密かな渇望

「すまない、バッツ。自由時間中に悪いが繕い物が沢山あるから手伝ってくれないか?」
「バッツー!フリオニールの用事の後でいいからちょっと相談があるんだけど!」
「おお!了解!手伝うよ!オニオン、終わったらすぐ行くからな!」
「ありがとう」
「よろしくね!」

仲間からの頼みごとを笑顔を浮かべながら応じる想い人の姿に少年は人知れずため息を吐いたのだった。


夕餉を終えたコスモスの戦士達は見張りの任に就いている者以外は就寝までの間各自好きなように過ごすことがほとんどである。
戦いの中に身を置いてはいるが始終気を張り詰めていてはどこかに支障がでてくるので休息以外に自分達の好きなことができる時間を僅かでもよいから一日の何処かに設けてほしいと戦士達の中から数名リーダー格の光の戦士に要望があったためであった。光の戦士も「身体は勿論心にも休息は必要である」とこれを了承してから戦士達は一日の僅かなこの時間をささやかな楽しみの一つとして使うようになっている。読書をする者、茶を飲む者、のんびりと湯浴みをする者、仲間達との談笑を楽しむ者……己がしたいと思うことを自由にすることで光の戦士の言う通り心の休息となると誰しもが思っていた。それは少年、スコールもまた任務により集中できるように自分の時間は必要であると捉えてるため例外ではない。武器や自分が身に着けている気に入りのシルバー製アクセサリーの手入れに、カード好きの仲間とゲームに興じたりと自分のしたいようにこの時間を過ごしていたが中でも一番の望みは……想い人と共に過ごすことであった。

「(仲間達と合流してからアイツと、バッツと共に過ごせる時間が少なくなったからこの時くらいは……)」

コスモスの戦士達が全員揃った後、光の戦士の提案で他の仲間との交流とそれぞれの戦い方を知り、少しでも連携がとれるようになるようにと一定周期交代でランダムにグループを組み、日常の任務をこなす運びとなってしまったのである。
仲間達と合流するまでの間スコールはバッツやもう一人の仲間であるジタンと共にしていたため、それ以外の仲間と組むことを優先されてしまい、今は3人ともバラバラに分かれて別の仲間とグループやコンビを組み一日を過ごしている。ちなみにスコールは現在光の戦士と同い年のティーダとチームを組み、明日はイミテーションの討伐任務が入っている。
つまり、想い人であるバッツと過ごせる時間は一日のうちかなり限られているので可能であるのならば彼と共にしたいと強く望んでいた。
彼の声をもっと聞きたい、自分に瞳を向けて欲しい。寄り添いあいたい。
そんな欲求が湧き上がると同時にもう一つ秘めたる欲求も湧き上がってくる。

「(……深く、触れたい)」

脳内の呟きから浮かび上がるのは朗らかに笑いかける姿から艶めかしい姿へ。
少し前になるが、スコールは初めて想い人であるバッツと体との繋がりをもった。心を通わせ、少しずつ、深く、深く触れていった。肩を並べ、寄り添い、唇を合わせ、互いの熱を交感しあった。何もかもが初めてで互いにぎこちなかったが最後まで遂げた瞬間何とも言えない幸福感に包まれた。

--スコール

柔らかく微笑み、名前を呼びながら身体を寄せてきた彼を抱きしめながら朝まで共に過ごした。その時のことを思い出すと熱に浮かされたかのようになる。また、彼に触れたい。彼と、バッツと夜を共に過ごしたい。その欲求に胸が甘く疼いた。しかし、肝心のバッツが仲間達に呼ばれて離れてしまったが為、話をする機会を失いスコールは胸を押さえた。

