共に歩くNew Year

大晦日。時計とテレビ右上の時刻表示は23時59分を表示している。
今年最後の日であり来年の前日でもあるこの日がいよいよ終わろうとしている。
新しい年があと数十秒で幕を開けると思うと幾つになっても気分が高揚するものだとバッツは口元を緩めると炬燵に入りテーブルに突っ伏しって眠っている同居人の体を揺さぶった。

「スコール、起きろー」

厚みのあるふかふかとした炬燵布団と温かさから逃れがたいのかスコールは億劫そうに体を揺らすと顔を上げ、ゆっくりとバッツを見上げた。腕枕に顔の片方を押し付けていたためか顔半分がほんのりと赤く型が付いているのにバッツは一瞬笑ってしまいそうになったが機嫌を損なうかもしれないので耐える。
バッツの様子に気が付かないスコールは眠そうに目を擦り、眠気から逃れようと頭を振るとテレビのデジタル表示の時刻へと視線を向けた。

「…もう、そろそろ、か?」
「おう。あと数秒で年明けだよ」

バッツが言い切ると同時に時刻表示が"23:59"から"0:00"と変わる。
新しい年の幕開けであった。

「新年あけましておめでとうございます…っと」

炬燵に入ったスコールの視線に合わせてバッツはしゃがむと今年最初の挨拶。つまり新年を祝う挨拶をした。
つい数秒前まで"去年"であったので何となく実感がわかないが新年は新年である。
ただ、その新年の挨拶の相手は半分夢の中のようで"今年"か"去年"かなど今はまだどうでもよさそうであった。

「ああ…おめでとう。今年も、よろしく…」
「お前、まだ半分寝てるだろ」

舌ったらずな口調のスコールにバッツは苦笑すると自分も炬燵の中に入り暖をとる。
室内とはいえ暖房から離れるとすぐに寒くなる。少し冷えかけた体に炬燵のぬくもりがとても心地よい。
ぼんやりとしているスコールの目の前に置かれている蜜柑を手に取りバッツは手早く皮を剥くと半分はスコールに、もう半分は自分の分にし、剥きたてのひと房を口に放りこんだ。少し喉が渇いていたので甘い蜜柑の果樹が喉を潤してくれて一層美味く感じる。

「今年も…っともう去年か。一年なんてあっという間だったよなぁ。こうしていると年が明けたなんて思えないや」

蜜柑を食べつつテレビを眺めると新年を祝う人々の姿が映しだされている。どうやら初詣客らしく厚着をして皆同じ方向の夜道を歩いていっている。

「まるで別世界のことのようだとさえ思うな」

ようやく覚醒したのかバッツが剥いた蜜柑を手に取りスコールが呟く。
暖かく、明るい部屋で迎える新年は時計とテレビのお蔭で年明けを感じさせるがそれ以外は普段の夜更かしとあまり変わりがない。
年末の大掃除で小奇麗になっているとはいえ普段とほとんど変わりのない部屋で時を過ごしているのだからそう感じるのかもしれない。

「うん。まぁテレビで年明けと言われても実感わかないのかもなぁ」

バッツはそう言うと残りの蜜柑を口に放り込み、炬燵の中に手を突っ込んで何かを取り出した。
取り出されたのは二人分の洋服。バッツの意図していることがわからずスコールは首を傾げる。

「バッツ?」
「と、言うわけで新年を感じる為に眠気覚ましも兼ねて近くの神社へ初詣に行かないか?」

炬燵で温もった服を一組スコールに押し付けながらバッツは笑顔でそう提案をしたのだった。


月明かりと街灯に照らされた夜道は普段は人通りが少ないが今宵は歩いている人をぽつぽつと見かける。
年明けと共に初詣へと繰り出している人達なのだろう。皆どこか楽しげで表情が明るい。大人だけでなくこの時間いつもなら眠っているであろう小さな子供も今日くらいはと連れ出してもらえたのだろう。皆普段とは違う雰囲気にはしゃいでいる。
年末年始くらいにしか見かけない光景にバッツは目を細めると隣のスコールが身震いをしているのに気づいた。真夜中でしかも吹く風も冷たいので当然と言えば当然ではあるが。

