携帯と形態

平日のいつも通りの夜、夕飯を終えたスコールはスマートフォンを弄りながらソファーにもたれて寛いでいた。
今日は同居人のバッツが夕飯と洗い物当番のため何もすることがなく、食事で満たされた腹で動くのも億劫なので休みながらできることをしたい時は読書かこれに落ち着くことが多い。同回生のジタンからの他愛のないメールを読み、軽くネットサーフィンをした後、目の疲れを感じて一時中断とばかりに目の前のテーブルにスマートフォンを置こうとすると何かが手に当たった。

「(なんだ…?)」

視線を移すとチョコボのストラップがついた携帯電話。持ち主は勿論同居人のバッツである。
折りたたみ式のそれはスマートフォンではなくガラパゴス携帯。所謂ガラケーと呼ばれているものであった。
最近の携帯の普及率からバッツくらいの年齢の若者がスマートフォンに機種変更していないのは珍しい。わざわざ好んでガラケーにしているのかもしれないが所々についている細かい傷や塗装の剥げ具合から相当長い間使われていることが伺えた。劣化の具合から機種を変更してるのが普通だと思うが…とスコールは携帯に視線を注いでいると、洗い物を終えた持ち主が傍へとやってきた。

「どうした?おれの携帯、鳴っていたか?」

家事疲れをほぐすためか軽く肩を回しながらやってきたバッツはどうやら着信があったためスコールが自分の携帯を見ているのだと思っているらしい。スコールは携帯電話からバッツへと視線を向けるとそうではないと首を振り、携帯を指差した。

「いや、大分使い古していると思って眺めていただけだ」

スコールにそう言われ、バッツは「ああ」と指摘に納得顔になるとテーブルに置いていた携帯電話に手を伸ばした。
普段使うものなのであまり意識はしていなかったが言われてみれば…とバッツは今手にある携帯と購入したばかりの記憶の中のものとを比べて苦笑を浮かべた。

「そう言えば何年くらい使ってるかな〜。確かおれが高校に入る前だったから…使って5年くらいかな〜」
「機種変しないのか?」
「だってまだ使えるのなら勿体ないだろ?」
「スマートフォンにすれば便利だと思うが…」
「おれ、メールと電話が使えたらいいからわざわざスマートフォンにする必要ないしさ。そもそも携帯を頻繁に使うことなんてないし忘れて出かけることもしょっちゅうだしな〜」
「…携帯の意味をなしていないな…」

物を大切にする気持ちは大事ではあるが、バッツの場合は携帯にあまり頓着しないこともあって今の状態であるということをスコールは理解した。人付き合いが悪いというわけではないのだが長電話やわざわざメールをするくらいなら約束を取り付けて会って話した方がいいと言うタイプではある。
そう分析するスコール自身もマメな方ではなく、友人のジタンに「連絡が少ない上に淡白すぎる!」と文句を言われたことがあるのだが。

「まぁな〜おれ、日に何回もメールや電話なんてしないしなぁ〜」

スコールに分析されていることを知ってか知らずか、バッツは独り言を呟きながら携帯を開くと最近連絡を取り合ったのが誰だったかなと何気なく眺め始める。
メールの件数は一日どころか数日に一件、電話に至っては同居人のスコールからがほとんどで10件に1、2件が友人知人、それ以外がすべてスコールからという結果であった。
我ながら使わなさすぎだとバッツは笑うと履歴一覧をスコールに見えるようにと液晶画面をスコールへと向けた。

「これ見てみろよ。すげーぜ。履歴のほとんどがスコールだぞ」

バッツに向けられた液晶をスコールは覗き込むと彼の言った通り自分の名前で埋め尽くされている。携帯電話を受け取り、画面をスクロールして数えてみれば20件中17件がスコールからのものであった。
帰る場所が同じため雑談で電話を掛けることは皆無であるので帰り時間が遅くなった時か、突然の予定で家事の分担の交代を頼むかくらいの他愛もないことで掛けたものばかりだと思う。履歴一覧を見ているだけだとバッツに頻繁に連絡をしているように見える画面にスコールは気持ちの悪さを感じて眉間に皺を寄せた。

