久遠のかけら -1-

ご注意
DFFでの戦いの後、元の世界に戻ったスコールがバッツのいるFF5の世界にやってきたお話です。
DDFFでの設定は無視している上に手前勝手なスコバツ(年齢的に25歳スコと28歳バッツでレオバツ?)です。



一日の終わりを告げるかのように青い空が淡い橙色に染まっていく。遊びまわっている子を呼ぶ親の声、鳥が森へと帰っていく鳥の鳴き声が響くと自分も帰る場所へ帰らねばと思ってしまうのは何故だろうか。

(ここが帰る場所だと認識するようになってから余計にそう思うようになったな……)

肩まで伸びた髪を耳から後頭部へと掻きながらスコールは空を仰いだ。
ここに、リックスの村にバッツと共にやってきてもう半月近く経つ。自分がもといた世界を旅立ち、僅かな記憶と可能性と彼に逢いたい気持ちを胸にこの世界へやってこれただけでも奇跡であるのに、彼と再会を果たし再び同じ場所で同じ時を共にすることができるようになったのは夢を見ているのではないかと今でも思う時がある程だ。朝目が覚めた時に隣に彼が居るのかとすぐに確かめてしまうのと同じように日が落ち、彼と暮らし始めた家へと帰る時も彼が待っていてくれているか、帰ってきてくれるか不安になることもあった。その気持ちをバッツに吐露した時彼は苦笑混じりでお前にここまで来させておいていなくなるもんかと笑われたが喜びが今だに大きい故不安はまだそう簡単に消えることはない。今感じている喜びが当たり前になれば消えるのだろうか。

(嬉しかったり不安になるのはそれだけ俺にとってバッツの存在は大きい……いや、いなくなってはだめなんだろうな。そもそもそうでなければこんなところまで追いかけては来ていない、か)

夕焼け色に染まる空を眺めながら心の中で独り言を吐き出すと暗くなる前にバッツが待っているであろう家へと帰ろうと足を踏み出そうとしたところで呼び止められる。振り返ると前に一度だけバッツと立ち寄った村の鍛冶屋を営んで居る壮年の男性であった。

「あんた、バッツんところに一緒に暮らしている人だよな?」
「そうだが……」

小さな村とはいえ、自分存在を知ってはいても名前を知らない人は少なからず存在する。そんな時に決まって名前の代わりにバッツの知り合いと呼ばれるのでこの男性も自分の名を知らないがためにそう声を掛けたのだろう。仕方が無い。

「名前を知らなくて失礼な呼び止め方をして申し訳ないね。よければ名前を教えてもらえるかな?」
「いえ、気にしていません。名は……レオン、ハートです」
「レオンハートさんかい。いきなりすまないね。実はバッツの家にこれから向かおうと思っていたのだけど同じ場所に暮らしている人に頼んだ方がいいと思ってね。これを渡してくれないかな?」

そういい包み紙に包まれた四角い、両手に乗るくらいのものをスコールに差し出してきた。簡単に持ち運びできるものであり、仕事終わりで後は帰るだけなので特に断る理由もない。スコールは了承すると主人は顔を綻ばせて礼言ってきた。

「いや。突然の頼み事にありがとう。最近少し足を痛めてしまってね。小さな村とはいえ出歩くのに難儀していたところにあんたを見かけたもんだったから。バッツにもよろしく伝えてくれよ」

鍛冶屋の主人はスコールに丁寧に頭を下げると自分の仕事場兼家へと戻って行った。手渡された四角の包みが何であるのかは聞きそびれてしまったがそれはバッツに聞けばわかることであるので呼び止めることはせずスコールは帰ろうと鍛冶屋の主人に背を向けて歩き出した。



家へと帰るとすでに明かりが灯っていたので思った通りバッツも帰宅して居るのだと察した。お互い仕事や予定で別行動を取る時は早く帰ってきた方が先に夕食の準備をすると決めているのだが、スコールが先に帰ってくることは今のところ一度もなかった。おそらく知り合いもいない不慣れな世界にやってきたことをバッツが気遣って先に帰れるようにしてくれているのであろう。もう少年と言える年齢をとうの昔に終えたというのに彼の中では今だ出会ったばかりの子供のイメージが強く残っているのかもしれない。