「(勝手に抱いたことだから、思い通りにならないのは無理はない。けど……次を求める時どうすればいいのだろうか……関係に変化がある前ほどではないが悩む……)」


仲間達に頼りにされている為、こうして機会を失っていくと同時に初体験を済ませたとはいえ、次を誘うのもまた初めてではあるため躊躇いが生まれるが故にさらに機会を失っていた。
彼を想えばこそまた求めてしまうのだがそれでも身体の方の欲を曝け出すことにまだ抵抗があるので中々それを口に出すことができなかった。
最初は自分を見て、笑いかけてくれるだけで心が躍ったのにいつの間にこんなに贅沢になってしまったのだろうか。バッツが自分以外の仲間達に対して分け隔てなく接しているからこそ余計に独り占めしたい。だからこそ腕の中に閉じ込めている瞬間が満たされていると余計に感じるのだろうか。あのとき抱いた幸福感もそこからなのだろうか。

「(我ながら子供じみているな……)」

他の仲間達に取られているとまでは思わないが自分だけを見てもっと触れてほしい、触れたい。自分だけの彼ではないのに。
独占欲の強さと自分勝手な我儘にスコールは本日何度目になるかわからない溜息を吐くと自分の中に渦巻くものを少しでも忘れるように剣の手入れに励もうとガンブレードが置いてある自室へと戻ろうと一人静かに部屋を出たのだった。



自室に戻ったものの、普段から剣の手入れを欠かさない為、あっという間に終わってしまいまた手持ち無沙汰になってしまった。彼の声が聞こえないので存在を意識することはないものの、静かな空間で独りでいると今度は余計なことを考えてしまいそうだった。あの場所にとどまっておくべきだっただろうかと頭を抱えながら寝台に横になる。柔らかな寝台とさらさらとしたシーツはとても心地が良い。自分を受け止めてくれているのが無機物であるのは少々物悲しく感じるが。
彼はまだ、フリオニールの手伝いをしているのだろうか?それが終わったとしてもオニオンナイトの少年が何やら頼み事を持ちかけていたのでそちらへ行くだろう。そうなるとバッツの手が空くのはまだまだ先だろう。流石に就寝まで誰かといることはないとは思うが、一日動いて疲れているであろう時に押しかけたくはない。バッツなら笑って迎え入れてくれそうだとは思うが、子供じみた自分の我儘を押し付けたくはなかった。
誰かに甘えることへの躊躇いと大人と呼ばれる年齢に達している彼にまだ子供と分類されてしまう自分が少しでも肩を並べられるようにと幼さからくる意地が歯止めになっていた。この気持ち自体が自分で自分のことを子供だと認識していると決定づけているのもわかっているからこそ余計に頭が痛かった。
今の自分を客観的に見ると図体だけがでかい子供であるのだと嫌でも感じてしまう。
自虐がますます酷くなりそうになり、これ異常余計ないことを考えてしまわないように今日はさっさと眠ってしまおうと決めたところで扉をノックする音が響いた。

「(……誰だ?こんな時間に……)」

昼間なら兎も角、わざわざ夜の部屋に訪ねてくる仲間は少ない。あるとすれば明日任務を共にする仲間が確認でもしに来たのだろうか?そう言えば明日は光の戦士と同年代のティーダとイミテーションの討伐任務が入っていた。ティーダは兎も角、準備と打ち合わせを怠らない光の戦士なら明日の予定を確認するためにやってくる可能性は十分ある。あの強烈な存在感と生真面目な性格の光の戦士と話をしたら今己の中で燻っているものを消し飛ばしてくれるかもしれない。後ろ向きな理由で任務の話をするのは気が退けるが。
居住まいをさっと正すとスコールは「入っていい」と扉へ向かって一声掛ける。すると一呼吸置いた後、少し扉が開き、ノックの主が部屋を覗き込んできた。

「よぉ、スコール」
「な、バッツ?」

光の戦士ではなく先程まで悶々と考えていた青年だったため一瞬面食らう。バッツは瞠目するスコールに苦笑を浮かべるとそっと部屋に入り、もう部屋で休んでいる他の仲間達に迷惑にならないように配慮したのか静かに扉を閉じた。

「部屋に戻ったみたいだったからもう寝てしまったのかと思ったんだけどな。起きていたのならよかった」
「な、あんた、用事は?」

確かフリオニールとオニオンナイトから何か頼みごとをされていたのでは?と問うとバッツはすぐに察し、「ああ」と頷いた。

「聞こえていたんだな。用事は明日続きをすることにしたんだ。おれは明日は居残り組だからその間にフリオの用事を済ませられるしオニオンも別に今日中じゃなくてもいいって言ってくれたんだ」
「そう、だったのか……」