「…アンタ、本当に携帯を使わないのだな…」

呆れ口調でスコールは携帯をバッツへと返すとバッツは褒められてもいないのに「それほどでも」と笑った。

「まぁな〜スコール以外ならたまに大学かバイト先の知り合いか、故郷の幼馴染が生存確認のために連絡よこすかくらいだからなぁ」

生存確認を寄越すのは連絡をマメに寄越さないからだろうとスコールが脳内で突っ込みをいれたが、それに気づくような男ではない。もしそうであるなら履歴の一覧が自分の名前でほぼ埋めつくされることもなければ、故郷の幼馴染達も生存確認なんてしてこないだろう。
「偶には連絡ぐらいアンタからしてやれ」とぼそりと呟くと「そうだな。たまにはこっちからした方がいいよな」とお気楽な返事が返ってきたのでスコールは遠く離れた会ったこともないバッツの幼馴染達に軽く同情をする。
そんなスコールの気持ちに気付いていないバッツは携帯をしげしげと眺める。
スコールに指摘をされるまであまり意識はしていなかったが確かにずいぶんとぼろぼろになったものだ。よく見ればキズ以外にも端が欠けてもいるし、光沢があった塗装もほとんどツヤがない。乱暴に扱っているつもりはないのだがいつも鞄に入れる時は無造作に入れるし、落としてしまったことも何度かある。5年も使っていれば壊れてもおかしくはないだろう。それまでの間、人よりも少ない方だとはいえ、沢山の人と電話やメールのやりとりをしてきたという思い出も記録を詰まっている。そう思うともう少し大事に扱わないといけないのかもしれない。

「大事にしないといけないよなぁ〜」
「?どうしたいきなり」

バッツの呟きにスコールは反応すると、バッツは携帯を近くにあった布を手に取りクリーナー代わりにして携帯を拭き始めた。

「そんなに使う方ではないけど、連絡を寄越してくれる相手もいるし、携帯の中にはこれまでのやりとりが残ってるからさ、丁寧に扱わないといけないよなって思っただけだよ。傷だらけだけどもう少し、これを使っていたいかなって思ってさ」

バッツはそう言うとスコールに吹き終わった携帯を見せてきた。
キズが消えたわけではないが先程に比べると汚れとくすみが消え、光沢感が増している。
「これで少しはマシだろ?」と歯を見せて笑うバッツにスコールは先ほど安易に機種変更を持ちかけたことを僅かに後悔した。



翌日、夕飯後の席でバッツが茶を飲みながらくつろいでいると、家事を終えたスコールが何やら綺麗に包装された封筒をバッツに差し出してきた。

「なんだ、これ?」
「やる。携帯の保護用と傷を隠すためのデコレーション用のシールだ。ジタンから聞いた」

そっけなく説明をするスコールにバッツは「へぇ〜そんなものがあるのか〜」と感心しながら袋を受け取り中を開く。中には画面の保護シートに携帯を簡単にデコレーションできるシールが数種類。バッツが好きなキャラクターチョコボのシルエットのシールなどが入っていた。

「なるほどなぁ。これなら傷も隠せるし画面保護もできるってことか〜。おお。おれの好きなチョコボもある。星のシールもキラキラしていてこりゃいいや。…けどなんで?」
「…まだ暫く大事に使うんだろ?」

スコールにそう言われバッツは瞳を丸くした。随分と使い古していると言い機種変を勧めていたのだが大事にしたいと言ったバッツの気持ちを汲んでの事なのだろう。
そこまでしてくれなくてもいいのにとバッツは苦笑する。
袋の中を覗き込めば一台の携帯では使いきれない程の枚数のシールが入っている。どう使おうかと自分の携帯に翳しながら考えるとふと一案が浮かんだ。

「なぁ」
「なんだ?」
「このシール、使いきれそうにないからさ、お前も一緒に使わないか?ほら、ほしみっつーってな。三ツ星ってよくないか?」

そう言うとバッツは一番良いと言った星のシールを三枚取り出し、スコールに差し出した。
シンプルに並べられた三ツ星は一つだけならそうでもないが三つ並んでいると中々の存在感がある。

「(…一緒に使うって…)」

それだと揃いということになるのだが…とスコールは脳内でお馴染みの一人突っ込みを入れる。バッツと揃いの物を一つも持っていないので物ではないがこれが初めての揃いということになることをバッツは気付いていないのだろうか。
存在感のある三ツ星のシールを貼っていたら見る人がみたら揃いだと思われると思うのだが。

無言でバッツが持っている三ツ星のシールを凝視するスコールに自分の提案が良くないと感じたのかバッツは首を傾げて「駄目か?」と聞いてくる。
その声にスコールは我に返ると自分でも不自然なくらい高速に首を横に振るとシールを受け取った。
バッツがどう思っているかは分からないが想い人と初めての揃いに悪い気はしない。

「ケースになら、貼ってもいい。ありがとう」

そう言いながら自分の携帯を取り出し、シールを重ねて貼る位置を定めはじめる。
スコールから突然シールを渡されたのにはびっくりしたが悪い気はしないどころか寧ろ嬉しく思った。それと同じく自分の突然の提案にもその場で答えてくれる優しさもまた嬉しい。
不器用な想い人が何を思っているかはわからないが今傍にいるのが彼でよかったとバッツは自分一人心の中で笑うと自分用にと袋から星のシールを取り出したのだった。



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2015年8月5日 85の日盛大に遅刻してしまいました。
今年もこっそりと85の数字ネタを入れたのですが…気づかれる方がいるのかどうか;;
何はともあれおめでとうございます!!


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