(再会したとはいえ、バッツにとっては17の頃の俺と過ごした時間の方が長い空白期間があったから仕方が無いか)

昔の自分なら幼さ故にこのようなことをされたら複雑なものを多少感じたかもしれないなと心の中で零しながら家の扉を開く。開いた瞬間、夕食の匂いと明るい声がスコールに届いた。

「お、おかえり」

台所に立ち、鍋をかき回しながら首だけこちらを向けているバッツと視線がかち合うとスコールは「ただいま」と返し家の中へと入った。上着を脱いで埃を軽く落として掛け、テーブルの上に荷物と鍛冶屋の主人から預かってきたものを置くと軽く伸びをした。一日の疲れで強張った身体が少しだけ楽になる。少し座って休もうと椅子を引き、腰を下ろすと水差しとカップを持ったバッツがこちらにやってきた。

「今日も一日お疲れさん。夕飯はもう少し待ってくれよ。お疲れのようだから水分補給な」
「ああ。すまないな。少し休んだら手伝う」
「いいってことよ。もうあとは盛り付けて運ぶだけだから気にすんなよっと、朝出た時よりも荷物が増えてるみたいだけど、何か買ってきたのか?働き始めたとはいえまだこの世界に来たばっかりなんだし必要なものがあるのなら遠慮するなよな?まぁ、おれもそんなに金をもっているわけじゃないけどさ」

鍛冶屋の主人からの預かり物をスコールの買い物だと勘違いしたバッツにスコールは瞠目の後に苦笑を浮かべると「違うんだ」と軽く首を振った。

「いや、これはあんたへと預かったものだ」
「へ?おれに」
「鍛冶屋の主人からなのだが、心当たりはないのか?」

その一言で何かを思い当たる事があるらしくバッツは「ああ」と零すとカップと水差しをテーブルの上に置き、四角い包みに手を伸ばした。

「そっか。親父さんもう直してくれたんだな。仕事が早いと思っていたけどここまでとは思わなかったなぁ」

独り言のようにつぶやくバッツに「何かを武器でも直してもらったのか?」とスコールは問うとバッツは少し笑ながら「違うんだ」と言い、包みを開きスコールによく見えるように差し出してきた。包みの中身は薄桃色の古い箱のようなものであった。どこから見ても武器には見えない何の変哲もないただの箱のように見えるのでどこか壊れたとしても手先が器用なバッツだけではなくスコールでも直せそうな代物に見える。一体これをわざわざ人に頼んでまで直してもらうようなものなのだろうかと小首をかしげるスコールにバッツはスコールが何を思ったかを察したらしく箱を開いた。ポロンポロンと鐘を思わせる機械じかけの音色が響きスコールはようやくその箱がなんであるのかを理解した。

「オルゴール?」
「正解。ちょっと調子が悪いみたいだったから村で直せる人を探したら鍛冶屋の親父さんが直せるかもしれないって言ってくれてさ預けていたんだ」

柔らかな、どこか懐かしささえ感じられる音色を聴きながらバッツは目を細めて話す。彼の表情から余程大事なものであることをスコールは察したが旅人故私物をほとんど持たない彼が大事にしているものがあることは珍しいと思う。そもそもバッツがオルゴールのような繊細なものを持ち歩いているとは思ってもいなかった。

「意外だな」
「何が?」
「あんたがそんなものを持っているなんて……」
「ああ、違うよ。これはおれのじゃないんだ。亡くなった……母さんのものだよ」

母さん。その一言バッツの口から出てきたことにスコールは驚き目を見開いた。故郷であるこの村に今一時的に身を寄せているとはいえ、バッツの口からあまり身の上話を話されることはない。スコールが知っていることは幼い頃に母親と死別し、その後に旅暮らしをしている父親と共に故郷の村を出たこと。そしてその父親も他界しそこからは天涯孤独で旅を続けていたことくらいである。何と無く、両親や故郷の話題を彼に聞くことに躊躇いがあったため今まで聞くことはなかったが、バッツの口からこのように話されるとは思ってもいなかった。

