ある一日の出来事

些細なことではあるが人が人へ対する好意は本人が意識をしているか、無意識か、自覚をしているかしていないか。それとは別として多かれ少なかれ行動に表れるものである。


■セシルとフリオニールからの場合

「おはよう、バッツ」
「おはよう」
「お〜おはようさん。セシルにフリオニール。いい朝だな」

日が昇り始めたばかりで肌寒さを感じる朝。
コスモス陣営の中でも特に早起きのセシルとフリオニールは朝食の準備に勤しむバッツのもとへとやって来た。
時計もない世界なので皆起きて身支度を整えれば全員が食事をとる古城のダイニングへとやってくる。少々早く起きてしまった二人は忙しそうではあるが同時に楽しげに朝餉の準備をしているバッツに笑いかけると自分達も手伝うことはないかと問うた。

「今日はとても気持ちがいい朝だからかな?僕達、早く目がさめちゃったみたいで」
「このまま二度寝するのも半端な時間だったから朝飯の準備を手伝おうと思って。何かないか?」
「お〜二人ともさんきゅーな。けど、大丈夫だよ」

折角の申し出だけど人では足りているとバッツはやんわりと断ると瞳で台所の奥の方を指した。台所の奥では大鍋の前で何かを調理しているスコールが立っていた。奥まったところで静かに調理をしていたので気がつかなかったと二人は瞠目する。

「スコール?」
「ああ。スコールも珍しく目が覚めちまったみたいで手伝ってくれるって言ってくれてさ。人手は十分だから二人とも朝の散歩でも行ってきたらどうだ?」

バッツの提案にセシルとフリオニールは目を合わせた。
普段人と接することが少ないスコールがバッツとともに朝食の準備。見た感じが対照的な二人の組み合わせに二人は少々驚いたもののコスモスの仲間達が全員揃うまでは彼ともう一人の仲間のジタンと三人で旅をしていたのであれば気心が知れているのだろう。人手が足りている上になんとなくではあるが二人の仲に水を差すような感じがすると思いセシルとフリオニールはバッツの提案に甘えることにした。

「…じゃあお言葉に甘えようか?」
「そうだな…スコールがいるなら大丈夫か」
「おう。ま、期待しててくれよ」

そう笑うとバッツは調理の場へと戻ると鍋をかき回すスコールに何か指示を出している。二人の仕事の邪魔をしてはいけないと思ったセシルとフリオニールはそろそろと台所を後にすると入口へ通じる廊下を歩いて行った。

「意外だな」

そう零したフリオニールが言いたいことを察したセシルが笑う。

「うん。まぁでも彼はバッツと共にした時間が他の仲間たちに比べれば長いからね。当然と言えば、当然かな」

セシルの言葉にフリオニールも微笑みながら頷くと今日の朝食が楽しみだと話をしながら朝の散歩へと向かったのだった。



■オニオン、ティナ、クラウドの場合

「今日は休息日だから何しようか?」

朝餉を終えた後、オニオンナイトはティナとクラウドを誘い城の外の森の中を歩いていた。
今日は見張り役を除き、討伐も探索任務もない体を休める日。休める日とはいえ日ごろ体を動かしているのだからだらだらするのは気が引けるしかといって訓練という気分ではない。最初はティーダを誘ってボール遊びでもと思ったのだが生憎彼は見張り当番。それならと普段共にいることが多い二人を外に誘ってみたのだ。後ろを歩く二人の顔を見ながら後ろ向きに歩くオニオンにティナは小首を傾げて考える。

「そうね…少しのんびりできればと思うのだけど」

最近忙しかったからとティナは零すと、隣のクラウドはそれならと二人に珍しく提案をした。

「少し先に行ったところに…たしか花畑があると聞いたが」

今朝散歩に行ってきたセシルとフリオニールから聞いた情報だとクラウドは二人に話すと興味を示したのか二人とも目を輝かせて笑った。

「へぇ!本当!?クラウド」
「ああ。セシルとフリオニールから聞いた確かな情報だ」
「じゃあそこに行きましょうか」
「賛成っ」

行き先が決定し、三人はその方角へと足を進める。
今日は天気が良く、木々の枝葉から差し込む日光は強く、暖かい。のんびり散策しながら歩いていると、食べ頃の木の実をつけている木や珍しい花が咲いている。
城で過ごしている仲間達のおみやげに良さそうだとオニオンナイトとティナが話していると斜め前の草むらが揺れる。
敵かと警戒したクラウドが二人を守るように剣を構えて前に立つ。平穏から一変して緊張した空気が流れる。出てきたところで仕留めようとクラウドは目を凝らしたが出てきたのは両手に木の実を抱えたバッツであった。