てっきり今夜はもう触れることはおろか、二人だけで話すことも会うこともできないと思っていたので思いがけない展開に先程までの悶々とした気持ちはなんだったのかと脱力しそうになった。無論、嬉しい気持ちもあるが。しかし、用事が済んだのなら何故、今ここにやってきたのだろうか?……大体想像はできるが念のため聞いておこうとスコールは軽く咳払いをし、疑問を問うた。

「それはわかった。けど、なんであんたがここにやってきたんだ?」
「へ?思い違いかもしれないけどスコールがなんか言いたそうにおれの方を見ていたからさ。気になっちまってよ」

やはりそうだったかとスコールは心の中で一人呟く。彼は大らかそうに見えてよく人を見ている上に察しがいい。スコールが向けていた視線気付いていたらしい。他の仲間達との用事や約束を保留にしてやってきたところからスコールが何を思ってバッツに視線を向けていたのか察してこちらの方が優先度が高いと判断したのだろう。
嬉しいような、放っておけない認定をされて情けないような何とも言えない気持ちになる。
項垂れそうになるスコールにバッツは何か悪いことであったのだろうかと心配そうに顔を覗き込んできた。

「どうした?なんか具合でも悪いのか?お前、あんまり人に頼るタイプじゃないのはわかってるからせめておれにくらい甘えてくれてもいいんだぞ?」

行動理由が心配からくるものであると察していたものの、彼が自分に会いたくて来たのではないことに益々頭を垂れそうになった。年齢は離れてはいるが少しでも彼に近付けるように、対等でありたい気持ちの強さから彼にも甘えてもらいたい気持ちがスコールには少なからずある。ましてや先日深い仲になったばかりなのに、バッツがスコールが望むなら好きなようにさせようとするスタンスは変わらないがため自分だけが求めているようにも思えてしまうのが嫌だった。
更にタチが悪いのは普段装備している肩当てやマントを外し、無防備な軽装でやってこられたこと。同性ではあるが想い人であれば話は別。触れたくて堪らないと思っていた上に夜更けの個人空間では次第に理性が揺らいでいくのを感じた。

「なぁ、さっきからどうしたんだ?黙ったままで。もしかして邪魔だったんなら部屋に戻るけど……」

言いかけて部屋を後にしようとするバッツだったがスコールは腕を掴み、それを制した。無言のまま行動に出たスコールにバッツは少々驚いたが、自分の思っていることを言葉にしたり表にだすことを苦手としている上に避けがちなスコールが何か言わんとしていることがあるのだと察した。

「どうした?何か……」
「バッツあんたは、」
「うん?」
「いくら俺が気になるからでその、こんな時間に無防備な姿でここに、やってくることを何とも思わないのか?」
「へ?え、あ?」

何の前置きもなくいきなり話が自分のことになり、戸惑いの表情を見せるバッツにスコールは言葉を続けた。

「その、俺のことを気にかけてくれているのはわかった。俺も、あんたに触れたいと思っていたから来てくれるのは嬉しいが、時間が時間なだけに、その、俺は……あんたに甘えすぎてしまうかもしれないだろう」
「あ、え、えーっと、思い違いだったらすげー恥ずかしいんだけど、こんな夜更けにやってきたらスコールに沢山触れられてもおれ、文句言えないってこと、だよな?」

たどたどしいうえに言い方が遠まわしではあるが言葉からスコールが考えていたことをきちんと読み取ったらしいことが台詞から伺えた。
顔から湯気がでるのではないかと思うくらい顔を赤くし、年齢の割には初な反応を見せるバッツに下心をばらしてしまって幻滅されてしまわないかという心配が生まれたが言ってしまっては後戻りはできない。もうこうなれば勢いだとスコールは内側に溜め込んでいたものを吐き出すがごとく話を続けた。

