旅人と休息を

神々の戦いの場は異世界ではあるものの、朝も昼も夜もやってくる。


バッツ、ジタンと行動を共にしていたスコールはテントの外で夜の見張りをしていた。

たとえ夜でも敵はいつ攻めてくるかはわからない。

3人で旅を始めてから、夜は2人交代で見張りをすることになった。
辛くはないといえば嘘にはなるものの、仲間と自分の命を守るためだから適当にはできない。


昼間の戦闘の疲れを感じながら、スコールはコーヒーを飲みながら見張りを続ける。
すると、後ろに気配を感じ、そちらに意識を集中させる。

気配の主は振り返るまでもなかった。

「見張り、そろそろ交代するか?」

仲間の一人である青年、バッツがスコールの横に腰掛ける。
   
「もうそんな時間か?」
「ああ、少し早いけど、おれは昼間仮眠をとったからさ、眠りが浅くて。」

へへっと笑いながらバッツは焚火に近づき、火の燃え具合の確認をして薪の位置の調整をし始めた。

バッツの恰好は戦闘時に身に着けている肩当とマントを外した軽装だった。
肩をほとんど露出した格好は気候が落ち着いていても夜では肌寒そうにみえた。

「・・・寒くないのか?」
「え?・・・あー旅慣れてるから多少涼しくても平気だけど。」

何ともないというバッツにスコールはため息をつき、自分が来ていたジャケットを脱ぎ、バッツに差し出した。

「何があるかわからない世界で、風邪でもひいたら大変だ。これを使え。」
「お、いいのか?」
「俺はこれを飲んだらテントに戻るからいい。羽織ってろ。」

バッツに上着を押し付け、スコールはコーヒーを飲み始める。
その顔は焚火に照らされているにしてはやや赤みが差しすぎているようだった。

その様子にバッツは嬉しそうに目を細め、「ありがとな。」と礼を言うと遠慮なくスコールの上着に袖を通した。
自分より3つも年下のはずのスコールの上着はバッツには少し大きく、袖のところを丁寧に折り、手を使いやすいようにして落ち着かせた。

空を仰ぐと満天の星。
神々の戦いの最中とは思えないきれいな夜空を他の仲間たちも見ているのだろうかと気になった。

「・・みんな、クリスタル手に入れたかな。」

コーヒーを口にするスコールにぽつりとつぶやく。
スコールは暫く考え込み、肩をすくめて「さぁな。」と答えた。

「なんだよ、冷たいなぁ。」

あっさりとした様子にバッツは唇を尖らせる。
不満顔のバッツにスコールはやや呆れた顔でマグカップを掌に包み込んで答えた。

「気にならないのは・・・心配などしていないからだ。あいつらは強い。必ずクリスタルを手に入れて戻ってくるだろう。」

しっかりとした口調で答えるスコールにバッツは一瞬あっけにとられた。
目の前の青年・・・年齢でいえば少年の部類だが、年のわりには妙に冷静で、冷たい印象をもっていた。
しかし、共に旅をしてきてわかったことだが、他人に対して完全に無関心というわけではなさそうだった。

ジタンから、彼は自分が敵の罠にはまった時に「仲間だから」と、自分を助けようとしてくれたことを聞いていたことを思い出した。
彼は、ほかの仲間たちのことを信じているからこそ、心配なんてしていないのだろう。
そう思うと嬉しくなり笑顔になった。

「なんだ、心配していないからか・・・へへ、なんだかなぁ。」

笑顔を浮かべてつぶやくバッツにスコールは眉をひそめた。
含みをもたせたバッツの言い方がすごく気になったのだ。

「・・・なんだ、その言い方は・・・。」

「いやースコール、ちょっとかわったよなーって。」
「?」
「おれやジタンと会った最初の時は今より近寄りがたくてさ、実はちょっと心配してたんだ。」

バッツはそういうと、懐から黄色い羽根を取り出した。

道中、スコールの身を案じて、渡した”幸運のお守り”だった。

「だから羽のお守り・・・か?」

バッツが取り出した”幸運のお守り”を見つめながらつぶやくと、バッツは微笑みながらうなずいた。

「そうそう、「一人でもだいじょうぶだ」なんていうからさ、心配になって・・・気が付いたらスコールに渡してた。けど、本当は一人じゃないって思っていたんだなーって思って。」

そういうと再び羽を懐にしまい、両手を焚火にあてて暖をとりながら話し続ける。

「仲間を信頼しているからこその単独行動・・・だったんだろ?けど、今後はそういうのナシな。ガーランドとアルティミシア2人を一人で相手にしようとしてたってジタンから聞いたぞー。」