「大漁大漁〜・・・おっ?ティナにオニオン、それにクラウド」

上機嫌なのか鼻歌交じりでやってきた彼に三人はほっと息を吐いて緊張を解いた。

「敵かと思ったぞ・・・吃驚させるな」
「ははは〜悪い悪い。三人ともお出かけか?」
「うん。この先に花畑があるって聞いたからそこへ散歩だよ。バッツは?」
「ん?ああ。この森は沢山木の実があるみたいだったから食料補給だよ」
「へぇ〜」
「大変そうね。お手伝いした方が・・・」

両手に抱えた木の実を見たティナが手伝いを申し出たがバッは快活に笑うと木々の間を指さした。

「…スコール?」

目を凝らしてバッツが指を指す先を見たオニオンが呟く。ティナとクラウドもそちらの方を見ると、少し離れた場所で袋を手に持って木の実を集めているスコールが確かにそこにいた。

「手伝ってくれるって言ってくれてさ。男二人いたら十分だよ。だからゆっくりしてこいよ。おれも時間ができたら行こうと思うからさ」

小腹がすいた時用にと自分が持っていた木の実を三人分押しつけるとバッツは行ってこいとばかりにひらひらと手を振った。バッツの言うとおり人手は足りていそうであったため三人は好意に甘えることにし、木の実を受け取って礼を言うとその場を後にした。

「・・・珍しい組み合わせだね」

もらった木の実を片手で投げて遊びながらオニオンが呟くとクラウドも小さく頷く。

「スコールは一人で大人しくいるのが好きな奴だと思っていたが」
「仲良しなのね」
「うーん…どうなんだろ・・・あ、でもあの二人、全員合流するまで一緒に旅していたんだっけ・・・」

微笑みながら呟くティナにオニオンは首を傾げたが、自分達よりも仲間として過ごした時間が長いのなら自分達が思っていたよりも気心が知れているのかもしれないと結論付けたのだった



■ジタン、ウォーリア、ティーダからの場合

「バッツとスコールが戻ってこない?」

城の外でティーダと共に見張りをしていた光の戦士ことウォーリアは訪ねてきたジタンにオウム返しに聞き返した。

「ああ。食料調達をしに行くと行ってから数時間経過している。念のため拠点内も探してみたけど、どこにも見当たらないんだ」
「この辺りまで敵が来ることは今までなかったッスけど…心配ッスね」

最初は見張りをしがてら聞いていたティーダであったがジタンの様子に事は深刻であると感じ取ったのだろう。丁度見張りの交代の時間なので、ウォーリアと共に自分も探すのに協力すると申し出た。
ジタンは二人に礼を言うと城内は地下も屋上も探したので外に行こうと思うと告げたその時、交代役のセシルとフリオニールが三人のところにやってきた。

「どうしたんだい?皆深刻そうな顔をして・・・」
「ああ…スコールとバッツが食料調達に出たまま戻ってこねーんだよ。城の中にはいないみたいだし・・・これから三人で探しに行くところ」

三人の表情からただならぬ事態を感じ取ったセシルにジタンは説明すると、クラウド、ティナ、オニオンの三人もやってきた。花を数本手にしているところからどうやら外に散歩に出ていたらしいことが見て取れた。


「ジタン?」
「どうしたの?みんなして怖い顔して」

小首を傾げるティナとオニオンにジタンはちょうど外を出てきたこの三人なら何かを知っているかもしれないと踏み、訳を話して尋ねる。

「バッツとスコールがどこにも見当たらなくてさ。食料調達に行くって聞いたんだけど事前に教えてくれていた場所にはいなくて・・・外に出ていたなら何か知らないかい?」

ジタンの話を聞き、クラウド、ティナ、オニオンの三人は顔を見合わせた。
数十分前に確かに二人は木の実を集めていた。挨拶程度にしか会話をしていないがあの時彼は確か食料を集め終わった後にどうするか話をしていた。