「俺は、あんたに対してとても贅沢になってしまった。最初は目をみて話してもらえるだけで満足していたのが、名前を呼び、触れて、自分の腕の中に閉じ込めたいと。俺はあんたほど余裕がないから、その、そんな風にされると歯止めがきかなくなりそうだ」

言ってしまった。子供じみた独占欲を曝け出してしまった。心の中にいる冷静な部分がそう言っているのが聞こえてきた。年齢差があるうえに年相応の余裕をもち合わせている想い人だからこそそうしたくなかったはずなのに歯止めがきかなかった。
元々スコールは外見や言動は大人びて、落ち着いて見えるが中身は年相応の少年である。しかし、頼るものを知らない、人と深く接することを避けてきてしまったが為に自分の思っていることを伝えるのことが苦手になってしまい、いつしか自分を曝け出す行為自体を避けるようになった。
感情のまま吐き出してしまったことと自分の幼い内面を知られてしまった上にバッツが何も言わずに顔を下に向けたままだったので何を考えているのかがわからず不安になり後悔が今になって押し寄せてきた。

「っ、今のは言いすぎた忘れてくれ」

今更そう言ったことでどうにもならないのはわかってはいるが言わないといたたまれなかった。なかったことにはできはしないが聞かなかったこととして接してほしいと手前勝手な思いが生まれる。しかし、スコールのそんな思いに反してバッツはそろそろとスコールの手をとるとうつむいたままぽつりと呟いた。

「忘れてくれなんて、言わないでくれよ」
「は……?」

今何を言ったのか混乱した頭でうまく処理しきれず頓狂な声を出してしまった。てっきり困惑させてしまったと思っていたばっかりに意外な反応に今度はスコールが沈黙した。

「その、お、おれもお前に触れたいと思っている……け、けどこんな風に誰かとどうこうなるのは初めてで、しかも人に何かを望むこともおれ、親以外ほとんどなかったと思うから……スコールが同じことを望んでくれて、甘えてくれると嬉しいんだ」
「バ……」

名前を言いかけたがそっと腕の中に入ってこられ、押し黙る。
バッツに対してスコールは自分よりも余裕がある為にこちらが望むことを何でもしてくれているのだと思っていたが実際は少々違うようであった。望んでスコールに触れ合うことよりもスコールが望んでいることを察して触れてくることが大半であったのは彼もまた、スコールと同じように接することへの欲望に戸惑いや躊躇いを持っていたのだろう。
フリオニールとオニオンと接していた時とは違う。自分しか見ていないバッツの意外な面を垣間見て愛おしい気持ちが募り、スコールは腕を回し、閉じ込めた。
自分ばかりが望んでいたわけではなかったのだ。
触れたいと思っていた存在が自分の中にいる幸福に正直に言ってよかったと先程の後悔をなかったことにする。
触れ合う身体はあたたかく、心地いい。互いの肩に顔をうずめると髪が頬を撫でてくすぐったい。高鳴る心音が相手に聞こえてしまうのではないかと思うくらい抱き合ったのは肌を重ねた夜以来だった為、ほんのわずかの恥ずかしさを含んだ嬉しさがこみあげてきた。

「……スコール」
「なんだ?」

久方ぶりの触れ合いを堪能しつつ反応すると、また少し間が空く。どうしたんだと体を少し離し、顔を覗き込むと少し伏し目がちに視線を泳がせながら、何か言い淀んでいる様に見えた。普段の余裕が見られない彼の有様に余程言いづらいことを抱えているのだと察し、バッツのペースに合わせようと先を促さずに待つと暫くの沈黙の後に彼らしからぬか細い声で言葉が紡ぎだされた。

「さっきいきなりだったうえに、おれ自身そう捉えられるとは思っていなかったからびっくりしてきちんと言えなかったけど……沢山触れられるの、いやじゃ、ないからな……」

注意して聞いておかなければ聞き取れないような声であったが一言も漏らさず内容を聞き取ると頬がみるみるうちに熱くなるのをスコールは感じ取った。バッツの方も視線を合わせないものの耳元や首が薄紅色に染まっている。お互いが相手に対して照れているのだとすぐに悟った。