「寒い?大丈夫か?」
「寒いのは仕方がないだろう。あんたはいつも急なんだな…夜が明けてからにすればいいものを」

マフラーに顔を埋めているからかややくぐもった声で不満を漏らすスコールにバッツはまぁまぁと背を軽く叩き、軽く諌めた。

「いいじゃないか。こんなこと一年に一度しかできないことだろ?」
「それはそうだが出かけるなら事前に言ってくれ」
「言っても言わなくても寒いだろ?」
「寝起きに起こされて準備も何もしていない状態で言われるよりはましだ」
「服を炬燵で温めてたじゃん」
「そう言う意味ではなく心構えの方だ」
「そういうもんか?」
「…そういうもんだ」

いきなり出かけることになったことがやや不満げであるスコールであったが言おうが言わまいが結局は一緒に来てくれることには変わりはないらしい。眉間に皺を寄せ、寒さに耐えながらぶつぶつと文句を言うスコールにバッツは苦笑を漏らす。
そんな話をしているうちに目的の神社が近くなってきた。
少し離れた場所に綿飴や焼き鳥、甘酒などの屋台が並んでいて明るく、鳥居の前は既に参拝客で溢れかえっており縁日のような賑わいをみせていた。

「結構人が多いなぁ」
「多いどころか…混雑しているな」
「まぁ一年に一度のことだからなぁ。けど、こんなことで怯んでられないぞ〜一年の計は元旦にあり。しっかり行こうぜ」

拳をつくりいざ出陣とばかりに一直線に向おうとするバッツだったが待てとばかりにスコールに腕を掴まれつんのめった。

「うおおっ!?」
「慌てるな。この人ごみの中だとすぐに逸れるだろう」

呆れた顔でそう言うとスコールは掴んだ腕を放し、代わりに上着の袖口を掴み前へと歩き出した。
人ごみであるとはいえ、手を繋ぐのを躊躇ったのだろう。
それでも逸れないように、見失わないようにしてくれているのが伝わりバッツはスコールに向けて柔らかく笑った。

「悪いなぁ」
「まったく。新年早々本能のまま行動するな」
「ははは。スコールがしっかりしてくれているからだよ。ありがとな」

咎めるような口調をしていても頬が若干赤い。照れ隠しであることがわかりバッツは巻いていたマフラーに顔を埋め緩む頬を隠したのであった。


長い長い列を根気よく並んで進み、参拝を終えるとようやく終わったとばかりにバッツは伸びをした。

「お参り終わりっと。結構かかったなぁ。スコールは何をお願いしたんだ」

何気なく聞いたバッツの問いにスコールは片眉を動かし小難しい表情で返した。何かまずいことでもしたのだろうかとバッツが小首を傾げる。

「おれ、何か悪かったか?」
「…それを言ってしまったらいけないだろう。叶わなくなるぞ」
「へ?」
「願い…」

スコールがバッツの問いに答えなかったのは願いを他人に言ってしまったらその願いが叶わなくなるという言い伝えを気にしていたからであった。
バッツも知ってはいたがそれをスコールが気にしているとは思っていなかったためまじまじとスコールを見つめ返すと今度はスコールが小首を傾げた。

「どうした?」
「意外だな。スコールがそんなことを言うなんて」
「…別に」

そうそっけなく言うとスコールはバッツから視線を逸らしたがバッツはそれにも関わらず視線を注ぐ。
願いを言ってしまうと叶わなくなるなど子供じみていたかとスコールは己の言ってしまったことを少々後悔した。ただでさえ年齢差を、バッツの余裕のある態度を、落ち着きのある振る舞いをしていても子供じみた自分の性格を気にしているのにここでもかと。
そんなスコールの苦い思いを知ってか知らずかバッツは「まぁいいけどさ」とのんびりと言うと少し先にある"おみくじ"と書かれた旗に目をつけた。