「母さんが死んで親父と旅に出た時にさ私物をほとんど処分したのかと思っていたんだけどこれだけは残っていてさ。母さんのものだから旅に持ち歩かずに村の人に頼んでもとの家に置いてもらっていたんだけど戻って来てこの前久しぶりに開いたら音色がおかしくなっていたみたいだったから……」

ぽつぽつと話しながら手動式のオルゴールを見つめ鳴らすバッツは柔らかく優しい音色に包まれているのにどこか物悲しかった。普段朗らかな笑みを絶やさないのは彼が内側にあるものを人に見せまいとしているからだと思ってはいたがここまで表情の変化を見せるのは珍しいことであった。座っていた椅子から腰を上げ、そっと手を伸ばしてバッツの頬に触れると音色が止み、オルゴールから視線が外れる。

「スコール?」

突然触れられ小首を傾げるバッツにそのまま流れで抱きしめ彼の方に顔を埋めた。出会った頃に比べて少し埋めにくい。ほとんど体格差はなかったはずがバッツが小さく感じるのはスコールの方が背も肩幅も大きくなっただけではない。今目の前にいる彼が幼い子供のように見えているからなのだろう。

(故郷に戻ってきたからなのか……それとも母親の形見のオルゴールのせいなのか……)

何が引き金となっているのか聞くことでもし彼の奥底にあるしまいこんでいるものを無理に引き出すことになってしまうかもしれない。けれども目の前にいる愛しき存在が独りの子供のように、以前の自分のように誰にも頼ることをしない独りの少年のように見える彼を悲しさに包み込ませたくはなかった。

「スコール、あったかいのは変わらないけれど……出会った頃に比べて大きくなったなぁ」

おとなしく抱きしめられたままこぼすバッツの声と雰囲気はもとの、普段の彼のものに戻っている。顔を上げると柔らかな笑みをたたえた彼の顔が目の前にあった。

「突然立ち上がって抱きしめてきたからちょっと驚いたけど、スコールに抱きしめられるとなんか落ち着くな。年下だとばっかり思っていたけどいつの間にそんな包容力を身につけたんだよ」

からかうように笑われると、そっと離れられたので背中に回していた腕を解放する。バッツは笑ったまま手に持っていたオルゴールを近くの棚の上に置くと食事にしようと手を叩いた。

「お互い一日働いて腹ペコだろ?夕飯の用意もまだ途中だし、すぐするから座って待っていてくれよ。今日は茸のシチューと近所のおばさんの手伝いのお礼にもらったオリーブとチーズを使ったサラダがあるぞ。期待していてくれよ」

くるりと背を向けて台所へと戻る彼を見送り、スコールは再び椅子に腰を下ろした。
一見すると普段の彼に戻っているとはいえ、はぐらかされた感が否めない。両親と死別してから特定の誰かに頼らず、生きてきた故だろうか。出会った頃に比べて心身の距離が縮まってもバッツは自分の心の脆い部分を曝け出すことはほとんどない。この世界にやって来たばかりの再び離れてしまうかもしれないと不安を吐露した自分にいなくなるものかと笑った彼は確かに自分の前からいなくはならないが、一番近くに居るはずであるのに時折見えない隔ての向こうへと行こうとする。そんなバッツに悲しさを内側に独りだけ閉じ込めて抱え込まないで欲しいと思いつつもその悲しみを癒す術もなければ自分がそうできるとは思わない。
自分が感じた喪失や孤独と同じようで違うものをバッツもまたそれを抱えているのだと思うと先ほどまでの喜び故の不安以上の薄暗いものが胸に広がり、痛んだ。
願わくば、自分がそばにいることで彼に独りの寂しさを少しでも取り除くことができれば。
心の底からそう思った。



2016年8月5日 85の日おめでとう?なお話です。少し薄暗いスタートですが続きます。
ツイッタでお世話になっているフォロワさんとレオバツのお話をしていて今回のお話が浮かびました。少しだけ長くなりますがおつきあいくださると幸いです。(スコールの誕生日でバッツさんの日である8月23日までに完結できればと思っています…思っています;;)


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