「(なんだ……これも……俺だけではなかったのだな……)」

てっきり自分だけが相手を強く求めているのだと思っていれば、バッツも言わなかっただけで、見せなかっただけで同じだったのだ。そうとわかるとつい先ほどまで感じていた子供じみた独占欲への悩みが薄れ、胸の中から消えていくのを感じる。
普段自分が与えられている場面が多いこともあり、バッツがそのような気持ちを吐露することがひどく新鮮であり、嬉しかった。何かを望み、それを口にすることへの躊躇いが強かったバッツの気持ちに応えるためにも、自分自身も素直にならなければとスコールは思う。

「触れて、いいか?」

言いづらいと感じていた言葉は思っていたよりもさらりと流れ出る。あんなに悩んでいたはずなのにと自分でもおかしくなるほど簡単なことであった。互いに相手への遠慮や意地、戸惑いなどの感情が邪魔をしていただけで、相手を想う素直な気持ちのままであればよかったことであったのだ。

「うん、いいぜ……ただしお手柔らかにな?」

頬を染めたままふわりと笑って応じるバッツに愛おしさがさらに込み上げ、気持ちで足元がふわふわとする。抱きしめたままバッツを押し倒す形で二人で寝台になだれ込むと互いに視線を合わせて唇を重ねた。何度も角度を変えながら唇の柔らかさと熱い舌を堪能しながら初めてではないとはいえ、慣れない濃厚な雰囲気に酔いしれそうになる。心が飽和状態になっていくのを感じながらスコールがバッツの腰布に手を掛けたその時であった。
不意に大きく戸を叩く音が響き、扉を越えてティーダの声が届いた。

「スコール!起きてるッスか?」

まるで雰囲気を裂くかのような大声での呼びかけに二人して驚き、見られているわけでもないのに慌てて身体を起こした。何故このタイミングにやってきたのかという疑問もあって固まるスコールだったがバッツに黙ったまま肘で軽く身体を小突かれる。表情から「早く返事しないと怪しまれる」と言いたいのだとわかり、爆音奏でる心臓を何とか落着けて返事を返した。

「っ、起きている!いったいなんだ!?」
「おお!よかった!リーダーが明日の事で確認したいことがあるから召集ッス!先にリーダーの部屋に行ってるからよろしくな!」

中の様子は勿論、スコールの返事に邪魔をされた苛立ちが混じっているのに気が付かなかったらしいティーダは大声で用件を伝えるとそれ以降何も聞こえてこなくなった。どうやらさっさと行ってしまったらしい。良い雰囲気を知らなかったとはいえぶち壊しにされてしまい、スコールは自身の眉間に皺が寄るのを感じる。目に見えて不機嫌そうなスコールの様子にバッツは苦笑を浮かべると上体を完全に起こして寝台に腰かけて落ち着いた。

「そういや明日3人で外で仕事だっけ?リーダーらしいといえばらしいなぁ」
「ちっ」

不満を一切隠すことのないスコールに普段の澄ました顔はどうしたとバッツはますます笑いそうになると早く行けとばかりにその背を叩いた。

「ま、夜も遅いからそんなに時間取らないだろ?行って来いよ。戻ってくるまで待っているからさ。おれ」

バッツの「待っている」の一言にスコールは渋々ではあったが素早く身支度を整える。バッツの言う通りこんな夜更けなら長くはならないだろうし、なによりも早く行って終わらせてしまいたい。寝台の上に座ったままのバッツに行ってくるといい、まっすぐ扉へと向かい、扉に手を掛け、出ようとしたがその前に、と振り返る。

「すぐに戻る」

待ちきれない気持ちを抑えてその一言だけ言うと扉を素早く開けて外へ出る。扉が締まる瞬間の僅かに開いた隙間からバッツの恥じらい交じりのはにかんだ笑顔が見えた。
これは、なんとしてでも早く終わらせよう。
普段任務に赴く時と同じ気合を静かにいれるとスコールは目的地へと足早に向かったのだった。


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