「お、御神籤か。なぁなぁ折角だし引いていかないか。今年初めの運だめし」
「運を試すものなのか?」
「どうだっていいだろ。面白そうなんだから。さぁさぁ」
「おい…」

バッツは強引にスコールの背を押し、御神籤をひいている人だかりへと進んでいく。
御神籤の結果に一喜一憂する者の間をすり抜けて引きにいく。数分二人は後手にした御神籤を手にして人集りから少し離れた所へと移動して中身開いて結果を読んだ。

「おお〜。幸先いいねぇ。大吉だ。スコールはどうだ?御神籤ならみても構わないだろ…」

大きく"大吉"と書かれた籤を見せながらバッツは明るい笑顔でスコールが引いた籤を覗き込んだがすぐに固まった。スコールの籤には自分とは反対にでかでかと"凶"と書かれていたからであった。

「…ま、まぁこんな時もあるさ」

御神籤を覗き込んだまま難しい顔をしているスコールにバッツは背を叩いて励ましたがスコールは微動だにしなかった。
先程の願いの話が尾を引いているのか「別に」とそっけなく言うと、さっさと御神籤を閉じると境内の籤が多数結ばれている場所へと歩いて行った。
気にしていない態をしていたが願い事云々を言っていたため内心気にしているのだろう。そうでなければ籤を見て固まるなんてことはない。自分もスコールも間が悪いよなぁとバッツは頭を掻き、苦笑するとスコールの方へと駆け寄った

「大丈夫だよ。おれが大吉引いたんだから」

そう言いつつバッツは自分が引いた大吉の籤を見せ笑う。

「…どういうことだ?」
「大吉のおれがお前の傍にいればお前に不吉なことは起きないってことだよ。だから大丈夫だ」

たとえスコールに何かあっても自分の運が跳ね飛ばす。自分の運で補えばいい。一人じゃなく二人だからこそできるだろうとバッツは笑うと、スコールの籤を取るとさっさと結んでしまう。

「これで完璧だ。そんなわけで今年も変わらずよろしくな」

そういい快活に笑うバッツの笑顔は眩しかった。
籤の結果で暗い影を落としていた自分の心を明るく照らし、暗いものを一気に一掃してしまった。
自分の気持ちが一人の目の前の愛おしい存在でこうも変わるのかとスコールは内心苦笑する。
先程まで自分があれこれと気にしていたことがちっぽけなものにさせ思えてしまう。

「だから気にするなよ。おれはお前と一緒にいるからさ。スコー…」

名前を呼びかけたバッツの手をスコールは抱き寄せるように引き寄せる。
人がいるなかで流石にそれはまずいだろうと驚いたが寸前で肩を両掴まれた。

「…よろしく。こちらこそ」
「お、おお」

てっきり抱きしめられるかと思っていたためバッツは呆気にとられつつ頷くとスコールは肩から手を離し、屋台で温かいものを買おうさっさと前を歩いて行ってた。
安堵と驚きと少々残念なような気持ちになったが取り合えずスコールが元気を出したようでよかったとバッツはスコールのを後を追った。

後から自分の後を追う足音を聞きながらスコールは前を歩く。
先程は嬉しさのあまり思わずバッツを抱きしめたい衝動に駆られて手を引いてしまったが寸でのところで何とか抑えることができた。
自分の気持ちを晴らしてくれたことともう一つ…

「(…自分が願ったことがバッツと同じだった)」

---お前と一緒にいるからさ。

スコールが初詣で願ったこと。それはこれからも大切な人と共にいたいことであった。それを思いがけずその相手であるバッツから聞くことができた。
今年だけでなく、来年も再来年も、何年も、何十年も先も変わらずバッツと共にいたい。

「(願うまでもなかったかな…)」

紅潮する頬と緩みそうになる口元をバッツに悟られないようにとスコールはバッツに追いつかれる前に何か食べる物でも買い与えて誤魔化そうと足早にすぐ近くの屋台へと向かったのだった。

Happy New Year!!


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そんなわけで2015年明けましておめでとうございます!
今年も変わらず仲良くしてくださいということで…。


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