「ねぇ…もしかしたらだけど…」

ティナは小さな手を挙げ、ジタンにバッツと遭遇した時の話をした。



「…いた」
「そのようだな」
「何事もないようでよかったッス」

ティナからバッツは木の実を集め終わった彼女達が行ってきた花畑に行ってみるとの情報を得た。話をしてから時間が経過しているので少々心配ではあったが、花畑に着いてみると見慣れた青年の後ろ姿が見えた。その横をよく見ればもう一人の探し人の少年が横になっている。ぽかぽか陽気に花咲乱れる光景の中にいる二人の姿は平和そのものでジタンは心配して損をしたと苦笑を浮かべた。

「悪いな、ウォーリアにティーダ。けど何もなくて安心したぜ。まったく」

一緒になって探してくれた二人にジタンは礼をいうとまだ三人が来ていることに気づいていない花畑の二人の名を大きな声で叫んだ。

「おお〜い!!バッツー!!スコールーっっ!!」
「!!ジタ・・・しーっ!!」
「え?」

名前を呼ばれて振り向いたかと思えば慌てて立てた人差し指を軽く口にあて、「静かにしろ」と注意された。とりあえず口を閉じ、ジタンは二人と共になるべく静かにバッツの元へと向かうとバッツは苦笑して自分のすぐそばで横になっているスコールを指さした。

「悪いなぁ。今、スコールが昼寝中でさ」

小声でそう話されると三人はスコールの方へと視線を向けた。よく観察すれば瞳を閉じ、規則正しく胸が上下している。安心しているのか起きる気配はなく、普段小難しい顔をしている少年は眠っているからか普段に比べて幼く、年相応に見えた。

「…珍しいな。彼がこれほど無防備なのは」

思ったことを呟くウォーリアにバッツは笑って頷く。

「ああ。ちょっと疲れていたのかな。少し横になったらころっと寝ちまって…」

朝の食事当番、先ほどまで食料調達を手伝ってくれていたこと、それによって疲れているだろうからもう暫く休息させてやろうと思うんだと三人に告げた。言われた三人は顔を見合わせるとジタンはしょうがないなぁと苦笑した。

「バッツ、オレ達先に戻るわ」
「私達は君たちの無事さえ確認できればそれでいい。彼が起きるまでゆっくりしていってくれ」
「ここ、気持ちいいッスからね。スコールが起きたらよろしくッス」
「そういうこと。集めた食料はオレ達がもって帰るからゆっくり休めよ」

用は済んだから自分達は先に帰ると告げるとバッツは困ったような笑顔を浮かべて三人に礼を言った。

「探しに来てくれた上に荷物運びありがとなぁ。スコールが起きたら一緒に戻るからみんなによろしくなぁ」

ひらひらと手を振るバッツにジタンとティーダは手を振り返すとウォーリアと共に背を向けて元来た道を歩き始めた。
花畑のバッツ達が見えるか見えないところでティーダは一度振り返って二人をみると横になっているスコールは花に埋もれていて見えず、バッツは遠くの景色を眺めているようだった。自分達が来る前となんら変わりない二人にティーダは目を細め、歯を見せて笑った。

「なんか、意外だけどほのぼのするッスね」

バッツはともかくとして普段自分にも他人にも厳しく、人に隙を見せたがらないスコールの姿が微笑ましいとティーダは笑うとそれを聞いたウォーリアも小さく微笑んだ。
戦いの渦中に身を置く者としてスコールのような戦士は時に他の戦士の見本となり刺激となることもあるが同時に休める時は休めて欲しいとジタンは思う。
そう思っていた一人でいることの多い彼が他人の傍で無防備に休む姿拝めるとは思っていなかった。

「(一人で行動しがちなスコールが…ねぇ…ふーん…)」

バッツや他の仲間の話から、せっかくの休息日であるのにスコールが朝から特定の他人と、バッツと共に過ごしていたことにジタンは含み笑いを浮かべると、その表情に気付いた残りの二人は首を傾げた。