バッツの顔は笑っていたが、スコールの胸にちくりとその言葉が突き刺さる。
彼なりに、スコールを心配し、牽制しているのだろう。

テントで眠っているもう一人の仲間であるジタンをスコールは少し恨めしく思った。

「・・・おしゃべりなやつだ。」

そう文句をいうと、バッツは少し声にだして笑う。
普段何も文句を言わずに黙々としている彼が、年相応のいじけた表情を一瞬したことが嬉しかった。


「まーまーそういうなって。おれは嬉しいよ?スコールの話が聞けて。・・・たとえ戦いがきっかけでもスコールとジタンに会えて、こうやって旅ができて、いろんな話ができて、おれは嬉しいし出会えてよかったと思うよ。」

普段は子供っぽくてもさすがは年長者なのか、きれいに話を纏められてしまった。
少々腑に落ちないところもあったが、素直に「よかった。」と言われて悪い気はしない。

スコールはバッツから視線をそらし、焚火を見つめる。

自分一人だけだったら、戦いの中、こんな穏やかな時間を過ごせなかっただろう。

バッツとジタン。この2人がいたからこそ、今この時が過ごせてるのだ。

「・・・そうかもしれないな。」

自然に言葉が出た。
しかし、言葉には出たものの表情がまったく変わらなかったからか、バッツは再び不満顔になり、口をとがらせた。

「なんだよーこういう時は笑って「そうだな。」くらい言っちゃえよ。」

バッツの様子を見て、スコールは眉根を寄せると、ため息をついて首を横に振った。

「…これが俺なんだ、勘弁してくれ。」

心底困ったような様子のスコールにバッツは声を出して笑った。
想像していた通りの返しをするスコールが面白かった。

「いんや、勘弁しない。・・・この旅の間にぜーったい笑わせてやるって決めたんだからな。」

笑いながらそう宣言するバッツに、寄せていた眉の間…眉間に皺が寄るのをスコールは感じた。
何が楽しくてそういうのかまったくもって理解できなかった。

「いつそんなことを決めたんだ。」
「今!」

即答する彼は楽しいものをみつけた子供のようだった。

神々に召喚され、明日果てるともわからない、命を賭した戦いの真っ最中なのに、彼の様子はそれを微塵も感じさせない。

幼い頃から、傭兵になるべく訓練を積み、学生といえども下手をすれば命を落としかねない世界にいたスコールとってバッツという存在は最初理解できなかった。

もとの世界では気ままに旅をしてきたという彼は、召喚された戦士たちの中ではおおよそ戦士らしくなかった。

しかし、戦うことに神経をとがらせていた自分を心配してくれ、いつの間にか”気を休める”ことができる存在になっていた。

何時も変わらず明るくおおらかな彼のおかげで、今心を落ち着けている自分がいるとは、少し前では考えられなかっただろう。


「・・・あんたは厳しい戦いの中だろうが、平和な世界だろうがお構いなしなんだな。」

「だってさ、楽しみをみつけなきゃ損だぜー。まだ若いのにスコールは落ち着きすぎだぞ。」

「あんたは年のわりには騒がしいな。」
   
「ひでーな!!」


そういいながらバッツは声を出して笑った。
夜のはずなのに、なぜか彼がいる空間がひどく明るく見える。

人の心に躊躇もなく飛び込んでくる彼がすごくまぶしく見える。
風のように自由で、すがすがしく、心地よい青年にスコールは少し鼓動が早くなっているのに気づいた。


どうもバッツといると落ち着かない。
けど・・・悪くない。

心の中でそうつぶやくと、スコールは立ち上がった。

「・・・俺はそろそろ休む。なにかあったら起こしてくれ。」

「おぉっ!おやすみ、また明日な。」


マグを持ち、テントに戻るスコールにバッツはひらひらと手を振って見送った。

テントにはもう一人仲間が安心しきって背を丸くして眠っているだろう。
スコール自身もバッツとの束の間の穏やかな時間を共有でき、今夜は心地よく眠れそうな気がしていた。

戦いが終わるのはいつかはわからない。
けど、限られた時間を貴重なものにしていきたい。

「(戦いの中で不謹慎化もしれないがな・・・。)」

明るく笑うバッツの表情を瞳を閉じ思い浮かべながら、スコールはテントに戻った。




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この2人の組み合わせは初めは意外に感じていましたがかなり好きです。
能天気フラグクラッシャーな旅人に振り回される獅子が好き。

FFはノーマルカップル(クラエアやティユウ)ばっかりですが、初めて野郎ものに傾いた気がします;


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