い水色の外套がちらりと木々の間から見える。別れた場所から僅かに離れた場所にバッツがいるのが見え、無事合流できそうだとジタンはほっと息を吐いたがそれと同時にバッツのすぐ隣に人影があるのが目に入った。
バッツよりも少しだけ背の高い、全身黒の衣。スコールだとすぐにわかった。
ジタンと同様肩に背負っている収穫物を入れる袋の膨らみから一旦戻ってきたのだろう。バッツは彼が外での食料捜しを不得手であることを気にしていると言っていたが結果が上々のようでよかったとジタンは笑みを浮かべ、自分も仲間に加わろうとしたがピタリと足を止めた。
バッツが自分が摘んでいたらしい木苺を摘まみスコールの口元へと近づけ食べさせようとしていた。
そこは面倒見がよく、年下の扱いに長けていそうなバッツらしいとは思うのだが吃驚したのはそれをスコールが何の躊躇いもなく口を開き木苺を放り込まれたことだ。

(おいおいおいおい……)

ジタンが思うスコールは年不相応の見かけと年齢相応の難しい性格故に、今のように幼児や恋人同士がするような対応を受け付けるとは思いもしなかった。しかも狼狽えや照れを出すこともなく、ごく自然にそれを受け止める。意外な一面を見てしまい唖然とするジタンであったがそれだけでは終わらなかった。
何やら楽しげに話すバッツを何を思ったのかぐいと抱き寄せ、いきなり口づけたのだ。
またまた予想していなかった場面の遭遇にジタンは驚き、声が出そうになったが慌てて口元に手を当てて防いだ。二人から離れていたことと木々で姿が隠れていたこともあって気がつかれなかったようでほっとしたが、いきなり口づけをされた側であるバッツが弾かれたようにスコールを軽く突き飛ばし辺りを見まわしはじめた。
彼の様子からどうやら誰かに、ジタンに見られていないかを確認したのだろう。ジタンはさっと身を屈めて気配を消し去り、木々の間からそっと二人を様子見する。
バッツはひとしきり周囲を確認した後、まくし立てるようにスコールに何かを言っている。詳しい会話は聞こえなかったが様子から見られたどうするんだと注意をしているようであった。しかし、スコールは涼しい様子でバッツほどではないが辺りを見まわし、首を横に振ってバッツに諭すように何か言っている。おそらく誰もいないから心配ないと言っているのだろう。しかし……。

(悪りぃ。ばっちり見ちまったわ〜)

心の中で二人に詫びながら続けて様子を眺めていると見られていないと安心と注意をものともしないスコール相手に疲れたのかバッツががっくりと肩を落として息を吐いていた。その姿に普段の余裕が一欠片もない。それとは対象的に大人しくそれを眺めているスコールは涼しいもので余裕があるようにさえ見える。どちらかと言えば照れを見せるのはスコールの方だとジタンは思っていただけに意外な二人の一面を見たと苦笑を浮かべ、同時にやはり想いあっている者同士の心身の触れ合いがあったことにどこかほっとした気持ちになった。
互いの想いを受け入れ、彼らなりに愛を育んでいる。
それを確認できたことに安堵した。

(あいつらなりにとは思っているけど……おれが安心したかったのもあったからなんだろうな)

彼らへのもやもやとしたものの原因もはっきりわかり、自分のお節介とも言える気遣いは不要だったかとジタンはまた笑うと影からそっと二人を伺う。
誰もいないと思っているらしい二人は喧嘩とまではいかないじゃれ合いをやめており、熱く抱擁し、小鳥が実を啄ばむような口づけを交わしあっている。

(こりゃ退散した方がよさそうだなぁ)

甘い空気を醸し出す二人にジタンは音を立てずそっとその場を離れた。あんなお熱いようなら暫く戻らずに時間を潰した方がよさそうだろう。

(気遣い不要と思ったもののこれくらいは必要か)

一人で勝手に心配していた時とは違う余計ではない気遣いを。

(まったく色々と損したぜ)

呆れつつも二人の先程の様子を思い出し、小さく声に出して笑う。合流が遅くなった時に食料探しに難儀していたと言い訳ができるくらいに袋は詰まっている。二人が二人の時間を過ごせるようにどこかで昼寝でもするかと決めるとジタンは軽い足取りで森の中を小走りで駆け抜けた。


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キリ番70000hitリクエスト「普通にしているつもりでも好きだということが漏れでてるスコバツか仲良し589」です。
どちらかとのことだったのですが悩んだ末にジタン視点の互いに想いあっている85なお話に。(漏れでているというよりもダダ漏れといいますか…これでよろしかったでしょうかとびくびくしています;;お題に沿っているようで脱線していて申し訳ございません;;)
作中バッツさんがスコールを突き飛ばしたのは野生の勘で近くにジタンがいるかもと焦った為で普段は大人しくスコさんのやりたいようにさせていそうだと勝手に思っています。


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