「どうした?」
「ジタン、何か楽しそうッスね?」
「・・・へへへ〜まぁな」

この二人は気付いていないようだが、ジタンもバッツと同様に彼と共に過ごした時間は仲間の中では長い方である。
笑顔を見せることも、思っていることは沢山あるだろうに話すことをしない彼の行動の訳をジタンは一人悟ると、楽しげに尻尾を揺らしたのだった。





「誰かいたのか…?」

ジタン達が去ってからスコールは身を起こさず僅かに目を開いて隣のバッツに問うた。無防備に寝ていたとはいえ生死を分ける戦いを数え切れないほど乗り越えてきた戦士であるのでやはり気配に気付いていたかとバッツは苦笑した。

「うん。ジタンとウォーリアとティーダの三人。おれ達を探しに来てくれたみたいだけど、ゆっくり休めってさ」

敵襲ではないから安心しろとバッツは言うとスコールは片手で顔に掛かっていた髪を払うと気がつかなかったことを少々情けなく思い、詫びた。

「・・・すまない。少し眠りすぎて気がつかなかった」
「なに謝っているんだよ。普段動きっぱなしな上に今日はおれの手伝いをたくさんしてくれたんだからゆっくり休めよ」
「しかし・・・」

敵が攻めてきていたら大変なことになると考えているのだと察したバッツはここは見通しがよいので何かあってもすぐにわかる上にきちんと敵の気配がないか注意をしていると諭すとようやく納得したのかスコールは小さく礼を言うと再び瞳を閉じて昼寝を再開した。
規則正しい寝息が聞こえてくるとバッツは笑みをこぼすし、見張りも兼ねて花畑を見渡す。沢山の花が咲き乱れるこの地は普段の忙しさや戦いの生臭さを忘れさせてくれる。こうしてのんびりとした時間と場所を誰かと過ごすのは久しぶりで少しくすぐったいものを感じるが悪い気持ちではない。むしろ嬉しく感じる。
ただ、その相手が普段お世辞にも愛想がいいといえないスコールとは少々意外だった。
人といることを避けがちな彼が今日は朝から常に自分と時間を共にしている。振り返ると今更ながら不思議に思った。

「(一人でいることを好む奴と思っていたけど…こいつ、そうでもないのかな?)」

活動拠点の古城に移るまではジタンと三人で行動し、夜は一つのテントを使って休んではいたがそれでもどこか距離を置きがちではあった。少しずつそれが薄れていったとはいえ、仲間達と合流してすぐに見つけた古城で一人一人部屋を与えられたので最後までぎこちないままだと思ってはいたのだが。
スコールの顔を見れば、少し笑ってしまいそうになるくらい、普段のスコールから想像できない穏やかな顔をしていた。
昼寝以外にも早くに目が覚めたからと朝食の準備を手伝ってくれたこと、最初一人で行こうとしていた自分の思いつきの食料調達も出発の時にたまたま出くわして話を聞いて付き合ってくれた。
彼の行動から少しは自分に、他人と接することに馴れてきたのだろうか

「(普段あまり出さない分ほんの少しでもそれが見えちゃうと嬉しい・・・よな。うん)」

ふとスコールが小さく唸りバッツの方へと寝返りをうった。長い前髪がさらりと流れ、顔に掛かる。鬱陶しいと思ったのか眉間に皺を寄せ始めたが眠気が勝っているのか払おうとしない。
バッツはそろりと手を伸ばし、指先で払ってやる。すると、眉間の皺がとれて再び穏やかな表情になった。
眠っているからであろう普段中々見ることはできない素のスコールにバッツは小さく笑みをこぼすとこの穏やかな時をもう暫く満喫しようと決めたのだった。

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2周年フリーリクエスト「無意識に5になつく8とそれにほのぼのする秩序組」でした。
無意識に懐くスコールさん、なんとなくですがスコールは言葉よりも態度の方に表しそうと思いまして(コガモのようについてまわるんじゃないかなと・・・ちょっと分かりやすい感じだとかわいいかなと思ったのですが・・・どうでしたでしょうか)



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